強引な解消法
いつものようにのり君と智さんがお茶を淹れてくれて、あたしは摘まめるお菓子なんかを出しておいた。
「それで会議って、今になって何よ」
「とりあえず他国についてや」
その言葉にあたしの眉が顰められる。もう国なんて体裁を取れているところはないと、勝手に思っていた。
お兄ちゃんの説明でも、ほぼ国と言う体裁は無いと言って間違いない。ただ独自勢力として、国を名乗る者たちが出てきているそうだ。そして今になって組合に目を付け、狙う者が山ほどいると。
「それは他国って言ったけど、ここは?」
「全部は確認してないけど有難いことに島国やし、組合が早いうちに動いてたから、まあこんなもんやと感謝して、俺らの思う形のまま進んでるな。それもいつまでかはわからんけど」
「海外の組合にはなんかあったら場を消すって言ってるんやろ?」
「実際に消されたり焦土と化した話を聞いて、纏め取る奴らは戦々恐々しとる。が、今のままじゃ抑え込みができへんて、高遠さんに泣きついて来よる」
確かに何も知らない人達からしたら、組合はあまりに無防備か。それを手に入れれば、自分達に利しかないと思っても仕方ない。
「神さんを前面に出して中立は無理なん?」
「どう言うことや?」
「元々、転移陣とか作るときに散々神さん使って来たやん? それと同じで、組合はもうどこにも属することなく中立、攻撃仕掛けてきたとこには手を貸さんって、それが神の望みやって」
お兄ちゃんの顔が歪んだ。
「それこそ場所によるな、それで通じるとこと通じへんとこと」
元々信仰していた神がいるならかなり厳しいだろう。中には自分達こそが神に選ばれた正義と思っても仕方ない状況だ。
最終手段がないわけでもないが、それをするにはあまりにもデメリットが多すぎて、今のあたしには判断が迷うし何が何でも止められる気もする。
「けど組合が機能せな、困るんはそこに住んでる人やんな?」
「そうやけど、見せしめも俺はいると思ってる」
厳しい目をあたしに向けたお兄ちゃんは、間違っていないと思う。宵闇は人を減らせと言った。その言葉のままならば、必要なことだ。あの焦土のように。
「今って、転移陣は海外と通じてるん?」
「物に寄るってのが正解や。俺らは好きに移動もできるし、他の探索者も組合に申請すれば許可証もらえて行ける」
「現地を確認したい本音もあるけど」
「姫様はいけません、海外の方が危険は多いです」
「わかってる、無駄に焦土を増やして土地を少なくする気はない」
考え込むあたしに智さんがほっとした空気を出した。
「信頼が出来て動かせるギルドがあるなら、移動させたいとこやけど、そうゆうわけにも行かんし」
「海外の組合もう潰したら?」
「そうゆうわけにもいかんわ。たぶん人が減り過ぎてもあかんし」
お姉の言葉にすぐにきっぱりと返す。
「そうなんですか?」
「宵闇の思考は知らんけど、元々人が減り過ぎそうやから神職選んだんやもん。星と共に生きる人を増やして、人口をある程度で保つ状態があの神達からしたらベストなんやろね」
どこか言いながら嫌になる。受け入れたわけでもないが、今のままならそれこそ全て息絶えてしまう。
本当ならこんな時間すら惜しい気がするが、それでも考えないといけないことだろう。
「使える人手が足らんなら、やっぱり強制的に増やすかなあ」
つい零れた言葉を拓斗が拾う。
「強制的ってどうする気や」
「あの不思議な実あるやろ? あれ、姫巫女の種って言いますねん」
鑑定をしなくても、力を制御するうちに自然と知ったことだ。あれはあたしの魔力の塊のような物で、それを繋がりない者にみんなのように食べさせるだけで強化は可能。そして血が付いた物ならば、加護を与えずとも弱い繋がりができる。
そう考えると今はかなり便利で使える物だ。
「ここの魔晶石にもあの種を入れたことで、この星の核とあたしの繋がりを作った。それの弱い版みたいなもんやね」
「それやって裏切る可能性は?」
「なくはないやろうけど、あたしの繋がりで力の弱体化ができるから、言うこと聞くしかないんちゃうかな?」
「それと契約をしっかり結べば、海外の組合人事は確かにどうにかなりますか」
「ある程度の人を選ぶべきやとは思うけど、みんなほどじゃなくても強化されるわけやし」
