あり得ない
次の日もダンジョンの探索だ。ギルドメンバーは組合職員を連れて行く班もあるらしいが、頑張って頂きたい。それに知らない間に魔法地図もいくつか見つけていたみたいで、これなら迷子になることもないだろ。
食事は裏方がしてくれることになったので、あたしは食料や総菜を渡しておいた。
朝ご飯を食べに行ったら、昼用のお弁当まで準備されてて有難かったです。
一応ギルドメンバー達にも、最速での階段までとボス部屋までの道を教えたらしいが、今回のメンバーの仕事は、間引きだとわかってるから無茶はしないだろう。あたし達の目的は、一軍はもう聞いてるだろうし。
「ほな、俺らは行こか」
ご飯も終わって早々にお兄ちゃんが言う。ポーチの確認も終わってるし、あたしも立ち上がりダンジョンへ向かう。
「六階からどうしよか?」
「行けるとこまで昨日と同じ手、ってのもあるよな」
「あたしもなんか出そか?」
あたしが出したほうが自由意志が強く動かしやすい。それを考えたら便利なはずだ。
「今回は急ぎたいしそうするか。わんこ出せるか?」
「くーちゃんとしーちゃんな」
ダンジョンの階段を下り切って、転移陣へ移動する。すぐに五階と六階の階段途中に出て、あたしは二頭の大きな狼を魔法で作り出す。暇な時間に頑張って改良したんですよ。
「なあ、あれなんなん?」
「改良したくーちゃんとしーちゃん」
相変わらず綺麗な毛並みの大きな黒と白の狼は、嬉しそうに尻尾を振ってあたしに擦り寄ってくる。
くーちゃんは雷を、しーちゃんは氷を纏い、その力を増している。
「もう規格外は知ってた。ならさっさと六階も走るぞ、恵子も早く強いのと戦いたかったら道を指示出せ」
今回もお姉の野生の勘頼りの作戦だ。くーちゃんとしーちゃんのおかげでかなり楽はできそうだけど。
走り出して、横から出てきた魔物だけを倒す。そう強くはないので走る速度が落ちることはない。これならばうまく階段さえ見つけられれば、十階ボスも軽々終わるかもしれない。
本来のダンジョン探索は、こんなんじゃなかったはずだよね。そう思いながらもすでに九階が終わり、まだ午前中。
あり得ないのに、お姉の道選びはほぼ正しく、最短距離を選び出し、今は下り階段の途中で少し早いお昼休憩だ。
「これ、探索とは言えんよね」
「それな、けど最奥まで行くなら便利やけど」
「俺達はほぼ走ってるだけで、何もしてないがな」
あたしは一応くーちゃんとしーちゃん出しているが、後のみんなはほぼ走ってるだけ。ときたま横からの魔物を倒すとは言え、走る速さを考えればそんなに多くない。
「十階ボス、絵里子は見学な」
「なんでよ?」
「わんこの倒したのが、お前が倒したことなるやろ」
確かにそうなんですけど、だってあたしの魔法だもん。
「けどお兄ちゃんと胡堂、昨日はボス戦やってたやん」
「それはそれ、これはこれや」
横暴だと抗議したところで聞いてはくれず、さっさと飯を食えと怒られた。ひどくないだろうか?
時間的にもまだかなり早いし、お兄ちゃんは今日は何階まで行く気なんだろう。道さえ当たれば、十五階を目指すんだろうか?
