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暇をもてあましたお嬢様は怪盗家業に勤しむ  作者: 冴月アキラ
第五章:≪扉≫の先に広がる異世界
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大天使と四大の≪扉≫

 ≪扉≫に潜ることになったのは、シューヴァンシュタイン家との会談から二週間ほど後のことだった。


 そもそもラヴェンダー、エリーゼ、フェリスは学校があるし、アーゼルハイド女大公曰く≪扉≫の中は何があるか分からないとのことだったので、それぞれが必要とする装備を調える必要があったからだ。

 また、ラヴェンダーはシューヴァンシュタイン家側の人間として≪扉≫の探索に加わるので、その足の状態の回復を待つ必要があった、という理由もある。


 その間外では、ゴールディン社も含め目立った動きはなく、アメリカから来た組はこれ幸いと周辺の観光を楽しんだりしつつ、過ごしていた。


 特にアレクは趣味が写真撮影と言うことで、一眼レフ片手に毎日どこかに出かけては大量の写真を撮ってきていた。

 アメリカ人だと言っていたが、気質はやはり、どこにでもカメラを提げて出没する日本人らしかった。


「装備の方は、不足はございませんでしょうか?」


 当日、再び応接室に集まった一同の前に、ジェイとグロウが要望した装備が一通りそろっていた。

 二週間前には上品なティーセットが並んだロココ調のアンティークテーブルには、今は拳銃、自動小銃、サバイバルナイフなど、物騒なものがごろごろと置かれており、コーディネートは台無しになっていた。

 迷彩の軍服らしいものを身につけたグロウは持ち込みの、黒の上下を身につけたジェイとラヴェンダーはシューヴァンシュタイン家に用意してもらった防刃使用のサバイバルベストを羽織り、それぞれ必要装備を身につけていく。


 といっても、ラヴェンダーは身軽なだけで戦闘訓練はほとんど積んでいない。代わりにラヴェンダーが身につけるのはライブカメラなど、映像関連だ。


 これはアレクが要望して調達してもらったもので、胸に広角設定にしたカメラを一つ括り付け、細部用に拡大画角に設定したものを手首に一つ、ベルトと共に装備した。

 いつものように無自覚にアクロバティックな技を決めて壊さないようにしなければ、と思ったラヴェンダーである。


 そのほか、ワイヤーガンや投擲用の小型ナイフなど、移動や身を守るのに必要なものと、ポケットにカメラの交換バッテリーをいくつか納めれば、準備万端である。


「……それにしても、どれだけ仕込むわけ?」


 一方、まるでブラックホールのようにあちらこちらに装備が消えていくグロウの様に、ラヴェンダーは呆れかえった。


「ナイフは、なんだかんだ使うからな」

「それにしても限度があるでしょうが」

「これでも必要最低限だけどなあ」

 

 そう言って苦笑するグロウは、わかりやすく左腰に下げられたククリナイフだけでなく、ブーツの隙間や袖口など、あちらこちらに小型ナイフを仕込んだあげく、拳銃だけで二丁、前に小型小銃を一丁に、背中にロケットランチャーを背負っている。


 ロケットランチャーなんて何に使うのかと聞いたら、道が塞がっていた時用、だそうだ。


 ワイルドすぎる”開けごま”のせいで、≪扉≫の上に建つシューヴァンシュタイン城が沈まないことを祈るばかりである。


 一方、ジェイはと言えば、グロウほど本格的なゲリラ戦用の戦闘訓練は積んでいないので、銃は拳銃が二丁で、その代わりにマガジンをかなりの数仕込んでいた。ナイフも、グロウほどではないが腰と、ブーツとに仕込んでいる。


 なんなのだろうかこの二人は。誰かに捕まる想定でもしてるんだろうか。


「整いましたでしょうか?」


 全員が、準備を終えたらしい頃を見計らってエリーゼが問うた。

 本日は重要な会談があるとのことで、アーデルハイド女大公は席を外している。代わりに、シューヴァンシュタイン家側の代表として、扉を開くところまでエリーゼと、そのサポートのフェリスが同行する。


「整ったぜ」

「いつでもいける」

「こっちの映像も、準備大丈夫です」


 グロウ、ジェイ、アレクが答え、ラヴェンダーもこくりと頷いた。

 それを見て満足げに頷き返したエリーゼは、≪守護者のマリア≫を手に、例の暖炉の前に立った。


「それでは、まいりましょう」


 告げて、エリーゼは暖炉の上の置き時計を一つずらし、そこにあるくぼみに、≪守護者のマリア≫を填める。守護者のマリアの足の形にぴったり彫られたそのへこみを、ぐっと≪守護者のマリア≫を押し込むようにして押すと、カチリ、と何かが開く音がした。

