表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/21

第十話 【癒えない心】後編

「ねぇ隼人?あなた本当に変な事はシていないのよね?」

僕は今、仁香の前で正座をしている。

仁香は腕を組みながら、

僕のことを上から目線で睨んでいる。


「はい、本当に何もしていません」

僕は自分の事実をそのまま伝えた。

何故こんなことになっているかというと、


僕はチラッとソファーに視線を向けた。

「ハァ...ハァ...」

頬を赤くなっていて、

胸を苦しそうに掴み、荒い息遣いをしている、琴乃さん。


仁香はこの様子を見て、

僕が琴乃さんに対して変なことをシたと思っている。

...いや、そんぐらい信じてよ...


「へぇ?じゃあなんで愛宮先輩はこんなことになっているのかしら?」

仁香の視線がさらに鋭くなり、

威圧感が何倍にも増していく。


「あ、あの、それはぁ...」

やばい、怖すぎて呂律が回らない。

え?結構ガチで怒ってる?


「そういえば昨日愛宮先輩を抱いた時、

随分と幸せそうだったわねぇ?」


「いえ、微塵もそんなものは感じておりません」


「ふ~ん、じゃあ明日予定空けておいてね」

そう言って、仁香は朝食が置いているテーブルに向かった。

...明日はバイトが休みだから大丈夫だな。

ていうか仁香から何かしら誘われるって久しぶりだな...


----

「...私は一体何をしているのかな?」

部下の家で二回気絶って...

本当に何やってんのよ。

なんか体熱いし。


私は体を起こして、周囲を見渡す。

...誰もいない。

仁香ちゃんもいないし、隼人君もいない。

これって帰っちゃっていいのかな?

いや、でも帰っちゃうと鍵が開いた状態になっちゃうし...

まだここにいた方がいいのかな?


そして、ソファーの近くのテーブルに、

こんな置手紙があった。


琴乃さんへ

朝ごはんを作っておいたので、

よければ食べてください。

あ、ちなみに冷蔵庫の二段目にある皿です。


「気が利きすぎだよ...」

ちょうどお腹が減っていたところだったけど、

まさか作ってくれるなんて思いもしなかったや。


私は冷蔵庫から皿を取り出し、

ラップを外して捨てる。


「いただきます」

見た感じ普通においしそう...

彩もいいし、栄養バランスもいい。


「ん!?おいしい!」

なんだろう、やっぱり自分で作った料理より、

他の人が作ってくれた料理は、

何倍もおいしい気がする。


10分後

「ごちそうさまでした」

満腹って訳ではないけど、

なんかちょうどいい...

もしかして、これが仁香ちゃんのあの仕事ぶりの秘密?...

確かに今の調子なら仕事進みそう...


「えっと~、私は仁香ちゃんと隼人君が帰ってくるまで待てばいいのかな?」

私は顔を洗うために、洗面台に移動したが。


「私も欲しいなぁ、隼人君みたいな旦那さん...」

そこには可愛いキャラクターが描かれたコップがあって、

その中には、使い捨て歯ブラシと歯磨き粉があった。


----

「う~ん...いいよね?バレないからいいよね?」

私は仁香ちゃんの部屋の前で葛藤している。

部屋というのは、その人の性格を表す。

だからこそ、私は仁香ちゃんの部屋をこの目で見てみたい!

扉に仁香と書かれた板があったから、すぐに分かった。


「いっせ~の~で!」

勢いよく扉を開ける。


そこには、まぁ、なんていうんだろ。

まさにエリートって感じの部屋が広がっていた。

難しそうな本が大量に入っている本棚に、

真ん中の机にはノートパソコンがある。


そして、ノートパソコンの隣には、日記のようなものがあった。

私は日記をめくると、


1月1日

今年も隼人と年越し。

また来年も一緒に年越ししたいな。

大好きだよ、隼人。


私はそ~っと日記を閉じて、

仁香ちゃんの部屋を後にした。


「い、いいよね、仁香ちゃんの部屋にも入ったんだし!」

今度は隼人君の部屋の前にいるけど...

何故か私はテンパっている。


「すぅ~はぁ~すぅ~はぁ~」

深~く呼吸をして、気分を落ち着かせる。

いや、勝手に人の部屋に入っている時点で落ち着いていないと思うけど...


「せ~の!」

そこには、仁香ちゃんの部屋とは違い、

装飾品などがない普通の部屋だった。

壁には、制服を着た男女が笑顔でピースをしている写真や、

ドレスを着た仁香ちゃんと、タキシードを着た隼人君が、

キスしている写真などがあった。


...見ない方がよかったかも。

そして、他の写真を見ていくと、

小さな男の子が笑顔でピースをしている写真があった。


「ん?これって、小さいときの隼人君?...」

でも、私はこの写真に違和感を持った。

この写真に写っている子の無邪気な笑顔、

そして顔が、完全に【あの子】と一致している。


そして、少しだけ映っている遊具にも身に覚えがある。

形も、色も、場所も、全てが過去の記憶と一致している。

そして、そこの隣には、私がいた。


「ち、違うよね?、こんなの...こんなことって...」

自然と手に力が加わる。

でも、写真を見れば見る程、その写真に写っているのは、

私が長年想い続けてきた【あの子】だと確信できる。


薄々そんな気はしていた。

そもそも彼の雰囲気と、あの子の雰囲気が似すぎている。

性格は変わっているが、根本的な優しい部分は全く変わっていない。

それどころかさらに優しくなっているぐらいだ。

ただ単に、あの子が他の人の物になっているということを、

私は否定したかったのだろう。


言ってしまえば、小さな子供のくだらない約束かもしれない。

それでも、それを分かっていても、

私はずっとずっとそれを信じて生きてきた。


「僕!大きくなったらお姉ちゃんとけっこんするんだ!」


今でもこの言葉を簡単に思い出すことができる。

じゃあ私のこの想いはどうなるの?

