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第一話 【日常】

この作品は『短編版』専業主夫の俺が自殺して、妻がただ悲しむ話の連載版です。

既に短編版を読んだ方は3個目の区切りからお読みください。

「おかえり」

今日もまた、家事をこなし、この言葉を彼女に伝える。

最近は、眠ることができていない。

仕事やビジネスもしていない、ただの専業主夫なのに、ストレスなんてないはずなのに。


「ご飯は食べてきたから、片付けよろしく」

そう言って、荷物をソファーの上に置き、風呂場に行く彼女。

香賀詩 仁香、それが僕の妻の名前、苗字はもちろん僕の名前だ。


ソファーに置かれた荷物を持ち、彼女の部屋に運ぶ。

結婚したての頃は、一緒の部屋だったが、今となっては別々の部屋となっている。

なんでも、仕事に集中できないから別々の部屋にしたそうだ。

僕の匂いや物があるだけで、邪魔だと思われている。


もちろん彼女の私物は全て僕が運んだ。

「よっこらせ....」

ガシャンと、何かが割れる音がした。

どうやら彼女のバッグを落としてしまったみたいだ。

割れたのは化粧品の類の物だろうか。


何故落としてしまったのだろう。

そこで、僕は自分の手が震えていることに気が付いた。

「あはは...何やってるんだろ...」

割ってしまった化粧品をかき集め、近くにあったゴミ箱に捨てる。


「ッ...」

ガラスが手に刺さり、少しずつ血が出てくる。

だが、こんなものを気にしちゃいられない。

身に着けているエプロンで血を拭き、僕はリビングに戻る。


食卓テーブルに並んでいる料理を、ラップで包んでいく。

だが、先ほど出てしまった血がついてしまったみたいだ。

僕の血がついてしまった料理を彼女に食べさせてはいけないと思った僕は、その料理を捨てた。

幸いのことに、今の僕は空腹ではない。


僕が食べるはずだったものを、冷蔵庫に入れよう。

その前に、指から出ている血を止めないといけない。

僕は、近くにあった棚から消毒液と絆創膏を取り出す。


「あ...」

消毒液を大量に出してしまった。

指が鋭い痛みに襲われる。

だが、自分のことを気にする前に、こぼしてしまった消毒液をどうにかしなきゃと思った僕は、またエプロンでそれらを拭き取った。

そして、指に絆創膏を貼った。

その時に、キラリと輝くものがあった。

それは結婚指輪だった。

彼女と僕の関係を示す、大切な物。

まぁ、買ったのは僕じゃなくて彼女なんだけどね。


僕と彼女は同じ高校だったけど、僕は覚えが悪くて、成績は最悪だった。

それに対して彼女は、高校を卒業してから、エリート大学に進学。

だけど、高校の時から付き合ってた僕たちは、別れるか別れないかの話し合いをした結果。

僕が専業主夫として彼女を支え、彼女はそのまま大学に通うという結果だった。

僕が彼女と巡り会えたことは、この上ない奇跡だったのかもしれないね。

現に今は、このような関係になっちゃってるけど。

僕は、こんな状況でも彼女を愛している。

他の誰よりも愛している。

これだけは断言できる。

彼女が僕に対してこのような感情を抱いているかはわからないけどね。


僕は、すぐに立ち上がり、僕が食べるはずだった料理をラップで包み、冷蔵庫にしまった。

僕がすることは、彼女が風呂から上がった時に着る服を風呂場に置くこと。

そして、彼女が着ていたスーツに消臭剤を吹きかけること。


僕は、風呂場にあったスーツをリビングまでもっていく。

そして、消臭剤をかける。

消臭剤を持つときに、絆創膏を貼っている手に激痛がはしる。

だが、こんなことで怯んじゃいられない。

彼女はもっと忙しいんだから。

それに見合う行動をしなければいけないのだから。


僕は彼女の部屋にもう一度入る。

そして、服が入っている棚から、パジャマを取り出す。

柄はシンプルなもので、全部真っ黒。

相変わらず君はクールだね。

最近は、僕が見惚れてしまった笑顔を見せることはないけれど、君と暮らせているだけで僕は幸せだよ。

朝に君の整った顔を見るだけで、僕は満足だよ。

