期待はいつでも高いもの
目覚めた三日目。昨日の疲れからそれなりに眠っていたようで、どこかすっきりしたいる。
水で顔を洗い立ち上がると、体を解すように動かす。昨日怪我したところも違和感はない。
そろそろ飽きてきた干し肉を食べきり、皮鎧を着て今空いた袋とポーションを入れた袋を腰に括り、カーディガンを持てば準備はできた。
一人って暇だな。会話することできないし、そのうち独り言とか増えるのかな。
やることないからダンジョン進むしかないし、狩りをして食べ物も干し肉とか、どんだけ原始的?
そんなことを考えてると出てきたスライム。あたしが慣れたタイミングで蹴り上げると、前までよりも壁に大きく広がり地面に魔石を落とした。
レベルが上がり、攻撃力が上がったってことなのかな。数値が出ているわけじゃないから、今のところ実感はないのだけど。
ただ次に出てきた鼠で違和感がわかる。鼠の動きが前よりも遅く感じ、カーディガンで捕まえるのが少し簡単になった。
中で藻掻く抵抗も前ほど強く感じない。これなら二匹でもなんとかなるかな。
空いている袋に鼠を入れれば、カーディガンもすぐに広げられるし、今日は行けてないとこまで行きたい。
T字路を左へ進めばスライムが二匹、慌てることなく倒して宝箱のあった部屋を確認しに行く。
中を窺っても何もない。宝箱すらなくなってる。地図を見てもこの先はまだ行っていないから空白だ。
この場所で間違いないはずなのになくなっている。
あたしは首を傾げて、ダンジョンの不思議と思うしかないんだろうな、と納得しておくことにした。
今日はかなり順調だ。時間を確認してもまだ朝を過ぎたころ。このまま地図をうめて行こう。警戒は忘れずに。
多少の無理はしても無茶は厳禁、命大事にが合言葉。
何があっても家に帰る。それがあたしの一番の目標。
そのために今はただ、ダンジョンに潜り続ける。
気合を入れて進み続ける。何度かスライムや鼠が出てきたが難なく倒せた。
二匹ずつ出てくることもあれば、たまにスライムと鼠のセットもあったりと、進むほど一匹で出ることは少なくなる。
途中数か所に小部屋があったが、中は何もなくがらんとしているだけ。干し肉持ってきたら休憩には丁度いい場所かもしれない。
すでに腰の袋はいっぱいだ。カーディガンも伸び切って開いたところから、鼠が見えてしまうのを見ないようにしている。
そろそろお昼だし、右手に見える小部屋を確認したら戻ろうと足を進め、壁から窺うように覗き込む。
やった、宝箱がある。
中央に見えた宝箱、地図が大当たりだったため期待してしまう。
宝箱の開け方は前回と同じ、ちょっと重量が増えたカーディガンを当てると勢いよく箱が開いた。
どきどきしながら箱を覗き込む。ちょこんと置かれた小さな黒いバックがそこにはあった。
いや、助かるけどさ。必要だけどさ。
勝手に期待してたぶん落胆も大きい。
あたしはそれを取り出し確認する。いわゆるウエストポーチと言うものだ。
メインとなる後ろ側と、それよりも二回りほど小さなポッケが前についている。どちらもチャック式だ。
大きいほうならポーションも入りそうだし、入れ替えてしまおうか。このままではカーディガンも使いづらいし。
あたしは通路への入り口が見えるように座ると、チャックを開け中を見る。中も黒だからわかりにくいけど、なんか違和感がする。
試しに魔石を一つ取り出して落とすように入れてみた。重力に逆らうことなくそれは落ちると、チャックを超えた辺りで消えたように思える。
「えっ?」
自然と声が出た。驚きで一瞬止まったけど、すぐにウエストポーチを逆さにし振ってみる。落ちても来ないし音もしない。
どうゆうこと? なにこれ神隠し? 消えた魔石はどこ行ったのか焦る。
あたしは恐る恐る、ウエストポーチに指を入れ、その瞬間気づいた。
これ、マジックバックってやつですわ。
指がチャックを超えると、すぐに頭の中で魔石があることがわかる。あたしがそれを取り出すと意識すれば、指に当たる魔石の感覚。
マジですか、落胆なんかしてごめんなさい。誰に誤ってるのかわからないけど、これすごいものだ。そんな当たり前の感想しか出てこない。
どうしよう、ポーションじゃなくて鼠を入れるべき? でも真っ新に見えるこれに入れるのは躊躇いがある。
でも持ち歩くのも限界はあるし、カーディガンも使いづらい。それにポイントを考えれば、鼠を置いていくのは考えたくない。
でもでもと暫く考えて、最後はあっさりと実利を取ることにする。魔石と袋の鼠を移すとき、躊躇いがあったけど勢いで入れた。
新品を汚すのに罪悪感を感じるタイプです。できれば綺麗に使いたいけど、ダンジョンじゃそれも難しい。
全部で五匹の鼠と六個の魔石。見た目には入りそうもないのに、全部しっかり入った。
容量はわからないけどかなり使えそう。ただ前側のポッケは普通のポッケで、見た目通りの容量だ。
それでも十分有難いけど。
入れ替えも終わって腰回りがすっきりした。ポーションが入った袋とあまり重さを感じないポーチ。空の袋はポーチに入れておいた。
そのあと予定通りいったん戻る。動きやすくなったためか、思ってた以上に早く戻ることができた。
途中復活していたのも倒して、鼠八匹と魔石七個。残ってたポイントも全部合わせて880ポイント。
え? やばくない?
あんまり考えないようにしてたけど、めっちゃ倒してる。まだお昼なのに十五匹も倒してるよ?
これは干し肉から卒業できちゃう? 卒業しちゃう?
干し肉に飽きすぎて、変なテンションになる。うきうきとステータス画面から購入画面へ進むと、新たに一つ項目が増えていた。驚きから少し冷静になれてよかった。
念のためステータス画面を確認してもレベルは2のまま、鐘も鳴っていなかったし理由が浮かばない。
わからないことは。ダンジョン七不思議で片付けて、とりあえず新たな項目を確認することにした。
『施設』と書かれたそれ。開いてみても項目数は一つしかないうえにポイントはかなり高い。
でも絶対に欲しい、無理してでも欲しい。
『個人ルーム 800ポイント
ワンルーム六畳、トイレ付ユニットバスとミニキッチン付き
追加拡張可能』
ポイント残高が条件だったのか、持っているポイントがほぼ消えてしまう。それでも悩むのは、何よりユニットバスの文字。
それに食材が手に入っても、火を熾せるようなものはないから料理のしようもない、ミニでもキッチンは有難い。