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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
二十章

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そして普段通り



 どこまで行っても魔物は魔物。鬼を倒せばさっきまでと違い弱い物ならいざ知れず、ある程度の強さを持った魔物はあたし達に気が付くとすぐに襲い掛かって来た。


 それでもある程度は逃げて行き、有難いことに多少はその群れの数が減ってくれた。そのおかげもあり、ポーションもマナポーションも何とか二人の持っていた分も込めて足りそうだ。



 それももう終わると思っていたら、お姉が何かを見つけて空を飛ぶのが見えた。


「あの人、この後帰るってわかってるんかな?」

「恵子さんやからなあ」

「…のりがいるし、大丈夫じゃないのか?」


 最近のり君がお姉の抑止力ではない気がしてるので何も言えない。逆にたまに煽ってる気がするし。


 そう思っていたら足を取られ、地面に尻餅をついてしまう。もう足場はガタガタのグチャグチャで、それでなくてもあたしの疲労度は色々越えてしまってるんだろう。


「そのまま座っとけ」


 そう言ってあたしの周囲を温かな水が一瞬包み、気が付けば血塗れの体は少しすっきりとしていた。が、急だったためにいくらか水を飲んだ気がする。


 そして周囲の魔物だった物も押し流してくれ、辺りが少し綺麗になったそこに文句をいう気力もなく、背中から寝転がってしまう。


「折角、綺麗にしたったのにぐちゃぐちゃやん」

「温風で乾かすまでセットでやって」

「俺にはできない芸当だな」


 魔物が減ったからこそ言える軽い口だが、今はそれも嬉しいと思える。


「お兄ー、なんかすごい人おるから拾っていい?」

「ああん? 犬猫やあるまいし、お前あほなん?」


 そうゆうよりも早くお姉は空を戻って行き、確実にお兄ちゃんの言葉を聞いてない気がした。

 我が道行きすぎなお姉をどう止めればいいのか誰もわからない。と、言うより元気ありすぎじゃないか? おかしくないか?



 ある程度終わった魔物退治に、一軍も疲労困憊の状態で合流し、みんな多少の怪我はあるようだけど、ポーションで治る程度だと安心した。


 それでも鬼なお兄ちゃんに、怪我が治れば魔物を回収する作業させられてるが。


「恵子おいてったらあかんか?」

「さすがに駄目なんじゃないですか?」


 お姉のさっきの不穏な言葉に、疲れてるお兄ちゃんも嫌そうだ。


 何よりあたしももう帰ってさすがに休みたいが放置で帰るわけにもいかない、と今のうちに何とか立ち上がり、あの鬼の傍による。


 その目は開いたまま、憎しみの表情を色濃くしたままで、目の色を失い、命がないことが伝わる。


 その横にしゃがみ、あたしは魔物に対していつ振りか手を合わせる。そして今は何も言うまいと、ただ空を見上げる。




「お兄、コレ」

「お前、言い方とかあるやん?」

「すいません、お義兄さん」


 申し訳なさそうなのり君も多少は止めたようだけど、止まる姉ではなかったんですね。


 そしてコレと言われた人が、不思議そうに柔らかな毛並みの敷物の上でお茶しているあたし達を見てくる。


「あれ? 日本人?」

「え? 日本語?」


 はっきりと聞こえた声は日本語で、あたし達が知る言葉だ。それに驚いていれば秀嗣さんと拓斗があたしを隠すように動き、智さんが前に出た。


「日本からは簡単に海外に飛べないはずですが、貴方はどうしてここに?」

「元々バックパッカーやってて、この大陸で足止めされてた」

「ダンジョンができるときに帰らなかった人ですか」


 神職が出たからと言って信じれた人ばかりではないし、そこに居つくことを選んだ人もいただろう。その中の一人と言うことだろうか。


「なんか武器が面白かってん。短槍みたいな薙刀みたいなやつやのに、くっつくねん」

「何言ってるかさっぱりやな。兄ちゃん、悪いんやけど得物見せてもらっていいか?」

「この方に興味持たれたんであれば、きっぱり諦めて下さい」


 きょろきょろとあたし達を見てくる男性は不思議そうで、そりゃこんなところで優雅にお茶できてたら不思議か、とあたしは気にせず一口飲むとクッキーを摘まむ。


「お姉、あたし早く帰りたいんやけど」

「けどこの武器、面白そうやで? お姉ちゃん使ってみたい」


 何言ってんだこの人。神から与えられた武器を持ってるくせに。そう思ってたら男性が口を開く。


「え? 帰れるの? 帰れるなら連れてってくれない?」

「貴方は希望して残ったのではないのですか?」

「いや、金がなかっただけだけど?」


 そう言いながら武器を差し出してくる男性は、なんだか不思議な人だった。


 適当に伸ばしていただけだとすぐにわかる肩まであるざっくばらんに切られた髪に、少し眠そうにも見える細めのたれ目。身長も体躯もよさそうだが、すらっとしていて不健康にも見える白い肌。


 そんな簡単に武器を渡していいのか、と思うがあたしも興味があり、つい二人を押しのけて智さんの手元を覗き込んでしまう。


「ダンジョンから出た武器。両槍? でいいのかな? わかんないけど、真ん中で分割もできて使える」


 ここにもダンジョン武器の人がいた。まあ武雄くんたちは今は違うけど。


 それは短槍ともまた違い、刃は薙刀に近い形だが少し小さい。それでいて柄はどちらも短槍のように短く、不思議な形。その端がくっついて、両槍のように使えると言うことだろう。


