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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
十五章 鬼はどこまで行っても鬼。

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寝ていいですか



 お姉の案内で建物に近付けば、建物の周りにもプランターとネットを使い、あの赤と白のつる植物が建物を彩っていた。


 建物の入り口はすぐに見えてきて、そこだけぽっかりと開いていた。そこから少し離れた場所にお兄ちゃんや他のメンバーの姿があり、あたしは首を傾げてしまう。


「お前らも来たか」

「一番最後だったんだ」

「予想よりも早かったで、信也たち一番遠かったし」


 少し悔しそうな信也さんだけど、あたし達のルートは遠回りだしそこは仕方がない、これでも十分早いほうだろう。


「で、なんでこんなとこにおるん?」

「ここの住民内で意見が分かれてるようで、警戒心の高い方がいらっしゃるみたいです」

「情報もないから探索者って言われても、食料奪いに来た奴らじゃないか、ってな」


 世知辛い世の中ではあるが大事な事でもある、と納得はした。でもそうなるとここからどうする気なんだろうとお兄ちゃんを見る。


「それでどうするつもりなん?」

「組合に報告するべきか、それとも放置するべきか、悩むよなあ」

「ここの住民次第と言うのもありますから」

「やったらもう今日はここの駐車場借りてテント張る? あたしら自身で飲食も寝場所もあること確認出来たら、安心材料なるやろ?」

「そうやな、メンバーも辛そうなん多いし、聞いてみるか」


 お兄ちゃんはそのまま智さんと大仲さんだけを連れて入り口の方に行ってしまう。

 あたし達は決まるまでここで待機と言うことだ。さすがに勝手にテントを張り始めて、警戒している人たちを刺激したくはない。


 お兄ちゃん達は思ったよりも早く戻って来て、その顔を見れば微妙な顔をしていた。


「一応、遠目の隅の方にテント立てる許可は貰えた」

「ただあの感じなら、明日は予定通りにダンジョンに向かったほうがいいかもですね」


 智さんの表情的に、あまりいい感じではなかったことが読み取れて、それならさっさと寝て明日は早く出発すればいいだけだっと頭を切り替える。


「明日は早め出発やね、車は出す?」

「別に隠すもんじゃないし、いつも通りでいいで。動ける奴は手分けしてテントとシャワーブース作って、飯担当優先でシャワーしてくれ」


 お兄ちゃんの言葉でみんなが動き始める。動けない三軍も何人かはいたが、明日大丈夫だろうかと少し心配になる。


 それでも一軍と二軍の動きもあって、支度はどんどんと終わって行く。順にシャワーも終わらせ、並んだ机の上に魔導具のランプを置き、灯りを点せばそれだけでゆっくりできる空間になる。


「慣れってすごいよなあ」

「どうした?」

「野外活動にこんなに慣れて、屋根もないのにのんびりしてる」

「ほんまにな、車中泊やテントで寝るんも慣れたもんな」

「それでも普通のテントや車中泊にしては道具が良すぎるから、それもあると思うぞ?」

「やっぱ隊の時大変やった?」


 拓斗の質問に、ただ苦笑するだけで答えはしなかった秀嗣さん。だがその顔が物語ってはいたけど、気にしたら駄目なんだろう。


「食事できましたー」


 幸康さんの明るい声が響き、お腹を空かせてメンバー達が並び始める。動けない三軍に声を掛け、スープだけでもと勧める人の姿もあって、放っておいても面倒を見てくれそうだ。


 いい匂いに釣られてあたし達も食事を取りに行き席につく。今日の食事も美味しくて、何も文句はないんだけど、少しばかり建物からの視線が気になって食べにくい。


「あんまり気にするな」

「わかってはいるんやけどなあ」

「向こうから見たら俺ら不審者やから、しゃあないっちゃしゃあないんやろうけど」

「けど、ここでこれからどうする気なんやろな?」

「食料の問題もあるだろうし、水なんかもどうしてるんだろうな」


 あたし達の普段の生活は、あの地下の場合は魔石さえあればどうにでもなるし、地上で活動するときも魔導具でどうにかしている。


 水道がどうなっているかわからないけど、それもいつか限界が来るだろう。食事もどうしているかわからないし、何より魔物を倒せる人がいるのかもわからない。


「考えてもしゃあない、向こうがどうするか決めることやしな」

「そうだな、宏のことだからこちらから言うことは言ったはずだ」


 建物内にどれぐらいの人がいるかはわからないが、情報も何もなく拒絶されるんであれば、あたし達にできることは何もない。


「さっさと食べて寝てまおか、明日は早いし」


 そう言ってあたしは手を動かした。




 寝るときにお兄ちゃんが見張りは無しで、と言ったときから何となく嫌な予感はしてましたよ? それでもさ、久々に魔物の気配も感じずに寝れると思ったのに、と愚痴りたくなる気持ちが湧いてくる。


