第七話 【危険な存在】前編
「今日こそあにいを魅了してやる!」
鏡の前でそう意気込む。
服装はあにいの好みに調整してある。
あにいの好きな色、服、髪型、すべてを兼ね備えたファッション!
あにいは確かショートヘアが好きだから...好き...
「チッ」
またあいつのことを思い出した。
私からあにいを奪っていった最低な女。
あにいはあいつのことが好きだからこそショートヘアが好きなのだ。
本当にあいつは気に食わない。
あいつよりも私の方が一緒にいた年月は長いのに。
...今のは忘れよう、折角今日は楽しい日なんだから!
なんたって大学が休み!部活も休み!
イコールあにいと遊べる!
あにいは専業主夫だからいつでも遊べるはず!
そうしてあにいの妹こと、香賀詩 希更は家を出ていった。
「ニシシ...あれ、あの薬バックに入れたっけ」
そういって、彼女はバックの中に入ってる、
ピンク色の瓶を見て、ニッコリと微笑んでいた。
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「ふわぁ...眠い...」
今日はいつもよりも遅く起きているのにも関わらず、
とてつもなく眠い。
やばい、本当に疲れてるのかも。
そんな体に鞭を打り、
むりやり体を起こす。
リビングに仁香の姿はない。
冷蔵庫から食材を取り出し、
今日のメニューをネットで調べる。
仁香には風邪をひいてほしくないから、
できるだけ栄養が偏っていなく、
とてもおいいいもの。
これが仁香の弁当を作るうえでの絶対条件。
...いちいちネット調べるのって大変なんだよな...
僕は機械が苦手だ。
弁当を調べているはずなのに、
何故か猫がゴロンゴロンと遊んでいる動画にたどり着いた。
我ながら呆れてくる。
「あいつに頼ってみるか...」
僕には仁香以外にも一人だけ信頼できる人がいる。
中学生の頃に知り合ってから一年に一回ほどあっている。
あいつに頼めば料理のレシピには困らない。
「あ、これいいかも」
まぁ、食べてくれるかは別問題だけど。
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一時間後
「むずい...」
無事弁当を作ることができたが、
なんだろう、全体のバランスが難しい。
まぁ別に健康に問題ないからいっか。
時計を確認すると、ちょうど仁香が起きる30分前の時間。
「準備するか...」
この為に、今日は早く起きたと言っても過言ではない。
「...どうしよう」
斎条さんとの接客の練習の時に着て行く服に僕は困っている。
そもそも最近のファッションとかも全然知らないし、
誰かと外出なんてことは仁香以外では初めてかもしれない。
...やはりこれに頼るしかないのだろうか。
「見つかったら怪しまれるだろうなぁ」
仁香が定期的に読んでいる雑誌。
何故かソファーの下にあるのが謎だ。
まぁ、これでファッションがわかるはず...
「わかる...よね?」
少し心配かもしれない、
でもやらなくちゃ進まない。
雑誌をゆっくりとめくると...
【男性の心を鷲掴み!女性必見テクニック!】
と、とてつもなく強調されたタイトルがあった。
「......」
僕は一瞬、思考が完全に停止していた。
え?これを仁香が見ているの?
僕の心を鷲掴み?
え、どゆこと?
最近全然接触してこないけど...
そして、僕はそのまま雑誌を読み進めた。
一つ目! ボディタッチを積極的に!
これでだいたいの男性は魅了!!
...すごい偏見だね。
僕はそのまま雑誌を読み進めた。
しかし今のファッションなんてものは一切なかった。
「ん?なんだこれ?」
雑誌の裏に、メモと書かれたページがあった。
僕は、それを見るために手を伸ばす。
だが、その瞬間に、後ろからものすごい気配を感じた。
「ななな、なんじぇ!?」
そこには少し寝癖が付いていて、
まるで未確認生物を見たかのような表情をしている仁香がいた。
「あぁごめんごめん、ちょっと見てたよ、
もう少しだけ見せてくれないかな?
あとメモを見るだけだからさ」
そう僕はやさしく告げ、
メモというページに手を書けようとするが、
「え?」
テーブルに置いてあったはずの雑誌がなくなっていた。
「...もう会社行くから」
と、いいながら、洗面台に行ってしまった。
もしかして見ちゃダメだったかな?
別に僕的には嬉しいんだけどな。
そもそも僕の心を鷲掴み?
心配する必要はないと思うけど?
あの時僕は彼女と約束をした、
仁香の心は僕の物、
僕の心は仁香の物。
二人で共に人生を歩んでいくと決めた時に、
仁香と僕の中で結んだ約束。
仁香はあんな風に見えて、ものすごく心配性だ。
...最近僕って仁香に対して愛情表現できてるかな?
