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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
十八章 転移陣の齎したモノ

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しきれない決断



 そこからまた数日経てば五階の地図もだいぶできて、答えを待つためゆっくりとしていたが、そろそろ聞かなければならない。


 今日の探索を終え地上に戻りながら気になるのは、城崎さん達のこと。

 あれだけの人数だ、様々な意見が出て簡単に決まるとは思えないけど、揉めたりしてなかったらいいな、と思いながら地上に上がれば、その城崎さんの姿があった。


 あたし達を待っていたのか、気楽な様子で片手を上げ「お疲れさん」と言って来る。


「どうした?」

「悪いんだが、話良いか」

「わかった、答えか?」


 真剣な目に変え頷く城崎さん、それならとあたしは口を開く。


「ならご飯も食べていっちゃて下さい、お兄ちゃんも呼びますし」

「いやそこまでは悪いから」

「気にするな、俺達もシャワーなんかで待ってもらうしな」


 血の付いた装備のままで話をするのは嫌だなあ、と自分の姿を見て秀嗣さんも言う。


「あー、悪い。頂くよ」


 その言葉に頷いて、お兄ちゃんには拓斗が連絡してくれるだろう。あたしは今日の晩御飯は何にしようか考えながらテントに戻り、さっさと先にシャワーを終わらせる。


 出てからは料理を始め、出来上がる頃にはお兄ちゃんがやって来た。


「今日は中華やん」

「エビチリはあたしも好きやからな」


 城崎さんも食べる人だし、角煮に八宝菜に回鍋肉、エビチリは多めにしました。作る者の特権です。

 ダンジョン産の大きな海老だから、ぶつ切りにされ見た目エビチリっぽくないがエビチリだ。


「まあ話は飯の後でいいやろ?」

「ああ、すまないな」

「気にせんでや」


 秀嗣さんが手伝ってくれ、料理を並べ終わる。お兄ちゃんの頂きますでみんなの声が重なり食べ始める。


「そういやお前ら、地図どこまでできたん?」

「五階奥までは行けてますよ」

「ここ終わったら帰ってもいいし、次行っても好きにしていいで」

「そんな疲れてないし、あたしどっちでもいいけどな」

「食事は大丈夫なのか?」

「長丁場なる可能性も考えて、余裕考えて持って来てるもん」


 確かにここは長くなってしまったが、他はここほど長くなることはないだろう。ダンジョン一つ分ぐらいなら持つはずだ。最悪転移陣で戻って食材を取りに帰るし。


 そんな会話に驚いている様子の城崎さん、あたしは首を傾げてしまう。


「もうできるのか?」

「これでも今回はゆっくりやで」

「そうだな、他はここまで時間を掛けない」

「そ、うなのか、俺達の為か」

「まあこれもあるけど、人がおるダンジョンで魔法を使いすぎるとな」


 大技だとは言いません、普通の魔法でも危険は危険だし。


「しかし、そのまま次って凄いな」

「なんやったら途中でも転移陣使って帰って来れるし」

「通信カフスもあるおかげで連絡も取れるからな」

「そや、これ余ってたから」


 お兄ちゃんが城崎さんに差し出した通信カフス、それを持ち上げ不思議そうに見てる。


「知らん仲ちゃうし、俺の魔力は登録するから城崎さん使ったって」

「いや悪い、さすがに受け取れない」

「どんな答え出すんか知らんけど、情報はどこでも必要やろ?」


 お兄ちゃんの中で来ないと思ってるんだろうか、それとも先に恩を売り、ギルドメンバーとして頑張ってもらうつもりなのか。


 城崎さんは感謝して使い方を聞くと、何とか魔力を登録して耳につけていた。




 ご飯も終わりあたしはみんなにお茶を出し、後片付けを始めるが話が気になって仕方がない。


「んで、答え出たんやって」

「ああ、宏のギルドで試したい者と研修を使いたい者、それとギルドには入らず探索者になる者だ」

「城崎さんは?」

「俺は探索者だ」

「理由を聞いても?」

「…親のない子は誰か一緒にいてやらんとな」


 少し迷って、そして言葉にする城崎さん。その声は諦めたわけでも仕方ないって感情でもなく、自分の想いでそうしたとわかる声だ。


「ぶっちゃけ聞きたいねんけど、俺らのギルド興味ない?」

