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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
十七章 証明

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慰労会



 お昼を大きく回って、魔物の氾濫は止まった。静かに閉じていくダンジョンに、様々な人が声も出せずに驚き凝視していた。


「終わったな、この後どうするんだ」

「救護者は組合が見るらしいし、お兄ちゃんなんて言ってるんやろ」

「なんか高遠さんが言ってるって、さっき話しに行ってたで」


 高遠さんが? と首を傾げながらあたしは二人と共に宿営地だった場所に戻る。まだ他ギルドはいなくて、組合の職員さんが多いようだ。


「あ、智さん。この後どすんの?」

「組合が慰労を兼ねてここでバーベキューをしようと思ってるようで、我々もご招待いただきました」

「この人数、大変ちゃうの?」

「他ギルドは初回ですし、交流会も兼ねているので、組合としては今後を考えればプラスになると思ってるんですよ」


 言わんとすることはわかるが、この人数だ。どれだけの食材を放出する気だろうか。


「あたしも何か持ってきて、寄付したほうがいい?」

「今回の解体済みの魔物肉や、前回の魚介系も出すそうなので大丈夫ですよ。姫様は何があっても二人を離さずに、必ず誰かと一緒に行動してください」


 真剣な智さんにどこの子供だと言いたいが、他ギルドも沢山いることを考えたら仕方ないんだろう。蔑んだ目を向けられた説明会を思い出した。


「ちゃんと俺らが見とくし」

「一人では行かさないから大丈夫だ」

「あたしは子供じゃないねんけど」


 軽い口調で拓斗が言ってくれるから秀嗣さんも続いて、あたしは素直に拗ねたようにお道化て見せることができた。

 気持ちとしては少し面倒に思ってけど、他ギルドとの交流を兼ねているとは聞いてしまえば、先に帰るわけにもいかない。


「先にシャワー終わらせて大丈夫?」

「はい、テントなどいくつか家のギルドように立ててますから、シャワーもそこのを使って下さい」


 組合が準備した物もかなり量はあるが混むだろうし、あたしは素直に言われた所のシャワーを使うことにした。




「皆様、本日はご協力有難う御座いました。ささやかではありますが、慰労会と言うことで楽しんで頂くため、御用意しました。様々なギルドが来て頂いてますが、争いごとがないように、楽しんで頂ければ」


 高遠さんの挨拶で始まった、慰労会と言う大規模バーベキュー大会。

 あたしの側にはまだ二人以外にも、みんなやギルドメンバーも揃っている。


「お兄は交流、行くんやろ?」

「まあ多少はせなあかんやろうな」

「すでに話を聞きたそうな目がありますし、いくつかは私が対応しますよ」

「恵子も今日はあんまり無茶したらあかんねんで?」

「のりはあたしをなんやと思ってるん?」


 あたしはお姉を危険物と見ていることが結構あるよ、とは口には出さなかった。


「絵里子は二人を離すなよ」

「それもう、智さんから注意受けてる」

「ねえギルマス、俺達は姫様といていいの?」

「お前らもできそうなら多少交流してこい、そんでいい感じのギルドや客になりそうなギルド探してこい」


 信也さんの顔が面倒そうになり、あたしも無茶振りだなと思う。今日のあたしは置物宜しく交流はせず、大人しくしておけと言うことだ。だからあたしは笑みを作って言う。


「みんな、交流頑張れ」


 お兄ちゃんもわかってるんだろうけど、自分が動かないように言っているからただ嫌そうにするだけで、文句は言わない。あたしはそれを見てまた笑い、慰労会の始まりだ。



 みんながそれぞれに散らばって、あたしは一つのテーブルの席に座る。秀嗣さんはそのまま横で、拓斗が飲み物と食べ物を取りに行ってくれた。


「二人、大変やな」

「そうでもないさ」


 軽く答えてくれるけど、そんなことはないだろう。今もあたしに向く視線をできるだけ遮ろうとしてくれてる秀嗣さん。それに拓斗も、近寄って来る人をあしらいながら、大きなトレー二つに沢山の物を持ってこっちに向かっている。


「姫制度、辞めたいな」

「制度ってわけじゃないからな」


 噛み殺しきれない笑いを漏らしながら秀嗣さんが言うが、あたしからしたら姫として扱われる理由がピンとこない。


「姫って言っても何するわけでもないし、防具が少し違うぐらいやん」

「絵里子の魔法は珍しい物が多いから、十分理由になるぞ? それに体力や筋力を考えれば、パーティー内ではどうしても弱くなってしまうし」

「それでもまだ、その辺の奴に物理でも負ける気せんけどなあ」


 少し声を落として本音を漏らす。他ギルドがこっちを気にしているのをわかっているから。

 あたしとしては喧嘩売る気はないんです、だけど事実なんですよ。


「実戦の数が違うし、それに経験の質も違う。仕方ないことだろう」

「そうやねんけどねえ、今日の戦い見てたら不安なる」


 探索者は自己責任、それでも今回は組合からポーションや薬などのバックアップがあったから何とかなった。

 他ギルドから多数の怪我人が出て、数人が大怪我だったらしい。


「そんな顔して何の話してんねん?」


 トレーをテーブルに置いて拓斗が言って来るが、あたしはどんな顔してたんだろう。


「他ギルドの話」

「気にしてもしゃあないこと気にすんな。探索者は自己責任、組合が周知してることやで」

「そうだぞ、自ら望んで来たんなら俺達が何かするのは違う」


 わかってはいるし、何かしようとは思わない。それでも家のギルドメンバーと比べても、質の違いは明らかだろう。


「それに俺は、ギルメンがこれで調子づかんか心配やわ」

「それこそお兄ちゃんの鉄拳制裁と、智さんの冷たい微笑の特別特訓行きやろ?」

「間違いないな、その辺り一軍はわかってるだろうし大丈夫だろ?」

「あほやる奴はどこにでもあるで? まあどうなるかは知らんけど」


 周辺では家のメンバーも知らない人と楽し気に喋っていたりと、交流は上手く行ってるようだ。お姉は好みじゃないのはあしらい、女性とよく話しているし、お兄ちゃんも身内にはわかる程度だけど、面倒そうに頑張っている。


