ネタばらし
夜に念話で呼ばれ、ギルドマスター部屋にみんなで移動することに。
「お姉は別にいいねんで」
「絵里子が行くなら行くー」
「のり君ごめんな」
「俺も気になるし、気にせんで」
拓斗と秀嗣さんは、あたしが行くなら決定しているようなものだし、あたしは目の前の扉を、いつもより重い気持ちでノックした。
中にはもう六人が揃っていて、紫藤さんはなんとなくわかっているんだろう。柏原さんと清水さんは呼び出された理由もわからずに、少し緊張気味だ。
あたしとお姉はソファーに座り、拓斗はいつも通りあたし側のひじ掛けに、秀嗣さんとのり君はそれぞれ後ろに立つようだ。
「まあ人数多いけど、我慢したって」
智さんが淹れてくれたのはホットチョコレートで、あたしが緊張していると心配してくれての事だろう。
「まず一軍に聞きたいのは、俺らの最大で重要な秘密、知りたいか?」
「なに当たり前のこと言ってるの?」
「それ聞いたらお前ら、何があっても俺らの下から抜けさすことはできん。抜けるときは命ないと思え」
いつもより低くしたお兄ちゃんの声。普段、本人が忘れがちだが、元は国家重要機密で、世界に例のないただ一つの存在だ。
それでもその脅しに顔色を変える者は誰も居なくて、信也さんがみんなを代弁するように、いつもののんびりした口調で言う。
「元々俺は骨を埋める気だし、他もそうだと思うよ?」
そう言ってみんなを見れば強い目で頷いて、誰も反対意見は出てこなかった。
「ならまたこれ書いてくれ。内容は簡潔やけど破れば死ぬ。簡単やろ?」
配られた契約書。あたしは内容を知らないけれど、紙もインクもあたしが作った物だ。そして智さんがサインされたそれを集め、あたしに渡す。
「ほんまに、いいねんな?」
「うん」
緊張しているあたしと違い、信也さんは気楽に頷く。あたしはそれに一つ息を吐いて、契約書に魔力を注ぎ締結させた。
「これで神との契約は成立した。あたしが説明していいの?」
「ええで、お前が一番わかってるやろうし」
お兄ちゃんの許可を得て、あたしは思いだすように視線を上げた。あれは母の四十九日も終わった春先の、まだ肌寒い頃だったな。
始まりは家の押し入れと言う、なんだか情けないもの。それを下れば閉じ込められて、武器も何もなく魔物を倒し、ダンジョンを進み、浮かんだ家族の顔だけを心の支えに、ダンジョンをクリアした。
そして諸悪の根源、神と出会った。
この神がまた意味不明の変態で、最初はただの巫女として唯一のものとして選ばれた。
約三ヶ月後にはダンジョンができると、その時に初めて知った。
そしてようやく家に帰り、まずは三人に説明したんだ。
すぐに信じれるものではないが、それでも現実にある洞窟と地下の広間、お兄ちゃんが色々検証を始めて、そこからは四人レベルを上げ生産をして、最初は国に家も自由も奪われないために頑張っていた。
お兄ちゃん達が神職になったのは、あたしを思ってのこと。そしてあたしは姫巫女に変わり、場は神社になった。
そこから拓斗やたっちゃん夫婦、健也君や秀嗣さんと戸上さん。そして国に伝え、智さんとも出会った。
「この神ってのがまたいい加減で、最上位がこの星では宵闇って言うねんけど、思ったよりダンジョンも魔物も増えそうやから神職増やすわって、何もできへん力も格もない神職増やしてあの会見」
「俺見た、あれ見て神職って意味ねえなって思った」
「俺らもあれ出てほしい言われたけど、全員で断った」
「ちゃんと説明責任果たしてたし、ここのダンジョンは国が使えるようにしてたし」
「そうですね、思い出すだけでも腹ただしい国の対応でした」
元国側の智さんがそれ言っちゃいますか。
「そっからはダンジョンできて、魔物が溢れて、こりゃやばそうだって、隊員さん達に物資支援したり、組合を作るんにお兄ちゃんが裏で噛んだり」
