モルモット
そこから数日はあたしは宣言通り作業室に籠り、少しばかり手間取ったが何とか腕輪の量産と高遠さん用の改良版は出来上がった。
組合が上手く機能してくれないことには正直困るのはあたしで、表立って姫巫女を出さないで良い様にこれからも頑張って貰いたい、とあたしが頑張った。
そのおかげもあってやる気も高く、いい物ができたので大満足ですけどね。あの引き籠り訓練に比べれば楽しめたのでいいんですよ。
途中に白夜で癒されたりもしてましたし。
白夜に関してはギルド関係者にはあたしのペットとして伝え、好きに過ごしてもらっている。勝手に本殿にも拝殿にも行けるので頭が良いこともあり基本野放し状態だ。それでもあまりあたしの側を離れず、可愛くて堪らないと癒してもらっている。
そして今日は先行していたギルド一軍にあれを食べてもらう日。一応ちゃんと説明はしたらしいが、あたし自身どうなるのかの確認もしたかったのでその場にお邪魔することにした。
「姫様が一人ってレアだよね」
「拓斗も秀嗣さんもメンバー連れて間引きやからね」
「俺達そんな動けなくなるの?」
「可能性や」
ギルドマスター室で交わされる今更な会話。それでもいつも通り緊張なく話せてるのは信也さんと武雄くんぐらいか。皐月さんも変わらずに微笑んでいるが。
他は緊張と一人、素材として楽しみに待ち侘びてる人。
「確認のため、今回は清水と紫藤には繋がりないほうを食ってもらうことにした。その後も二人が望むなら追加できるかの確認もする」
「酷いよね、モルモットだよね」
「お前らが繋がりないほう断固拒否したからやろうが」
「俺は追加可能性の体験したいんで選びました」
紫藤さんはいつから生産廃人から研究廃人にジョブチェンジしたんですか。
「まあ食べてすぐ効力ないし、たぶん徐々に馴染ませて使いこなす感じやから、数日は気をつけてな」
そう言ってすでに準備していた姫巫女の種を二つに分けて取り出す。見た目は全く一緒だが、二つは血の付いてない物でこちらは清水さんと紫藤さんが食べる。もう二つはすでに血をつけて見えなくなってる物で、こっちは信也さんと武雄くんだ。
残りの柏原さんと皐月さんと大仲さんは三人が数日身動きできない中で何かあっては困るから今回は見送りだ。状態を見て食べることになる。高遠さんも仕事があるし後半組だ。
「見た目は何も変わらないんですね」
「あたしにはしっかり判別できてるから間違いないで」
紫藤さんの目が輝きながらあたしを窺った後、その実を持ち上げ様々な角度で見て愉しそうで、すっかりただの研究廃人にしか思えない。
最初にさっさと口に入れたのはやっぱり信也さんで、その硬さに眉を顰めた。
「魔力入れる感じにすれば徐々に柔らかくなるよ。味もほんのり甘いだけやし」
「俺、甘いの嫌いなんだよね」
「硬さじゃなくてそこなん?」
武雄くんは甘いのが大丈夫なのか、口に含み特に変わった様子もない。それを見るお兄ちゃんの顔が少し嫌そうなのは材料をわかっているからだろう。知らぬが仏だからそんな顔は止めてほしい。
清水さんは決意した表情で口に入れ、紫藤さんは誰よりもじっくりとその実を眺め確認したあと口に入れた。
それぞれの口がもごもごと動き最初に食べ終わったのは信也さんだ。
「温かいんだね」
「すぐに反応ないのは一緒やね」
「俺らも一日ぐらいは温かいままやったからな」
「何だろ、胃の辺りに魔力が集まってる感じ?」
さすが四属性持ちの器用さん。武雄くんの言う通り胃で魔力の塊が自分の魔力と溶け込もうとしてるんだよ。
「清水と紫藤はどうや?」
「そうですね、確かに温かいとは思います」
「今のところは二人とそう変わらないみたいですね」
二人も特に苦痛や気持ち悪さもないみたいで、四人とも感じていることも特に変わらないようだ。
「とりあえず四人は暫く経過観察しながら訓練所を使って、力の確認怠るな」
「そんな変わるもん?」
「ぶっちゃけどこまで変わるか俺らにもわからんわ」
「素質や素養もあるやろうし、個人の器にもよるんちゃうかな?」
「器?」
「そう、器。その人によってキャパの限界は違うと思うで?」
「それって魔力に器があればそっちに伸びやすいとかか?」