あたし達から見て弱い強化でも、外の世界で見ればそれなりの強化になってしまう。その力を勘違いする者も出て来るだろう。
「それ、ギルドの一軍は無理なん?」
「確かにあいつらはもう知ってて契約も結んでるな」
「可能やね、ただ慣れるまで動けるかわからんけど」
「お前の前例もあるし、俺らもまだ馴染み切ってないらしいしなあ」
間引きを優先させたいのも本当だから、今ギルドを率いて動けるものが減るのは困る。
「よおわからんけど、あたしとのり、それに秀嗣と拓斗も動けるやろ?」
「グループの人数を増やして、時間短縮させるか?」
「ただ強化って言っても、加護持ちのみんなと違ってそこまでのはず? やから多少、時間を稼げたら良いとは思うんやけど?」
あたしの加護を持つ人の方が馴染みも良いとは思うが、その分の強化も強いはずだ。ただ今回みんなはそれにまた繋がりを強くしたから、使いきれていない部分があると思う。
最後の最後に曖昧になるあたしの言葉、そこはもう諦めてもらうしかない。
「ただ加護無しに渡すことでどうなるか、あたしもそこまで具体的にわからんのよね。やから悩む」
「姫様は、姫様の力を渡すことを、あの神が許すと思いますか?」
「思うよ。じゃなきゃ最初からあんなに大量に育てることを良しとしてないと思うし」
何の役に立つのか、どう成長するのかわからなかったため育て続けた結果、かなりの在庫は確保できている。宵闇たちは最初からそれが何かわかっていたのに、止めなかったということは、そうゆうことだ。
お兄ちゃんの息を吐く音がした。
「確かに人手を解消できれば一気に話は進む、できれば他ギルドでも欲しいくらいや」
「それはさすがに危険じゃないか?」
「やからさすがに欲言えばってやつやけどな。一軍に説明して、望むもんに先行して食わしてみるか」
「それなら二種類あるって言って説明して、あたしと繋がりができるのとできへんほう」
「そうやな。それで一回様子見て、その間に高遠さんとも今の人手の確保の話もしておくか」
「それならば高遠にも強化の話聞いてみますか。答えは見えてる気がしますが」
智さんの言葉に嫌な納得をしてしまい、それでも力は有って困るもんじゃないかと何も言わなかった。
「最悪、宵闇降臨で納得させるって最終奥義も浮かんでんけどな」
「あほか」
「それはさすがに」
「あたしもそう思うからしたくないし」
まだ力を完璧に理解し使いこなせているかと聞かれると怪しい部分がある。そんなときにアレに顔を合わす可能性なんて、わざわざ自分から作りたくはない。
「人手の確保ができたら色々進むし、可能性を考えてお前は言ってた腕輪でも作っとけ」
「他の神職に渡すやつやんな?」
「それ。念話は高遠さんや組合関係の腕輪持ってる奴に繋がるようでいいで」
「そう考えたら神職に拘らんでいいんか。高遠さん直属に信用できる人らにあの種と腕輪渡して、神職として任命されたように見えたらいいんやろ?」
別に組合関係は神職にこだわる必要はない。統括長である高遠さんも神職ではないわけだし。ただそれでも、わかりやすいからそうなってるだけだ。
神職と偽ることで、神に選ばれ中立であることを推奨できるはずだ。
「確かにそうやな。ぶっちゃけ組合は今まで以上に高遠さんに丸投げして、星のことやダンジョンについて考えれたら楽やしな」
「なら高遠さんの腕輪を改造して、任命と弱体化の権限を渡せるようにしよか、あの人あたしの加護あるし、色々試して作れば何とかなるやろ」
たぶんできるはずだとは思うが、今度は作業室に籠ることになりそうだ。
「それができたらかなり楽やな、俺らの手がかなり空くし」
「そうですね、念話で話はできるので、確認だけになるかと」
「じゃあ改造ちょっと頑張ろか、また引き籠りやけど」
「トップが気安く出歩くもんちゃうわ」
「無理ない程度でいいですからね」
「じゃあ、お姉ちゃんはまた連れてくの考えとくー」
「そうやね、暫くギルメンは俺らで回しとこか」
「それは俺も手伝おう」
「絵里子が籠るなら俺もできますよ」
「これが上手くいけば、組合の権力強化と上層部の人手不足、それに組合不足は一気に解決か」
「なら俺、絵里子に聞きたいことあるんですけど」
そう言って、珍しく直接ではなく聞いてきた拓斗に、みんなの視線が集まった。




