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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
十六章 ダンジョンアタック

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あり得ないこと

 


 次の日からあたしも、転移陣の確認を手伝おうと思ってたら、お兄ちゃんに止められた。あたし一人では植物を育てられないし、意味がないと。


 そのことをすっかり忘れていたが、だったらお兄ちゃん達はどうなんだと聞けば、二人一組で動いているから時間がかかってると返された。


 転移先の状態もわからないし、植物に魔力を与えてる間の守りを考えてもそうしないと危険だ。六人でバランスよくできてるらしいし、腕輪のおかげでやる気溢れるお姉もいるし、あたしは素直に引き下がった。


 その代わりではないが、資料室に行く許可は貰えたので、みんなには悪いがのんびりとすることに決めた。



 みんなにはお弁当を渡し、午前中に家事も庭仕事も終わった。久々に拝殿から歩いてギルドハウスに向かう。中に入れば地下からも人の気配がして、三軍が頑張っているんだろうと思った。


 悪い空気も特になく、忙しそうに動いている裏方の挨拶を返しながら三階に向かう。まだ講師をしているう人もいるし、午前中は思ったよりもハウス内に人の気配は少なかった。


 資料室にも誰も居なくて、こうしてゆっくり本を読むのも久しぶりかもしれないと本を選び、いつも使っていた一人掛けのソファーに座り本を開き読み始める。


 ここは外の音がなく静かで、三階にはめったに人も来ないおかげですぐに没頭して本の世界に浸れるから好きだ。時折やって来るメンバーと話すのも悪くはないが、こう言った静かな時間もたまには嬉しい。



 そうしてどれぐらいの時間が経っただろう、気づけば昼も過ぎて、昼食は戻ろうかハウスで食べようか考えていたら違和感が走る。あたしはそれに気付くと走り出していた。


 ありえないことが起こった。わかるのはただそれだけ。すぐにお兄ちゃん達にも念話を送り、あたしはハウスを一気に駆け下り出ると、境内も駆け抜け門を開く。


 すでに異変に気付いたギルドメンバーや野次馬達が集まってきている。


「退いて!」


 その先が見えなくて、強く言葉にすればすぐに人垣が道を開ける。その奥には一軍たちがいて、武器を片手に警戒している姿。


「姫様! よかったっす、助けてくださーい」

「はあ? 戸上さん?」


 道ができあたしの姿が確認できた戸上さんが、泣きそうな声を上げる。その姿は以前より痩せ身なりもかなりぼろぼろだ。

 緊張して急いていた気持ちが脱力に変わる。あたしはすぐに近寄って、みんなに武器を下ろすように指示を出す。


「とりあえずちょっと待ってもらっていい、ゆっくり話聞くから」


 少し言葉を強めて言えば、戸上さんならわかってくれるだろう。あたしはすぐに奥の少し豪華な門に行き、扉を閉め、そこに魔力を込める。


 この門は家に、実家に繋がる門だ。やっぱりもう一つ空間を挟むべきだったかと溜息が出た。


「とりあえずここじゃなんやし、ハウスでって、先お風呂とどっちがいい?」

「ぶっちゃけもう体力もお腹も限界っす」

「あー、ポーション先かな、他の人も同じやんね?」


 頷く戸上さんとその他十三人。女性もいてかなり状態は悪そうだ。あたしはポーチからポーションを取り出して渡していく。


「この人ら知ってる人やねん。またお兄ちゃんから説明あると思うから、みんな戻っていいで」

「姫様に任せておけばいいってこと?」

「うん、そうしてくれると有難い。千弦君は悪いんやけど、幸康さんに消化にいいなんか作ってって言っといて」

「わかりました」


 すぐにかけていく千弦君。信也さんは納得できてはない顔で、野次馬や他のメンバーを帰していく。


「護衛として、せめて俺は残っていいでしょ」

「この人ら元気でも、負ける気はせんけどなあ。まあ仕方ないか。全員一回ハウス連れてくから」


 そう言って戸上さんや他の人を見れば、前にここで見たことある人もいた。その中に野々原さんも見つけた。


 ただみんな本当にやせ細り、かなり危険そうな人もいる。メンバーを帰さずに、抱き上げてもらった方がよかっただろうか?


