意外な反応
一先ずはこんなところだろうか。急にこんな話をしてもみんなもわけがわからなくなるだろうし、あたしとしても説明しきれない部分は多々ある。
「絵里子、あれ渡したれ」
お兄ちゃんの言葉で、六個のバングルを取り出して机に置く。デザインはお兄ちゃん達に渡したものに近いが少し変え、ただ腕を一周するタイプでなく填めるだけのもの。
「一軍にはこれ渡しておく。頭で俺らと会話可能な優れもの。ただし俺らに居場所もばれるもんやから、いるんなら自分の魔力を入れて使え」
「拒否権はあるんだ」
「そりゃプライバシーは考慮するわ。ギルドとしてはもう逃げられへんし」
そう言いながらもさっさと手を伸ばし、バングルを持つと魔力を込め本人登録してしまう信也さん。そしてすぐにお兄ちゃんに意識を繋いで確認している。
「これ面白いね、姫様製?」
「そうやで、あたしが作るとちょっと変わった物が多いから、表に出しにくいねん」
「それは魔力登録した本人しか使えんけど、俺から一軍に渡したって言えよ」
紫藤さんが目を輝かせて、バングルを様々な角度から見ては喜んでいる。けどたぶん、あなたには作れないと思います。
「奇跡のポーションも、そうゆうことですか?」
「そうやね、やから生産をあたしが指導するわけには行かんねん」
「知った俺なら、いいですか?」
「地下にはだいたい誰かおるからあかん。どこで漏れるかわからんからな」
お兄ちゃんの言葉に、紫藤さんが思い出したように頷いた。
「このギルドの最重要機密は絵里子や。絵里子が居るからこの場もある。神はぶっちゃけ人なんてどうでもいいと思ってる存在や、絵里子がおるから人が生きていけてる可能性があるぐらいに」
「神は姫様を誘蛾灯と言い、様々なものを呼ぶと言いました。それは力だけでなく、良縁悪縁嫉妬や妬み。我々はだからこそ覚悟が必要です」
お兄ちゃんと智さんの言葉に、六人の顔つきは変わりしっかりと頷いた。その姿にどこか、巻き込んでいると思っている自分が顔を覗かせる。
みんな自分のバングルに本人登録を終わらせて、しっかり身に着けてくれ、後は使い方は徐々に慣れてくれればいいし、少しでもみんなの守りになればいい。
「んじゃ、こっからは今のところの要注意人物な。国関係も注意は必要やがほぼ瓦礫や。そんなもんより隊の生き残りや逃げた人たち」
「姫様の家を知ってる人ってことだよね?」
「もうあそこから来れる人はおらんはずや。ただ安全圏と知って接触してくる人はおると思う」
「メンバーを連れて地上に行くときは注意ってことだね」
「研修で学校に行く奴もおると思うから、地下でも注意が必要や」
この間ここに来た人の中でも、研修を選んだ人もいる。すでに地下に来ているだろう。どこで接触してくるかわからない。
「たとえ秀嗣の名前出されても通すな」
「それなら俺の名前でも、絶対に特別扱いしないでください」
「妹だっけ?」
「半分な、けど俺としては嫌いだから」
「野々原さんやったっけ、あの人は要注意しといてくれ。恵子が言うに」
「絵里子に嫌な視線寄こしてる」
「だそうやから、近づけると恵子が暴走すると思っといて」
その説明もどうかと思うが、間違ってはいないか。それと後は。
「南錠さん。夜に来てた人おるやろ、あの人は何より要注意で」
「特に知らん三軍辺り、まだ騙されそうなんおるし、その辺りの注意も頼むわ」
「聞いたからにはやるしかないけど、丸投げだよね?」
「それが一軍やん? わかってたことやろ」
聞いていても聞いてなくても、結果は同じだったと言うことだ。
「他にも色々と聞きたいことが後から出てくるとは思う。お前らは三階上がって来れるし、なんやったら聞きに来い」
「我々で答えられることは答えます。ただ自分たちで話し合うときには、周囲にだけ気を付けてください」
「最悪、俺らは奥で籠城する。それが嫌ならまあ頑張れ」
お兄ちゃんのどこか軽く、本気でないような言葉。けどそれを誰より本気で口にしてる。
本殿とその裏さえあれば転移陣もあるし、あたし達は好きに動き好きに過ごすことができる。二度と人と関わることなく、生きていける。