早く起きて作った朝ごはんを食べてくれないのは悲しいけど。

夜遅くまで仕事して、疲れ果てた君のためにご飯を作るのが楽しいよ。

その時だけ、君を支えているって実感できるから。

たとえその支えが微塵なものであっても、僕はこの感覚が幸せだから。


僕は棚から取り出したパジャマを、風呂場までもっていく。

これで僕がする家事は大体終わった。

掃除は午前に終わらせて、料理も明日の朝ごはん用に冷蔵庫に入れておいた。


そうすると、彼女が風呂場から出てくる。

だが、僕のことなんて見向きもせずに着替えていき、僕の横を通り過ぎていく。

かれこれ何年か経ったけど、君の裸を見るのは久しぶりかもしれないね。

今では興奮なんてしないけど。

結婚したての頃は、僕がビビって手を出せなくて。

そしてどんどん時間だけが過ぎていって、そんなことはできない雰囲気になっっちゃったね。

でも、同級生がインスタグラムに赤ちゃんの写真を投稿しているのを見ていていつも思うんだ。

いつになったら、僕たちの子は生まれるのかなって。

もしも生まれてきたら、いっぱい甘やかしてあげようと思っているんだ。

君がその気になるかはわからないけどね。


「ちょっと!何よこれ!」

彼女が、珍しく怒気を含んだ声で叫ぶ。

僕は彼女のもとに行くために、リビングに向かった。

彼女が僕に見せていたものは、僕が割ってしまった化粧品だった。


「ごめん」

僕が言えるのは、このたった一言の謝罪しかない。

誠心誠意をこめて頭を下げる。

だが、彼女はむかついたのか、僕の顔を無理やり上げて、殴った。

頬に痛みが走った後に、横に吹っ飛んだ。

肩や頭を床にぶつけてしまう。


「タダで生活させてるのに、また私に迷惑をかけさせるつもり?」

そう言って、彼女は自分の部屋に入ってしまった。

僕は床にひれ伏したまま、茫然としていた。

また彼女に迷惑をかけてしまった。

その事実が僕の脳内で響き渡る。

僕は本当に彼女の支えになっているのだろうか。

今更になって不安になってきてしまった。

僕は支えではなく、彼女の重りなんじゃないだろうか。

僕がいない方が彼女は気楽なんじゃないのか。


...僕はいっつも他人を怒らせてしまった時、ネガティブな考えばかりが思い浮かんでしまう。

その考えに理性を乗っ取られて、勝手に行動していたなんてことは何回もあった。

この発作のようなものは、彼女と結婚してから3年程経った時に起こり始めた。

だけど、生活に支障をきたすまでものではないと判断した僕は、病院などにはいかず、ずっと放置している。

生活費を負担してもらっているにも関わらず、病院なんて行けるはずがない。

僕は、無理やり体を起こす。

リビングや台所の電気を消す。

そして、彼女のいない僕の部屋に向かう。

この日も眠れなかった。

----

僕は、時計が4時を指していることを確認してから起床する。

彼女が家を出ていくのは5時30分からだ。

そのため、弁当や朝ごはんを準備するために早起きをする必要がある。

まぁ、最近は弁当の中身は変化なしで帰ってくるのが大半だけどね。

朝ごはんは、昨日の残りがあるから手間が省ける。


僕は冷蔵庫から弁当用の食材を取りだし、ネットでメニューを調べる。

自分で考えて作っていた時期もあったが、『あんたの考えたものよりも、ネットの方が何倍もいいわ』と言われたので、ネットのメニューを参考にしている。

まずは野菜を洗い始めたが、まだ傷口が開いているのか痛みが生じる。

だが、そんなものは気にせずに着々と作業を進めていく。


そろそろ彼女が起きる時間だと思った僕は、冷蔵庫にある残りをテーブルに置く。

ラップを外し、ゴミ箱に捨てる。

そして、また弁当の調理にもどる。

そうすると、彼女の部屋からアラームが聞こえる。


「おはよう」

僕は、最愛の妻に朝のあいさつを伝える。

寝起きでも、君はきれいだね。

だが、彼女はそんな僕を無視して身支度を整える。

歯を磨き、スーツを着て、化粧をする。

僕はその間に、作った弁当を君のバックに入れる。

そして、君はすぐに家を出て行ってしまう。


僕は本当に君の支えになっているのかい?

