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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
十四章 変わりゆく日常

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見えない部分

 


 結局、暫く若松さんは謹慎と言う名の奥さんの監視となった。地上に住まいを移すか、このままそこに住むかは謹慎期間中に決めてもらうことになっている。ただもし次、同じようなことがあれば即除名だろう。だからこそちゃんと話し合って決めてほしい。


 千弦君に関しては、たまに智さんに呼ばれてギルドハウス内の仕事をしているようだ。ちゃんと孤児院の子としてお給料を払ってやってもらってるみたい。


 まだ頻度は多くないし本人も楽しそうで、裏方の手が足らないのも本当だからいいんだけど、智さんのことだから徐々に頻度を増やしていくんだろうな、とあたしじゃなくても予想できた。


 本人のやる気も高く働きもいいし、真翔君も嬉しそうだし、授業もちゃんと受けれているみたいだからいいんだけどね。




 そんな夜にあたしはまたふと目が覚めた。さすがにこの前からそんな立ってないよね、そんな頻繁じゃなくていいんじゃないの?


 それでもたぶん行かないと駄目なんでだろう。だって時が止まったように静かで、ただ呼ばれている感覚だけがわかるから。


 あたしはベットから抜け出して、諦めたように歩き出す。あの神が待つ本殿へ。


「来すぎじゃない?」

「つれないなあ、いいじゃないか」


 いつものように段に座り、扉を開け放ち外を見る宵闇。空のおかげで随分といい景色になったな。


「また随分と賑やかになったね」

「宵闇が言うと後が怖いわ」

「俺は絵里子には優しいよ」

「どこが?」


 つい吐き捨てるように言ってしまう。こいつのおかげで力があり助かってもいるが、それ以上に言葉に惑わされたり混乱させられたり、結構大変なんですけど。


「絵里子が望むなら、俺はいつでもこの力を使おう」

「そんなん一生来んから安心して」

「なら、あまりに絵里子が我慢している現状を壊そうか?」


 その言葉にあたしは宵闇を睨みつける。それを気にすることなく微笑むのがこの神だ。


「俺は絵里子に自由でいてほしい、それは縛られることなくだ」

「今も自由にしてる」

「そうかい? 家族はまだしもギルド、それに境内前、それは足枷となり絵里子の動きを阻んでいる」

「違う、先を見据えて作ってる途中や」

「だから仕方ないと、だから我慢すると」

「我慢なんてしてない、あたしは」


 気が付けば宵闇が目の前にいた。薄暗闇の中で怪しく光る金の目が、にんまりと笑う。


「俺は絵里子を見ていたい、自由な絵里子を。その為の力でその為の場だ。どうするかは絵里子の自由だけど、我慢している絵里子を見たいわけじゃない」


 宵闇の言葉はまるで悪魔の囁きだ。甘く、優しく、囁くのに、それは痛みと苦難を伴う現実。


「本当なら君は、その力を全て受け入れることができるだろう。聡く賢い絵里子なら。なのにそれをしようとも、見ようとしないのは、優しさゆえの愚かさ? それとも」

「宵闇はあたしに、どうなってほしいん?」

「俺はただ見たいだけだよ。君が何を感じ何を考え、そして何を選ぶのか。それが楽しみで仕方ない」


 まるで歌うように話す宵闇は、煌めく星空を背に一枚の美しい絵のように思う。


「君がどこまで隠れても、誘蛾灯の明かりは消えることもなく、どこからか洩れ出てその光を強くするだろう。様々な感情を押し付けるそれに、君はどこまで守ろうとするんだい」

「あたしの手の長さなんて決まってる。あたしはやりたいことやってる」

「君が言うならそれでもいいよ、ただ悪意は簡単に増幅し、悪意は容易く増産される」


 そんなこと言われなくたってわかっている。それでもじゃあどうしろと言うんだ。知らず手を握りしめ、ただ苛立ったように宵闇を睨むことしかできない。


「絵里子が望むなら、君の大事なもの以外、消すこともできるよ」

「そんな恐ろしい願い、逆にあたしが耐えれるわけない」


 あたしの返事を聞いて宵闇は声を上げ笑う。答えをわかっていてこいつは聞いている。ただ言わせたいだけだ。


 それがわかっているから、本気で相手にしてはいけないこともわかってる。それでもこの男は、言葉通りに簡単にそれをしてしまう。それだけの力と、人と違いすぎる価値観を持っている。


「なあ、ぶっちゃけあたし、宵闇が言いたいことほぼわからんねんけど」

「それでも本質を理解しているところはあるじゃないか」


 くすくすと楽しそうに笑う宵闇の言葉はやっぱりわからなくて、ただ無邪気に笑うこいつは確信だけを持っていることはわかった。


「せめて次の星への変化までの時間くらい教えてくれん?」

「星は変化し続けている、だから時間じゃないんだよ」

「なら内容は?」

「それを俺が知っているわけないよ、星が望み変化させていることだ」

「切っ掛けを作り、最初の変化をさせたの宵闇やのに、無責任やな」

「神だからね」

「管理者やなかったん?」


 一瞬、目をぱちくりとさせた後、宵闇は大きくまた笑う。今度はただ楽しそうに笑う。


「そうだね、絵里子の言う通り管理者として仕事としてやったことだ。なら責任は上司じゃないかい?」

「宵闇の上がおるん? だとしたらこれを許してるってことは性格悪そうやな」

「俺達にそんなこと言うのは君だけだよ」

「宵闇たちが興味持たんだけやん、探せばまだ色んな人が居るやろ」

「どれもこれも同じに見える。宏達でさえ君がいなければ気付けなかっただろうね」

「それは魂の輝きってのと関係あるん?」


 宵闇はその言葉にただ微笑むだけで、口を開こうとはしない。


「誰かにカーディガンで魔物を倒せって言うとこかな」

「あんなことできるのは君だけだよ」


 思い出すようにくすくすと笑う。あの時は本気であれしかなかったんだからしょうがないじゃないか、と今でも思う。だからと言ってこれ以上、それを知ってる人を増やす気はないが。


「そろそろ帰れば? そんでできたらもう来んで」

「つれないなあ俺の姫巫女は。絵里子が我慢することなく俺を楽しませてくれるんなら、そう多くは来ないさ」

「どっちにしろ来るってことやん。もう眠いし戻るで」

「しょうがないな。おやすみ、よい夢を」


 微笑みながら柔らかく手を振る宵闇。その微笑む目は何を知り、何を見ているんだろうか。

 聞いても無駄だとわかっているから、あたしは諦めて背を向け部屋に戻る。考えるのは宵闇の言葉。



 宵闇はあたしが我慢していると言った。確かにそういう部分がないわけじゃない。それでも前よりやることも増え、楽しみも増えている。


 だけど足枷だとあいつは見ているんだ。それはどこか自分で気づけていない部分なんだろうか。


 あたしが思うことはいくつかある。ただそれをすることで、大きな変化と力が必要になることも。だからこそ考え悩み、今を優先することは悪いことなのか?


 力が有ることの意味をわかっているからこそ、大人しくしときたい。元々目立つのは嫌いなんだけどな、と思うのに、宵闇的には許せないことなんだろうか? だったら最初の人選を間違えたと思ってほしい。


 それでも眠れそうにはなくて、考えを纏めるためにいくつか紙に書きながら頭を整理し、明日のお兄ちゃんの反応が怖いなあと思いながらまとめていった。




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