「まるで天岩戸だね、閉じられないように俺達にしっかりしろってことでしょ?」
「俺もできたら閉じ籠りたいわけちゃうしな」
「姫様だけでも閉じ籠っちゃ意味ないよ」
何人かが面白がって笑う。けど、あたしはどこか笑えなかった。
「今のところ閉じ籠る気はないよ、ただあたしに関しては常に、可能性は有ると思っててほしい」
意外なほどに静かに響いた声。それはあたしが真剣だったからだろうか。
「姫巫女はさっきも言ったとおりに、今も主神が気にする存在。あたしの興味あるものやあたしの感情を読み取る存在。人に絶望する前に、あたしは閉じ籠ることを選ぶと思う」
もしあたしが全てに嫌気が差したら、もし身内が人に殺されたら、きっとこの星は恐ろしいことになる気がする。そうなる前にあたしは、自分を封じてしまいたい。
「あたしに関わると神の興味を引く、そのほんまの意味を伝えるのは難しいけど、忘れんといてほしい」
きっと今この時ですら、宵闇は笑って見ていることだろう。新しい玩具が増えたと喜ぶように。それをわかって、それでもあたしはお兄ちゃんに委ねた。だからこそあたしが言うべきことは、これだけ。
「人知を超えたものを想像するのは難しい、そしてその影響も。だからこそ常々、考えていてほしい」
あたしに近くなればなるだけ、宵闇の興味をひいてしまう。それが意味するのは人知を超えたものだけで、人と言う小さな者には想像もつかないことばかり。
「その言い方だと、考えたうえで覚悟すれば、姫様に近づいていいってことだよね?」
何とか視線を下げることなく言い切れば、返って来たの緩い信也さんの言葉。
「その自己解釈、すげえな信也」
「けど間違ってなくない? ダンジョンがあって魔物がいる、もう十分、人知も想像も超えてるし」
「そうやけどさあ」
笑い信也さんと話す拓斗の姿に、あたしの真剣さはどこ行った。
「まあ信也の言うことも、間違ってるわけじゃない。後は本人達次第やな」
「そうですねえ、生半可に家の姫様に近づけると思ってほしくはありませんし」
「あたしに勝ってから絵里子に近づいて」
うん、何の話してたかあたしがわからなくなりそうだ。けどみんなわかってないわけじゃないだろうに、それでも笑うからもういいか。
「まだ話終わってないから、遊んでないでちゃんと聞けよー」
お兄ちゃんの仕切り直しで、みんなの視線がお兄ちゃんに向いた。それを確認して口を開く。
「もうしばらく様子を見てからやけど、この間の人たちから何人かスカウトするつもりや。だからって優遇措置する気もないし、まずお試しで正規にする」
「実戦経験が豊富な人が必要になるってこと?」
「信也は話早くて有難いな。しばらく俺ら、一つのダンジョンに絞って攻略する気や」
「まだ場所も決めてませんし、深さもわかりませんので、期限もわかりません」
「大仲さんは残るし、念話も可能になったから何とかなるやろ?」
緩い、緩すぎるよお兄ちゃん。
「まあたまには戻ってくると思うけど、こっちに顔出せるかはわからん。緊急時には戻るつもりではおるけど、こっちも何があるかわからんからな」
ダンジョンの最奥がどこかもわからずに、核が本当にあるかもわからない。魔物の強さも何もわからないまま、それでも可能性に賭けてあたし達は決めた。
「それ、俺達も手伝えないの?」
「その間の組合依頼やギルドの管理、境内前の管理、誰がすんねん」
「全員じゃないにしろ、一グループだけとかなら何とかなるんじゃないですか?」
「え? お前らもやりたいん?」
「できればやらせてほしいです」
真剣な声を出した清水さんに驚きながらも、それはみんなも同じようだった。
「裏方として支援したいです。ただ確かにギルド管理も考えると裏方は厳しいですかね?」
「皐月さんまでか。ただ裏方は人数も少ないし無理やな。探索者は人員増やしてどうなるか、それと組合との話し合いか」
今も組合から依頼がないわけではない。たいていが魔物素材を頼まれるぐらいだけど、大事な仕事ではある。
「まあまだ時間あるし考えてはみるわ」




