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第五話 【交差】

「香賀詩く~ん、そっちできた~?」

バックの中からペットボトルを取り出し、

中に入っている液体を飲みながら、

俺に尋ねる斎条先輩。


「はい、もう食器洗いなら終わりましたよ」

始めてまだ二日目なので、

変わらず雑用係。

ある程度は覚えることができたが、

まだ細かい部分ができていないことも多い。


「そんじゃ、次は...ん?なんだっけ」

先輩の動きが一瞬にして止まる。

目の焦点が合っていなく、

ペットボトルが少し潰れている。


「ど、どうしたんですか?...」

機嫌を損なわぬよう、丁寧な口調で尋ねる。


そうすると、先輩はペットボトルを静かに置き、

ゆっくりと俺の顔を見る。

その表情は、昨日の元気はつらつなものとは打って変わり、

助けを求めるような、子犬のようなものだった。


「何教えるか、忘れちゃった...」

...何やってんのこの人。


「僕が店長に聞いてくるので、先輩は待っていてください」

店長なら恐らく、僕が新しくすることがわかるだろう。

てか先輩は教え方が抽象的だから、

店長の方が分かりやすい。


例えば先輩は、

「これはね~」

洗い終わって、水滴がついている皿を持ち。

もう片方の手でタオルを持つ。


「フキフキキュッキュって感じ!」

皿をめちゃくちゃ拭きまくる。

だが、先輩が持っている皿に一滴も残ってはいない。

わずか2秒ほどで一枚を拭き終わる。


その時の俺は、

「うそぉ...」

と、絶句していた。


客観的に見たら、ただ単に猫が猫パンチしまくっている感じなのに、

実際には拭き終わっている。

まずこの点でも驚いたし、

先輩の、

「フキフキキュッキュって感じ!」

って奴が一番驚いた。

大人になってこんな表現してる人は初めて見た。

普通に僕が社会に出ていなかっただけかもしれないけども。

やっぱ世界って広いんだなぁ、と思っていた。


「ちょっと待って!!」

慌てた表情で、僕の裾を掴む。


「店長だけには言わないでぇ...」

えぇ...何それぇ...


「それじゃあどうするんですか、

先輩が思い出せるとは到底思いませんし...」


「今さらっと私のこと馬鹿にしたよね!?」


この人は一度忘れてしまった事は思い出せない。

昨日僕は、先輩に、

「明日は早めに来てくださいね~」

と、朝掃除の当番が先輩なので、

伝えておいたのにも関わらず、

いつもど~りの時間で来た。


そのせいで、僕が今日の朝掃除をやる羽目になった。

まぁ僕のせいでシフトのローテーションが変わったのも原因だろうけど。


「ぐぬぬ...ここまで新人に馬鹿にされるとは...」

拳を握りしめ、全身を震わせる。

鋭い眼光で僕のことを睨んでいるつもりかもしれないが、

僕から見たらハムスターから睨まれているような感覚だな。

つまり怖くない。

僕はこんなかわいらしい動物よりも恐ろしい猛獣を知っている。

僕の最愛の妻である仁香。

彼女が怒った時の眼光を思い出すだけで、

全身が震えあがる程の恐怖が襲い掛かってくる。

本当に彼女を怒らせるようなことはしたくない。


「はぁ...じゃあ僕は代わりに接客をやってる間に思い出してくださいね」

多分思い出さないんだろうけど。


----

といったものの...

「すみません...もう一回言ってくれませんか?」

注文を聞き取りが難しくて困っている。


斎条先輩の代わりに接客を担当するとか言ったくせに、

全然補えていないのが現状。


「だ~か~ら、タピオカよこせって言ってんだろ」

金色に染めた髪の毛に、

サングラスをかけた男性。

そして周りにも同じようにサングラスをかけている人たち。

この人たちも僕のことを睨んでいる。

...何この人たち。

メニューを見る限り、

タピオカなんていうものはない。

さっきから僕の聞き間違いかもしれないと思っていたが、

違っていたようだ。


「あの~、当店にはそのようなものはありません」

こんな時にどのような対応をすればいいかを、

紀伊野さんは僕に教えてくれた。


「たま~にふざけてありもしないものを出せって言う人がいるけど

あんな奴らのこと真に受けちゃだめだよ?

