第十八話 【混乱】
分かりにくいかもしれませんが、
前話の最後で隼人が倒れる→心がそれを見て鹿娘の家まで運ぶ(ドアの前)→鹿娘がドアの前にいる隼人を見つけて、部屋の中に入れる→それで鹿娘と心が~、みたいな感じです。
全身がとても蒸し暑い。
しかも、胸...というよりかは上半身の部分が物凄く重く感じる。
何かが乗っているのだろうか?
規則正しく膨らんだり萎んだりして、僕の体に圧力がかかっていく。
「んぅぅ?...」
少し体を動かし、重い瞼を無理やり開けていく。
見知らぬ天井...ではなく、鹿娘の家の天井。
そして、僕はどうやらベットの中にいるようだ。
しかも少し膨らんでいるベットの中にいるようだ。
僕はゆっくりと布団を上げていくと、
「おはようなのだよ~!!」
満面の笑みで、ニヤニヤしている鹿娘が、中にいた。
どうやら尋常じゃないほどの暑さと、
全身が重く感じていた原因はコイツのようだ。
「なんか普通に失礼なこと考えてない?」
さっきまでのニヤニヤしている表情から一変し、
ぷくーっと頬を膨らませ、拗ねる鹿娘。
「あ、いやごめん、シンプルに邪魔だからどけてくれないかな?」
「君にしては辛辣だね!?」
さっきのハリセンボンみたいな顔から、
少々あざとい顔に変わる鹿娘。
というか頭が痛い。
そして寝た時の記憶が一切無い。
鹿娘に無理やり酒でも飲まされたのだろうか?
う~ん、どちらにしろッ!
「わっ!」
またもやわざとらしい動きで僕にしがみつく鹿娘。
...結構強めな力で振り落とそうとしたのに、
鹿娘は余裕の表情で僕にしがみついている。
僕が驚いたことを察したのか、ものすごくムカつくドヤ顔をする。
「ねぇ鹿娘、いい加減抱き着くのをやめてくれないかな?」
しがみつく、といっても実際のところ抱き着かれているのと大して変わらない。
以外と力が強いので息も苦しいし、何より仁香以外にこんなことをされたのは...いや、希更
と仁香以外にこんな風に抱き着かれたことはない。
「えぇ~、やぁだぁ~、ん~、じゃあ朝ごはん作ってくれるならどけてあげてもいいよ?」
人さび指を立たせて、光り輝く笑顔で鹿娘は言う。
...なるほど、それが最初から目的だったのか。
「はぁ...分かった、作るからベッドから降りて、
ちょっと重くて息がッ!?」
「最後の一言は何かな~?」
鹿娘は笑顔のまま僕のあばら付近をつねる。
こんなにも小さい体からやられてるとは思えないほどの力でつねられる。
正直に言ってしまえば冗談抜きで痛い。
「す、すみません...鹿娘様...」
「よろしい」
「単純だなぁ...ッ!?痛い痛い!?」
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「ハイ!では第何回目か分からない隼人君プレゼント大作戦会議を始めます!!」
鹿娘はやけに高いテンションで作戦会議を開始させる。
というか僕と鹿娘の話し合いって名前あったんだ。
「まずはプレゼントするジャンルは、んぐんぐ...ふぅ~、
アクセサリーの類でいいんだよね?」
僕が準備した炭酸水を飲み、僕に質問する。
「うん、今のところはアクセサリーかな、
できればプレゼントするものは仁香が身に着けてくれて、
身に着ける頻度も時間も多いものがいいからね...」
最近の仁香は結婚指輪を着けてくれないから地味にショックだ。
僕はほとんどの時間結婚指輪を着けているのに対して、
仁香は全然着けているところを見かけない。
僕が思うに、指輪、というもの自体が会社に持っていくという行動自体が彼女にとっては負担なんだと思う。
一緒の部屋にいるだけで、仕事が手につかない程不快なんだ。
そんな僕を会社にいる時にまで連想したくないから身に着けたくないんじゃかな?
...あれ、それじゃあ僕って仁香に嫌われてるのかな?
じゃあプレゼントを渡したところで何も変わらないんじゃないのかな?
僕は彼女にとって今ではどんな風に思われているんだろう?
ただの役立たず?迷惑なゴミ?
【必要の無い存在?】
あれ、なんで僕って仁香にプレゼントを渡そうだなんて思ったんだっけ?