まぁ、大丈夫か。
「まぁ、自分で決めるか」
あの雑誌にはファッションは載っていないみたいだし、
自分で考えるしかないか。
ネットで調べて変なサイトに行ったら困るし。
僕は自分の部屋に直行しようとしたが、
「ご、ごはんは?...」
と、僕に怯えているかのように、
小さな声で尋ねてくる小動物がいた。
...寝起き仁香最高。
「分かったよ、準備しとくね」
そうして、僕の服選びの時間は消滅した。
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訂正しよう、朝ごはんを冷凍食品にすればよかった。
仁香のあの表情を見てしまったら、
ついつい全力で作ってしまった...
しかも自分が考えたメニューで...
僕って本当に使えない男だな。
その後も家事に手を取られてしまって、
時間がなく、服装が最悪になってしまった、
ジャージのズボンに、パーカー。
うん、僕ってファッションセンス皆無だわ。
そして周囲からの視線も痛い。
公園のベンチで、この服装で一人座る男。
客観的に見れば、ただの不審者だろう。
そして、座っているだけなのに、
一人の幼児を泣かせてしまった。
その子いわく、
「おかぁぁさぁぁん!!あそこにふしんしゃがいる!!」
と、指を指されて叫ばれてしまった。
...泣いていいですか?
流石に無邪気な子供にそんなこと言われたら傷つくよ...
やばい、本当に泣きそう。
そうすると、後ろからやさしく肩を叩かれる。
「早いですね~、まだ30分前ですよ?」
自然体な笑みで、そう話しかけてくる斎条さんがいた。
アルバイトの時の服装とは違い、
とても気合の入ったものだった。
白色のブラウスに、
灰色のダーンドル・スカート。
...これが最近の流行りなのだろうか?
「大丈夫、今来たところだから」
仁香とデートしている時に、
結構注意されたことは、
どれだけ自分が早く来て、
女子が遅く来ても
「いま来たところって必ず言うこと!」
と言っていた。
本人曰く、
「これは女性と外出する際には定石よ!」
と、学生時代に頃に何回も言っていた。
「んじゃ行きましょ!」
そうして僕の手を引っ張る。
なんだろう、今日はものすごく疲れそうだ。
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「斎条先輩、ちょっといいですか」
僕は彼女の顔をよく見て、
やさしく告げた。
「何故遊園地なんでしょうか」
俺は今、何故か知らんが遊園地に来ている。
色んな人達の叫び声がたびたび聞こえ、
ところどころにかわいいキャラクターがいる。
そして斎条先輩は、
「フフフ...よくぞ聞いてくれました...」
不敵な笑いをしたあとに、
ゆっくりと振り返る。
「それは「飲み物買ってきますね」
色々自慢話が始まりそうだったので、
一応切っておく。
これも仁香に教わったこと。
「他人の自慢話程虫唾が走る物はないわ、
そんなもの聞く必要はないわ、
そうゆう場合は相手に利益のあることをして、
話を区切るのが効果的よ」
そうすると、斎条さんは、
「あ、ありがと」
と、気まずそうに笑っていた。
...仁香が言ってることって本当なのかな?
今になってちょっと心配になってきた。
「そ、それじゃああそこのジェットコースターに行きましょう!」
そうして、僕の手を強引に引っ張っていく。
...何故だろう、この人と一緒にいると、
頭の中がごちゃごちゃになってしまう。
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「ちょっと人多すぎませんか?...
待ち時間も長いですし...」
先程斎条さんが指を指していたジェットコースターに乗るために、
現在並んでいるのだが、
全然前に進む気がしない。
しかも人の数がすごいから、
全然落ち着かない。
「あなたは人混みに慣れなさすぎです!
ピークのお昼にはあなたは全然役に立ちません!
だからこそ鍛えるのです!」
まぁ的を射ているけどさぁ...
「分かりました...」
実際に僕が人混みが苦手なせいで、
斎条さんや紀伊野さんに迷惑をかけてしまうこと何回かあった。
まぁ、それらを減らすためには必要かな。
「香賀詩君...ちょっと待って」
斎条先輩は少し考えるような仕草をして、
僕の方をじっくりと見る。
「私VIPカード持ってたや」
先輩はバックからカードのようなものを取り出し、
にっこりと微笑む。
「これで早く行けるね!!」
そうして、また僕の手を引っ張るが、
僕はその手を逆につかみ、
人差し指をピンと伸ばし、
「僕はそのカードを持ってません」
しばしこの空間に沈黙が訪れる、
しかし、その空間を破ったのは、
僕と斎条さんではなかった。
「よ!久しぶりなのだよ~」
特徴的なアホ毛に、
特徴的な語尾。
そしていかにも不思議な雰囲気を漂わせている。
中学生の時に知り合い、
現在では仁香以外の数少ない友人。
馬田鹿娘
通称 馬鹿
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「後少しであにいの家かぁ~」
あにいと遊べる事を考えるだけで、
自然と顔が緩んじゃう。
足もすごく軽く感じるし!