 車の中で感じた人の気配、まだ離れてはいるが、確実に意識がこっちに向いている。


 それに気づいてしまえば目が覚めて、無視もできず起き上がり、上着を羽織って車から静かに出れば、拓斗と秀嗣さんも気配を消し出てきていた。


「絵里子は寝ていてもいいぞ?」

「宏さんに呼ばれるまで中おったらいいのに」

「気配で目が覚めてしまったし、嘘発見器がすぐいる可能性もあるやろ?」


 できればそんなことになって欲しくはないが、念の為は大事なことだ。


「このテントの配置も宏さんと智の計算なんやろな」

「どうゆうことだ?」

「建物に一番近い位置に宏さんと智のテントやん? あの二人、見た目的に強そうに見えへん」

「自分ら餌にするとか、あほ?」

「メンバーよりはいいと判断したんやろ? それにもうとっくに気づいてるし」


 拓斗の言葉は理解する。メンバーの中には気配をそこまで読めない人もいるし、女性陣や子供を使えばあたしは怒る。

 だからって、一応ギルドトップの自分を使うのもどうかと思うんですけど。


 机や魔導具なんかは全てもう仕舞ってるし、何かを漁りに来たとしたらテントの中か車に忍び込むしかない。

 これだけのテントがあれば中心には来ずに、一番近いテントに向かうだろう。


 すでにお姉とのり君も車から降りて気配を消して、テントの中で何人かのメンバーも気付いて起きているのがわかる。

 あとはこの見知らぬ気配がただ確認だけで、テントに触れずに帰ってくれることを願うばかり。


 まあ、そうゆう甘い願いも虚しく、お兄ちゃん達のテントの入り口を確認する気配。それは驚くことに、テントを静かに開けれているようだ。


「なに、この決定的証拠を掴む気満々」

「言い逃れされる気はないんだろうな」


 すでに距離は詰めていた、その後ろに回り込みあたしはランプの明かりをつける。


「現行犯は大事やろ?」

「わざわざ自分使う必要ある?」

「一番穏便に済みますからね、私たちが」


 テントの中で笑顔で一人の男性の腕を背中で締めるお兄ちゃん。智さんも一人、しっかり捕まえてるし。そしてテントに入れなかった人達、はあたし達に囲まれ驚いた顔で止まっている。


「捕まえていいの?」

「そやなあ、一応捕まえよか」


 お兄ちゃんの言葉を聞いてお姉が早速動き出す。全部で六人しっかりと縄で縛られ繋がれた。


「一応、言い訳でも聞くべきですか?」


 お兄ちゃんの問いに誰も口を開こうとはせず、智さんの笑みが深くなる。


「我々は一応、先住の貴方達に敬意を持って接していました。それをこのように荒らしに来られ、睡眠時間を削られ、多少の怒りは感じています。早く答えて頂けないんであれば、フェンスの外に放りますけどどうしますか?」


 冷たい笑顔が怖いです。それでもこれはフリであり脅しとわかるのは家族だからだろう。


「あ、のり君、悪いんやけどメンバーには寝ていいって伝えて来てくれる?」

「わかりました」

「他も戻っていいで、俺と智でどうにかなるし」

「建物の中にどんだけ人おるかわからんのやろ?」

「まあ何とかなるやろ?」


 捕まった六人を見てもレベルはあるが、この場所に住んでいるとは思えないほど弱い。この人たちがここのレベル上位かは知らないけど、たぶんお兄ちゃんの言葉通り何とかなるだろう。


「それでも一応、ここのトップやん」

「なんやお前、心配してくれんのか?」

「わかってる質問されんの嫌い」


 どちらかと言うと口にするのが嫌なだけだ。それをわかって秀嗣さんは苦笑してるし、拓斗も笑ってる。


 けど捕まえた人たちは喋ってくれなさそうだし、どうするんだろうと思ってたら、建物から人が出てくる気配があった。

 そちらに目を向ければ、二人の男性が暗闇の中から走って来る。


「その人たちをどうする気だ!?」


 つい首を傾げ、さすがに疑問符が頭に浮かぶ。この状態で何を怒鳴ってらっしゃるんでしょうか?


「俺らの寝床に忍び込んできたから捕まえただけです、俺らから何かしたわけじゃないですよ?」

「なっ!? 本当か?」


 驚きながら信じれない様子で六人に近づこうとする男性を、お姉がすぐに体を入れて阻む。


「退いてくれ」

「そうゆうわけにはいきませんよ、俺らなんもしてないのに襲われたんですから」

「貴方達は食料を奪いに来たのではと警戒してましたが、どちらが犯罪者なんでしょうね」


 智さんの笑顔の言葉にたじろぐ男性だが、それでもすぐに口を開く。


「確かに我々の仲間の発言に失礼があったことは認める、だがすぐに彼らが貴方達を襲ったと信じることもできない」


 お兄ちゃんはその言葉を予想していたんだろう、小さな魔導具のスイッチを押すと会話が流れてきた。


 『どうだ?開きそうか?』

 『鍵はなさそうだ』

 『真っ暗だしもう寝てるだろうな』

 『取るもん取ったら他も行くか?』

 『安全は大事だろ?』

 『だが女も』


 言葉の途中でスイッチを切るお兄ちゃん。どうせならもう少し早く切って欲しかったが、周りから漏れ出た威圧も計算ですかとため息が出る。


 こうやって聞くと本当にこの録音機は有能で、しっかりと人の声が聞こえ、二人の男性もたぶん誰の声かはすぐに理解できたんだろう。

 捕まっている六人と走って来た男性二人、驚きから顔を歪めている。


「そ、そんなの嘘だ、俺じゃない!」

「それ、もう自分やって言ってるようなもんやん」

「俺は唆されて」

「俺はやめようって言ったんだ」


 言い逃れができないと思ったのか、捕まっている人たちが口々に言い始める。その姿に男性二人の顔は歪み、痛みを感じていることがわかる。


 あたしとしてはこの状況がいつ終わるのか、そればかりが気になって、明日の予定はどうなるんだろうと違うことばかり考えてしまった。



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