あいつらは人が困るところを見て喜んでいる猿以下の生物だから」


さすがに言いすぎかと思ったけど、

実際体験してみたら、死ぬほど面倒臭い...

接客って大変なんだなぁ...


「んも~ノリ悪いねぇ~」

周りにいる人たちとケラケラ笑う。

僕としては何が面白いのか全く分からない。


僕はどうすればいいんだ?

このままここで立ち続ければいいのかな?

別に時間が経てば給料は出るし。

そんなことを考えていると、

バックヤードの方から、手招きしている紀伊野さんがいた。


僕はこの場にいてもまた馬鹿にされると思ったので、

バックヤードに向かう。

そうすると、紀伊野さんは強い力で僕を引き寄せ、胸倉をつかむ。

「何やってんの!あんな奴ら追い返せばいいじゃない!」


普段の落ち着いた様子とは違い、

とても感情的になっている。


「ど、どうしたんですか?放置しとけばいいじゃないですか」

あんな人たちでも金は落とす。

この店で働く身としては、どれだけ馬鹿にされようと、

お金を落としてくれればそれでいい。


「あのね~、確かにあんな奴らでも金は使ってくれるけどね?

慌てふためく従業員(笑)

とかネットで拡散されて店の評判が悪くなるの!」


...確かに。

今ではそんなことがあってもおかしくない...


「っていうかよくそんなこと想像できますね...

もしかして紀伊野さんって被害者とかですか?」


まだ会って二日しか経ってないけど、

ここまで感情的になるとは正直思えなかった。

紀伊野さんは比較的静かな性格...

いやでも静かな人ほど爆発した時の様子が凄いって聞くし...


「えぇ!もちろんそうよ!

過去にコミュ障だった私を何回も何回も馬鹿にして、

それを無断で撮影してネットにバラまかれて

学校からはディスられるし、ネットからは変なメール来るし!」


うん、やめておこう。

これは踏み入れてはいけない。

僕の胸倉を掴んでいる手は震えていて、

目は充血している。


「い、痛いです、紀伊野さん...」

僕が彼女の手をそっと触れると、

手の震えは止まり、

目の充血も収まっていく。


「ふぇ?」

拍子が抜けた声を出し、

ポカーンとした表情をする紀伊野さん。

ゆっくりと僕の手に視線を下げる。

その瞳には何か不思議な物を見ているかのような視線だった。


「あ、あの~どうかしました?」


「ッ!?ごめんなさい、気にしないで」

彼女は僕の手を振り払って、

先程の迷惑な客のもとに向かっていった。


----

「香賀詩く~ん!!」

僕が荷物をバックに入れているところに、

ヤツは颯爽と現れた。

朝掃除を忘れ、まだ働いて間もない新人に押し付けた張本人。


「なんですか...もう僕は帰りますよ...」

今日はいろんなことがありすぎて疲れた...

早く家に帰って寝たい...あ、ダメだ、

仁香が帰るまで起きてないと...


「その~何かを教えることなんだけど~」

先輩は周りに人がいないことを確認する。

そして、

「接客の練習のため!明日は一緒に遊びましょう!!」


と、意味不明な発言をした。


「は、はい?遊ぶって、何を?」

そうすると、彼女は腕を組み、

エッヘンという効果音を出そうなぐらい胸を張る。


「あなたは雑用係としてはもう一人前です!」

いや褒めてるんですかそれ。


「ですが、接客となった瞬間ごみです!」

ひどい言いようですね。


「だからこそ鍛えるのです!私とデー...ご、ごほん!」


「私と遊ぶことによって、コミュ力を鍛えるのです!」

何か今言い直したな。


「あなたに拒否権はありません!」

そうすると、斎条先輩はスマホを取り出し、

とある画面を見せる。


「こ、これは「私の連絡先です!」


「集合時間は明日の12時!明日は喫茶店は休みですし!

