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第八話 【危険な存在】後編

「斎条さん...さすがにやめましょうよ...」

僕と斎条さんは、今遊園地に来ている。

なにせ彼女曰く、

人混みが多く、自然と笑顔になることが多いから、

接客の練習にはもってこいの場所らしい。


ジェットコースターやメリーゴーランドとかなら理解できるけど。

なんでよりにもよって僕が苦手な、

お化け屋敷なんだよ...


「いいじゃないですか~、どんな人にでも笑顔で接客!

そうすれば接術は格段に上手になりますよ!」

こんな真っ暗なところなのに、

彼女の笑顔はハッキリと見える。

どんでけあなたの笑顔は輝いているんですか...


僕は怖いものがとにかく苦手だ。

高校の頃の部活帰りの時は、

周りをキョロキョロ怯えながら、

一人寂しく帰宅していたことは鮮明に覚えている。


「にしても再現度が相変わらず高くなる一方ですね~」

彼女は近くに置いている、

片眼がただれ落ちていて、

頭から血を流している生首を見てそう呟く。


「なんでそこに関心するんですか...」

心臓の音が鳴りやまない。

さっきからずっと鼓動の速さが上がっているのがわかる。

後ろから誰かに見られているように感じる。

...誰もいないよな?


僕はそーっと後ろを振り向くと、

「......あはは、こんにちわ」

返り血のようなものがついている白装束を着ている、

長髪の女性がいた。

髪の毛で顔が隠れていて、

表情はうかがえない。


「カエセ...カエセ!!!!」

最初はゆっくりと近づいてきたが、

急にこちらに向かって走り出す。


「無理無理無理無理無理!!!!!」

僕は気づいた時には、

斎条先輩の手を握り、

全力で走っていた。


そんな僕の焦り具合とは裏腹に、

彼女はとてもヘラヘラとした態度だった。

「も~強引ですね~」

なんでこんなにこの人は落ち着いているんだ...


僕は後ろにさっきの人がいないことを確認して、

膝に手をつけて、呼吸を落ち着かせる。

「ハァ...ハァ...ただですらジェットコースターで体力を奪われたのに、

お化け屋敷でも体力使うとか...この遊園地は一体なんなんですか...」


「いやいや、お化け屋敷で普通は走りませんって」

笑いながら僕を見る斎条先輩。

この人の笑顔は本当にすごいなぁ。

見ていて憧れる。

僕もこの人みたいに他人を笑顔にさせることはできるのかな?


「あともう少しで終わりますから!最後まで行きましょうよ!」

そういって彼女は僕に向けて手を差し伸べる。

...?、なんだろう、この感情は。

何か、大事な事を忘れているような気がする。

仁香以外の人と関わるときに、

この感情は生まれてくることが多い。


僕は、そのことで頭がいっぱいになって、

怖さを忘れ、そのまま自然に斎条先輩の手を握り、

進んでいった。


そして、気づいた時には、

明るい外に出てていた。

少し日が落ちているのがわかる。

どうやらお化け屋敷だけでかなりの時間が経過したようだ。

原因は絶対僕だな...


先程のことはもう考えないことにした。

考えれば考える程頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。

目の前が真っ白になって、体の震えが止まらなくなる。


「ん?どうしたんですか香賀詩君?」

僕の顔を覗き込んでくる斎条先輩。

身長は僕の方が少し高いので、

必然的に上目遣いになる。

...寝起き仁香に比べたらどうってことない...ないよな?


「い、いえ、なんにもありませんよ」

僕は平然を装い、笑顔で返答する。

まぁ凝り固まった笑顔だけども。


「そっか、それじゃあさ、このまま帰すのも何だし~」

彼女は、先程見せた自然な笑顔とは違う、

何かを企んでいるような、

ねっとりとした笑い方をし、


「私の家、来ませんか?」

そう、僕の耳元で囁いた。


----

「あ!仁香お姉ちゃん!こんにちわ!

