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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
一章 閉じ込められたのダンション
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新たな出会い



「人って、生き物に命をもらって生きてるんだなー」


 ぽつり出た言葉は緊張からだろうか。これからやることに乗り気になれないのは、あたしの感覚ではどこか仕方がないこと。

 それでも生き抜くと決めたからには、気を緩めるきはない。



 水は邪魔になるからとオブジェのところに置いてきた。減ったとはいえ、あんな重い物ずっと持って歩くとか負担でしかない。


 変わりに手にあるのは、薄いカーディガンの袖口を一つに括ったさっきまで着ていた自前の物。さすがに武器も何もなく、運だけであの鼠を毎回倒せるほどあたしの能力に期待できるわけもない。中年ですし。


 前回はたまたま運よく腕が当たったけど、毎回当たるわけもない。なら動きを封じればいいかと考えた。

 飛び掛かってきたらこのカーディガンを投げるのだ、マタドーラよろしく。化学繊維の強度に期待しかしていない作戦。


 あとは蹴る。踏むのは色々躊躇われるから絶対にしたくない。

 カーディガンはもう本来の目的では使えなくなるけど、自分の命のほうが優先。



 前回の反省点をいかし耳を澄まし、注意深く周りを見ながら進んでく。

 自然と呼吸が荒くなりそうなのを何とか抑え、さっき鼠と出会ったところまできたとき、微かにズリ…、ズリ…、と何か這うような音が聞こえてきた。


 一瞬息を止めてしまうが、あたしがやることは決まっている。カーディガンを広げるように持つと、音がなるほうを凝視した。




 喉が鳴りそうになるのを我慢しながら、両手を広げてたぶん三分は経つんじゃないかな? まだ鼠は見えてこない。

 音は変わらず奥からズリ…、ズリ…、と聞こえては来るけど姿は全く見えてこない。 


 このままじゃ焦れるを越して脱力しそうだ。近づくべき? でも危険だし。音からして怪我してる? でも、もしそうじゃなかったら。


 頭の中でぐるぐると、前回の鬼気迫る鼠の姿が浮かぶ。


「けど、やるって決めたんだ」


 決意を込めて小さく呟くと、音を立てないようにすり足で音へと近づいて行った、両手は広げたまま。


 すり足で時間がかかったが見えてきた。鼠とは違うと思われるその姿に緊張を解きそうになるが、なんとか堪えて観察してみる。


 動きは遅いがゆっくりとゆっくりとあたしへ近づいてるようにも見えるそれ。試しに通路の左右へ体を寄せるとそれも方向を変えてるようだ。やっぱり遅いけど。


 まだ数m距離があるそれは、緑色のプルンとした体を揺らし、頑張ってあたしに向かってくるだけ。


 俗にいう『スライム』だ。


 初めて見たよ本物のスライム、緑なんだ。そんな馬鹿な事が浮かぶぐらいには鼠の時と違って拍子抜けしてしまった。本物の生きてるスライムなんて見たことある人いるわけないでしょうに。


 けどスライムってことは、あれも倒すべきモンスターなんだよね? 攻撃してくるってことだよね?

 しかたなし、あたしはスライムに一mほどまで近づいていく。いつ攻撃がきても逃げれる態勢は忘れない。



 どこからどう見てもスライムだ。ゲル状ではなく、色を除けば水まんじゅうのようにプルンとしていて、すべすべと手触りよさそうに見える。中心部が色が濃くなってるようだ。


 さぁここからどうしようか。鼠と違って危機感を感じずにやりにくい。なんて考えていると、スライムが二十cmほどの体をプルプルと揺らし始めプシュッと何かを吐き出した。

 それはあたしに掛かることなく、スライムから三十センチほど離れた地面に落ちるとじゅっ。と音と共に煙が上がった。


 一拍の間を開け、スライムは攻撃が当たらなかったと確認できたのか、またあたしに近づこうとその体を動かし始める。

 一歩下がってスライムと距離を取る。前言撤回、スライムは危険モンスターです。



 今のは酸攻撃かな? あの体、酸でできてたりするんだろうか? でも這っている地面が溶けているようには見えない。

 とりあえず怖いからカーディガンはなしの方向で、鼠用と考えよう。


 スライムは動きはゆっくりだし、あの攻撃も近づかなきゃそんなに怖くないかも。何より生き物っぽくなくて鼠よりは精神的にこない気がする。

 それにやるってことはやられる覚悟があるはずだ。こんなところにいるんだし。



 あたしは再度スライムに近づく。さっきのように酸を吐かせたら一瞬止まるはずだ、その隙にやろう。

 やっぱりスライムは一mほどになると酸を吐き出して止まった。あたしはその隙に酸を踏まないようにスライムに近づくと、思い切り足を蹴り出した。


 感触が柔らかいあたりを感じるとスライムは歪みながら飛び、跳ね返ることなく壁にべちょりと広がるとそのままずるずると地面に落ちた。

 粘度のある液体のように地面に広がりながらフルフルと弱く震え、中心の五cmほどの濃いプチスライムみたいなところに集まろうとしてるみたい。


 あたしはそのプチスライムに勢いよく足を下ろし踏みつけた。ぷちっとした感触、その瞬間スライムは液体状になり水たまりとなって動かなくなった。



 終わったのかな、恐る恐る足を持ち上げる。スニーカーに特に溶けているところは見られない。

 安堵の吐息が漏れる。あたしはあとどれだけこんなことをするんだろう。


 生きてるのかよくわからない生き物だったけど、あの酸にあたっていたら大怪我ではすまなかった。

 鼠にしても今回にしても運がよかったんだろう。他にどんな生き物がいるかわからない、気を引き締めなくては。


 そんな気持ちからスライムを見る。ただの水溜りにしか見えないけど、あたしはしゃがみ手を合わせる。成仏してくださいでいいのかな? そんなことを思いながら目を開けると、水溜りの中心で何かが煌めいた。


 指を伸ばし掴み上げる、スニーカーが溶けていなかったし大丈夫だろう。

 持ち上げてもそれは濡れている様子もなくきらきらとし、小指の先程度の小さな石。

 石など詳しくないが何か宝石かな? 王道スライムが落としたものだ、ファンタジーならやっぱり魔石かな?

 そんな考えに笑いが零れた。


 とりあえず綺麗だし持って行こう。懐中時計とは逆のポッケヘ入れ、あたしは最初の予定通りにいったんオブジェの部屋に戻ることにする。ポイントが入っているのか確認しなければ。



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― 新着の感想 ―
[気になる点]  はじめまして。面白くて四、五話まで一気に読んでしまいました。僭越ながら一言二言申します。  タイトルのせいか、あまりの低評価に涙が出そうです。せめてサブタイトルとして「押入れを開け…
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