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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
十八章 転移陣の齎したモノ

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監督役



 そうやって結局、数週間経ってから(あけ)明星(みょうじょう)のダンジョン間引きが決まった。


 と、言ってもまだお兄ちゃんと智さんは離れられないので、ギルドメンバーを三つに分けて、監督役と言うだけだ。

 一つはお兄ちゃん達と残って警備部門の手伝い、残り二つはお姉とのり君、あたしと拓斗と秀嗣さんに別れてダンジョン間引きをおこなう。


 監督役だから基本手出しはしないし、今のギルドメンバーならいらないと思うのに、ごろごろしてたら暇潰しでとんでもないことしそうと思ったお兄ちゃんに、「行ってこい」と言われてしまった。


 妹を何だと思ってるんだろうか、最低だな。そんな危ないことややばいことをした記憶はないのに。


 それでもいつもと違う空気に少しは気分も上がって来る。あたし達の班は一軍が信也さんと柏原さんで、この二人なら心配もそうない。


 一応、武雄くんと清水さんにはお姉が無茶言うなら連絡してとは言ってある。紫藤さんは生産職を纏めながら、追い付かない予約と売り物作りに必死で、最近寝る時間もほぼないみたいなことを言っていた。



 車から降りて手を伸ばして体を伸ばす。今日は転移陣から車で一時間ほど行ったダンジョンの少し手前、ここを宿営地として暫くは間引きをおこなう。


「じゃあ割り振り通りに支度して、姫様は悪いけど食事の手伝いはお願いね」

「はいはーい」


 幸康さんは今回お姉の組で、こっちには梓ちゃんが来た。裏方がお店に協力に行っている今、できる人が少ないのであたしも食事はお手伝いすることに。


「お昼はお弁当あるし、夜からやからそんな忙しくもないしな」

「幸康が色々考えて、献立とできる仕込みはして梓に渡してるんやろ?」

「そうらしい、やからほんまにそうやることないわ」


 商店街が落ち着くまではこうやって、メンバーの間引きについて行くことが基本になるんだろうか。嫌じゃないけどやることなくて困りそうだなあ。


 今回きているメンバーは十人前後で、それも途中入れ替わるかもしれない。それを纏め指示する信也さんと柏原さんは大変だろうけど、頑張ってもらうしかないんだろうな。



 宿営地の周りにあの赤と白の植物を植えて、結界石と魔除けの香を念のため焚いておく。誰か残るわけじゃないからしっかり戸締りも重要だ。


「姫様、そろそろ行ける?」

「早いね、あたしはいいよ」

「道中の間引きはどうすんねん?」

「今回はできればほぼ無視で、ダンジョン入りたい」


 信也さんと柏原さんはそこそこ大技の魔法も撃てるし、地上は駆け抜けていけばどうにかなる。ダンジョン間引きがメインだし大丈夫だろう。


「わかった、道はこっちで作る?」

「それも俺らでやるよ、ギルマスの試験どこからかわかんないし」


 その返しに笑ってしまった。確かにあのお兄ちゃんだし、評価がどこからかわかったものじゃない。


「ただできれば解体とか裏方系は手伝ってほしい」

「今回は組合もおるわけちゃうもんね」

「わかった、そこは俺と拓斗が手伝うぞ」


 あたしは料理の支度があるし、拓斗も仕方ないと頷いている。みんなもするだろうけど、それだけでは手が足りないことにはなってしまうだろう。

 今回は本当に裏方としての参加になりそうだ。


「今回、目標は五階までの地図製作、中の様子見て五階ボスは考えるから」

「必要な時は言って、二人に任せるから」


 一軍が今回の指示役だ、それを押しのけて何か言うのは緊急時だけ。

 それ以外は特にすることもなく裏方に徹していよう。


「じゃあそろそろ行くね」

「はーい」