僕はただそれだけが心配なんだ。

もしそうでなかったら、僕がここにいる意味が分からなくなっちゃうんだ。

----

今日から一か月後は君の誕生日だね。

そして僕たちの結婚記念日だね。

僕は君のためにプレゼントを用意しようと思っているんだ。

君からもらったお金じゃ君は喜ばないと思うから、僕は自分で稼いで買ってみるよ。


普通の夫婦では、誰のお金でも関係なく喜ぶとかネットにあったけど、僕なんかは専業主夫だからね。

普通じゃないもんね、僕が異常なんだよね。

だから、僕は普通じゃなくてもいいんだ、君が喜んでくれるなら。

----

僕は、アルバイトを探すために街中を歩き回った。

ネットで求人情報を探したけど、機械音痴な僕には何もできなかった。

中には肉体労働っぽいアルバイトもあったけど、もう求人は終わってた。


僕の財布の中身は空っぽで、この中身が仁香のための物だけで溢れることを考えると心が満足するんだ。

まぁただの自己満足なんだろうけどね。

やっぱり人混みがあるところは苦手だよ。

僕の知らない人たちしかいないから。

僕は君以外の人が怖いんだ、君しか信用していないから。

僕って君に依存しているのかな?

でも依存することの何が悪いのかな?

自分の心に対して素直に行動する、これはストレスなく生活するためには必要なことだと思うけどね。

まぁ、その行動が自分に被害を与えようと他人に迷惑をかけたところで全ては自分の心に対して素直に行動した人の責任なんだろうけどね。


結局人間って誰かに縋りつかないと安心できないんじゃないかな?

誰にも縋りつくことのできない人間は大きな失敗をした時に安心なんかできないと思うけど、

一人でも自分の身を任せられる人がいるだけで全然気持ちの余裕は違うと思うけどね。

僕は君がいなくなったら間違いなく精神が崩壊すると思うよ。

だって君しか見ていないもの。


はぁ...僕って重いのかなぁ...

なんだろう、最近仁香のことを考えると自分の気持ちが止まらなくなる。

これってまだ仁香に対する恋心があるのか、それとも愛なのか分からなくなってくる。

社会人になっても妻に対して恋心を抱くことはおかしなことなのかな?

てかそもそも社会人って言っても20歳を超えれば社会人になるとか社会に出たら社会人とかいろいろあるけど...

やっぱ個人の価値観って全然違うんだなぁ...

----

結局僕が街中で見つけられたアルバイトは一つしかなかった。

「喫茶店ねぇ...」

喫茶店のアルバイト。

これしかなかった...

ソファーにもたれかかる。

僕は接客能力とか皆無だし、営業スマイルもできない。

あれ?僕って社会的に見たら全然使えない人材なのかな?

...なんだろう...社会って怖い。

でも仁香のためだ、死に物狂いで頑張ろう...

----

いつもどうりに仁香の朝ごはんをテーブルに置く。

そして彼女の弁当を作る。

今日は朝ごはんを食べてくれるかな...

彼女の部屋がある方からアラームが聞こえる。

部屋から仁香が出てくる。

少し寝癖がついていて、目を擦っている。

今日はキレイというより可愛いという感情が出てくる。

なんだろう...小動物を愛でる時の感情かな?

まぁ実際には僕が養われてる小動物かな。

我ながら情けない...


「おはよう仁香、今日は可愛いね」

...言うつもりはなかったのに、自然と口から出てしまった。

仁香は、僕のことをハトが豆鉄砲を食ったような顔をしてガン見する。


「ど、どうしたの?...仁香...」

まさか怒らせてしまった?...いやでもそんなことで怒るかな?...

沈黙が続けば続くほど僕の緊張感は高まってくる。

彼女は咳ばらいをして、僕の横を通り過ぎる。

少し顔が赤くなっていた。

そして、珍しく朝ごはんを食べてくれた。

...何があったの?...


少しでも続きが読みたい!

と思った方は、ブックマーク、ポイントお願いしますm(__)m


なんか思ってたのと違うと思った方もいると思いますが、ルートの作成上こうするしかなかったんです...許してくださいm(__)m



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― 新着の感想 ―
[一言]  人人人人人人人人人 〈楽しみにしてます!〉 VVVVVVVVV
[一言] 主人公の内面描写が増えてるから、末期的な精神状態なのがよく分かります。 ただ、妻の方はどうやっていくのか……今回最後にツンデレっぽい描写入りましたが、それにしたって短編での言動や態度だとフォ…
[良い点] 短編になかった主人公の途中の行動や心情が描かれていて、短編は読んだ筈なのに、新鮮な気持ちで楽しめます。普通に書き方がうまい・・・! [気になる点] 区切りがわかりにくい気がしたので、改行…
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