「姫様のおかげで助かったっす。一応歩けますから、飯食わしてください」

「戸上さんは変わらんね」

「姫様の飯、美味いっすからね」

「悪いけど今日はあたしのご飯ちゃうよ、とりあえず皆さん歩けます? 無理そうなら言って下さい」


 確認すれば何とか歩けるらしい、あたしはゆっくりとギルドハウスにみんなを連れて行き、広間で休んでもらう。


「幸康さん悪いんやけど」

「千弦から聞きました、一先ずスープで様子見たほうがよさそうですね」


 まともな食事が取れてなかったのが一目でわかるほど、みんなかなり憔悴した状態で、健康状態も悪そうだ。固形物など食べれる状態じゃないだろう。


 裏方数人が手伝ってスープを出してくれる。具はないが、しっかり出汁を取った幸康さんお手製は、それは優しく飲みやすいはずだ。


「そのあと食べれそうな方にはおじやを出しますので」


 その言葉に嬉しそうにする人、スープの温かさに涙を流す人、様々な人がそこにいて、何も言えずにただ見守ることしかできなかった。


「これ、どうゆうことや?」

「戸上? それに他のみんなも」


 入って来たお兄ちゃん達の言葉で、スープを飲んでいた人たちが顔を上げる。


「加賀美さん」

「お前、どうしたそんな」


 秀嗣さんの気持ちもわかる。みんなを知ってるだけに、秀嗣さんのほうがあたしよりも辛いだろう。


「食べれそうな方はおじや運びますね」


 そう言ってそばを離れ、お兄ちゃんの所へ行く。


「家の、実家の門から来たみたい。結構な人に見られちゃってるわ」

「そう言えば戸上さん、お前のタグ持ってたんか」

「今も持ってるとは思わんかったってか、すっかり忘れてたわ」


 あの門は誰にも開けられないはずだった。それこそ身内やたっちゃん達ぐらいだろう。ただ使う必要性もないから、ばれることはないと思っていた。


 そして今日、戸上さんが開けてしまった。この状態を見てもどうにかやって来たことはわかっているが、それでもあの場所は知られたくなかった。


「お前が考えることちゃう、とりあえず食えそうなら食わして、休ませて話聞くしかないやろ」

「わかってる、あたしもおっていいんやろ?」

「姫様には後で説明しますよ」

「さすがに甘いこと言う気はないし、お兄ちゃん達の判断に文句言う気もないから」


 心配そうに見てくる智さんに「お願い」と言って、あたしは答えを聞かずに幸康さんの所に行く。できたおじやは柔らかく出来上げられ、これなら胃にも優しそうだと運んで行く。