今頃仁香は僕がいなくなって、最高の気分じゃないのかな?
僕は今、仁香に愛されていないんじゃないのかな?
あぁ...そっかぁ、僕はもう仁香にとってどうでもいいゴミなんだぁ...
「ちょ!?隼人!?ねぇ隼人ってば!!」
目の前の歪んだ視界の中に、僕は過去に見た光景に似ていると思った。
とても暖かくて、とても綺麗だと思った。
「...ごめん、ちょっと取り乱した」
またいつものネガティブ思考になってしまった。
本当に僕は仁香のことが絡んでくると当たり前のようにネガティブ思考になってしまう。
この発作?のようなものは...確か、結婚から3年程経った時...
いや、あの冬からだろうか?...
分からない、頭の中がもうめちゃくちゃなことになっている。
このことを考えるのはやめよう。
またこの発作が起こって鹿娘に迷惑をかけてはならない。
「いや取り乱したというか瞳に光が無かったよ!?
なるほど...これがハイライトオフって言葉の意味か...ふむふむ...」
僕の肩を激しく揺らしながら考え込む鹿娘。
...うん、普通に酔いそう。
「ゴ、ゴホン!、え~ちょいとトラブルが発生しましたが、
作戦会議を続行します!」
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「ふぅ~、行っちゃったか」
もう誰もいない部屋の中でつぶやく。
もう隼人はアルバイトをしに行ったし、
僕は今日も予定などが一切入っていない。
「それにしてもやばかったなぁ...」
彼の瞳の光が急に無くなったことに関しては完全に予想外だった。
少なくとも動揺する、ということは予想してはいたが、
あそこまで重症だとは思いもしなかった。
僕は人の感情面に関しては疎い部分がある。
知識はあるかもしれないが、あくまでも知識だけ。
対応方法などが思いつくわけでもなく、
ただ単に数個のケースしか対応できない。
人間の感情というものは数えきれないほどパターンがあり、
その数は無限といっても過言ではない。
そして、彼の場合はかなり特殊だから、
僕では到底彼の感情を元に戻すことはできない。
...やっぱりあの娘に頼るしかないんだろうか。
私に人間の感情面において勝てるあの娘に頼るしかないのだろうか。
正直に言ってしまえば、
今の生活の方が面白いから彼のことをこのままここに置いておきたいが、
どうやら僕のことを嗅ぎ付けて、ここら辺に来ているみたいだし、
そろそろ我慢が出来なくなってしまったんだろう。
だって、ほぼほぼ告白をされた状態で何年も経っているんだから。
あれは僕の人生において最大の誤算だったかもしれない。
そう思えるほど、あの時の僕は愚かだった。
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「それで?彼の記憶を元に戻す為に手伝って欲しいと?」
僕の前には、公園の中で外だと超目立つ白衣と、
首にはハートの模様がついたチョーカーを着けている友人がいた。
「そそ、これは隼人のためでもあるし、君の為でもあるんだ」
この娘、佐鳥 心を協力させる理由は既にできている。
心と隼人の関係は中学校の時しかなく、それ以来は全くもって接触していない。
心も私と同様に隼人に救われた人間の一人であり、恩義を感じてもいる。
まぁ、なんだ...恩義というよりかは初心な恋心と言った方がいいかもしれない。
実際中学校以降は慎重すぎて一切接触することが出来ていなかったのが証拠だ。
見た感じ策士系に見えるが、それは現在においてのことであり、
過去のことになってくると、一気にこの雰囲気が崩れる。
「私の為に...ねぇ...今更彼の記憶を戻したところで、
一体私に何の利益があるんだい?」
白衣のポケットに手を突っ込みながら、
まるで他人事のように呟く心。
「ふ〜ん、その割に顔を赤らめてるじゃないか、
それにそのチョーカーは一体何なんだっていうんだい?」
一見冷たい対応をしているように見えるが、
細かいところを見ていけば、心が今何をどのように感じているのかが分かる。
さっきの他人事のように呟いた時、頬が赤く、言葉は少し震えていた。
多分単純な照れ隠しだろう。
「...なぁ鹿娘、前々から気になっていたんだが、
このチョーカーは本当に隼人からのプレゼントだったのかい?」
先程の少し崩れた表情とは打って変わって、キリっとしたものに変わる。
少々先程のことを誤魔化したいという気持ちも入っているようだが、
大半は心の底から疑問に思っているようだ。
「ふ〜ん、ちなみになんでそう思ったんだい?」