十階のボスはゴブリン祭り。ホブゴブリンを中心にメイジや弓防具と、武器を持ったゴブリン達が十一匹出てきた。それを一瞬で蹴散らして次の階に下りてい。
一応宝箱も出たがそういい物でもなく、ギルドハウスの倉庫にでも入れとく気だろう。
そのまま十一階の探索が始まり、またくーちゃんとしーちゃんを呼び出し進んで行く。
さすがに十階はから魔物の強さが少し変わるが、困ることもない。
「適正な階ってどこやろ?」
「さあなあ、ダンジョンによっても強さは違うし、考えるだけ無駄ちゃう?」
「ただ探索と言うよりは、マラソンのようだがな」
秀嗣さんの言葉に大きく頷いて、あたしと拓斗は笑った。ほぼ走ってるだけだし。特にあたしを挟んで二人がいるから、余計にそうだ。
「それでもできたら、十五階は終らしたいね」
「また十階から下りのもだるいからな」
ただいま十三階。欲望に忠実なお姉の勘は、見事にこの迷路のようなダンジョンの階段を探り当て、次々に階下に下りていく。
転移陣はボスを倒すごとに五階ずつ出てくるから、できれば十五階のボスを終わらせて、明日に繋げたいところだ。
「ダンジョンて、こんな無理矢理に進めるもんやったんやなあ」
出てきた十四階への下り階段で、小休止と言われ飲み物を取りながらぽつりと漏れた。
「お前も似たようなことできるやん」
「ここまで、お姉ほどは無理やし、迷いが出るもん」
全く迷いなく道を指し示すお姉。それは強いものを求めて戦いたいという現れだ。
「自分の姉ながら、マジで怖いわ」
「恵子さんやからなあ」
「その一言で終わるのもどうかと思うが、同感だな」
お姉のおかげでここまで楽しているのは本当だ。次のボスはあたしも少し頑張ることにしますかと立ち上がりる。
相変わらずしーちゃんとくーちゃんを先頭に走り抜ける。魔物とちゃんと戦ってないから、ダンジョン探索な気がしないが。ダンジョンだよな、と思いながら。
ときたまお兄ちゃんと智さん、それに拓斗は倒された魔物を拾っているから、珍しい物でもいたんだろう。あたしにはよくわからないけど。
それでも辿り着いたレリーフの扉前、ここで少しの休憩だと結界石とポーション(微)を使い体力を回復させておく。
「くーちゃんとしーちゃんはどうする?」
「消していいで、数に組み込まれても嫌やし」
ボス部屋の人のカウント方法がわからないし、確かになとあたしはその頭を撫ぜて自分の魔力に戻しておく。思った以上に戻って来た魔力に驚いたが、ボス戦と考えればありたいことだろう。
「ほな、そろそろ行こか」
お兄ちゃんの合図でみんながレリーフの扉の前に立つ。ゆっくり開かれたそれは、円形の闘技場のような場所。
全員が中に入れば扉は閉まり、あたし達を囲むように六個の白い光。
「少なくない?」
「おかしいな、気をつけろよ」
お姉とお兄ちゃんの言葉通り、警戒が増す。出てきたのはウルフ系ばかりだ。
「地中から変な気配する!」
すぐに飛び掛かって来たウルフをあたしは躱し、その気配を辿る。なんだこれ? と思うのにそれは、地中を回る様にして徐々に上がってきている。
「のり君、前にダッシュ!」
あたしの言葉で慌てて前に転がるよにのり君が動く。さっきまでのり君が立っていたそこに、大きな口を開けた気持ちの悪い生き物が土の中から出てきた。
「あれ、ワームでいいんか?」
「ワーム?」
「ゲームで言うとな。わかりやすく言うと、でかいミミズみたいなん」
拓斗の説明を聞き、とりあえず気持ち悪いとあたしの感想。その間にワームはまた地中に潜る。
「全員止まらんように、とりあえずウルフ先行して倒せ。魔法を使う場合も止まるなよ」
止まればワームの的になる。のり君が一番辛そうだが、頑張ってもらうしかないだろう。
「地下の気配は何匹や?」
「たぶん二、いや三匹っぽい」
ウルフを倒そうと足を止めると、すぐにワームの気配が迫って来る。これは面倒臭いなと、あたしは自分を囮にするため、あえて立ち止まり魔力を練り上げていく。それにすぐ気付いてくれる拓斗と秀嗣さん。
ワームが地表ぎりぎり辺りであたしは高く飛び上がり、その口を避ける。すぐに秀嗣さんが突き刺し地上に止め、拓斗が切りつけ何とか一匹。
そうこうしてればウルフの数は減った。
「絵里子らはワームな」
お兄ちゃんの指示であたしはまた走り、ウルフから遠い場所で気配を探る。タイミングを合わせて飛び上がれば、見事に二匹釣れました。上から見ると奥までギザギザとした歯が有り、本当に気持ち悪いので、本当に勘弁してください。
なんとか一匹は拓斗と秀嗣さんで倒して、もう一匹にあたしは魔法を叩き込む。火の刃はワームの体を焼き切っていく。
「うっし、こんなもんか」
新しい魔物素材に嬉しそうなお兄ちゃん。あたしとしてはあれをまた相手にはしてくない。
「しかしこの階は、メンバーによっては厳しいですね」
「気配をしっかり読める奴がおらな無理ちゃう?」
ギルドメンバーの中でも、行ける人は限られてくるだろう。そうなるとみんなは十五階までで、間引きと素材集めとなってしまうか。
「まあ今日の所はこれで上ろか。明日は十六階やし、さすがに今までのペースでは無理やろうな」
二日で十五階ボス、普通に考えたらあり得ない速さだと思いますよ。
地上に戻り、組合職員さんに新しい魔物とワームを渡し確認してもらう。それと情報もしっかり伝えて危険なことも。
ギルドメンバーには一先ず、十五階ボス前までの許可になった。みんなの目的は間引きですし、最下層に行かなければならないわけじゃない。
一軍を集め後でお兄ちゃんが説明するだろうから、あたしはさっさとシャワーを浴びて用意されていた食事を終わらせた。
明日からは本格的な探索になる、今日は早めに寝ようと車に戻り眠りについた。