「正直ある、ほとんどの者が行きたいと言っているし、十五歳以上も裏方があるからお願いしたいと」

「面倒見る子、何人おるか知らんけど、家族用の寮あるで?」

「しかしお試しの間は使えないんだろ?」


 そう言えばそんな話もあったな。


「その間は近くの孤児院で預かってもらうことも話は通してある、城崎さんさえ望むなら、お試し終了後には子供ら含め、それなりの生活できるぐらいには稼がせたるで?」


 さすがに驚いて振り返ってしまった。お兄ちゃんがそこまで考えて予想して話をしていたなんて。


「それに子供引き取るなら、一人で探索者はやめとくべきやと俺は思う。城崎さんになんかあったら子供らどうするん?」


 下を向き手を強く握る城崎さんにもわかってるんだろう。自分がいなくなればその子たちはどうすればいいのか、誰に託せばいいのか、何よりまた、失うと言うことを経験させる意味を。


「俺らの仕事も危険がないわけじゃない、けどギルメンが仕事中になんかあったらそれなりの期間家族を見るって契約してる。金もそれなりに渡すしな」


 いつからか盛り込まれた契約。部署によって金額は変わるし子供の年齢なんかでも変わってくるが、残された家族が困らないように考えられている。

 仮に両親いなくなってしまった場合は優先的に孤児院に入れるように話もついている。建前上、組合本部所属ギルドだからできることだ。


「なんで子供引き取ろうと思ったん」


 急に変わった話、城崎さんは迷いながらも口を開く。


「俺は昔、妊娠中に嫁が死んでな、あいつ以上はいないと思ってるから子供も諦めてた。けど理由違えど失ったもん同士、本物の父子になれなくても、埋めれる穴があるんだ」


 人によっては傷の舐めあいと言うかもしれない、けどあたしはそうは思わない。

 お互いを必要とし、信用と信頼がそこにあって絆が生まれる。どんな理由や始まりだろうと、お互いに大事だと大切だと思えるならいいんだと思う。


 それにこんな世界、血の繋がった親子でさえどうなるかわからないんだから。


 守ると決めた城崎さんの顔はしっかりとお父さんで、その手を放す気はないと見てるだけで伝わる。


「俺らのギルドなら寮で子供面倒見てくれる他の家族もおる、城崎さんの子供、何歳なん?」

「十六と十一と八歳と七歳だ」

「十六は裏方にお試しできるで?」

「俺も進めたんだが、俺がいない間残りを見ていてくれると言ってな、俺達と一緒に居たいと」

「お試しはやる気次第で短くて一ヶ月、長くて三ヶ月や。その間、孤児院で三人預かってもらうこともできるし考えてほしい。城崎さんのお試し終わった後に、その十六歳の子、お試しに入ってもいいし」

「どうして俺なんかにそこまで?」

「こうやって話して気が合って、それで俺にはそれができるだけの力があるから。それ以上なんもなくない?」


 何の力みもなく言うお兄ちゃんの姿は、どこまでもお兄ちゃんで、それでも頼もしく見えたのは妹のせいなんだろうか。


「俺も家族がパーティーやからな、考えることは多い。けどだからこそ困らんようにしてやりたいとも」

「お前は凄いな」

「凄ないで、結構丸投げしてるしな」


 そこは間違いないし、多々丸投げされてる智さんが大変なのも知ってる。それでも決断ができるお兄ちゃんを素直に凄いとは思う。


 城崎さんが引き取る家族を考え、どんな決断をするかわからないけど、できるだけ後悔のない選択をしてほしい。

 ギルドに入るも一人探索者になるにしろ、自分がどうなっても後悔のないように。


 家族がいるからこそ警備部門に移ったメンバーもいる。その気持ちもわからないことではないから、お兄ちゃんは移動を許可したし、ただ前線で命を張る探索者よりお給料は下がってしまう。


 命の価値はその人達と周りの人達で違ってくる。その四人の子にとって、城崎さんの命の価値はきっと尊く高いものだから、無理しないでほしい。



 その日は城崎さんの答えは出ず、聞いてきてほしいと言われていた質問などをいくつかして帰って行った。

 答えの締め切りを三日後にして、その日にみんな移動してもらうことに。


 お兄ちゃんは三日後にまた来ると言って帰って行った。あたしはその背中を珍しく見送って、今の幸せを考えてしまう。



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