あにいの家は事前に調査済み。
どんな時間帯にあいつがいないのかも調査済み。
事前準備にどれほど時間がかかったものか...
「よ~し、到着到着!」
インターホンを押す。
だが、何も反応はない。
「え?あれ?」
もう一度インターホンを押すが、
返事は一切ない。
「買い出しでも行ってるのかな?」
そんな時間がかかるとも思えないし!
気長に待つとしますか!
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「やぁやぁ隼人君が女の子を連れて遊園地とは、
珍しいじゃ~ないかぁ?」
腕を組み、胸を張る。
...仁香よりもでかくなったな...
中学生の時は、
「何故だ...何故神は私を見捨てたのだ...
今こそ反逆の時!ハッハー」
と、不敵に笑っていた。
「仕事仲間だよ、本当は分かってる癖に...
相変わらず意地悪だな」
この馬鹿はこう見えて頭がキレる。
普通に矛盾しているが、
こいつにはこいつなりの事情がある気がする。
まぁ今は打ち解けてるけど。
「ハッハー!
で?本当は?」
うん、しつこい。
「てかなんでお前VIPなんだ?」
こいつは今、僕たちが並んでいる列とは反対側にある、
あまり人がいない列で僕たちに絡んでいる。
ってことはVIPということになる。
でもこいつが外出をするような生活をしているとは思えないし...
「いやぁ、それは言えないなぁ」
「んじゃ、僕は先に行ってるから~」
こいつと話していたら時間が経つのを忘れてしまう,
早めに切り上げないと、斎条さんの笑顔がどんどん苦笑いに変わっていく。
僕はこれまでとは逆に、
斎条さんの手を俺から握り、
前に進んでいった。
そして、ジェットコースターが目の前のところまで来た。
「だ、大丈夫ですか?ちょっと強引すぎたかも...」
後ろを振り返ると、
「......」
魂が抜けたような顔をした斎条さんがいた。
いつもキラキラと輝いている瞳は、
光がなく、焦点もあっていない。
「ちょっと!?本当に大丈夫ですか!?」
肩を掴み、強く揺さぶる。
このような現象は仁香と生活している時に、
一年に数回は起こってるから、
対処法はわかっている。
「ハ!すみません!少しの間気絶していました!」
いや、それやばいですよ。
「では早速乗りましょう!」
ちょうど斎条さんを揺さぶっている最中に、
一周してきたようだ。
安全ベルトをかけ、
従業員さんが、なんか元気に喋っている。
「あ、そうそう香賀詩君!言い忘れてたんだけど!」
さっきの僕の馬鹿との会話中にしていた、
あの人差し指をピンと伸ばす仕草をし、
「このジェットコースターの魅力は、
国内最長時間!
そして世界最大の高低差です!」
「...え?それって」
そうすると、従業員の人が、
【レッツパーリー!】
それと共に、僕の頬には台風の時のような、
暴風が襲ってくる。
「ちょちょちょ!!」
戸惑う僕とは対を成すように、
「ヒーやっほー!!」
と、楽しそうに叫んでいる斎条さんがいた。
「ハァ...ハァ...あんなの聞いてませんよ...」
正直に言って死ぬと思った。
特に連続で二回回転した時は意識が飛びかけた。
「いいじゃないですか~、
それじゃ別のところにレッツゴー!」
...なんか本来の目的を忘れているような気がする。
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「今日は仕事早く終わらせたし...
今日こそ隼人をごはんに誘わなくちゃ!」
今日は珍しく美野ちゃんが私の手伝いをしてくれたし、
飲み会も一切なかった。
車のエンジンを切り、
家まで歩いていくが、
玄関に人影をある...
隼人?でもそれにしては小さいし...
私はその人影に対して声をかけると、
その 子は振り向いた。
((うわ!お前かよ))
香賀詩 希更...
隼人の妹という立場を悪用し、
何度も隼人に色目かけてるやばい子...
はぁ...こんなことになるなら残業するんだった...
ブクマ、ポイントお願いします!