斜め上
暫く話が纏まるのに時間はかかるだろうと思っていたのに、次の日にはお兄ちゃんから身内に居間に集合がかかった。
思った以上の速さに驚いたけど、悪いことではない。あたしは先に台所でみんなの飲み物を淹れて準備していたら、智さんがやって来た。
「暫くは少し忙しくなりますね」
心配そうな顔をしてるかと思えば、意外なことに智さんはにこにこと明るく声を掛けてきた。
「そうやね。智さんにも話し合いとか調整で、迷惑かけてごめんな」
「姫様は何も悪くありませんよ。それにあれはかなりいい案ですし」
「やけど危険が増えるのもほんまやから」
あたしが動くことで何が起こるかわからない。そして気付く人は特別なのはあたしだと気付き、そして近い者をすぐに調べる人はいるはずだ。
ある程度落ち着くまでの期間は、様々なことに気を付けることが必要になるだろう。
そこに不安を感じていれば智さんがくすくすと笑う。
「姫様が思ってるような形にはならないと思いますよ。これ、持って行きますね」
微笑むだけで何とは言わない智さんは、そのまま行ってしまった。あたしはその背を見ながら、残して行った言葉について考えそうになるが、すぐにわかるかと残りを持ってテーブルについた。
「茶菓子は?」
「そんな緩い話でもないやろ?」
どこか緩い雰囲気のお兄ちゃん。さっきの智さんの言葉もあって首を傾げてしまうが、お兄ちゃんはそんなあたしを見てにやにやするばかり。
これから話をすれば、お姉が怒ることは確実にお兄ちゃんもわかってるはずなのに、あたしだけが不安になってくる。
「絵里子は内容を知ってるん?」
「全部じゃないで?」
「珍しいな、お前が知ってて俺らが知らんて」
「元々進めてた話と絵里子の案をくっつけたからな」
「くっつけた?」
お兄ちゃんの言葉にみんなが首を傾げる。組合の世界進出は決まってたみたいだし、くっついたと言えばくっついたのかと一人思った。
「まず簡単に説明すると、組合を世界に作る。その前準備として転移用の港を作る。それは国、関係なく最初に作る各本支部とだけ繋げる予定や」
言葉の意味がわからず、みんなを見ても同じようだ。
「これは基本、秘匿されるもんで、基本は物資輸送と本支部のトップだけが使えるようにする」
うん、全然意味わからない。
「国として動いてないところも多いからな、ある程度、各大陸には組合が必要やと思うし、欲を言えば島にも一つは欲しい。そこの地をある程度治める本支部長には神職を選んで、それ全てを統べるのに高遠さんが来る」
「まあ各大陸の組合が本支部ってなるなら、そうなるでしょうね。高遠さん過労死しそうやな」
「それシャレならんくない?」
胡堂の言葉に不安になる。ただでさえ忙しいのに、これ以上って大丈夫なんだろうか。
「基本はそこの本支部長が回すから、最初は大変やろうけど何とかなるやろ」
「役職名、わけわからんことなりそうやな」
「それな」
お兄ちゃんの言い方のせいかどこか緩い空気で話しは進み、笑い声まで出てくる始末。結構大きなこと話してるはずなのに、とあたしだけが思ってるようだ。
「こっから本題な。各組合は絵里子に疑似魔晶石を作らせて、それを渡して場を作ることにする」
「はあ? お兄、頭いったん?」
「正常じゃボケ、話は最後まで聞け」
一瞬でお姉が表情を消し空気を下げる。それを気にするようなお兄ちゃんではないが、渡すってどうゆうことだ?
「元々こいつが言い出したことや。ただ魔物が入れんことは秘匿として、周囲に結界石や魔物避けの香を使って偽造する」
「それはいいが、渡すというのは? どこから出た物か問題になるだろう?」
「やから各本支部長には面談やら契約書やらがっちがちにしてここで受け渡す。敵意や悪意を向けたらその場も消して、物資輸送の港も停止、なんなら転移陣も消すぐらいの勢いで脅しておく」
「表向きは組合がトップやけど、本質的には姫巫女とするって事ですよね? 便利なもん使い続けたかったら、自分とこちゃんと見とけよって」
「拓斗の言う通り。物資は各地でも開発は進むやろうけど、場と転移陣に関してはどう足掻いても無理や。それに探索者登録機もか」
知らない間にとんでもない方向に行ってしまってるような気がして、あたしの頭が止まってしまった。
確かに姫巫女が権力を持つようなことを先に考えたのはあたしだ。言わんとすることはわかった。けどそれは難しいんじゃないだろうか?