 次いで、暖炉の前の床が下に数センチへこんだと思うと、やや大きな音とともに横にずれる。そうして、次に静かになった時には、暖炉の前に地下に続く階段が出現していた。 


「≪血の月曜日≫では、この仕掛けは見つからなかったおかげで、≪扉≫の存在はもとより、その向こうに隠したかつての当主達が集めてきた危険なアーキファクトは持ち出されずに無事でした。オーパーツほどの驚きはないかもしれませんが、当時の当家の技術もなかなかのものなんですよ」


 開いた階段の横に立ち、にっこり微笑んでエリーゼが言う。確かに、これだけ大がかりな仕掛けを、建築技術と電子制御が発達した現代ならまだしも、全て歯車で動かしていたような時代に、よく作った物である。


「エリーゼ様、先頭は自分が」


 そう言って、階段に一番最初に足を踏み入れたのはフェリスだった。LEDのランタン型のランプを手に、エリーゼの足下も照らしてやりながら下りていく。その後ろにラヴェンダー、ジェイと続き、しんがりがグロウだった。


「行ってらっしゃーい」


 そう言って手を振って一行を見送ったアレクは記録係だ。電波が届く範囲まででは、モニターでラヴェンダーが手にした通信端末から送られてくる映像をアレクが確認することになっている。そのため、彼が座る応接セットの横のエリアには臨時でモニターとパソコンが持ち込まれ、臨時の基地のようになっていた。


 岩を組んで作られた階段は、相当古いようで、地震でもあったのか所々崩れていた。それでも通れないと言うほどのものはなく、しみ出した水で濡れた岩に足を取られないように注意しながら、一行はその最深部に向かう。


 もちろん、少し下りれば光源もない。それぞれが手にしたライト頼りである。


「……これが、≪扉≫のようですわね」


 どれほど下っただろうか。暗闇の中で立ち止まったエリーゼが言った。

 最深部は広場のようになっていて、階段と同じ素材の石が敷き詰められていた。エリーゼの言葉に、歩を早め、その最深部に到達した一行は、一様に驚きの声を上げる。


「これが、≪扉≫だって言うの?」

「大きすぎないか?」

「上が見えねえぜ」


 フェリスの高く掲げたライトでもその上限が見えず、グロウが手にした懐中電灯で上を照らしてみる。けれど、その光が届く範囲に、上端がない。


「例え鍵が開いても、こんな大きな扉、開けられるのか? 材質は岩だろう?」


 歩み寄り、ぺたぺたと扉を掌で叩いて素材を確認しながらジェイが言う。


 叩いた感じは重く、決して軽石でできているようでもない。広場一杯の横幅もあり、かつ上が見えないほど高い扉を、数人の人間の力で同行できるとは思えなかった。


「とりあえず、鍵が開くかだけでも、試してみましょう」


 エリーゼがそう言いながら、扉をじっと見つめる。

 フェリスが照らした範囲には、文字が彫り込まれていた。


「ギリシャ数字と、ローマ数字が彫ってありますわね……」

「XVII……十四?」

「ああ、なるほど。そういうことですの」


 ローマ数字を口にしたラヴェンダーに、エリーゼが納得したように呟いた。


「なにが、なるほど、なんですか? エリーゼ様」

「アテナ像に≪陰陽のメダリオン≫を入れたときに出てきた『大天使と二つの聖杯が司る扉にこれをかざせ』の言葉の意味です」


 ラヴェンダーの問いに答えながら、エリーゼは扉の方を指さす。


「タロットカードの十四番、≪節制≫に描かれているのが中心人物が大天使ミカエルで、そのミカエルが二つの杯、あるいは壺を手に、杯から杯へ液体を移している、と言うのが≪節制≫の図案なのです。その移し替えている水は錬金術の不老不死の霊薬、エリクシールであるとも言われていて、そういう意味では不老不死の果実のなる≪エデン≫への入り口にこれほど相応しいカードもないのかもしれません」

