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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
一章 閉じ込められたのダンション
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衣食住、大事



 あたしは急いで食料を押す。サブウィンドウが様々な食べ物や飲み物に切り替わる。


 名前の横には数字が書いてあり、上のほうが数字が小さく、下に行くほど大きくなるようだ。

 あたしは一番上にある『水 5』をすぐに押す。ここにきてから何も口にしていないし、鼠との格闘ですでに喉はからからだ。


 変化はすぐに起きた。ウィンドウの横で白い靄が発生すると、それは小さくなりながら中心部に渦を巻くように集まると消えた。その瞬間ぼとっと音がすると、無色透明な液体が入ったペットボトルが落ちていた。


 あたしはそれを恐る恐る持ち上げて見てみる。勢いだけで飲んじゃうほど若くはないんだ。

 光に透かして見てもそれは透明で、なんの濁りもない。



 出口がどこだかわからない、あの鼠がいた通路の先だとしても距離もわからなければ安全とも言い難い。

 だったらこれを飲むしかないんだろうな。そんなことを思いながらも簡単に覚悟が決まらないのは、生きてきた年数ゆえの臆病なのか。

 諦めてペットボトルの蓋を開けるもまだ躊躇いが残り、匂いを嗅いでしまったが異臭などしない。


 〝ごくり〟と一口飲んでしまえばあとは簡単だった。

 緊張も相まって、思ってた以上に喉が渇いていたのか、勢いよくごくごくと飲んでしまう。


 人心地ついて息が漏れる。ペットボトルを閉め確認すれば残りは三分の二ほどだろうか。そのまま力が抜けるように床に座り込んだ。オブジェがいい背もたれとなってる。



 考えるべきことは色々あるし、あと確認することも終わってない。


 たぶんこれは夢じゃない、できれば夢であってほしいけど夢にしては全てがリアルすぎる。ましてやどっきりとかありえない。あの洞窟どうやって作ったのよ? それにこの水もどうやって出した?

 パニックホラーや殺人鬼も、どうやって家の押し入れに洞窟を作るんだ。


 今の状態がすでに非現実なのに、どこかで浮かんでる答えは非現実的すぎて理性が反対する。どうにか他の答えを出そうとするが、これと言っていい物は浮かばない。


「ダンジョンかぁ…」


 自分以外いないここでは、小さく漏れた声が大きく聞こえた。こんなことを浮かぶのは、クールジャパンの教育の賜物だろうか?


 ありえない。と自分の考えを否定しながら、その考えが捨てきれない。浮かび上がったレベルや説明欄の魔素。現実に起こって喜ぶ人間はどれ程いるんだろう。自分は今まさに喜べない。


 それでもこのままここにいるわけにはいかない。母の四十九日が終わったところだ、一周忌もちゃんとしなくちゃ。

 荷物の整理も終わってないし、形見分けもまだだ。


 父についで母もいなくなって、すぐあたしまでいなくなるわけにはいかない。


「お姉ちゃん怒るだろうな」


 不意に出た言葉に少し笑ってしまった。


 結婚もしていい年のくせに、妹大好きと今も言い張る姉と無口だけど気遣ってくれる義兄、無関心なようで意外に気が付くけど、何か頼むとおろおろと困り顔の多い兄。

 もう家族と呼べるのはこの人たちだけなんだ。



 あたしは顔を上げ立ち上げる。

 どうすればいいかなんてわからないけど、ここから出なくちゃいけないことだけわかってる。

 そのために行動するんだ。



 立ち上がりオブジェを見るとウィンドウは消えていた。あたしは確認するためにまた半球に触れる。



 ポイント   0


 ・名前:飯田絵理子 種族:人間 

 ・レベル:1    年齢:34歳

 ・職業:―――   ――― 



 あたしが確認したかった事、それは思った通りに減っているポイントだ。


 さっき見たときはポイントが5だった、最後に押した水の横に書いていた数字も5。たぶんこのポイントを利用して色々、手に入れることができるんだろう。


 ポイントがあった理由はまだ確定してないけど、たぶんあの鼠を殺したから? いやあれは倒したんだ。ゲームや漫画だと倒したと表記してる、あたしの精神安定のためにもそう思おう。



 考えを振り切り指を進め、ポイントを押すと出てきた項目から食料を選択。人間、衣食住って言うからね、食べ物大事。


 ポイントがなくても見ることはできた。かなり数があり、下にスクロールして見ていく。食材から出来上がった料理まで、飲み物もお茶や珈琲、紅茶以外にジュース類まである。


 飲み物では水が一番安く5ポイントで、食べ物は出来上がった料理より食材のほうが低いみたい。

 なのになぜか食べ物で一番低いのは干し肉10ポイント。



 次に見たのは武器。本当は防具が欲しいけど、ここが仮にダンジョンだとして、今のあたしには攻撃手段なんてない。

 武器があったところであたしに使えるか怪しいけど、ないよりはあったほうがいいはず。できれば長物希望したい。


 そんな希望も虚しく、武器の種類は少なかった。


 内容も武器と言えるのかわからない手袋や棒、小さいナイフなど、長物もなければ戦わせる気があるのかと疑いたくなる。


 念のため防具も見るがこちらも似たようなもので、鍋のふたなんてリアルに防具で見るなんて思わなかったよ。気になって鍋のふたを押してみると説明が出た。


『ただの鍋のふた、木でできていて防御力は期待できない』


 他も似たような説明で、期待できるものなんてなかった。


 始まりの装備みたいだからか、ポイントは統一されていた。しかし高い。250ポイントとか、水と比べるのが辛いくらいに高い。


 まぁ最初から買えないことはわかっていたし、今回は確認作業と思って他も見ていく。



 アイテムはポーション(微)とマナポーション(微)しかなく、どちらも30ポイント。

 (微)ってついてるしどこまで期待できるのかわからない。


 ポーションと言うとあの有名なポーション? 回復薬だと信じるんであれば、マナポーション(微)ってなに?

 考えても埒が明かないと見切りをつけて、さっさと次を確認していく。


 道具は思ってたより多かった。フライパンや包丁など、鍋はあったけど蓋はなかったのが少し気になる。

 下のほうに寝袋や布団などもあったけど、どこで寝ろと言うんだろ。

 他にも普通の鞄や斜め掛け鞄と意外に種類も多い、なのにどれだけ探しても卓上コンロや火を熾せるようなものはなかった。



 確認を終わらせてやることは決まった。途中色々突っ込みたくなったけど、今の目標は生きてここを出ること。その為には食べ物確保のため、あの鼠を倒してポイントが入るか確認すること。

 そして通路の奥に家に帰る道があるのか探すこと。


 言いたいことや聞きたいことは山ほどある、だけどあたしはダンジョンクリアだとか勇者になりたいわけじゃない。だからわからないことはダンジョン不思議でまとめて置いておこう。


 騒いで誰か助けてくれるとも思えないし、今の状況じゃ助けが来るなんて考えるほうが無駄だ。だったら今できることを探すだけだ。


 これからやることはすごい単純な気がするけど、簡単ではないと思う。それでもやらなければいけないからやるだけだ。

 今、進まなければ足が止まってしまいそうで、気合を奮い立たせて通路へと進んだ。



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