「お兄の言い分はわかったけど、わざわざ絵里子を前に出す必要あんの? 別に姫巫女無しで、高遠さんに丸投げでいいやん」
「姫巫女の存在はもう知られてる。やったら明確に餌やって、やったらあかんこと教えてるほうが聞きやすいやろ?」
「それで納得するの? それに広さ知らんけど、全部見るとか無理やろ?」
「知らんやんそんなん。俺ら善意、姫巫女様の御慈悲、それ理解してくださいね。って言うだけやもん」
お兄ちゃんのとんでもない暴論、それにあたしはさすがに溜息が出て口を開く。
「それ、組合が残るとこ、どんだけあるん?」
「まあ、あんまりに広かったりしたら支部じゃないけど、各自が判断して、高遠さんと相談して作ったらいいねん」
「ここは高遠さんに丸投げ、次は次で丸投げってやつやん」
「高遠さんはそれでうまくやってくれてるやん、俺らとも上手いことやってるし」
「いや、でもなんかあたしの思ってたんと」
続けようと思っていた言葉が、真剣なお兄ちゃんの目に止められた。
「宵闇様はお前のいらんと思う奴、消すって言ったんやろ?」
「ニュアンスが違う、それに望めばや」
「あの神はそれをするだけの力があって心を覗く、お前や俺らが手を下すほうが優しさや」
その言葉は間違っていない。あの神は喜んで人を消すだろう。慈悲も何もなく、ただ道を歩いてたら邪魔な雑草があっただけ。それが生きてるモノかどうかすら考えず、潰してしまうだろう。
それに確かにあたしがお兄ちゃんに言った三つは達成している。組合を作れば、周囲には自然と人が増えることはこの国で証明されている。
そこで生活する人は知らず、安全圏を手に入れることになる。そしてそれを姫巫女の力として、一部だけとは言え知らしめ管理をさせる。
「姫巫女として表に出るんは少ないほうがいい、それは当たり前や。だからこそここで受け渡しをして、各地で展開してもらう」
「ここがばれるデメリットとここの説明、他国の神職がわんさか来た時点で、ここが疑われるのわかってるのはお兄やろ?」
「恵子の言うこともわかるが逆や、俺らがこの神社貰ったんはもう知っとる人が多い。だからこそ神職同士、意見交換として集まるって名目や」
「有難いことに我々みんな神職ですから、それを逆に使おうって話です」
智さんが微笑んで言うけど、なんの説明にもなってない。神職だからこそ? それと各国の組合トップがここに来ることが繋がらない。
「簡単に言いますと、組合設立のため各国の組合トップ予定の神職がこの国に来ます。その時に神職でパーティーとして神に認められた我々に会ってみたい、そうなっただけです」
「そんな簡単な理由でいけるもん?」
「無理だろうとなんだろうと押し通すだけや」
「はい。我々やギルド、高遠達組合などに何かすればいつでも全ての力を消すと、謁見の際には姫様には御簾にて御威光をお願います」
「やろうと思ってやったことないのに」
「必要なことですからね。それに宏と恵子さんにも顔隠しをつけて頂きます」
「恵子はいるけど、俺はいらん言うたやん」
「姫様がここの上位として君臨するのであれば、その次位である二人の顔も隠すべきです」
「あたしもあれ邪魔そうやからいらん」
「姫様ができていることを、恵子さんができないわけありませんよね?」
あのお姉を微笑みで黙らせるのは、智さんぐらいだと思うよ。それでもあたし達はよくても他のみんなが。
「我々は格で言うと従者のようなものです。今後も各国の組合トップと会うこともあるでしょうから」
「俺は今更やし、それにそれも俺がやな」
「宏は私の上位者です、姫様に求めるなら自分もしっかり認識してください。確かにお二人の顔は知られているかもしれませんが、上位者として本殿では違いを見せることは必要です」
ぴしゃりと言い放ち、今度はお兄ちゃんを黙らせた智さん。間違ってはいない、間違ってはいないけど、あたしは認めたくない。
「嫌や、あたしはこの中で格なんて考えたくない。誰かになんかあったら、もし神職達に軽く見られてなんかされたら」
「大丈夫ですよ、その辺りもしっかりと説明し、納得して頂きますから」
優しく微笑み智さんは言うが、これまでの横暴な人間の姿が浮かび、簡単には納得できない。なのに胡堂が軽いことのように口を開く。
「確かに俺ら、他の神職より格は上になるはずやもんな?」
「そう言えばそうか。各自、加護を貰った神の位がそのままだからな」
「それに武器も防具も神から貰っている我々を、指輪一つしかもらえていない神職と同じに考えるような愚か者を選ぶつもりはありませんし」
「威圧も使えばなんとかなるか」
すでにお姉は抗うことを辞めて、のり君に嫌だと愚痴ってるし、お兄ちゃんは苦い顔で智さんを睨んでいるが言葉がないようだ。残る四人はどこか緩い雰囲気で納得し合っている。
「待って、確かにそうやねんけど、理解はできたと思うけど、色々と追い付かん」
「それでいい、お前は好きに言え。それをどう形にするか考えるのは俺の仕事や」
「適材適所、面倒事はお兄に任せて、絵里子はお姉ちゃんに守られてたらいいねん」
「バランス取れてるし、お義兄さんほんまに嫌ならやってないし、絵里ちゃんは気にせんでいいんちゃう?」
「生産時間が取れないと、嘆いてはいますよ?」
「宏と智はギルドが少しは離れたとはいえ、まだ忙しそうだからなあ」
「俺としてはそろそろ、次の素材求めてダンジョン潜りたいねんけどなあ」
そこに緊張感なんて欠片もなく、いつものように居間でただ喋ってるだけのように口々に好きに喋りはじめるみんな。
何でしょうね、結構、世界だとかなんだとか、規模が大きくなるようなそんな重大な話だったような気がしてたんだけど、こうなると何でもないことな気がしてくるから本当に不思議だ。
「お前、たまにはこんな頑張ってるお兄様に好物を作ったるとか可愛げないん?」
「ごめん、お兄ちゃんの好きな食べ物知らん」
「お姉ちゃんの一位、ラザニア」
「聞いてないし作らんし」
「姫様のご飯はどれも美味しいですから、迷いますよね」
さっきまでの話はどこへやら、すっかり関係のない話になり、あたしも気が付けば笑ってしまっていた。
切りの良いところを探せずに、長くなってしまいました。
こうなるはずではなかったのに、なぜこうなった?書いててたまに不思議になります。