「そう考えると、色々あったなあ」
しみじみとあたしも思ってしまう。お母さんの一周忌どころの話じゃなくなったなあ。
「質問があるんだけど、姫様がその宵闇?様から貰った物って、なんなの?」
「あのあほみたいな装備と武器、あと指輪に、それにこの場と加護やね」
「寵愛もやろ。けど逆に面倒な事ばっか招いてるけどな」
「ほんまにそう思う、ぶっちゃけ戦闘も魔力操作もほんまに自分で努力してきたし、最初の頃は睡眠時間削ってやってたし」
「ギルマス達も加護や寵愛が?」
「俺は職業が姫巫女補佐、望月様っちゅう主神補佐から加護と寵愛ついてる」
「あたしは副姫巫女、副神、十六夜様の加護と寵愛。もらった物は絵里子と同じ」
「智は俺の補佐で加護付いてるし、残り三人は守り手って職業で各自の神から加護が付いてる」
途中愚痴のような説明も入ったが気にせず進め、六人の様子を窺う。
ある程度わかっていた紫藤さんまで、驚きであたしを見ている。
「姫様はお一人で、あのダンジョンを?」
「閉じ込められてたし、まあ行くしかないよね」
「姫さんが最初の巫女ってこと?」
「まあそうなる」
「姫巫女としてできることって、何かあるの?」
聞かれるとは思っていた。どこまで言うべきかと一瞬お兄ちゃんを見てしまう。
「ぶっちゃけ俺らにも全部はわかってない。今わかってるのは魔力の質違いと特殊スキルやな」
「あ、そんなんあったな」
「恵子も真言あるやろ? たまには使え。俺は真眼、絵里子はその上位の神眼と神言や」
「そう言っても普段使ってないし、あたしが副姫巫女とか言われても困るもん」
あたしもそう使ってないけど、そこまで開き直れるお姉は凄いと思うよ。
「一応神眼は鑑定系やけど、普段はあんまり使ってない。それこそ頼りすぎるなってお兄ちゃんの教育方針で」
「魔力残量や気配、自然とわかるようならな危ないからな」
「じゃあ普段って、姫巫女として何してんの?」
驚きながらも言われた質問に、あたしが止まり首を傾げた。言われてみたら姫巫女として、何してる?
「何もしてないし、何も使ってない気するなあ」
「そうやな、ただ信也は気付いてるんやろ?」
お兄ちゃんの言葉で信也さんを見れば、その顔は確信していた。
「前に他国の神職が来たのって、姫様関係でしょ? 組合にも噛んでるなら」
「そうや、その辺りの権力関係も聞いとくか?」
頷く六人を見て、お兄ちゃんは口を開いた。
「まあ簡単に言うと、絵里子は安全圏を作れる。ただし条件やら縛りはあるが」
「それで他国の神職が来てたんだ」
「神さん達は、人間を減らす目的でダンジョンと魔物を作った。だからこの星全域に安全圏を広げることはできんし、全ての人を助けることもできん」
「だからこそ隠すし、だからこそ強くならなきゃいけなかったのか」
利用されることも、自由を奪われることも、誰かを取られることも嫌だった。ただそれだけのために、あたしはダンジョンに行き続け力を求めた。
「まあ予想以上に全方向に力を持つことなったけど、どこにも何も奪われる気はなかったからな」
今この世界で、あたし達に何かを言える人はほぼいない。力も生産も全て含め、組織としての強さもできた。
「絵里子は姫巫女として、今も神さんが気にする存在ではある。けど本人は全く持ってそれを有難みもせんし、なんなら」
「投げ捨てたいな」
お兄ちゃんが苦笑してあたしを見てくる。確かに感謝する部分もあるのはわかっているが、それでもそれ以上に面倒なのも本当だ。
「普段そう力を使ってるわけじゃないし、元々のもんか力なんかわからんけど、時々勘がいいだけやもん」
「まあこんな感じで絵里子でおることを望んでる、みんなもそのつもりでおって」