心の着けているチョーカーは、実際のところは僕が作ったもので、
それを隼人経由で心に渡してもらったものだ。
中学校の時、僕は隼人と心が結ばれれば、ずっと末永く幸せになれると思って、
二人がくっつくように仕向けていた。
でも、友達以上恋人未満の関係が予想よりも長く続いてしまい、
そのままでは一行に状況が進展しないようなので、
僕は隼人にあのチョーカーを渡して、
それを隼人名義で心に渡してくれと言った。
チョーカーを誰かにプレゼントすることは、
自分の独占欲を相手に示すということになる。
これで完全に隼人は心に間接的な告白をしたということになる。
だが、ここで僕にとって少しミスをしてしまった。
それは、心はもう隼人に告白されたと思って恋人気分になっているにも関わらず、
隼人はただ単にプレゼントを渡しただけで、チョーカーを渡す意味がわかっていない状況で、
特別心情の変化は何もないという事態になってしまった。
僕はすぐにこの事態を解決させるため、
隼人にチョーカーを誰かに渡すことの意味を伝えたのだが、
「そんな意味があるなんて知らなかったや、でも、
僕はそう思って渡した訳じゃないから、心も変わっていないんじゃないかな?」
という物凄い鈍感っぷりを見せてくれた。
少々今と喋り方が違うが、この時はまだ記憶を失ってはいないからだ。
僕的には、
隼人と一緒に登校している時の心の表情を見れば満更でもない表情をしているようだし、
学校で話している時はいつものぶっきらぼうな表情と違って優しいものになっているのになんで隼人はこの好意に気がつかないのだろうか?という感じである。
「いや...ただ単に隼人があんな大胆なことをするのかとこの前思ってね、
もしかしたら君が隼人に渡すように仕組んだんじゃないかなって」
少し悲しげな表情で事実を言い放つ心。
最初から隼人ではなく、心にチョーカーは私が仕組んだことだ、
と言ってしまえばすぐに終わるようなことだが、
この問題が終わったとしても、その次には心の感情に関する問題が出てきてしまう。
感情による問題は僕には完全に分が悪い。
「さぁ?どうなんだろうねぇ?人には二面性があるものじゃないかな?」
そう言うと、心は何か気に食わないような顔をして黙り込む。
「...まぁ、いいよ、その件引き受けるよ」
なんやかんやあっても、結局は引き受けてくれる心。
「ありがとう、心」
僕は、こんなにもいい友人に嘘をついてしまっている。
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...依然と似たような感覚が上半身から感じる。
また鹿娘か、まぁ別にいいだろう。
今度は事前の動作なしで落としてやろう、
そう思って、僕は、乗っかかっている何かをばれないようにそ~っと掴み、
横に結構な力を入れて動かしたが、
「フッ、甘いよボーイ」
と、ハードボイルド系の声質でありそうなことを言う。
いつものふざけている表情をしているのかと思いきや、
これまた、鹿娘にもこんな表情ができるのか?というクールな表情をしていた。
「...ていうかなんで毎期上に乗っかってくるの?」
「そこに乗りやすそうなものがあるからだけど?」
「いやごめん、意味わかんない」
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「ねぇねぇ今日は休みでしょ~?
なんか遊びに行こうよ~、あ、でも今の時間帯遅いから、できれば屋内で~」
先程まで僕が寝ていたベットの上に寝ころび、
足をゆらゆらと動かす鹿娘。
「...スポーツセンター?」
なんか僕がここに泊まりに来ている趣旨から少し外れている気がするが、
今はまだ無視しておこう。
僕にこんなにも協力してくれているんだ、少しぐらいは大目に見ないと。
「この時間にやってるのぉ~?」
近くにあるあたりめを噛みながら、神妙な顔をする彼女。
そう、今は時間帯が大きな問題となっている。
僕がさっき起きた時間は11時。
何故こんなにも遅くなってしまったかというと、
原因は他でもないアルバイトだった。
アルバイトが終わった後に半ば強制的に斎条先輩の家に連れていかれ、
さらには酒を飲みだす紀伊野さんと斎条先輩の対応に追われるような一日。
そして紀伊野さんは度数の高いお酒に挑戦した結果、見事に体調が悪化。
そんな中斎条先輩は爆睡、激しく揺すっても起きる気配は微塵もない状況。
よって、僕が紀伊野さんを看病することになり、数時間が経過。
帰宅時刻、翌日の12時30分。
僕はあの喫茶店に一体何をしに行ったのだろうか?