「見せたから連れ帰ってくれない?」

「兄ちゃん、そうゆう交渉は見せる前にするもんやで。のり君と秀嗣はそれ見てても良いけど、信也達戻ったら帰るぞ」

「お兄、これ借りて遊んで来ていい?」

「のり君によお見てもらって作ってもらえ。帰ってからじゃ」

「お姉、あたしもさすがに疲れたから帰りたい。あとで一人で帰って来れるならいいで」


 たぶん無理なことわかってるけど。


 あれだけダンジョン内で道を示せるお姉なのに、地上では驚くほどに方向音痴なんです。ええ、本当に不思議なんですが。


 そうこうしていたら信也さん達が戻って来た。こちらも疲れてるのに有難う、と感謝を込めて飲み物でも淹れておきます。


「終わったよ、ほんと鬼だよね」

「あほ、俺らもある程度はやったわ」

「やってないあたしが使えんみたいな言い方やめて。みんなお疲れ様。お茶入ってるで」


 あたしだけがさっさと敷物の上に転がされ、何もしていない。あ、このお兄さん連れて来たお姉もか。


「あれ? 信也?」

「え? なんで(さとる)がいるの?」

「お前ら知り合いか?」

「ほんとだ、覚じゃん」

「武雄までいるし、どうして?」


 覚と呼ばれたお兄さんと信也さんと武雄くんの間をきょろきょろと見てしまう。驚いた顔の信也さん達は本当に知らなかったようだ。連絡の取りようもないしそりゃそうだろう。


「覚は死んだと思ってた」

「最低だな、生きてるよ」

「これ、狩野(かりの)さとる。俺と武雄と康太も知ってる奴」

「関東いたときの知り合い」

「康太もいんの? マジで?」


 きょろきょろとする覚さんには悪いですが、今回、康太さんは来ておりません。


 お兄ちゃんの顔がどうするか、と歪んでいる。できれば今回のスタンピードを収めたことはまだ公にしたくないし、できるとバレたくない。

 だから連れ帰りたくない、と考えてることがありありとわかる。


「ギルマス、置いてって良いと思うよ。自己責任だし」

「連れ帰ると面倒だし、俺も良いと思うよ」

「お前ら酷くない? 俺、結構頑張って生きてたのに」

「いや、帰ってこなかったのお前じゃん」

「海外行ったのもお前だし」


 はっきり物申す二人に驚きながらも、仲が良いことが伺えて、おかげであたしにも迷いが生じる。


 『どんなイメージや』

 『悪い人ではないよ、特に今は何も考えてない感じの人やね。今のところ』


 だから余計に質が悪い。まだあたし達の正体も知らないわけですし。


「けど、組合使ったら帰れたんじゃなかったっけ?」


 ふと思い出し声に出してしまった。


「え? そうなの? そんなの誰も教えてくれなかったんだけど?」

「一応、転移陣がありますから、お金はかかりますが探索者をしていれば使えますよ。ただ海外に飛ぶにはそれなりの理由が必要のはずですが」

「あ、だから皆さん来れてるんですね」

「まあそんなとこや。けど、兄ちゃん知らんてどうゆうことや?」

「たぶん、みんな黙ってたんだと思います。用心棒みたいなことやらされてたから」


 聞けば組合にはあまり行かず、最近では集落で止められていたそうだ。

 ダンジョン近くの集落のおかげで人も来るし、それなりに魔物も多い。だからこそ誰も教えてくれなかったんだろうと。


「保身ですか。国籍が違うのであれば組合の転移陣を使う理由には十分なり得ましたし、可能性はありますね」


 智さんの目がどうしましょう? とお兄ちゃんを見る。


「はあ、それ聞くと置いてくのも気が引けるのはほんまやな。ただ兄ちゃん、俺らここ来たことバレたくないねん。悪いけど契約してくれるか?」

「連れて帰ってくれるなら全然」


 そんな簡単に決めていいのかと思うが良いらしい。やっぱり住み慣れた母国が一番だと喜んでいる。


「探索者札はあるんやろ? なら俺と智で兄ちゃん一宮に連れてこか」

「そうですね、関西になりますがそこはご了承ください」

「帰れるならどこでもいいよ、そこからはどうにでもなると思うし。信也達は今どこいるの?」

「一応、関西だよ」

「なら知り合いもいて、俺も嬉しいし」


 そう簡単に会えないと思いますけどね、皆さん地下ですから。それでも一宮にいれば会える可能性もないわけではないか。




 結局お兄ちゃんと智さん、それに知り合いだからと付き合わされた信也さんと武雄くんは一宮へ。あたし達残りは神社の境内へと一度飛ぶことになった。


「みんな疲れてるし、そのまま休んで」

「お疲れさん、紫藤も今日は休めよー」


 あたしと拓斗で言えばみんなも笑ってくれ、すぐに気付いた皐月さんと大仲さんがギルドハウスから出て来た。


「お兄ちゃんらは所用で一宮に行ってる。一先ずこれ、今日の成果」

「全部やないけどそっちで分けていいやつやから、悪いけど処理は頼むわ」

「承りました」

「お疲れ様です、お帰りなさい」


 そう微笑んでくれる二人に戻って来たと安心して、力が抜けそうになる。このままじゃ駄目だ、とあたしは本殿に回り裏の居間に帰って来ると倒れ込んだ。


「疲れたー」

「お疲れ様」

「のりー、さっきの欲しい」

「さすがにすぐは作れんよ、秀嗣あれどう思った?」


 どんだけ元気なんだこの夫婦。それでも本当に帰ってきた、と気が抜けるからやめて欲しい。


「晩飯は適当にするし、お前もそこ転がってないで風呂でも入って休め」

「荷物なんかも明日で良いだろ?」


 拓斗と秀嗣さんに言われ、あたしは早々に部屋に押し込まれるのであった。



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