遊びに来たよ!」


無邪気な笑顔で挨拶をする希更ちゃん。

表面上はこのように純粋無垢な子だけど、

中を見てみると、あら、びっくり。

重度のブラコンの変態さん。


この子は妹という立場を利用して、

隼人に家族なのに色目を使ったり、

隼人の愛用している服を盗んだりと、

普通に犯罪じみたことに手を染めるやばい子。

その癖私が隼人にそのことを伝えようとしたら、

隼人に泣きついて、被害者面をする。


「希更ちゃんじゃない、遊びにきたって...

隼人はいないの?」


この時間帯に隼人が買い出しに行くとは考えられないし、

そもそも出歩かない。

う~ん、何してるんだろ?

まぁいっか、隼人から考えて行動してるんだし。

てゆうかその前にこの女を家に入らせるわけにはいかない。

また服を盗まれたらたまったもんじゃない。


「11時からずっといなかったよ!も~あにいってばなにやってんだろ?」

この子今なんて言った?...

11時?今は...18時なんだけど。

ってことは...7時間!?

どんだけこの子隼人に会いたいのよ...


でもさすがに隼人がそんな長時間出歩くなんて今までに一度もなかった。

もしかしてうわ...いや、隼人に限ってそんなことはない。

夫を信じなくて何が妻だ。

夫を信じてこその妻だと自分に言い聞かせる。

まるで不安を振り払うかのように。


「まぁ、もう遅い時間帯だし、もう帰ったら?」

絶対に家に入れるもんか。

今の私にはなにを言われようが、

この意志だけは曲げない自信がある。


「私、家の鍵持ってないんですよぉ」

そう言って、バックの中身を見せる。

そこには、トランプや、カメラなどが入っていた。

怪しいものは入っていないわね...


「それじゃお父さんに電話するから...」


「お父さんは今出張中ですよ?」


なにこの子、絶対鍵忘れたのって意図的じゃない...

もしこのまま帰らせたことを隼人に言われたら。


「仁香...さすがにそれは酷いよ、あんまりだよ」

と、かつて私に一度だけ見せた表情。

あの表情を思い出すだけで寒気がする。


「わ、分かったから...」

私の意志って案外弱いものね...

玄関の扉を開け、

希更ちゃんの背中を押して、


「お風呂沸かしておくから、リビングで待って頂戴?」

まずは風呂掃除と希更ちゃんの監視。

そして夜ごはんを作る。

...面倒だなぁ。


そうすると、希更ちゃんは目を輝かせて、

二階に直行した。


「ちょ、ちょっと!?」

あぁ...これだからこの子は嫌なのよ...


----

「......」

僕は今何をしているのだろうか。

何故斎条先輩の家に来ているのだろうか。

...本当のことを言ってしまえば、

あの馬鹿にそそのかれたのが本音だ。


「ねぇねぇ隼人君...あの子、絶対あなたのことを誘うと思うから、

断っちゃだめだよ?もし断っちゃったら~」


「料理のレシピなんて、一つも考えてあげないぞ~」

と、僕のことを脅迫するかのようなことを言ってきた。


そもそも何故あいつがこのようなことをするのかも分からないし、

なんで僕が頼みたかったこともバレているのか。

本当にあいつの底が知れない。


「あ、香賀詩君!パスタできたよ!」

そして僕が座っているテーブルに一つの皿が置かれる。

小さく切られている海苔がかけられてあって、

明太子の粒が麺に絡み合っている。


斎条さんは、一緒に遊園地に行った時とは違う服装で、

何故か猫が組体操をしているTシャツと、

水玉模様のズボンをはいている。


...これが最近の流行なのだろうか?

「ささ、食べて食べて~自信作なんだ!」


...こんな風に栄養が偏っているものを食べるのは久しぶりかもしれない。

僕は手を合わせて、

「いただきます」

と、言ってからフォークにパスタを絡めていく。


「どぞどぞ~、どんどん食べて~そんじゃ私もいただきま~す」


10分後


「ごちそうさまでした...」

...この人アルバイトではあんななのに、

料理はできるんだ...

