新手の詐欺?
「失礼いたします、お連れ致しました」
聞いたことないしっかりとした口調は胡堂のものだ。お兄ちゃんが了承の声を上げるとゆっくりと障子を開け、神社に入り一礼した。
昨日の雰囲気と違いすぎたからだろう。たっちゃんたちの顔が緊張で固まってる。それにやばい弟さん、何も聞いていないのか口開いたまま魂どっか行きそうだよ。
でもあたしのほう見るとなぜか驚いてる。たっちゃんたちもだ。
「小森達也、その嫁摩耶、弟の健也をお連れしました。謁見をお許しください」
「そこにお座りください」
お兄ちゃんの言葉で胡堂が三人を御簾の正面に座らせ、胡堂は三人から離れお兄ちゃんの斜め下に座る。
たっちゃんの顔がやばいくらいに不安そうだ。これ完璧に伝えてなかったんだね? 恨むなら胡堂を恨んでほしい。
摩耶はさっきと違って真っすぐにあたしを見上げ、どこか惚けてるのはなんでだ? 向こうからは御簾しか見えてないはずなのに。健也君もなんかあたしのほう見てるし。
「良くお越しくださいました、そんな緊張しないでください。達也君からは何か聞いてますか?」
お兄ちゃんが健也君に向けて言うと、一瞬びくっと体を揺らしたあとお兄ちゃんを見た。
「にい、兄からは会わせたい方がいる、大事なすごい話がある。とだけ…」
なんだろ、それどこの詐欺だよ。もうちょい言い様あった気がするんだけど。お兄ちゃんも苦笑してしまってる。
「それはまた。なら驚いたでしょ? 普通の団地の一室の地下に、こんな場所があるなんて」
「はい、ここはなんなんでしょうか?」
健也君は目を泳がせながら、どこかそわそわと落ち着かない様子。助けを求めるようにたっちゃんを見るけど、たっちゃんのほうが緊張しているようで、背筋を伸ばし微動だにしない。
初めて見たよそんな姿。やばい、さっきから笑いそうだ。
「そうですね、一言でいえば神社です。それも特別な」
胡散臭い、お兄ちゃん胡散臭いよ。何その微笑み。やめて、ここで笑ったら絶対後で怒られる。
お姉よく我慢してるな。すまし顔でちゃんと巫女に見えるから不思議。でもやっぱり健也君は少し胡散臭そうにしてるよ。
「そう言われても簡単に信じられないとは思いますが、御簾を見ていただければその神聖さはわかると思います。ただ信じられないと思うならこのままお帰りください。もしこの神社の意味が知りたいと思うなら、これに名前を書いて拇印を押していただけますか」
お兄ちゃんは言いながら契約書とインクを取り出して、胡堂に渡す。胡堂は頭を下げてそれを受け取ると、静かな動作で健也君の前に持っていった。
「これは?」
「ここのことを誰かれ構わず言われるのは困るので、他言はしないと約束してもらうためです」
健也君の顔が嫌そうに歪んでるよ。これって交渉決裂になりそうじゃない。あたしがそう思っていたらお兄ちゃんは笑顔を崩すことなく言葉を繋ぐ。
「困るのは私たちではないですよ、君と世界の全てです」
「世界ですか?」
「はい、正直に言うと私たちやそこにいる胡堂くん、達也君ご夫婦も困ることはないかと。ただ君は話してしまえばどうなるかわかりません。国が動いてしまうこともあるでしょう。それがこの国だけとはわかりませんが」
少し困った顔してお兄ちゃんは言う。確かにいつかは国に言うけど今は知らないし、それに話したからってどうにかされるとは決まってない。
「達也君がこの話を聞けたのは、ここにいらっしゃる姫巫女様とのご縁です。だからと言って我々は信者もいりませんし宗教などを広めたいわけではない。そのために他言しないとそれを書いていただいてます」
「広めないための契約書だと」
「はい、達也君にも書いて頂きました。本来は誰かを連れてくることはできません。ですが健也君を思う達也君と摩耶さんの気持ちに姫巫女様が許されました」
突然こっちに話を振らないで、みんながあたしを見るので見えてないとわかってるのに微笑を作ってしまう。
お兄ちゃんの顔が少し歪んだけどそれは一瞬で、すぐに健也君に向き直り話を進める。
「そこには金品についても何も書いてありません、ただここで見聞きしたことを話さない。ただそれだけです」
「これを書いたらお金が発生するとか監禁とかないんですね」
お兄ちゃんはわざとらしく笑うと、健也君の言葉を否定する。
「そんなことをすれば姫巫女に怒られます。不安だったら名を書いて拇印を押した後、持っていて頂いてもいいですよ。それならすぐに健也君自身で破ることもできますし、納得していただければそれをお渡しください」
健也君はちらりとたっちゃんを見る。いい顔で頷くたっちゃんと少し不安そうな健也君。
まあ普通はそう簡単に信じれる物でもないよね。健也君は何度も契約書の内容を読んで透かしてみたりと確認して、一瞬、躊躇った後あたしのほうを見ると、決心したように名前を書いて拇印を押した。
「これ、渡すのはお話聞いたあとでもいいですか?」
「ええ、ただ胡堂くん確認だけお願いします」
胡堂はお兄ちゃんに一礼し、健也君に近づき契約書は持たせたまま横から確認した。その時になにか健也君に言っているようだ。
そのあとお兄ちゃんのそばまで行き、頭を下げて小さく確認できました。と、言うと元の場所に戻っていく。
お兄ちゃんは胡堂の言葉を聞いてゆっくり頷くと、嘘でもないけど本当とも言えないような話をした。
まとめてしまうと簡単で、あたしが神に選ばれ神の迷宮に入ったこと。
数多くの中からあたしが姫巫女に選ばれ、神から神託を授けられ、そしてこれから先、世界中でダンジョンができ魔物が溢れる世界になること。
聞きながら、間違ってはないけど大げさすぎて、あたしの頬が引きつるのを感じた。
「姫巫女様はどうかこれからの世界で皆が少しでも救われるようにと考えましたが、なにせ突拍子もない話、信じれない者も多いでしょうし、皆全てを救うことは我々だけではできません。ですので神にお考えを改めるように願ったのです。ですが神の意志は変わらず、代わりにこの神社と神の迷宮を御一つ賜りました。魔物が溢れる前に少しでも経験を積み、これからの世界を生きれるように。と、姫巫女様も我々も考えているんです」
長い、それに誰の話だそれ。間違ってないけど間違ってる。
思った以上に大事な話になってる気がする、健也君もポカーンだよ。あたしもなるわ。
「もしよかったら行ってみますか? 神の迷宮、ダンジョンへ」
「お、俺がですか? 本当にあるんですか?」
「ここにいる皆、すでに行っております。あなたのご家族の達也さんも摩耶さんも」
お兄ちゃんの言葉で健也君がたっちゃんたちを見る。そこに嘘はないから二人は笑顔で頷いてる。
「なんでしたら暫く三人でお話しますか? 私たちは下がりますので、お気持ちが決まれば胡堂くんに言ってください」
それでは。と、お兄ちゃんはのり君に目で合図をした後、お姉を促して立ち上がる。御簾の裏手まで来ると姫巫女様、とあたしに声をかけて裏の御簾上げ、地下の居間へと四人で向かう。
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