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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
十三章 いつも唐突で突然

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目から鱗



 次の日からは、それはもう驚くくらいに何も変わらない日常が戻って来た。それはもう本当に、普通の日常。


 みんなは朝ご飯を済ますとギルドに行き、あたしはお昼過ぎに子供達をただ見守るという。

 最初ぎくしゃくしたのはあたしだけだったという、なんとも情けない話付きで、日常は戻って来た。


 それが一日二日と経って行けば、何だか色々考えていた自分が馬鹿らしく思えてきて、二人やみんなの言う通りにこのままでいいのか、その時には自分の覚悟を示し、ただ守ればいいのかと思えてきた。


 そう過ごすことで久しぶりに時間の空いた夜、みんなはまだギルドで仕事をしている時間。あたしは資料室に向かえば慣れた気配があった。


「久しぶりだね」

「ここで会うのはそうやね」


 いつもの席で開いていた本から顔を上げ、笑みを浮かべる信也さん。どこかその顔はあたしを待っていたように思えた。


「あたしは本を読みに来たんやけど?」

「暇潰しも兼ねてでしょ?」

「そうやけどな」


 先手を打てば潰されて、苦笑してしまうのはあたしの方だ。悲しいかな、マイペースなこの人と話すことは、あたしも嫌いでない。


「聞きたいことでも?」

「色々あるけど、今の一番の敵ってあのストーカー?」

「それ、あたしに聞く?」


 さらりと何でもないように口にするから、あたしの方が返事に困る。


「あれだけ変な奴だったらなんとなくわかるよ、それに危険なのもすぐわかる」

「危険?」

「感情があるけどないってか。あれ、危ないタイプでしょ?」

「初見でそこまで思う?」

「俺も対人戦経験者だよ、一度や二度じゃなく」


 そう言えば関東から来たって言ってたっけ。きっとあそこはもっと地獄で、理性ではなく、感情がむき出しになったそんな人が多かっただろう。


「俺は姫様みたいになれないから、大事なもの以外どうなろうとどうでもいい」

「あたしはそんな優しいもんじゃないで」

「家族を優先て言いながら、すでにギルドを切り離せてないじゃん」


 くすくすと笑うこの男は楽しそうで、人を見透かしたつもりでいるんだろうけど。


「けど、信也さんもギルメン大事になってきてるやん。もう簡単に割り切れんぐらいには」


 そう返してやれば一瞬止まり、少し苦笑した。


「ここの空気が優しいのは、姫様のせいなんだろうね」

「あたしギルドになんもしてないし、それに何その空気清浄機みたいな言い方」

「空気清浄機。やばい、まさしくそれ」


 ツボに入ったのか、お腹を抱えて笑い出す信也さん。なんなんだこの人は。


「はー。もう、さすが姫様」

「褒められてるとは思えんね」

「そうだ、ギルド延長しそう?」

「急やな。それにほんまにあたしも知らされてない」

「姫様って、ぽろっと言っちゃいそうだもんね」

「そんなことないわ。元々あたしはそう関わらんって話やっただけ」


 そのはずだったのに、この人筆頭に色々関わってしまっているな。

 氾濫は仕方ないとしても、林間学校やこの間のバーベキュー、今じゃ会えば挨拶してくる人も増えてしまった。


「信也さんはギルド継続希望なん?」

「当たり前、じゃなきゃとっくにいないよ」

「けどその辺りの人らより、より危険になるし何があるかわからへん。自分が望まんことさせられるときもあるんやで?」

「確かにそうだけど、今の世の中じゃなくても交通事故に遭う人は遭うし、遭わない人は遭わない、危険てそうゆうもんでしょ?」


 首を傾げて言うその言葉は、真理でもあるが暴論だと思います。


「それにギルマスは考えないギルマスじゃない。それを支えてる補佐もサブマスも愚かじゃない。なら何かしらの理由があってそれを命令してるんだから、俺達はついて行くと決めたんだから従うべきだよ」


 少し驚いて口が開く。マイペースでどこか冷めた人だと思っていた。そして冷静で自分で物事を決めたい人だと。人に指示されることを嫌う人だと。


「そんな驚いた顔しないでよ。俺はギルマスも姫様達パーティーも買ってるし尊敬してる、何より近づきたいと思ってる」

「だからここにいるってこと?」

「そうだよ」

「自由人やと思ってた」

「それも間違ってないけどね」


 小さく笑い認める姿に嘘はどこにもなく、本心からこの人が望んでいるとわかる。


「ギルドに、あたし達に縛られんのはいいの?」

「自由な選択でここを選んだんだよ」

「その結果辞めたいときに辞めれん。やりたくないことをしなければいけない、それを強要されることになるんよ?」

「姫様は優しすぎるよ。ここで安全に寝泊まりできて美味しい飯腹いっぱい食わせてもらう、それだけでも十分幸せなことだ。その上に戦う力を与えてもらって知識を与えてもらえる。その対価が駒だとしたら、姫様達が払いすぎだよ」


 この人は冷静な目で様々な今の世界を見てきたんだろう。人の裏も黒い感情も汚いものも。魔物よりも邪まな、そんな世界を。


「たしかに姫様が思う通りに、口で覚悟を語るのは簡単だ。けどギルマス達をもう少し信じるべきじゃない?」

「お兄ちゃん達を?」

「うん、ギルマス達が鍛え上げた姫様達の駒なんだ。ギルマス達の結果なんだよ」


 その言葉は目から鱗がぽろりと落ちたような、そんな気がした。


「ギルマスもだけど特にあの補佐、前から鬼だと思ってたけど甘かったんだね。今は刃物みたいに鋭く怖いもん。それに恵子さんもやばいぐらい張り切ってるし」

「智さん普段は甘い人なんやけどなあ、あたしはまだその姿を見てないからなんとも言えんわ」

「たぶん姫様の前じゃ完全擬態だと思う」

「お姉に関してはどうしようもないと思うし、頑張る奴が嫌いちゃうから」

「魔物や敵と戦う前に、殺されるかと思った」

「家の戦闘狂やからねえ」


 くすくすと笑いながら、胸の中にあった靄が少しずつ晴れていく気がする。


 信じてなかったわけじゃない。けどあたしはきっとメンバーを信じていなかったし、何よりお兄ちゃん達が指導していると言うことを忘れてたんだ。



 なんだか少し軽くなった。胡堂たちが言っていた、ただどっしり構えていろと言うのは、きっとこういうことなのか。


「少しは考えも晴れた?」

「ありがと、信也さんは見た目によらず優しいね」

「下心があるからだよ」

「あたしが教えられることなんてないで? ギルド情報ほんま知らんし」


 下心と言われても、本当にあたしに教えて上げれることはない。魔法にしたって龍の作り方を教えたら、たぶんあたしがお兄ちゃんに殺される。


「姫様ってやっぱ抜けてるよね?」

「喧嘩売るなら買うよ?」

「勝てない喧嘩はしない主義。じゃあせめて魔法か生産について聞いていい?」

「教えていい範囲がわからんから、困るんですけどー」


 しばらくはその攻防が続き、何度か危なかったけど、たぶん大丈夫なはずだと自分に言い聞かせた。

 それは胡堂が迎えに来るまで続けられた。



第三者の意見って、逆に染み込んだり腑に落ちたり、意外な気付きを教えてくれる。

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