若いが故
「横からすいませんが、あたしからも質問いいですか?」
急に声を上げたあたしにその視線は集まる。お兄ちゃんが頷くからあたしはそのまま言葉を続けた。
「どうイメージされてるかわかりませんが、たぶん今、一番働いてるギルドもパーティーもあたし達です。貴方はあたし達にこれ以上何をしろと言うんですか? それこそ不眠不休で無報酬で働けと言うんですか?」
最近組合近くのダンジョンに行ってないのは本当だ。それでも転移陣が各地にできたことで、暇があれば間引きをしには行っていた。そしてある程度、組合に素材は卸していたし、これ以上何をしろと言うのか。
「貴方達ならもっと沢山の人を救えるでしょ? それこそあの地下の安全圏で」
「その人たちの生活は誰が見るんですか? それこそあたし達に持ち出しで面倒を見ろと?」
「戦う手段を与えれば、みんなやる気になるでしょう? すでに戦える人ではなく」
「今、戦わない人はそれを選択した人がほとんどです。戦い手を増やすため、兄は他のギルドにもあたし達の訓練方法やこうして間引きを見せてるんじゃないんですか?」
戦わないと選択した人が悪いとは言わない、けどそれをわざわざ育てるだけの時間は勿体なさすぎる。覚悟が違う、それはとても大きなことだ。
「貴方には貴方の理想があるかと思います、それを他人に押し付けるのはどうかと思うんですが?」
つい本音が漏れてしまった。若い、とは思う。だからこそ青臭い理想論を持っていてもいいんだろう。だからと言ってそれをこちらに押し付けるのはどうかと思う。
「貴方はあの地下の安全圏で暮らしてるから何も思わないんです、今も地上で困ってる子供や女性は沢山います、傷つけられ虐げられてる人が」
「その言葉撤回してください! この方たちはそれをわかって、今も胸を痛めてできることを考えてくれています!」
突然、大きな声を上げたのは梓ちゃんだった。その表情は真剣で、怒りと悔しさが見える。
「あたしはある男性グループに捕まっていたところを助けて頂きました。皆さんはそんなあたしに心を砕いて、それ以上傷つけないように注意を払いながら接してくれました。その時できることをして頂きました。そして今も孤児をこうして雇い、孤児院に寄付や学びの場を与え、女性が安全に探索者として学べる場まで考えたのはこの方達です。これ以上この方たちを貶めるような発言はやめてください」
どれだけの感情でその言葉を言ってくれたんだろうか、その瞳から大粒の涙が零れた。あたしは考えるより先に体が動き、梓ちゃんを抱きしめた。
「別に気にせんでいいのに、あたしらは大丈夫やで」
「駄目です、絵里子さん達のおかげで今あたしは笑ってられます。強くなれました。何も返せていないのに、あたし達のせいであんなふうに言われるだなんて」
「ありがとうな、ほんまにありがとうな」
腕の中で頭を振り、駄目だと言う梓ちゃん。辛いことをわざわざ言って、あたし達を守ろうとしてくれた梓ちゃんにただ胸が苦しくなる。あたしは抱きしめその背を撫ぜることしかできない。
苛つくことではなかったが、こうしてあたし達のために胸を痛める存在に気付いてしまうとそうも言ってられない。それは梓ちゃんだけじゃなく、美沙希ちゃんや真翔君も同じようで時宗さんを睨みつけている。
「他からどう見えてるかなんて知りません、俺らは俺らのできることしてます。ただこれ以上は貴方達ギルドとは関わらないほうが良いようですね」
「お兄はなんでそんな奴ら選んだん?」
「若いからこそ未来を見たら強くなってほしかったからな、現実見たら少しは変わると思ってたんや」
「青臭いのは簡単に変わらんよ、他力本願で自分で考えれん奴なんて」
お姉の冷たい言葉が響く、それに反応したのは時宗さんだ。
「俺達が他力本願だと言うんですか?」
「じゃああんたら何してんの? 誰助けてんの? どんだけダンジョン入ってんの? 生産は? 組合に貢献は? 死ぬ気でやれば自分らでもできること、できそうな人がやるべきやってあほなこと言ってるって自覚ないん?」
お姉の冷めた目が突き刺さる。極論ではあるが間違ってはいない。人にやらせようとする前に自分達ではないのか。
「できるとかできないじゃなくて、やろうともしてないのに人にやれってよく言えるよね? 若いからって許されんの? 無責任もいいとこやと思うんやけど?」
「それ以上追い詰めんでもいいやろ」
「勘違いしてる若造を正すのが大人の仕事やろ? それに梓やみんな傷つけた罪は重いんよ」
止めるあたしを聞かずに、お姉は時宗さんから視線を外さない。お姉もみんな可愛がっているからなあ。
「それに心痛んだ絵里子もあるから」
「恵子さんだからなあ」
そこは言わないのが正解ですよ拓斗さん、秀嗣さんも納得しないで。
「それで、あんたらはそれだけ大層なもん人に要求して、何してんの? 早く教えてよ、なあ」
お姉の言葉の温度が低くなる。それは返って来ない言葉に苛立ちが募るからか、それとも我慢をしなくなったのか。
「何も言えへんてそうゆうことやろ? 勝手に人に夢見てやるのが正義ってあほやん。世の中、善人悪人色々おって、あたしらにも守りたいものがある。それ優先して何が悪い? あんたらかて自分らでギルド作って自分らの生活ままならしてるんやろ? その金どっかに寄付でもしてから言いよ」
