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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
一章 閉じ込められたのダンション
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本当に怖いのは



 休憩を挟んでまたダンジョン。通路には鼠がいたけど、カーディガンを使って捕まえて倒した。

 この通路は鼠とスライム交互に出るのかな?


 T字路の前には今度はスライム。あたしは少し考えると、鼠の入ったカーディガンを使ってスライムを叩き潰す。蹴るときとは違って一発で倒せた。


 鼠を先にやってないと無理だけど、時間短縮にはなって便利だカーディガン。



 モンスターを倒すことに少し慣れてきてる自分が嫌だ。そんなことを思いながら、魔石を回収して通路の左へ。スライムが二匹いたところへ行こう。地図のおかげで奥へ進む怖さは減った。


 でも鼠二匹だったらどうしようか? 基本直進して飛び掛かってくるから、避けることは難しくないと思う。けど二匹捕まえられるほどこのカーディガンは大きくない。


 鼠二匹だったら自分の運動神経にかけるしかない。できればスライム二匹で、欲をいうなら一匹が一番いい。そんなことを願ってると虚しくも、微かに鼠の声が聞こえた気がした。


 まだ遠く向かってくる様子はない。今なら引き返せる、なんて考えてしまう。でもそれじゃあ駄目なんだ。


 腰に吊るした袋を触り、ポーションがあることを確認する。あとは同じ場所に現れるんだから、一定距離を逃げたら追ってこないことを祈ろう。


 瞬発力はあっても持久力ないから不安でしかないけど、ここで戻ればもう進めないかもしれない。


 不安を殺すように大丈夫、と頭で繰り返す。呼吸が荒くなりそうなのを抑え、静かに深呼吸してあたしは先へ進むため踏み出した。



 やばいっと思った瞬間、一匹の鼠があたしに向かって駆け出した。それに続く二匹目の鼠。


 あたしはカーディガンを持つ手を緩め中の鼠を落とす。すぐカーディガンを広げて鼠に向けようとするが、鼠の動きが速すぎる。どうして先にカーディガンを空けておかなかった、あたし。


 真っすぐに飛び掛かる鼠をなんとか横にずれて躱す、けど二匹目の鼠がすぐに飛び掛かってきた。


 それを必死で避けようとしたけど、お腹の横にかすめるような感覚とちりりとした痛み。それでも今は気にしてられない。あたしは体制を立て直すように距離を取る。


 戻る道を鼠に塞がれた。鼠がかすめたところがじんじんするけど、確認してる暇もない。それにこのままじゃ逃げることもできない。


 鼠は体制を整えるようこちらを向き、逃がさないとでも言うようにあたしに顔を向けたままだ。あたしは抵抗するようにカーディガンを広げ前へ突き出して鼠に向ける。


 こうなったら破れかぶれだ、死にたくないなら抵抗するだけ。


 じりっとした間を空け鼠が走り出した。それが合図のようにあたしは広げたカーディガンを突き出し鼠に向かって行く。


 突き出したカーディガンが飛んできた鼠の衝撃のまま弛む、あたしはそれを逃がさないよう両手をあわせる形にし、勢いそのままに振った。


 運よく飛んできていた二匹目の鼠。そのままタイミングよくカーディガンに当たると、どちらともわからない鳴き声がした。


 どちらもまだ生きてるようだ。地面に落とされた鼠はすぐ立ち上がれないようで、弱弱しく藻掻いてる。

 あたしはその隙を逃がさないように、カーディガンをしっかり掴み直す。こっちの鼠も弱く藻掻いてる気がしたが、気にしてなんてられない。


 あたしがまだ立ち上がれない鼠に近づくと、威嚇のように弱い鳴き声を上げる。それに呼応するようにカーディガンの中からも。


 あたしは両手しっかり握り勢いよく振り落とす。それでもまだ弱く鳴き声を上げ、生きている鼠に無我夢中でカーディガンを振り落とした。




 突然頭の中で『カランカラーン』と鐘の音が響く。あたしのその音でハッとなり手が止まった。


 地面には血だまりのなか、身動き一つしない鼠。カーディガンもぴくりとも動かない。

 それに気づくと手からカーディガンが落ち、そのまま力が抜け崩れるように座り込んでしまった。



 今になって手が震えていることに気付く。それと同時に涙が零れてきた。


 どれだけ覚悟しても、どれだけ決意しても、怖いものは怖いんだ。戦うのなんて嫌だと逃げ出したい。


 どうすればいい? なんでこんなことしてる? なんでこんなことになった? なんで? なんで? なんで?


 今まで運よくいってたけど、これからは? 次はもっと強いものが出るかもしれないのに?


 もし手におえないほどの大怪我をしてしまったら? 出口を探せなくなるかもしれない? それこそ出口は本当にあるの?


 それこそ誰にも知られないまま、このままここで死んでしまったらどうなるの?



 考えないようにしていた考えが、涙と共に溢れるように出てくる。泣いたって意味がないから泣きたくないのに。

 腕で無理矢理涙を拭うのに、次から次へと溢れ、食いしばった口から嗚咽まで漏れそうになる。


 あたしはせめて声が漏れないように地面に伏すと、涙が止まるまで動けなかった。




 どれぐらい経っただろう。泣きすぎて冷静になったのか、ダンジョンで泣くとか危険すぎると思ってしまう。


 泣くだけ泣いて幾分かすっきりしてる。ここまでずっと我慢していた。考えようしていた。考えてしまえば動けなくなりそうで怖かった。


 現実を受け入れられずに、夢だと信じたい気持ちもまだ残ってるのは本当。だけどどこかで現実だと、信じ受け入れてる自分も本当。


 何かを殺めることも、何かに命を狙われることも、経験なんてあるわけなくて、どこか夢心地でここまできたんだ。痛みを感じて初めて、身に染みてるんだ。



 少し重く感じる頭を起こし周囲を窺うけど、静かすぎてあたしだけがこの空間に取り残された恐怖がある。

 現状閉じ込められてるんだけど。


 今日はもう進む気力もない。立ち上がると体が重くて少しふらつき苦笑した。


 ゆっくりと背伸びをすればちりっとした痛み、鼠が当たったことをすっかり忘れていた。慌てて確認すればシャツに血が滲み、八cmぐらい裂けてはいるが傷はそこまで深いものじゃない。


 ホッとしながらポーションを取り出し、赤い瓶を見ながら考える。これって飲むのが正解? それともかけるの?


