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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
十九章

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必要なこと?



 新たに魔晶石に触れたことで、前よりも必要だとなぜか強く思い、それからまた数日間、あたしは家事や庭仕事以外の時間を訓練室に籠り、格の上がった力と聖魔の魔力と向き合い続けた。


 向き合えば向き合うだけ意味がよく分からなくなってきて、ただ分かるのは人には過ぎる力で、格が上がったからと言って簡単に扱えはしないと言うこと。


 チートって、簡単にはなれないそうです。


 前よりも魔法を使う時の魔力量が大きく減って、そして威力も上がった。おかげで制御を少しでも誤ると、暴発しその力は爆風となって自分を傷つけた。


 ちゃんとポーション持って来ていて、怪我が無い状態でみんなの前に出て行くけど、たぶんばれたら怒られるんだろうな。

 とりあえず心配性なお姉が浮かんで、絶対にばれないようにしないと、と心で誓う。


 それでも制御しないことには、みんなと同じ場所に立っていることができない。守るために力を求めていたのに、その力でみんなを傷つけるのは嫌だ、と何度も繰り返した。



 それでも徐々に魔力には慣れてきて、その後は聖魔の魔力分離にも同時に取り掛かる。正直こっちの方が頭が痛い。

 ただ格の上がったことで前よりも少し何かが掴めそうで、何度も繰り返す。


 目を閉じて集中し、手の平を上に向け魔力を練り上げる。自分の中に流れる魔力を意識して、混ざり合っているそれを感じながら、聖と魔に二つに分けて感じる。

 それを上手く分けながら、右手と左手に片方ずつ集めてみる。


 頭ではわかっているがこれが難しく、まず綺麗に混ざり切っている物を二つに分けて感じる所で最初は躓いた。初っ端の初っ端だ。自分でもびっくりだ。


 元々魔力操作は得意な方で、ここまで手こずったのはたぶん初めてだ。今まで簡単に召喚魔法と言われるものや、イメージで新しいことできてたのは何だったんだ。


 みんなが龍を作るときこんな気分だったのかなあ。と現実逃避しながら、丁寧に魔力を感じて少しずつ手の平に集めることに集中する。


 人は物語のように簡単にチートにはなれない。あたしは潜在能力として持ってるだけだ。それを生かすも殺すも自分次第で、元々ただの人なあたしは、こうして少しずつでもその力を使えるようにならなければ意味がない。