「……なるほど。そういうことなんですね」


 エリーゼの言葉に頷くも、ラヴェンダーはさらに首をかしげつつ、これまでずっと心にあった疑問を口にした。


「この謎かけ、ギリシャ神話だったりタロットカードだったりを引用してるのに、その行き先がキリスト教の≪エデン≫て、ずいぶん系列があべこべじゃないです?」


 二週間前の会談の時から思っていた、とても正直な感想を漏らすラヴェンダーに、エリーゼは小さく苦笑を漏らすも、首を大きく横に振った。


「まだ、はっきりと答えがあるわけではありませんが、でたらめや気分で選ばれたものではなく、理由があってのことだと思っていますわ。わたくしの方でも、もっと調べてみなければなりませんわね」

「その分野に関しては、よろしくお願いします。俺たちでは、到底答えに到達できそうにありませんので」


 いつの間にかラヴェンダーの隣に立ったジェイが言う。それに、エリーゼは柔らかく微笑んで頷いた。


 一応見える範囲をラヴェンダーのカメラに写し、端末で静止画も撮ってから、一同は、≪扉≫がこちら向きに悪かもしれない可能性を考え、少し距離を取った。


 そうして一度階段まで戻り、再度扉を照らしてみると、目線よりは大分上、階段を数段上ったくらいの高さに、不思議な図案が彫り込まれていることに気づく。


 一見すると、それは四角錐の展開図のように見えた。正方形の四辺に三角形がついているのだが、何故か左右の三角形は、半分ほどで区切るように線が引いてある。

 加え、さらにその不思議な展開図の左右には、砂時計のようにも見えるひょうたん型の記号が二つ、描かれていた。


 それらを全て確認し、一層確信を持ったのか、エリーゼが、深く幾度も頷きながら呟いた。


「中心の図案は、土と空気の方向は違いますが、おそらく錬金術における四大の記号ですわ。その横に、杯が二つ。≪節制≫のカードが示すのも四大ですから、やはり、間違いがないようです」


 満足げにエリーゼはいい、手にしてきた≪守護者のマリア≫からアテナ像を取り出すと、≪陰陽のメダリオン≫を差し込んだ。そうしてアテナ像から放たれた紫色の光を、その図案に向ける。


 途端、その図案そのものが、紫色の光を放った。


「すごい……≪扉≫が、開くわ」


 息を飲んで事態を見守る一同の前で、巨大な二枚の岩の塊が、ゆっくりと動き始めた。そうして、こちら側に向けて内開きに、開いていく。


 一体どんな機構がどれほどの力で、この重厚な扉を開いているのか、見当もつかなかった。

 これも一つのオーパーツなのかもしれないが、それ以上に、なにか魔術的な不思議さを感じさせられる光景だった。


 やがて重い音を立てて扉が開ききると、一同は広場まで戻り、その中を覗き込んだ。

 不思議なもので、その向こうには紫色の光のような靄のようなものが満ちていて、中に何があるのか見えない。


「有毒ガスとか、そういう可能性は?」

「ないと思いますわ。でしたら、うちの家の人間が何人も死んでいることになりますし、そもそも、≪扉≫が開いた時点でガスがこちらに漏れてきていないとおかしいですもの」

「一応、検知器は持ってきているけど、反応ないな」


 ジェイの問いかけにエリーゼが推論を述べ、フェリスが持ってきていた検知器をかざして見て確認する。

 全てのガスの類いをそれで確認できるわけではないが、現時点で致死毒の類いは検出されていないようだった。


「なんか、わくわくするわね。こういうの」


 一方、ファンタジーやアドベンチャーものが好きなラヴェンダーは、うきうきしながら、≪扉≫の前でストレッチをしていた。

 中に入っていきなり某トレジャーハンターの映画みたいな大きな岩が転がってこないとも言えない。準備運動はしておくにこしたことがないのである。


「わかる。中に、どんな強いバケモノがいるのか楽しみだな」


 一方、グロウの方は全く違う”楽しみ”を見い出していた。バキバキと拳を鳴らしている。


 そんな楽天家二人を眺めて、これを俺が引率するのか、とげっそりとした溜息をついたジェイだったが、気を取り直すと、その手を紫色の光に伸ばす。


「行くぞ」

「ええ」

「おう」


 ジェイのかけ声に、ラヴェンダーとグロウが頷き、三人はそろってその靄に向かって身を投じたのである。


 それを見送るエリーゼの、ご武運を、という言葉を聞きながら。



閲覧ありがとうございます。次話投稿は1月16日16時の予定です。

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