 そんな返事通りの暢気なダンジョン間引きは始まった。



 少し歩いた先にある、石組みのダンジョンの入り口は少し大きくて、経験で言えばこれは少し深そうだなと思った。


「魔物多そうだし、全体気をつけて」

「俺が先に開きますから、半分はすぐに前線作って下さい」

「残りは結界石で休憩場作っといてね」


 信也さんと柏原さんでしっかり役割もできているみたいだし、特に言うこともなさそうだ。


「姫様達は念のため後ろ待機お願いね」

「結界石の前でいいんやろ」

「はい、状況判断はまだできない人もいますんで」


 危なそうなら強制的に下げてもいいと言うことか。あたしは笑顔で請け負った。


「じゃあ行こうか」


 その言葉で階段を下りて行く。今回は下りたらすぐ広場で、あたし達からしたら当りだ。


 すぐに柏原さんが二属性の竜巻である程度の空間を切り開き、六人ほどが駆けて前線を作り、それを指示する信也さん。

 残りは壁際に結界石を置いて休める場所を作っていく。


「すっかり慣れてるなあ」

「いいことやね」

「統率取れてるし、柏原も上手いな」


 後ろで見ながら感心したように三人で言ってしまう。あの自信がなかった柏原さんや、一人、前に出てしまってた信也さんはどこにもなく、上手く全体を見ながら自分の仕事を考えれてる。


「多人数を見るならあたしより二人の方が上手そうやな」

「お前はそこを力で解決するやろうが」


 そんな便利な力持ってませんよ、と拓斗を見れば呆れた顔された。


「四神もそうやけど、わんこがおれば護衛は十分やし、玄武の結界で守りも完璧。残り四神三匹も攻撃可能」

「絵里子一人で過剰戦力だな」

「人を危ないもんみたいに言わんでください」


 言葉で聞けば確かにできるし危険物だな。けどそうしないし、したいとも思ってませんけど。必要だと判断したらやりますけどね。その代わり魔力の消費量は半端なさそうだ。


「なに、護衛でも出してるほうがいいの?」

「俺らの仕事、余計になくなるわ」

「今回はいらないだろうな、二人が上手く回しているし」


 魔物がひしめく広場の中で、二人は臆することなく冷静に対処して、指示を出している。

 これならあたし達が何かする必要は感じない。


「解体は多そうやなあ」

「そこはしょうがない、珍しい魔物おったらいいな」

「五階までだからそんないないだろ?」


 たぶんいないけど、淡い期待ぐらいは抱いてもいいと思う。あたしは料理の手伝いだから解体しないので暢気なものだ。



 戦うみんなを見守りながら、素直に強くなったな、と感じてしまう。特に初期メンバーの変貌ぶりは、嬉しいほどに変わった。


 威嚇ばかりでどうなるかと思っていた内多君は、周りと息を合わせ協力して魔物に向かうし、どこか自信がなさげでこれでいいのか迷いがちだった女性陣も、自信を持ち前に進む。


 その姿は誇らしく何より愛おしく、ギルドとしてしっかりと守りたいと思った。


「人は変われば変わるもんやねえ」


 あたしの視線の先に気付いた二人が微笑む。


「人は弱いが強い生き物だ」

「本人次第でどうとでも変わるわ」


 環境や相対する人も確かに大事だけど、何より本人がどうしたいかが大事なんだろう。

 あたし達のギルドに入ったからと言って、簡単に強くなれるわけでも、強い武器が貰えるわけでもない。

 逆に結構面倒な仕事ばかりやらされるのに、みんな文句も言わずにこうしてついてきてくれ、前を見て魔物を倒し続ける。


 その姿につい嬉しくなって、魔力が巡りそうになったから、はっとして下を向いた。


「どうした?」

「夜、言うわ」


 ここで話す話じゃないと、心配そうな二人に言ってあたしは頭を切り替えて魔力を押さえる。


 本当ならあたしも早くこの力を制御できるようになりたい、みんなのように前に進みたい、なのにそうはできずに燻っている自分の方が駄目に思えてきた。



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