 少し考えてから瓶を開け、少量手に取ってみるが液体も赤い。匂いは少し甘く感じる?


 あたしはそれを傷口に塗ってみる。付いたそばから傷口がゆっくり塞がっていくのがすぐわかった。小さく「おー」と驚きの声を上げてしまう。少量すぎたのかまだ少し違和感があるが効果はあるようだ。


 手の中には瓶に入った残ったポーション。あたしはそれを一気に飲み干すと、変化をすぐに感じはじめた。重かった頭と体がスッと軽くなり、腫れて違和感のあった瞼と傷口の違和感がスッと消えた。


 残ったのは口の中に苦みと微かな甘み。飲めなくもないけどそんなに美味しいものでもない。口直ししたいが水は持ってきていないし、今日のところは早く戻ろう、そう考えてあたしは立ち上がる。


 周囲を見回すと三匹の鼠、一匹はカーディガンに包まれて見えないけど、これどうしようか?

 特に一匹破損が酷い。あまり長く見てはいたくないけど、鼠は持って行ったほうがポイントが大きい。


 あたしは諦めて、二匹の鼠に近づきしゃがむと手を合わせる。袋の中に入れていたポーションの瓶はポッケヘ移動させ、何も考えないようにしながらカーディガンの上から鼠を掴むと、袋の中に押し込むように二匹とも入れた。


 三匹目はカーディガンに包んで持ち準備はできた。ポーションのおかげで体が軽いうちに早く戻ろう。



 戻る途中、いつもはモンスターは現れないのにスライムが出て驚いた。体が軽かったしスライムだったから蹴れば倒せたけど、なぜか今回は一蹴りで倒せまた驚いた。

 時間で再出現なら奥へ行けば行くほど戻るのは大変そうだ。



 戻ってきてまずはペットボトルから手と顔を洗って水を飲む。今回はなかなか疲れた。


 溜息が漏れそうなのを我慢して、ポーションの瓶を取り出すと水で濯ぎ、零れないように水を入れておいた。これで再度ポーション(微)を買って、瓶が入れ替わるか確認できる。水も残っているうちに買っておこう。


 今回得たポイントは270、一気に稼げたしポーション(微)二本買っておこう。あと水も。


 この二つを購入してみれば、やっぱり中に何か入ってれば消えないようで、オブジェの横にペットボトルとポーション(微)瓶が並んでる。

 これで少量でも水を持ち運べる。瓶とペットボトルどっちがいいだろ? 瓶は容量少ないし、ペットボトルは邪魔なんだよね。


 そんなことを考えながら武器の欄を開くと手が止まった。


 増えてる、武器の種類が増えてる。

 急いで防具も見てみると、こちらも同様に増えていた。


 なんでだ? なんかしたっけ? 運よくスライム一撃撃破とか? 思い返してもこれといって正解が浮かばない。あたしはステータス画面に切り替える。



 ポイント   410


 ・名前:飯田絵理子 種族:人間 

 ・レベル:2    年齢:34歳

 ・職業:―――   ――― 



 特に変わってところは、あった。

 レベルが上がってる!?


 売買ばっかり使ってステータス画面よく見てなかったよ、いつからだろ?

 あ、あれか、鐘の音だ。だから戻るときスライム一撃だったの?


 リアルレベルの上りにテンションが上がる。クールジャパン国出身者としても、ダンジョンを進む者としても。


 理由がわかれば増えた武器を確認する。最初と違い短剣や手斧など武器らしいものが並ぶ。

 たまになまくらと書いてるものもあるが、一通り見ていく。武器など使ったことないあたしでも使えるのかが悩ましいとこ。


 必要ポイントも300と上がり、かなり減ってしまう。安くても棒は嫌だし。


 あたしはカーディガンに目をやる。所々血のせいで固まってるがまだ使えそうだ。


 あたしは次に防具を選び見ていく。さっき受けた攻撃で、シャツの腰のあたりが裂けてしまってる。生き抜くことを考えたら防具のほうが重要かも。


 あたしは皮鎧(体)を選び購入する。出てきたのは茶色い頭から被るように着るベストみたいな物だった。

 肩部分は細くなっていて思ってたよりも硬く、お腹と胸部分は鼠からでも十分守れそう。



 一通り購入し、ステータス画面を消すと地面に座る。元干し肉の袋に水をいれたポーション瓶とポーション(微)二本、あとは地図を無理矢理入れておく。地図の頭が出ているが気にしたら負けだ。

 でも使いまわしとかエコだな。



 あとは残っている干し肉を食べて寝てしまおう。ポーションのおかげか体は軽いけど、気持ち的にどこか辛い。我慢していたものが溢れたせいかな?


 食欲もわかず食べる速度も遅い。何とか水と一緒に飲み込んで、残りは明日食べることにする。


 寝転がり、しばらくすると無意識にお父さんとお母さんの顔が浮かんでくるのを隠すように眠った。



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