10年以上に渡って信じ続けてきた想いを捨てろとでも?

もしそんな簡単に捨てれるのなら誰も苦労しない。

私はこの想いを諦めることは絶対に有り得ない。


そうだ、もう奪ってしまえばいいんだ。

そうすれば私の想いは叶う。

それでいいんだ、私と彼が結ばれるのなら、それで...


「何をしているんですか?」


「ッ!?」

私はすぐに後ろを振り返った。


「ここ、僕の部屋なんですけど...」

と、何やら困った表情をする。


「す、すみません!すぐに出ますから!」

私は、その場から逃げるようにその部屋を出ていった。


----

「なんだったんだ?僕の部屋に入ってもなんにもないのに」

僕が庭の雑草を抜いている最中に、

琴乃さんは起きたみたいだけど。

風邪ではないのかな?

仁香は、すっかり琴乃さんが風邪だと思って薬局に行ったのに。


ま、いっか。

一応僕は仁香に、琴乃さんは大丈夫というメールを送った。


----

「本当に大丈夫なんですか?

愛宮先輩...」


仁香が心配そうな表情で、

琴乃さんに話しかける。


「大丈夫大丈夫!全然元気だから!」

それに対して琴乃さんは元気に返事を返す。


「それじゃ、また来るね」

そういって、琴乃さんは帰っていった。


「それで、隼人」

先程の声質とは違い、

少しボソボソとした声で、


「明日は、絶対に予定入れてね...

その...ひ、久しぶりに...」


「ん?久しぶりに?」


「や、やっぱり明日言うから!」

仁香はそう言って、自分の部屋に走っていった。


----

「はぁ...やっぱり傷つくなぁ...」

度数の高いお酒を片手に、

机にだらんと体を預ける。


「こうも簡単に初恋が終わるなんて、

ひどすぎるよ...こんな仕打ち...」


初恋の相手と会えたと思ったら既に結婚していて、

しかも相手が部下って...

考える限り最悪なシチュエーションじゃないか。


「んぐ、んぐ」

今日はやたらとお酒が進む。

昔の彼を忘れようとして飲んでいるのに、

飲んでも飲んでも、彼との思い出は消えない。

消したいのに消えない。

忘れたいのに忘れられない。

人間なんて、自分がしたいこととは真逆のことが起こるんだ。

成功すると思ってたら失敗する。

失敗すると思ったら成功する。

そんなことは恋愛にも適用される。


叶うと思っていた恋が叶わない。

本当に最悪な気分...

期待すれば期待するほど、

その期待が裏切られた時の絶望は大きい。

人間の精神なんて容易く破壊する程度には。


今の私には何がある?

会社内の地位?実績?信頼?

金持ちの両親?

そんなものがあったって、

結局私は一人じゃないか。


大人になれば、一人じゃなくなると思っていた。

子供の頃からずっと一人ぼっち。

だからこそ、小さな反抗として習い事を抜け出して、

彼と出会って、彼と遊んで、彼と笑った。

彼と一緒にいる時は、自分が一人じゃないって実感できた。

こんな私だって友達がいるんだ。

一人ぼっちじゃないんだって思ってきた。


でも、今のこの状況は何?

子供から大人に変わって、

社会に出て、自立して。

誰にも縋らず、誰にも縋られずに生活してきた。


それで?

今の私に何がある?

外側だけ見られて、評価されて、

その評価を見てついてくる人がいて。

客観的に見てば、一人じゃないって思うかもしれない。


でも、空っぽなの。

私の中身は何もない。

誰もいない、誰も私自身を見てくれない。

ずっと変わってないんだ。

私が、彼から離れてしまったあの時から。


私は、私自身を見てくれて、

一緒に道を歩んでくれる彼が欲しいんだ。


彼じゃないと何も感じないんだ。

喜びも、怒りも、悲しみも、何もかも実感できないの。

彼以外だと、全部が全部、偽物の感情になってしまう。

私は、私がここにちゃんと存在しているって感じたい。


両親の、愛のない言葉なんかよりも、

彼と会話している方が何倍も楽しい。


「はぁ...でもどうしよ...」

彼は、もう仁香ちゃんだけの物になっている。

今私がやろうとしていることは、

最低で最悪なことだ。


「仁香ちゃんから、取っちゃおっか...

隼人君を...」


----

「で?仁香、一応予定は空けておいたけど、

一体なんだい?」


昨日の朝に、仁香からは予定を空けておいて、

と言われたが、何をするのかということについては、

全く教えられていない。

ちなみに、今は珍しく仁香の部屋にいる。


「そ、それはぁ...」

それに対して、仁香は周りをキョロキョロ見ている。

...いつもの仁香とは違って、

何か自信がないように見える。


「本当にどうしたんだい?

何もないならもう寝るけど...」


そう言って、僕は自分の部屋に戻ろうとするが、

「ま、待って...」

と、静止されてしまった。


「?......」

仁香の部屋が、沈黙の空気に満ちる。

たった数秒に感じるし、

何十分にも感じる、

短いようで長いような、

不思議な雰囲気が、部屋を支配する。


「ひ、久しぶりに...」


「そ...そのぉ...」






「し...シない?...」






この先のことを、僕は一切覚えていない。

後日、仁香からそのことについて教えて。

と言っても、顔を赤らめて沈黙で終わってしまう。

...本当に、何があったんだろ?

ブクマ、ポイントお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 本編で死なないの? [一言] じゃあタイトル変えた方がいいよ
[一言] 何話でお亡くなりになりますか? 亡くなったところから読みたいです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