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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
十六章 ダンジョンアタック

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有難い申し出



 そうして三日が経ち、あたしは庭の東屋で観察ノートをつける。あの赤と白の植物は思った以上に生命力があるのか、何もなしでも元気に育ち、昨日には挿し木でプランターを増やしておいた。


 ただ聖魔魔力の物が思ったよりも成長は悪く、魔力を多く含んでいることはわかるが、大きくはなっていない。

 挿し木でプランターが増えたことで、ついでにと土も水も魔法で出して、魔力を入れた物も作ったから変化を気にしていきたいところ。


 それでもできれば早めに結果が出てほしい、いつお兄ちゃんのお声がかかるかわからないし。


「来たぞー。んで、どれやればいいんやー」

「そこに二つのプランターに魔力入れて」


 朝、拓斗に通常の魔力を入れてもらうようにお願いしていた。手が空いたから来てくれたんだろう。


 お願いしたのは何もなしと魔法全部の二種類。拓斗自身も生産しているから、さすがにこれ以上は頼みにくい。


 すぐにあたしが指定したプランターに魔力を送り始める拓斗。それを見ていれば、あの植物がうねうねと動き始めるではないですか。


「これどうゆうことや?」

「待って、とりあえずもうちょいお願い」


 さすがに戸惑い魔力を止めると植物も止まる。始めての現象に驚くけど、これってもしかしてとお願いする。

 再び魔力を入れ始める拓斗、それに合わせてまた動いてつるを伸ばしていく植物。


「魔力で成長すんの?」

「いや、俺に聞くなよ」

「やって聖魔の成長は遅くて、こんなん初めてやねんもん」


 確かに昨日、株分けして一晩、たったそれだけでも魔法で水や土を出してあげた物の方が成長は早かった。だからと言って、直接魔力をあげることでこんなにも成長速度が上がると思わないじゃないか。