視線を逸らし返す言葉がないと言うことは、寄付すらしていないと言うことか。そりゃ何も言えないわなと、あたしは小さく溜息を吐いた。
「間引き見てもらったけど、ダンジョン中はあんなもんやないねん。氾濫を押さえるギルドは伊達やない。それについてきてくれる奴じゃないと俺らのギルメンにはなれんし、だから俺はメンバーを守り、生活を見る責任がある。辛い仕事させる分だけいい生活させてやりたいとも思ってる。そしてあまった余裕で他やと考えてる。それが俺の優先順位で大事なことや」
「あの魔導具などはメンバーの生活を考えてですか?」
白前さんが手を上げ聞いてきた。
「自分らが便利やからって物もありますが、ある程度メンバー用にカスタマイズしてるもんもありますよ。特に女性は寒がりやったりしますし」
「メンバー毎に変えるんですか?」
「全部じゃないけど要望があれば、できる範囲でですね。生産職に任せることもありますし」
白前さんと大道さんが驚いた顔をしている。
「それだけほんまにきついことやらせてるんは知ってますし、休む時ぐらいはちゃんと休ませたいじゃないですか」
少し恥ずかしそうに言うお兄ちゃんの本音、けど大事なことです。
「俺らは素材集めから生産まで自分らでできるんで、それだけの余裕がありますから、だからできることではありますよ」
「あの、もしあのテントを買わせて頂くとしたらいくらになるんでしょうか?」
「私の所もテントとあの外で使えるコンロを」
「あー、組合通さんでも大丈夫やんな」
「大丈夫です」
「なら戦乙女と下克上さんはこれからも長い付き合いなりそうですし考えてみます、ただ正式な話は戻ってからにしましょ」
「そうですね、すいません」
「気持ちはわかりますから、メンバーのことを思えば」
お兄ちゃんの言葉に照れた二人は、本当にギルドのことを考えているんだろう。ただ一人時宗さんだけが悔しそうに顔を歪ませていた。
「家のギルマスが、先ほどから大変失礼な言動、申し訳ありませんでした」
急に大きな声を上げ、頭を下げたのは時宗さんの横に座る青年だ。それを慌てたように止める時宗さん。
「やめろよ!」
「謝れるときにちゃんと謝るべきだ、お前ももうわかってるんだろ」
青年の目が真剣に時宗さんを見て、お兄ちゃんに向きまた頭を下げる。
「本当に先ほどからすいません、尚成は、家のギルマスは元々貴方達パーティーに憧れていたんですが、表にあまり出てこなくなり拗らせてしまいました」
その言葉を正しく理解できたメンバーは、あたし達にはいないだろう。なのになぜかあたしの中では腑に落ちてしまった。
「たぶん皆さんがギルド作ったり、遠くに遠征行ったりするようなったことで、俺ら普通の探索者には何してるかわからなくなりまして、憧れが強かった分、裏切られたような気持ちになったのかと」
「子供か、俺らは戦隊物のヒーローでもなんでもないわ」
「はい、その通りだと今なら思えます。ただ俺も貴方達の噂をよく聞いていた時は勘違いしそうになってましたが」
どこか恥ずかしそうに言う青年に嘘はなく、本音なんだろう。
「こうして間近で見せて頂いて、メンバーからの話を聞かせて頂いて、ようやく理解できたことや正しい尊敬をできるパーティーだと気づかされました。できればこれからも銀の矢を見捨てずにお付き合いいただきたいです」
頭を下げる青年にお兄ちゃんの溜息が出る。慌てて青年を起こそうとする時宗さんの姿が、どこか恥ずかしそうな微笑ましい物に見えた。
「お宅のギルマス、納得できてないみたいやけど?」
「させます、こいつも本当はわかってるのを意地張ってるだけなんで」
「その感じやと、友達で作ったギルドか」
「そうです、ギルマスって言ってもそんな権力何もないので」
はっきり言った青年に、小さく笑ってしまった。
知らないからこそ憧れ期待し、そして勝手に裏切られた気になった青年達。あたしは仕方ないんじゃないかな、と他人事のように思う。
「絵里子、どない思う」
お兄ちゃんの目があたしに向いて、メンバー達はどこか諦めた顔したけど正しいと思うよ。
「すぐ信用は無理でも強くなってほしいのはほんまやし、いいんちゃう許したったら。ただ次、家のメンバー傷つけるようなこと言うならそん時は付き合い止めたら」
「だ、そうや。お宅ら、何歳の集まりなん?」
「十八と十九です、友達や同級生でギルドにしたんで」
「そりゃ確かに若いことで。そうゆうことや信也」
信也さんの深い溜息が聞こえる。そりゃそうだ、ここからは丸投げだとわかっているからだ。
「そいつらも明日連れてくの?」
「あーどうします? ダンジョン見学行きます?」
「行かせてください」
「ならギルマス含め、メンバーにはしっかり言い聞かせて下さいね」
お兄ちゃんの笑顔の脅し、これはしっかり届いただろう。
「サブマスしっかりしてるし、根性拾ってやってもいいやろ? 若いからって理由は好きやないけど、この場で頭下げたのは英断やと認めてやるべきや」
「そうなると思ってた。ただ明日はギルド関係なく二つに分けてダンジョン入ってもらうよ、戦力や行動考えて」
「方針とやり方はお前らで決めていい、明日は俺らもそれに従うから」
「うわ、出たよギルマスの隠れ試験」
「見学者に怪我させるなってことですよね」
「感情は置いといて、もう一度考えましょうか」
すっかり一軍もこのギルドに慣れ、お兄ちゃんの思考を読むようになりましたね。お兄ちゃんも笑ってるし間違ってないんだろう。