「たぶんそうゆうことやと思う」
またお兄ちゃんが嫌な顔をする。まああたしもこの会話でそんな気がしただけなんで今初めて言いましたけど。
たぶんお兄ちゃんと智さんはこの後、自分の変化をまた様々な方向からまた確認しに行くんだろう。そうゆう意味では動物的感覚で使い方を理解する前に動けているお姉がおかしいだけだ。
今一番力を使いこなしているのはお姉だ、直感で全てを捉え前以上に速さと身体二重強化に磨きがかかっている。おかげで頭脳派と直感派の大きな隔たりは大きくなりつつある。
以外にものり君も秀嗣さんも使いこなせ始めてる方だろう、少し遅れて拓斗で智さんが続き、最後がお兄ちゃん。
いまだに一番常識に囚われてることがよくわかります。
あたし自身自分の力を全て理解しているわけではないからなんとも言えませんが、とりあえずあたしの魔力量は簡単に越せないほど上がり、魔法の威力も上がったことは確認済みだ。
元々あまり人に対して魔法を使う気はないが、それでも前以上に気をつけないと小さな焦土を作ってしまいそうだ。呪いがかかるわけじゃないからすぐ植物育つけど。
「まあ様子見ながら他も仕事してくれ」
そう言ってお兄ちゃんは定期的に報告を上げるようにだけ言うと、一軍を退出させた。
「んで、器ってのは?」
「素養と素質に近いけど、その人の生まれ持った物やけど変化できる物、でもあるってことかな」
「それは訓練や努力で、と言うことですか?」
「うん、得意な物や覚えやすい物は素養や素質かな? 苦手分野を努力で乗り越えたりできるのが器を広げる的な?」
お姉はわかりやすく素養と素質に偏った人だ、そして実はのり君もでそれは秀嗣さんもそれに近い。だからこそ力の使い方が早いのかもしれない。
逆に様々なことをこなそうとする拓斗や智さん、それにお兄ちゃんはある意味、器を広げたり増やそうとしているからこそ習得に時間がかかっている。
「まああたしもちゃんとわかってないから、これ以上なんとも言えんよ?」
「ただ姫様に繋がることで四属性持ちになる可能性や、器が広がる可能性は大いにありますよ」
「そこは本人の努力なくは無理やけどね」
「ほんまにお前の私兵作れるな」
「そんなもん欲しくもないわ」
そんな物作ってどうすると言うのか。あたしは安心安全平和に暮らせれば一番なんです。
「まあどんな力を欲するかで大きく変わるかもね」
「あの四人確認して、そっからまたわかることもあるか」
「ほんまにモルモットみたいやな」
「未知の部分が多いことを伝えたうえで本人達に選ばせていますから、志願者ならモルモットではないですよ」
にっこりと笑う智さんに一瞬寒気がした気がするが勘違いだろう。それにもう四人食べた後だし、考えても無駄だから何も考えない。
「ある程度腕輪はできたし高遠さんのも改造済み、一応あたしが作れるポーションや薬も在庫は増やしてる」
「ポーションなんかも回復料増えたんやろ?」
「それでも段階はあるし、どうせ売れんし、規格外なのは諦めた」
「今は一軍に一応渡せますからね。それにこれからを考えれば必要になる可能性もあります」
姫巫女の種も潤沢にあるし、何なら庭にまだある。組合がある程度終わればダンジョンを作るか氾濫確認か、ダンジョン制圧か。
それに何より自然発生のスタンピードに備えるためには必要だろう。
「組合関係は有無を言わさずお前に繋がる実になる、なんかあったら力を奪えるように」
「それでいいと思うで、危ないあたし製のポーションなんかも置いといてもらわなあかんし」
「契約もしっかり考えるつもりですから、姫様の手を煩わせないようにしたいですよね」
まあたぶんそれは無理だろう。どれだけ契約を考えたところで人は変わるし変化する生き物だ。そして抜け穴を探す生物。
不平不満を持ち先を見ない、我欲を欲する人は出て来ると思う。
「まあ必要ならあたしが脅すのでもいいし、宵闇に出てこられるよりマシやから。お兄ちゃんら少し訓練室使うやろ? あたし神社のダンジョンで体の動き確認してくるわ」
力の使い方は確認していても、体はそこまでできていない。だったら実戦が一番だろう。




