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君の笑顔も縹渺で  作者: 折葉こずえ
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食堂

 食堂



 目が覚めると陽はすっかり西に傾き部屋の中を茜に染めていた。慌ててスマホを見るともうすぐ午後6時になろうとしている。すっかり寝てしまった様だ。

 窓から外を眺めると、畑や田んぼの無い街並みが広がり、それらが西日を浴びて長い影を地面に描いていた。

 お腹が空いたな……。

 移動の疲れですっかり眠くなり、お昼ご飯も食べずに眠ってしまったのだろう。



 そういえば守衛室のおばさんが午後5時から食堂で食事が出来ると言ってたっけ。

 何故か片方だけ脱げていた靴下を履き、スーツケースから鏡を取り出し髪を手櫛でソコソコに整え食堂に向かう。

 そういえば、お風呂とか洗濯はどうするんだろう? さっき貰った冊子に書いてあるのかな。

 まあ冊子を見るのは夜でもいいか。取り合えずお腹減ったしご飯を食べよう。

 一応財布とスマホを持って廊下に出た。


 寮には他の生徒も居るはずなんだけど未だに誰にも会っていない。そもそも寮に入る生徒が少ないのかな。私一人だったら嫌だな……、などと思いながらドアに鍵をかける。

 寮の廊下には正方形のマットがギンガムチェックのように隙間なく敷き詰められており、その材質のせいか足音がしない。それが余計に静かさに拍車をかける。


 食堂のある建物に入ると、まずロビーがあり、丸いテーブルとそれを囲うように置かれた4つの椅子。そのテーブルと椅子の組み合わせが10組ほどあり、さらにその奥に食堂らしきスペースがあるのが目に入った。

 食堂の前にはソファーがコの字に配置されており、正面の壁には見たこともないような大型のテレビが張り付けられている。

 このロビーで友達と語らいをするのだろうか。少しワクワクしながら食堂に向かう。

 誰ともすれ違うことなく食堂に着いたけど、食堂には何人か生徒がいた。

 殆どが一人で黙々と食事を取っている。一人ということは新入生なのだろうか。二人で話ながら食事をしているのは一組だけのようだ。あれは上級生かな。


 やっと他の生徒を見ることが出来、一人じゃなかったという安心感と、なんか寮生活って楽しそうなどと呑気な気分に浸りながらカウンターに向かう。

 カウンター奥のおばさん二人が料理を作ってくれているようだ。おばさんの片方が私を見るなり、

 「はい、ちょっと待ってね」と言った。

 「今日はアジフライとヒジキの煮物だよ」

 どうやらメニューは日替わりで決まっているようだ。てっきりバイキング形式で好きなものを好きなだけ食べられると思っていた私の期待は見事に裏切られたけれど、贅沢を言っている場合ではない。

 

 私がぼーっと待っていると、「新入生?」と、おばさん。

 「あ、はい。そうです」

 「えっと、ご飯とお味噌汁は自分でつけてね。そのジャーがご飯でそっちのお鍋にお味噌汁入っているから」

 見るとカウンター前の長テーブルにご飯のジャーが二つと、湯せんされているであろうお鍋にお味噌汁が入っていた。なんだ、お米は食べ放題なんだね。「お代わり」や「ごはん多めで」が言えない小心者の私にはありがたい。

 おばさんが料理を準備してくれている間にご飯を茶碗によそう。お腹減ってるから沢山食べちゃおう。お味噌汁はいいや。

 用意された料理の乗ったトレーを受け取ると、キャベツの千切りの上にキュウリ、トマトなどの野菜とアジフライらしき揚げ物が乗ったお皿。ヒジキの煮物と思われる小鉢。あと黒いゼリーの入ったガラスの小鉢が乗っている。

 この黒いのはコーヒーゼリーかな。ちゃんとデザートもあるんだね。ちょっと嬉しくなった。


 食堂は男女共用って言ってたっけ。たしかに男子がいる。というより殆ど男子だ。女子は私の他に一人で漫画を読みながら食事をしている少女一人と、二人組の内の一人が女子であった。

 あの二人はお付き合いしているのだろうか。あまり見ないように少し離れた所に席を確保した。

 テーブルの真ん中に醤油やソースなどの瓶。

 アジフライにソースをかけ、お皿の端に盛られたマヨネーズをちょんちょんと付けて頂く。

 なるほど。感想はあえて言わないでおこう。


 食事を終え、ロビーにある自動販売機でウーロン茶を買い部屋に戻る途中、洗濯やお風呂の事を聞く為に着いた時に寄った守衛室に向かった。


 守衛室を覗くと部屋は真っ暗で誰も居ないようだ。

 えー? 誰もいないの?

 ふと、そういえば女子寮にも守衛室があった事を思い出し、夜はあちらに移動するのかもと思い女子寮に向かう。

 案の定、寮の守衛室には年配の女性がおり、やはりテレビを見ていた。


 「すいません」と声をかける。

 「んあ?」

 と煎餅をかじりながらコチラを見るおばさん。『なんの用だ?』と顔に書いてある。

 私は洗濯やお風呂についてその女性に尋ねる。

 「洗濯はこの廊下を真っすぐ奥に行って突き当りの右側の部屋にあるから。寮生共用だから空いているときに使ってね。お風呂は洗濯の部屋の一つ手前にあるからね。大風呂と個室のシャワー室が幾つかあるから好きなほう使いな」

 「わかりました。ありがとう」とお礼を言って自室に戻ろうとした時、守衛のおばさんが、

 「あんた新入生? お風呂は夜10時までだよ。洗濯機はいつでも使えるけど、夜中はうるさいからやめてね。土日は混むからなるべく平日の夜にしなよ。特に決まりは無いけど、なんとなく上級生優先だからね」

 と言った。

 まあ、上級生優先なのは判る。


 一旦自室へ戻りお風呂用品を持って浴場へ向かった。


 浴場に入るとまず脱衣場がありその奥にシャワー室が左右にいくらか並んでいる。更にその奥に扉があり、扉の向こうには10人位は入れるであろう大きなお風呂があるのが見えた。


 今日はシャワーだけでいいかな。


 幸い(?)先客はおらず、気にせずに湯舟に浸かることも出来そうだけれど、とにかく今日は移動で疲れた為シャワーだけ浴びることにする。


 再び自室に戻り、床に畳まれている布団を広げその上にゴロンと横になった。

 テレビが無いと暇だなあ。ロビーにあったけど大きいの一つだし見たいチャンネルになっているか分からない。


 天井を見上げる。もうすぐ始まる高校生活を思い、期待と不安でドキドキするのを感じながら知らぬ間に眠りに落ちていった。


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