あ、そういえば斎条先輩って調理担当だったな。


僕が雑務、紀伊野さんが接客と会計。

そして斎条さんは調理。

なるほど、どうりでうまいわけだ...

店長は店を閉める時しか顔を出さないし。


「お粗末様でした~」

そうして、斎条さんは食器を重ねていって、

洗面台まで待っていく。

...なんか新鮮だな。


さすがに何もしないって訳にはいかないので、

「斎条先輩、僕も手伝いますよ」


「え?いいの?」

首を傾げて、僕のことを不思議そうに見る彼女。


「当たり前ですよ、こんなこと」

はぁ、新婚の時は仁香も今の僕みたいな感じだったのになぁ...

もちろん今の仁香も可愛いけど、

あの頃の仁香はデレデレで最高だったなぁ...


「ちょっと香賀詩君!?洗剤付けすぎ!」


「あ!?すみません!」


こんな風に、仁香とも生活できたらいいな。


----

「やばい...結構時間経ってるじゃん...」

斎条先輩の家を出ると、

普通に真っ暗だった。


「この道を徒歩かよ...」

僕は周囲に怪しい人がいないかを確認し、

自分の家の方向に歩いていく。


ここから自宅まではおよそ30分。

いやぁ...意外と長いなぁ。

そんな風に、怯えていると、

後ろから音を鳴らしながら近づいてくるものがあった。


「お~、4時間20分ぶりなのだよ~」

車窓をゆっくりと下げ、

まるでいたずらをした子供のような顔で話しかけてくる奴がいた。


「鹿娘?なんでここに?」

...さすがにこれが偶然とは言えない。


「まぁまぁとりあえず乗るのなのだよ~

家まで送ってあげるからさ~」

普通に聞いたらナンパにしか聞こえないが、

僕は静かに助手席に乗り。

シートベルトを締める。

それと同時に車が動き出す。


「ほれ」

鹿娘はメモ帳のようなものを僕に手渡す。


「レシピだよ、君が欲していたものだろう?」

なにやら自慢げになっていて、

少し声音が高くなっていることがわかる。


「お、おう...」

何故僕が頼もうとしたことがわかっていたのか、

そして何故斎条先輩の家に強制的に行かせようとしたのか。

聞きたいことは他にも何個かあるが、

聞いたとしてもはぐらかされるだけだろう。


「ちょっと君にお願いがあって~」


「来週の日曜日に、そのメモ帳の裏に書いてあるところまで来てくれなのだよ~?」


...僕は無言でメモ帳の裏を見る。

【桜宮公園】

確か僕が通っていた中学校の近くにあった公園。

そして、僕が鹿娘と仲良くなるきっかけとなった場所。


「わ、分かったよ」

こんなメモ帳を貰ったのにも関わらず、

断ることはいくらなんでも薄情だろう。


「ほら、着いたのだよ~」

気づいた時には、既に家の前にまで来ていた。


「あ、ありがとう」

こんなことは初めてだったので、

少し困惑してしまう。

だが、彼女はそんなことを気にせずに、


「ば~いば~い」

と、そのままどこかに行ってしまった。


僕はそのままメモ帳を握り締め、

玄関のドアを開ける。

...鍵開いてるな。

まさか今日仁香が早く帰ってきたのかな?


「ただいま」

と、言った瞬間、二階からはバタバタと音がして、

台所からは僕の愛する人の声が聞こえた。


    「「遅い!!!!」」

と、大声で言われてしまった。

「って、なんで希更がいるんだ?」


希更は実家の方にいるはず...

「今日は休みだったもん!」

いや、そうゆうことじゃないんだけど...


「ちょっと隼人、そんなことよりも、

なんでこんなに遅くなったの?

連絡は一切くれないし...」


あ、やばい、電源切ってたっけ...

「も~、香賀詩君!さっきから携帯ばっかいじって!

