戦犯裁判 〜ラヴェンダーは人か猫か〜
シリアス回が続いたので、リフレッシュのギャグ回です。
話し込んだせいで時刻は六時を回り、すでに周囲は暗くなっていた。
そのため、ジェイ、グロウ、アレクの三人は、シューヴァンシュタイン家の計らいで市街地のホテルに滞在することになった。
最初はシューヴァンシュタイン城への滞在を提案されたが、そんな堅苦しいところは嫌だと三人が拒否したのである。
ただ用意されたのがシューヴァンシュタイン公国で一番いいホテルの一番にいい部屋を上から三つだったので、部屋に通されたとき三人は辟易とした顔をしていたが。
それでも会計はシューヴァンシュタイン家持ちということで気を取り直した三人は、ルームサービスで食べたいものを食べたいだけ、酒もビール、ワイン、ウィスキーと飲みたいものを片っ端から頼むことにしたらしい。
積もる話もあるだろうから、とフェリスが気を利かせて寮に夜間帰宅の許可を取ってくれたので、後からそれに合流したラヴェンダーは、テーブルに載りきらないほどの料理と酒瓶を見て呆れかえったのだった。
「そろそろ、聞かせてもらうわよ」
乾杯を済ませ、それなりに腹を満たした頃、ドイツの法律上はワインは飲めるラヴェンダーは、グラスを片手にそう切り出した。
「何を?」
「誰が戦犯か、よ」
そう言って、ラヴェンダーはアレクのジャケットのポケットを指さした。
そこにはまた、あの灰色の子猫が収まっている。
ちなみに、そこがその猫の定位置らしい。
というのはそもそも猫は家という決まった縄張りから違うところに移されるのが苦手な生き物なのに対し、ヨーロッパに来てから拾ったため、つれて回るしかない。でも、ずっとキャリーバッグは可哀想、ということで、外に出す度にアレクのポケットに猫を入れてたらすっかりそこが定位置になってしまったのだそうだ。
ただそのせいで粗相され、ジャケットを数回洗い、数回買い換える羽目になっているらしいので、なかなかアレクも可哀想ではある。
「誰が猫に私と同じ名前をつけようと言い出したわけ?」
じとっと目をすがめて言うと、缶ビールを手にした男達が目を見合わせる。
お互いに肘でつつき合いながら、お前が言えよ、と押しつけ合う様は、まるでいたずらがばれて怒られそうになっている子供のようである。
「えーと、名前考える話をしてたときに、まず俺が、この灰色の毛並みがロシアンブルーに似てるって言い出したんです」
怒れるラヴェンダー様の前に、勇敢にも一歩踏み出したのはアレクだった。
「ほら、ハチワレってメジャーですけどこの灰色は珍しいというか、少し毛が光ってて高貴な色に見えるというか、そういう感じだったんで、明らかに雑種ですけど、ロシアンブルーっぽいなあ、と思ったんです」
「それで?」
「ネットで調べたら、ロシアンブルーの毛の色って”ラベンダーグレー”というんだというのを発見して、それを二人に共有しました。俺からの報告は以上です」
「なるほど。話の流れはわかりました。それで、それを採用しようと言い出したのは、誰?」
裁判官のように厳粛に頷くと、ラヴェンダーは続きの問いを発する。すると、グロウとアレクの視線がジェイに集まった。
「……俺か?」
「お前がラヴィ抱きながら、このこまっしゃくれた感じが似てるとか言い出したんだろうが」
「ちょっと待て,グロウ。お前だってちまちま動くのがラヴェンダーっぽいからいいって言ってただろうが」
「でも、言い出しっぺで言ったら、お前だね。俺は賛同しただけだ」
「ずるくないか、それ? ラヴェンダーが猫に似てるってところに言及したことについては同罪だろうが」
「それで言ったら、俺たちが悪いって言うより、ラヴェンダーが猫みたいに小生意気なのが悪いんじゃないか?」
「それは全面的に同意するな。ラヴェンダーが悪い」
まさかのグロウの飛んでも理論に、ジェイがしたり顔で頷く。
「――どうしてそうなるのよ! この馬鹿兄貴ども!」
何故か最終的にラヴェンダーに責任転嫁してきた男二人に、臨界点を突破したラヴェンダーは立ち上がると、青筋を立てて叫んだ。
「私は生まれてこの方人間なのよ! なんで猫と同じジャンルに分けられてるわけ!?」
「だって、それは、ほら……」
「なあ?」
ラヴェンダーの怒りに気圧されながら、ジェイとグロウは目を合わせ、何かぶつぶつと呟いている。
「俺らからすると、何するにしても俺らの後ろをちまちまついてきたラヴェンダーと、よたよたついてきて膝に載って丸くなって寝てるラヴィとあまり差ないというか」
「グロウの言うとおりだ。大差ない」
「大差あるわよ! こっちは人、それは猫! わかる?」
「ないね。お前もよく俺の膝に載りたがってたし、気づいたらそこで寝てたもんな」
「こっちが何の作業してようと、読んで欲しい絵本持ってきて、読んでもらえないとぐずるところとか、パソコンのキーボードの上に載ってきて撫でてくれと主張するラヴィと変わらん」
赤ん坊の頃から世話していたグロウと、実際に現在パソコンのキーボードの上に載られてるらしいジェイとのコメントに、ラヴェンダーはめまいがした。
この男二人の中で、自分の存在は猫と変わらないようなものだったということか。
(好きになって欲しいとか依然に、人扱いですら、ないとか……)
ラヴェンダーは、過去の恋する乙女だった自分に心の底から同情した。
「本当、この、馬鹿男どもは……」
力が抜けて、ソファに崩れ落ちる。しかも、二人ともからかうとかじゃなくて本気でそう思ってそうなのが始末が悪い。
「……ご愁傷様です。ラヴェンダーさん」
アレクだけが、心からの同情の眼差しをラヴェンダーに向けてくれていた。
「……戦犯裁判はもういいわ。でも、同じ名前だとすごく不便なんだけどなんとかならないの?」
「と言ってもなあ。すでにこいつもそれで名前認識し始めてるしなぁ」
言いながら、グロウがアレクのポケットから灰色の毛玉を取り出して言う。
「認識し始めてるって言ってもせいぜいその大きさだと生後数ヶ月ってところでしょ? 私もうラヴェンダーやらせていただいて十六年なんですけど。名前変えるとしたらそちらじゃないの?」
「……」
男達は視線を見合わせた。
そして、無言のコミュニケーションの後、ジェイが口を開いた。
「猫の方の名前も現状維持、と言うことで」
「賛成」
「できるだけ猫の方がラヴィと呼ぶようにしますので」
何故か全面却下され、ラヴェンダーが叫んだ。
「なんでなのよ!」
けれどその叫びはむなしく、猫はそのまま同じ名前を維持することが決定されたのだった。
実はうちの飼い猫がグレーの雌のハチワレなのですが、同じ理由で”ラヴェンダー”と名付けました。なので、ちょっとそれをエピソードに取り入れてみました。
ちなみに今年やってきたグリーンの目の男の子にジェイと名付けたのですが、小説のジェイに似ても似つかぬ馬鹿な子になってしまい、”ラヴェンダー”に未だに教育的指導をされています。”ジェイ”は構って欲しいのにお姉さん”ラヴェンダー”嫌われて距離を取られているという……
これはこれで見ていて面白いモノがあります。
次回投稿は1月9日16時の予定です。