「無理して食べないでくださいね、まだありますからゆっくりどうぞ」


 有難うと感謝の言葉を言い、涙を流す男性の姿に胸の奥が痛くなる。この人たちは関東の前線にいた人たちのはずだ、それがなぜ今こんな状態になっているのか。


 温かなスープを飲み安心したのか寝始めてしまった人もいて、お兄ちゃんが仕方ない、と使われていなかった二階に運び寝かせてあげることに。


 今日はもう説明は難しいだろうと思っていたのに、戸上さんは耐えるように起きていて、あたし達に頭を下げた。


「有難う御座います、最後の賭けでここに来たっす」

「戸上さんも辛いやろ、今日は休んでもらっていいで」

「そうゆうわけにもいかないっすよ、ここがこれだけ変化して人がいるってことは、宏さん達も説明しなきゃ駄目っしょ?」


 頬がこけ、体は痩せ細り血色も悪い。それでもあたし達のことを考えてくれる優しさだけで、今は十分だと思う。


「そんな状態で聞いても、正しいことも言えへんやろうし、少し休んで風呂入ってさっぱりして、そっからでも聞かせてや」

「でもっ」

「ここは甘えておけ、休めるときには休むのが鉄則だぞ」

「そうそう、戸上さんなら真っ先に休むはずやで」


 秀嗣さんからも拓斗からも言われ、戸上さんは力が抜けるようにへにゃりと笑った。


「わかりました、有難う御座います」

「おう、起きたら二階に人置いとくから、その人に風呂場、案内してもらってくれや」

「わかったっす、本当に」

「もうええって、知らん仲やないんやし」


 戸上さんの言葉を遮り、お兄ちゃんは秀嗣さんに戸上さんを任せ二階に案内させる。そしてその目が信也さんを見た。


「言いたいことありそうやな」

「そりゃ大有りでしょ? ここ、どこだと思ってるの?」

「お前の気持ちもわからんではないが、けどあの人らがどこから来たか、お前なら察してるんやろ?」

「たぶん関東、自衛隊だよね」

「前線中も前線、そこにぶっ込まれてた人達や。そんで色々と俺らと縁がある人」

「それは見てたらわかる、あの開かずの門が使える関係?」


 信也さんの言葉にどきりとした。確かに開いたことも説明もしたことない門だ。そんな七不思議みたいな言われ方してるのか。


「俺らには説明できんことだらけやって、言ったはずやで」


 お兄ちゃんの強い目に、それだけで何かを察する信也さん。これ以上は踏み込むべきではないと判断し、両手を上げた。


「わかった。ただあの人たちに対しての説明は、後でくれるんだよね」

「それはちゃんとするわ、ただ全てでないと思っとけよ」

「わかってる」


 それだけ言うと広間を出て行く。納得もしてないのに飲み込んで、自分の立場を理解した背中は、少し寂しそうだった。


「はあぁ、どうすっかなあ」

「すまん」

「秀嗣が悪いわけちゃうし、それにここに置いてやるわけにもいかんで」

「それはわかっている、俺達にできるのはここまでだとも」


 少し苦しそうな秀嗣さんの姿。元仲間だ、思うことならいくらもあるだろう。


「しかし、使える者は使うべきでしょうか?」

「期待させるようなこと言って、叩き落す結果はあかんぞ?」

「けど宏も姫様も思っているでしょ?」


 智さんの言葉にお兄ちゃんは苦笑して、あたしは小さく頷いた。わかっていないのは秀嗣さんだけのようだ。


「確かに高レベルで魔法も使えて実戦経験有り、対人を想定した訓練もしてる人らか」

「条件だけで考えるとかなりいいんですよね、そして今は我々に感謝し忠誠を誓いやすい」

「デメリットもある、そこは忘れたらあかん」


 拓斗と智さんの言葉を、あたしは止める様に口にする。広がる前の神社を知っている人達だ、何なら姫巫女を知っている、それがギルドにどう作用するかはわからない。


 自分でも酷いと思う。あんな姿でどうにかここまで来た人たちに対して、それでも不安だと口にして俯いてしまう。


「絵里子の言う通りだ。俺は危険を避けるべきだと思う」

「戸上さんから説明を聞かな考えようもないわ。今日の所は動きないやろうし、俺らは残ってる仕事すんぞ。秀嗣も考えすぎんな」


 そう言ってお兄ちゃんは、智さんを連れて広間を出て行った。あたしは秀嗣さんを見れずに俯いたままだ。


「二人もすまない。絵里子も考えなくていい、ちゃんとお俺が」

「最終決定は宏さんや。二人共、そこを忘れんなや」


 拓斗が軽い口調で秀嗣さんの言葉を止める。そしてあたしの肩に手を置いた。


「どっちもしゃあないやんこうなったら。秀嗣はやるべきことやって、絵里子はギルドの?」

「看板兼マスコット」

「逆やろ? ほぼマスコット、たまに看板。秀嗣も思わん? 最近仕事少ないし」


 揶揄うように空気を換えてくれる拓斗に感謝する。それだけで秀嗣さんも気付き、笑ってくれるから。


「どっちにしても、絵里子は変わらないだろ?」

「そうやけどな」


 二人が笑ってくれるからあたしも今、笑える。痛みを持ったままでも。



お久し振りですな登場。

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