女性の人と外出中には電源を切ること!」


あぁ...そういやそうだったな...

ここは正直に話したいところだけど...

希更がいるから、浮気じみたことはいえない...


「あ、あれだよ!鹿娘に絡まれてたんだよ!」

これで通じるか?...


「鹿娘?...あぁ、あの人か...まぁあり得る...かな?...」

少し疑問気味だが、

騙せてはいるだろう。


「あにい...せっかく今日は学校も休みで部活も休みの奇跡の日だったのに...」

希更はものすごく落ち込んでいるようだ。

兄が妹を悲しませるなんてことはしてはならないと思った僕は、


「ごめんな希更、でも次来るときはずっと遊んであげるからな?」

そうして、希更の頭をすりすりと撫でていく。


「...わかった」

渋々だが受け入れてくれたようだ。


「あ、もう夜ごはんは私が作っといたから、

食べておいてね」


そう言って、仁香は自分の部屋に向かう。

「...仁香の作ったご飯だと...」

さっきパスタを食べて満腹状態だったお腹が、

【まだいけるぜ、相棒】

と言っているようだった。


僕は足早にリビングに向かおうとしたが、

「ちょっと待ったぁぁ!!」

と、仁王立ちする希更に止められてしまった。


「な、なにかな?」


「食事の前に、お風呂です!!」

うぅ...早く食べたいのに...

希更はこうゆう時はとても厳しい。

でもその代わりに、甘いときは驚くほど甘い。


はぁ...早く食べたいなぁ...


----

「ニシシ...この時を待っていた...」

私はあいつが作ったカレーをテーブルに置く。

そして、コップに水を灌ぐ。

あにいは牛乳があんまり好きじゃないから、

カレーを食べる時は水を飲む。


そして、周囲に誰もいないことを確認し、

バックからトランプの箱を取り出す。

そして、トランプの箱を開けると、


「入手するのに苦労したんだよなぁ...」

液体が入ったピンク色の瓶。

いわゆるに媚薬ってもの。


水が入ったコップに数摘垂らし、

スプーンの持ち手でしっかりと混ぜる。

「よし、こんぐらいでいいかな?」

色は変化なし、

匂いも変化はない。


これで完璧...


30分後

「いっただっきま~す」

あにいは風呂に上がってきた後に、

すぐにテーブルに座り、カレーを食べ始めた。


「ん!?うまい!!」

いつ効果が出るかが楽しみだ...


数時間後

「すぅぅ...すぅぅ...」

...何故だ...何故あにいは平然と寝ている!?

え!?本当になんで!?


私はすぐに自分の寝床に戻り。

毛布にくるまる。

「なんで、なんで...あの媚薬は正規ルートで手に入れたはず...

いやでも天然の人には効かないっていうし、

でもそんなの科学的根拠なんて一切ないし!

もうなんなのよ!?

これじゃあ既成事実作れないじゃない!」


と、毛布の中でうめいていると、

後ろから何か声がしたので、

振り返ったが、誰もいない。

「クソ...あとでまた考え直さないと...」


「う...嘘...媚薬って...」

私は今、絶対に聞いてはならないことを、

聞いてしまったのかもしれない。


----

「はぁ...全く君は本当に何をやっているんだか...」

人気のない道路をゆっくりと車で進んでいく。

はぁ、本当にため息しか出ないよ。


「あれが君の望んだ幸せの形なのかい?」

誰もいないのに、

一人で呟く。


「僕は必ず君の人生を最高に幸せにしてみせるよ」

ハンドルを強く握り、

何かを決心した、

馬田 鹿娘だった。


ブクマ、ポイントお願いします!

第九話を楽しみにしておいてください...個人的には大好きな内容です!!(ヒント 愛宮)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前も疑問に思ったんですが、仁香がDVやモラハラしてない場合、旦那が間女と浮気して、捨てられる悲劇の女性なんじゃあ。 馬田さんが神で主人公が不幸にならん様にループさせた世界で、仁香への…
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