「魔素の多いところに自生してたから?」

「なんか感覚で言うと、魔素吸い取ってる感じやで?」


 拓斗の言葉に目を凝らせば、確かにそう見えなくもない。やっぱりこの植物は、人にとってかなりの救世主となりそうだ。


「あとは上位種がどうなるかあ」

「こっちの魔法有りのほうが、魔力を入れるとやばいぐらいに成長するな」

「転移陣て魔力どうなん? 吸い取られるんかな?」

「インクで固定されてるし、大丈夫やとおもうけど。確認でこれを分けてもらっていいか?」

「いいよー、お兄ちゃんにも報告お願い」


 面倒だから丸投げしておいて、あたしは今気づいたことをノートに書いていく。魔力で一気に成長したし、調べる程度に分ける分は十分ある。


 魔力を入れ終わった拓斗も東屋に来るから、お茶を淹れて出してあげる。


「庭ってより薬草園やんな」

「それか実験農園やで。まあおかげで色々わかったし、よかったけど」


 できれば次も、枯れる前には戻ってきたいところだ。

 ここのおかげで、わざわざダンジョンに採取に行かなくてもいいのは便利だし。


「あとで薬学としても少し使ってみよか」

「魔力込みのやつだけやろ? 比較対象が少なくないか?」

「それでも結界石とか魔物避けの香とか、上手く行けば効果も上がるやろ?」

「次はどこ行くかもわからんもんなあ」


 しみじみと言う拓斗に頷く。

 組合職員が地上の周辺を探索し調べているらしいが、それでも奥までは行けていない。転移陣を作るとなると、あたし達が作りに行くしかないだろう。


 みんなで行くのか、また分けるのか、それによっても色々違うだろうし、前よりも魔物の領域も深くなってるはずだ。そう思えば結界石や魔物避けの香は品質を上げておきたい。


 ノートを書く手を止め、あたしは息を吐きノートを閉じた。毎回思うが、本当にこの呼び出しやめて頂きた。


「お兄ちゃんに呼ばれたから、行ってくるわ」

「ギルマス部屋? なら俺も行くわ、この植物もあるし」


 別に一人でも行けるのにと思うが、拓斗も秀嗣さんもそれを許してはくれない。境内で、それもギルドハウスで今更何があるって言うのか。



 それでも二人でギルドマスター室の前までくれば、いつもと違う気配を感じ、あたしは首を捻りながらもノックをして返事を聞いてから扉を開けた。


「急に悪いな、お前の意見が聞きたくて」

「それはいいねんけど、これってどうゆうこと?」


 そこにいたのはお兄ちゃんと智さん、それに相本さんと菊池さん、そして二人の奥さんも一緒だ。


 家族はここに入れないんじゃなかったのかと、お兄ちゃんを見てしまう。


「まあ座って話しようや」


 それもそうかとあたしも拓斗とソファーに座れば、智さんがすぐにココアを淹れてきてくれた。


「まずやねんけど、菊池の奥さん元医者らしくてな、学校で応急処置なんかの授業できんかって相談受けてん」

「それ組合管轄ちゃうの?」

「そうやねんけど、できれば境内前で簡単な診療所、言っても大きいことはできんけど、孤児院とか住んでる人向けにできんかって」


 子供は突然熱を出すこともあるし怪我も多い。確かにあれば安心だし、学校の授業としても前から欲しいとは思っていた。


「ただお子さんいましたよね? それに境内で診療所となれば、そこまで儲けが出るわけでもないと思いますよ?」

「お金はそう考えていません、旦那がしっかり稼いで来てくれますし。それに中学生の娘もいますし、本人たちも学校に通わせていただきたいみたいなんです」

「通常の学校とは違うことをわかってですよね?」


 しっかりと微笑み頷く奥さん、その目は理解した上で選んだと言うことか。


「ダンジョン研修もあるし悪くないとは思う、ただ警備体制が整ってからほうが良くない?」

「やっぱりそう思うか」

「うん、授業として増やすのもいいと思う。けど一人で、それにギルドの関係者ってなると、気を付けるべきやろ? 失礼ですけど、レベルはありませんよね?」


 小さく頷く奥さん。


 どこに妬み嫉みがあるかわからない。ギルドは良くも悪くも目立っているから。それに今ここの学校に通っているのは、組合を通じた研修の人かギルドの準メンバー、それと十五歳以上の孤児達だ。


「ギルド関係者の子供を学校に、それもどうしてもここのギルドの特権になってしまうからなあ」

「でもこのギルド組合本部所属じゃなかったか?」

「そう言えばそんな話もあったっけ?」


 拓斗の言葉に思い返せば、そんな感じのような話あったようなとどこかで思う。好きにやってるし、組合に話を合わせてもらうことはあっても、お伺いを立てたことがないから忘れてた。


「所属って言うより、対等な協力関係やけどな」

「そう考えたら別に、ギルドからも講師出してるしいいんか。ただ子供達、大変な目に遭うし虐めや騙されることもあるかもしれませんよ?」

「それに関しては皐月さんに聞いています。子供にもしっかり言い聞かせ、ギルドには何の責任も問いません」


 最初のイメージ通りにしっかりした奥さんだこと。すでに皐月さんに聞いたりして、情報を集めてる辺り素晴らしいね。


「あそこ籠りっぱなしもよくはないし、親の覚悟がしっかりしてるなら、あとはギルマス判断でいいんちゃうかな?」

「組合との兼ね合いもあるからな。そんで相本さんの奥さんはパン屋っぽいものをしたいらしい」

「お菓子作りやパン作りが趣味だったんです、それをここでもできたら嬉しいんですけど」


 どこかのんびりした奥様はにこにことして、この人の作るパンは美味しそうだなと思ってしまった。


「いや、でも確か、お子さん小さくなかったですか?」

「もしお店ができるなら、内多さんの所のお爺様達が面倒見てくれると言ってます」

「川崎さんの奥さんも手伝うと言っていましたし、婦人会ではないですけど、家族同士で交流はしてますから」


 菊池さんの奥さんもそう言って微笑んでくる。知らない間にしっかり奥さんたちのほうが組織化してそうだ。


「今は若松さんの奥さんにもしっかり注意できる状態ですし、やることがあれば変なことも考えにくいでしょうから。それに最近は、私達も少しはダンジョンに行くべきかと話し合っています」


 やっぱり女性は強いと言うべきか、母は強しと言うべきか。しっかりした人たちだ。


「ギルドは責任問題を背負えないってわかってくれてるみたいやし、後は警備体制と組合との兼ね合いじゃない?」

「それと仕入れの卵や牛乳をどうするかなんですよねえ」

「あー、手に入りにくくなってますからね」


 北海道から定期的に頂く牛乳や、他からも卵や色々なものを貰ってるからたまに忘れそうになるが、今は何でも気軽に手に入る時代ではなくなっている。


「畑で牛でも飼ってみる?」

「それ言ったら鶏もか?」

「魔物の卵って見たことまだないなあ」

「ミルクを出す魔物っているんですかね?」


 あれだけ広い畑だ、世話する人は大変だろうけど、いくらかここで賄えたらいいことだろう。畑では小麦も育っているし、砂糖関係も確かどうにかできるって、二宮のお爺ちゃんが言っていた。


「境内前が発展することは悪いことじゃないし、前向きに考えていいんちゃう?」


 探索者のためにもギルドメンバーの為にもなる、そして何よりあたしもパン屋ができたら嬉しい。



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