普通にアルバイトをしていた時間よりも飲み会の時間の方が圧倒的に長い。
...今度からはできるだけ飲み会の誘いは断っておこう...断れるかは別の話だが。
というかこの時間帯に遊びに行こうとは一体どうゆうことだろう?
そもそもの話、僕は外出をする機会が少なく、さらに遊びに行くとなると、
社会人になってからは片手で数えられるぐらいしかないので、
外でこの時間帯に遊べるところなんてものはあまり知らない。
「う~ん、とりあえず君は体を動かしたい気分なのかぁい?」
あたりめの次にはビーフジャーキーを食べる鹿娘。
...なんか今更だけどおつまみ系を食べ過ぎな気がする。
テーブルを見てみると、ほぼほぼおつまみという構成になっている。
「そうだね、アルバイトで全身が凝っているって言われたから」
昨日の飲み会の途中に斎条先輩に肩を揉まれて、
「固!?ナニコレ!?石!?石像!?」
と言われて、他の場所も触られて、全身が凝っているらしい。
多分ただ単に体を動かしていないからだろう。
家では同じような体勢で家事、アルバイトでも同様。
個人的にはマッサージをしてもらうところに行った方がいいんじゃないか?
と思ったが、斎条先輩曰く、
「...君はマッサージ店じゃなくて、シンプルに体を動かすところに行けば?」
と、真顔で言われてしまった。
その後ろにいた紀伊野さんは、僕のことをどこかしら気まずそうな顔で見ていた。
何故マッサージ店はダメなんだろう?体を動かしたところで全身の凝りが取れるとは思えないのに。
「...じゃあ、走ってバッティングセンターに行くっていうのはどうなのだよ~?」
ベット上で仰向けになり、なが~いスナック菓子を一本ずつ、
ニンジンを食べるウサギみたいな速度で食べていく鹿娘。
「...とりあえずその案でいいけど、帰ったら夜ご飯作る?」
「よろしくなのだよ~!」
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「ばっちこ~い!」
鹿娘は、片手でバットを前に突き出す。
いわゆるにホームラン宣言をする。
ちなみに、表情は自信満々である。
「ねぇ鹿娘、さすがに160キロは無理じゃないかな?」
「ダイジョブイケるって~」
鹿娘に、あざとい上目遣いをされた結果、僕は奢るような形になった。
そして、この馬鹿(鹿娘)は、人のお金だからといって、この施設で最速の160キロに挑戦した。
正直に言って、お金がどうこうよりも、鹿娘にボールが直撃してしまわないかが心配だ。
そうドキドキしている間に、第一球が放たれた。
「よいしょ~♪」
ボールと金属がぶつかり、金属音が施設内に鳴り響く。
というか、バットを振るときの声とは思えない程軽い言葉が聞こえたような気がするが、気のせいだろう...
僕は、ボールが放たれた方を見てみると。
【ホームラン!!ホームラン!!】
という表示がされていた。
「ん~...ん?」
ホームラン?
僕は、自分自身の目がおかしくなったと思い、
目を擦って、もう一度前を見てみると。
「はいよ~♪」
もう一度、軽い言葉と同時にバットを振る鹿娘がいる。
その結果、またもや【ホームラン!!】という表示が表れる。
「...どゆこと?」
結果的に、鹿娘は20球全てがホームランという結果になった。
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「いやぁ~楽しかったねえ~」
床でゴロンゴロンと転がる鹿娘。
そして僕は今、鹿娘のために料理を作っている。
「まさか鹿娘があんなに上手だとは思わなかったけどね...」
「フフフ...すごいだろ~?すごいよねぇ~?
崇めよ、称えよ、そして貢げよ?」
「いや貢げよってどうゆう意味だよ...」
「というかさぁ~、君体動かしてなくない?」
「...あ」
結局、僕の体は固いままだった。
出張まで、
残り八日。
ごめんなさい...こんなにも投稿が遅れてしまい、読者のみなさんに
めを向けることができないレベルです...本当にす
んません...これからの投稿ペースも一切わからない、不明確
な感じですが、これからも読んでいただけるのであるのであれば
さいわいです。
いままで本当にさぼっていてすみませんでしたm(__)m