「あたしだけいいんかな?」

「いいんちゃう、おかげで俺ら楽できてるし」

「そうだな、次は俺が取って来よう」

「秀嗣はおって、俺が行って来るから」


 見た目の関係で秀嗣さんの方が近寄りがたい、それに人をあしらうと言う意味でも拓斗の方が向いている。


「海老とイカも」

「あいよ、秀嗣は?」

「俺は適当でいいぞ」


 了解、とすぐに行ってくれる拓斗にもどこか申し訳なくなる。自分で行けたら楽しいし一番なんだけど、そういうわけにもいかないことはわかってる。



 拓斗が運んできてくれる物を食べながら周囲を観察して、雰囲気だけは把握しておく。余りに酷いとこがいたらお兄ちゃんに報告してこうと思って。


「あ、あの、少しいいですか」


 近寄ってくる気配はわかっていた。少し緊張した硬い声は左右ではなく、あたしの真後ろから聞こえた。

 あたしは二人に目配せしてから振り返る。


「どうしました、時宗さん」

「すいませんでした」


 あたしが振り返り声を掛けると、すぐに大きな声で謝り勢いよく頭を下げるその姿。さすがに驚いて目が開いた。


「えと、なんでしょうか?」

「今まで色々失礼なことを言ってすいません。姫様が戦う姿を見て、姫様と呼ばれる理由もわかりました」


 あたしはその理由、皆目見当つきませんが? 周囲にはうちのギルドのメンバーが伺うような視線があるから、気にするなと目配せしてあたしは時宗さんと向き合う。


「姫と呼ばれる理由は本人わかってないんですけど。それでもわかってくれたならいいです」


 あたしだって前線で常に戦っている。それはみんなが居る所には、あたしもいたいと思い続けているから。


「舞姫のように綺麗で格好良かったです、戦闘姿からついた二つ名だったんですね。本当に綺麗で強くて、俺、本当にすいませんでした」


 勢いよく言い切った時宗さんに一瞬何言ってんだ、と表情が崩れかける。ただの戦闘に綺麗も何もなくて、ただの殺戮しかないのに。


「最近の噂では姫様は守られるだけで力があるくせに何もしないや、旗印として利用されてるって言う噂が流れていて、それで俺、どんな酷いギルドなんだって勘違いしてしまって」

「待って、ギルドに対してそんな噂流れてるの?」


 つい前のめりで聞いてしまう、あたしの噂なんてこの際どうでもいい。


「えっ、あ、はい」

「ギルドに関する他の噂ってどんなん?」

「得体がしれないや組合に贔屓されている、本当は弱いのにお金で解決してるんじゃないかとか、本当はそんなギルドないんじゃないか、とかですかね」


 表に出ない弊害か、確かに多少お金で解決していることは地下ではありますけども。

 それでも組合に贔屓されているってのは間違ってはいない。正しくは好き勝手をして、帳尻を合わせてもらってるが正解だけど。


 胸糞悪いのは、あたしを旗印に利用している。ってものだろう。それはあたしだけじゃなく、ギルマスであるお兄ちゃんやパーティー、そしてギルドメンバーを蔑んだ視線だ。


「なあ兄ちゃん、今日でそれが全て違うってわかったやろ?」


 あたしが考えに呑まれていると、軽い拓斗の声がした。


「はい、皆さん強くて、あんな失礼を言った俺を何度も助けて頂いて、他のギルドまで色々気遣って、凄いギルドとパーティーって知りました。何より姫様のあの魔法、凄すぎて俺にはわかりません」


 本当にただ真っすぐな人だな。その瞳は子供のように輝き嬉しそうに興奮気味に語る。


「俺達は表に出ないことは多々あるから、好きに言う奴もいるんだろうが、それをそのまま鵜呑みにするのはどうかと思うぞ」

「はい、今回それをよくわかりました」

「弱い奴ほど好き勝手言うし、兄ちゃんも探索者ならしっかり見極めれるようにせんかったら、仲間の命、危なくさすから気をつけてな」


 拓斗の言葉はしっかりと時宗さんに届いただろう。はっとなり胸を掴んで真剣に頷いているから。


「ギルドに対してわかってもらえたなら、それであたしは十分です。あたしは特に表に出ませんし、気にしませんから」


 両側からなんとも言えない溜息が聞こえるけど、そこは無視しておく。あたしにとってあたしの悪評なんて、姫と言われてる時点で仕方がないことだと思っている。


「あ、あの、それで俺、できたら姫様にまほ」

「悪いな兄ちゃん、こいつ見た目通りに体力ないから、今日はもう勘弁な」

「質問があるなら他のパーティーメンバーやギルドメンバーに質問してくれるか」


 時宗さんの言葉を遮り、二人が先に駄目だと遠回しに言う。体力ないのは間違っていないけど、ポーション飲んだしそれなりに回復しているのを知っているのに。



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