 少しずつ気配の違う魔力が手に集まり始め、それを維持しながら操ろうと意識を向ければ、訓練室にチャイムの音が聞こえ意識が散ってしまった。


 今回は良い感じだったのに、と言いたくなるが仕方ない。さすがに危険すぎるので、訓練室を使う時は鍵を掛け、他の人が入って来れないようにしているから。


 ポーションを飲みながら入り口に向かい、鍵を開ければ拓斗がそこに居た。


「根詰めるもんちゃうぞ」

「別にそこまでやってないわ」

「よお言うわ」


 そう言ってあたしの頬に触れ、何かを拭う拓斗。見せられた親指には赤い血がついていた。


「ポーションで誤魔化してても、宏さんとかも気付いてるで」

「それでも早く使えるようならな、間引きも攻略もできへんやん」

「恵子さんがのりさんと行ってるし、ギルメンも秀嗣や俺も行ってるわ」


 あたしを除いたみんなは、時間を見つけてはダンジョン間引きに行っている。あたしだけが上手く力を制御しきれずに行けていない。


「俺らの力とお前の力は違うねんから、しゃあないやろ」

「わかってはいるけどな、なんでみんなも格が上がったはずやのに」


 最初少し手間取ったり慣れない感覚はあったみたいだが、それでもみんなすぐに使いこなすことができている。

 ただ、まだ全ての力をわかっているわけではないようだけど、こればっかりは徐々に自分で考えるしかない。


「俺らは格が上がったって言ってもお前ほど特別じゃない。それにお前の魔力操作や魔法見てたからな」


 別にあたしも好き好んで特別になったわけじゃない。元々目立つことは嫌いだし、姫巫女なんて肩書は重すぎる。

 それでも今は必要だと知っているから、早く使いこなせるようにならないと。


「宏さんが呼んでるし、丁度いいから休憩せえ」

「お兄ちゃんが? また探知器かなんか?」

「ギルメンの補佐の話や」


 そう言えばそれもあったな。とあたしは拓斗と共にギルドハウスに向かい、お兄ちゃんがいるギルドマスター室に行く。

 いくつもの気配を感じながらノックをし、扉を開ける。


「何か御用でしょうかー」

「とりあえず、それ、勘で分けろ」


 格が上がろうが姫巫女だろうが何も変わらないこの兄は、椅子に座ったままこっちを見ることなく言って来る。


「申し訳ありません」

「智さんが気にすることじゃないで」


 言いながらソファーに座ればココアが出され、向かいの席には興味津々な武雄くんと柏原さんと紫藤さん。清水さんは少し緊張気味で、信也さんは変わりない。


「皐月さんは?」

「忙しそうに働いてる。裏方の大人も増えてるけど、まだ補佐にはなれないから今回はパスだって」

「皐月さんが一番厳しそうやな」


 確かに裏方はしっかりした人じゃないと厳しい。特に薬品や武器など、様々な管理もしているから。人の見極めは重要だ。


 今回は渡された紙の束はそう多くなく、それを意識せずに適当に分けて行く。良いとまあまあと悪い。この結果が全てではないが、これが人事が決まる篩いの一つと知らないギルメンは可哀想だな。


「できたよ、見ていい?」

「ええで」


 とりあえず良いからか、と紙を表に向け見て行く。


「これ一軍補佐の?」

「まあ、そうやな。さすがにすぐリーダー格にはできへんからな」


 思ったよりも良いの紙が残り、それを見ていけば戸上さんの物もあった。


「やっぱ戸上さんは補佐になったか」

「そうやね、あの人はリーダーってより、補佐の方が向いてると思う。武雄くんとも相性悪くないし」

「城崎さんやん、早いな」

「元々纏め役とかしてたからやろ? けど警備に移るんじゃなかったっけ」

「城崎は上がれるなら補佐として暫く使って、その後に警備のリーダーに回す」

「警部部門は探索者の部門ですし、丁度いいですね」


 あたしと拓斗の言葉にお兄ちゃんと智さんが返し、それもそうか、と納得していれば紫藤さんのきらきら輝く目に気付いた。


「それ、いったいどうやってるんですか?」

「どうも何も、ただの勘やで?」

「勘でこれだけのことができるんですか!?」


 そう言えば信也さんと武雄君以外は、初めて見たのかと気付いた。それでも姫巫女を知っているからここに呼ばれてるんだろう。


 見終わった書類をみんなに回して、あたしはココアを飲んで一息つく。


「人事異動はすぐすんの?」

「そのつもりや。ついでに探索者と警備の入れ替えも何人かおるし」

「最近は生産になりたいと言うものもいるんですけどね。さすがに技術的にすぐ回せませんし」

「それでも今回は生産の補佐も選んでもらったので、前よりは楽になりそうです」


 嬉しそうな紫藤さんは、お店ができてから本当に大変だったんだろう。これで少しは生産に追われずに、休みも取れやすくなるはずだ。


「これでやっと自分の研究が進みます」


 あ、生産廃人はどこまで行っても生産廃人だ。


「紫藤の思惑は悪いけど、もう暫くお預けやで」

「なんかあんの?」


 嬉しそに言う紫藤さんの言葉に、お兄ちゃんが待ったをかける。手にしていた書類を机に置き、その場にいるみんなを厳しい目で見渡した。


「今回、一軍呼んだんはこれからのことや。暫くダンジョン間引きと調査で忙しくなる。これをミスれば星が消えると思え」


 珍しく真剣な重いお兄ちゃんの声。その言葉に硬くなるみんなと、それを伝えると思ってなかったあたしが止まる。


「現状、星は色々ややこしいことなってる。お前らは姫巫女を知ってる俺らの駒や。けど事情を知ってるのと知らんのでは、動きに隔たりがあるから教えとく」

「待って、なんで言うん? そんなん言われてもみんな困るだけやん?」

「時間、ないんやろ?」


 お兄ちゃんの真剣な目があたしに向く。それに耐えきれず手を強く握りこんでしまった。


「お前が今、必死に力の制御しようとしてるんは時間の無さやろ。それはお前にしかできんことで必要な事や。やったら俺は補佐として、他にできることを考えるだけや」

「さ、先に相談してくれても良かったやん」

「あほ抜かせ。言ったらお前、今まで以上に無茶な訓練しよるやろ。今でさえ怪我してるのに、それ以上やってどうすんねん」


 拓斗の言う通りにみんなにばれていたのか。それを今知って、返す言葉が浮かばない。


「まだいつかははっきりとわからんけど、近い未来にダンジョンからスタンピードっちゅう氾濫が起こる。予測やけどその時にはガーディアンのような魔物も出ると思え」

「スタンピードは氾濫と違って何が原因かも、これをすれば収まると言うことも今のところわかっていません。それを起こさせないためにも各ダンジョンの間引きを行い、魔素を薄めることが現在は重要だと思われています」


 力の制御ができずにいつ、と予知できないのが悔しくて、また手に力が入り俯いてしまう。



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