いいですよね?」


「...了解しました」

明日は早めに家事を済ませておこう...


----

黒色のコートを身にまとい、

静かに歩いていく。

顔が少し熱い。

未だに彼のことが脳裏に浮かんで離れない。


なんだろう、今日の私は少しおかしいのかもしれない。

ただ単に手が触れあっただけなのに、

胸が疼いて止まらない。


出会って二日しか経っていないのにこんなことになるなんて...

彼の前で早口になって黒歴史は暴露するわ、

手が触れて赤面するとか...


「これだから私の恋は叶わないのよ...」

私には初恋の人がいた。

小さい頃に私に優しくしてくれて、

いつも陰気な私と遊んでくれた。


でも、いつからか急に私の前から姿を消した。

私は彼の家を知っていた。

私はただひたすら走った。

彼ともう一度会うために。


やっとの思いで、私は彼の家が あった 場所についた。

以前には立派な一軒家が立っていたのにも関わらず、

そこには何もない更地が広がっていた。


私はこの時に、彼に依存していた。

それは今になって確証を持てるほどだった。

だからこそ、この時の私にとってこの出来事は、

到底受け止められるものではなかった。


私は彼の容姿をうっすらとだが覚えている。

顔立ちはカッコよくて、どこかしらかわいい。

包囲力があって、一緒にいるだけで安心できるような雰囲気がある。


私はその曖昧な記憶を時々思い出していた。

でも、私のそんな甘い妄想を壊すことが起こった。

私は隣町の図書館に来ていた。

私が住んでいた町の図書館は、

お世辞にも品揃えがいいとは言えなかった。

だからこそ、隣町にまで来て本を読みたかった。


私は何を読むか選んでいる時にそれは起こった。

私が立っているところから少し離れたところに、

カップルらしき人達が勉強をしていた。


手前の人の顔は見えなかったが、

奥の女の人の顔は見えた。

その人は雑誌に載っていてもおかしくないレベルの美人さんだった。


そのカップルはお互いに顔を近づけ合い、

キスをしていた。

それも軽いものではなく、大人がするようなディープなものだった。


私はそれを見て少々ムカついていた。

最近のリア充は、自分達が付き合っていると周りに伝えたがる。

それに私はウンザリしていた。

私は席を立ち、ここから離れたところに移動しようとした時だった。


さっきは見えなかった男の人の顔がくっきりと見えた。

でも、その男の人の顔は、あまりにも記憶の彼と酷似していた。

確かに顔立ちは少し変わっている。

でもあの頃の面影は残っている。


「なんで...なんで...」

何故このタイミングでまた出会ってしまったのだろう。

やっと彼のことを忘れかけていた時だったのに。

今すぐこの場から逃げ出したい。

こんな現実を認めたくない。

気づいた時には外に走り出していた。


彼はもうあの人と恋人関係になっている。

彼は私のことなんて覚えてもいないだろう。

結局は私の片思い。

全ては私のくだらない妄想。

私と彼が結びつくことなんてなかった。

そうなる訳はなかった。

彼が私の前から消えた時点で私の恋は終わった。


あの日から数年が経って、

私も現実を受け止めた。


初恋は実らない。

まさにこの言葉は私にぴったりだろう。

今度は新しい恋を始めよう。

そう心に言いつけている時に、

香賀詩君が私の前に現れた。


彼と同じような雰囲気を纏っていた。

私が好きなタイプだった。

優男というものだろうか?


彼は結婚指輪をしていなかった。

ということはまだ独身のはず!

恋愛において相手から来ると思って待っていては、

その恋は実らない。

要するに自分からアタックしなければ恋は実らないということだろう。

まぁ手を触っただけで赤面するような人間が言っても説得力はないですけど。


明日からもがんばらないと!

あ、明日休みだ。

ブクマ、ポイントお願いします!

さぁさぁどんどん〇〇作っていきますよ~!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今回の話では、この人、旦那を日々暴行してるんですかね? [一言] てっきり、主人公自殺した後に、その検死の際に、暴行の痕見つけられ、警察に事情聴取受けるとか、妹に徹底糾弾され続けるのが…
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