長い夜(1)
中に入ってまず思うのは、どこにこんだけの魔物がいたんでしょうか?
氾濫が始まったのは夜中だったにも関わらず、人が少ない時間を狙った探索者もいるから、思ったよりも人がいて、大技を撃つわけにもいかない。
地道に魔力を巡らせながら倒していくしかない。
「きりがないと思うんやけど」
「絵里子の魔力量とマナポどうや?」
「まだ余裕あるー」
「さっき飲んだんで暫くは大丈夫やと思いますよ」
「絵里子用のマナポーションは、俺達のポーチにも入っている」
「おかしくない? お兄ちゃんも二人も?」
「お前に聞くより二人に聞いたほうが正しい。ならわんこ出せるか?」
「あれやったら人は避けれるもんな」
「あかん、絵里子に無理させんで」
「ならお前、この状態で他の探索者を倒さんでいい手あるんか?」
お兄ちゃんのその目は家族ではなく、パーティーリーダーとしての目だ。そしてあたしはこのパーティーの看板としての誇りがある。
「お姉、あたしも探索者や。それにやばくなったらお姉が頑張ってくれるんやろ?」
前のあたしだったらきっとこんなこと言わなかった。けど今ならばお姉の気持ちも、そしてお兄ちゃんの辛いと思っている判断もわかるから、頼ることができる。
「わかった、何がきてもあたしが守る」
「俺らの仕事が取られそうやな」
「本当だな、俺達も気合入れないとな」
「はいはい、遊んでないでちゃんと仕事してくださいよ」
「んじゃまあやるから、ちょいとお願いねー」
なんとも気楽な会話と言葉。それでもみんな、しっかりお仕事してるんですよ? 足元には次々と重なる魔物だったものたち。メンバーの体調は大丈夫か気になるが、まずは自分のお仕事しっかりしなきゃ、とあたしは魔力を巡らせ、凛々しくも美しい白と黒の狼を作り出す。
「人はできれば助けたって、お願いね」
そう言って二頭を送り出せば駆け出し、次々に魔物を倒していく姿。勇ましくて格好いいねえ。
「その、自分の魔法に見惚れるの止めん?」
「めっちゃ可愛いし格好いいと思わん?」
「本当に趣味だな」
「趣味全開やからこそ、あそこまでのクオリティー」
「ドヤ顔で言うことちゃうな、宏さん、先に進みます?」
「あの狼、どんぐらい持つ」
「そこそこ魔力入れたから、一階なら大丈夫やと思う」
「二頭に別の命令は?」
「できるよー」
「マジお前規格外、いい加減にしろ。なら一匹は一階の入り口に配備、もう一匹は連れてこか」
「文句言うわりには使うよね? どっちがいい?」
「性能の違いあんの?」
「今のところはない」
「その言葉が不穏でしゃあないわ。ならどっちでもいいで」
「ならしーちゃん置いて行こうか。しーちゃんは入り口から魔物出んようにお願いな。くーちゃんは一緒に行こか」
「今更やけど、ネーミングセンス」
「めっちゃ凝った名前も魔法にどうかと思うやん? あだ名みたいなもんやもん」
会話しながらも戦闘は続いている。そして二頭の狼のおかげで道は開けそうだ。
「なら生産職はここで頑張れ。組合の応援も来ると思うし、やばかったら結界石を使え」
「はい」
「あの、俺も行っていいですか?」
「紫藤、それ今言う?」
「他の生産を考えたら、俺がいるべきかと思ってたんですが、姫様のしーちゃん? がいるなら平気かと」
「あー、ええけど。マジでこっから地獄やで、何階まで行くかわからんからな」
「理解してます」
「ならええで、他は頼むな。よし行こか」
魔物の流れに逆らうように、魔物を倒しながらただ進んで行く。まずは一階がいるかどうかだろう。
「お兄ちゃん」
「あいよ、のり君は前に出て、恵子と秀嗣も頼んだ。他は雑魚や」
一階のガーディアンは、お兄ちゃん達がやったことある奴だ。そしてそれはすぐに倒されて、魔物が少し散り散りになって減っていく。それでもまだまだ多くて、これは三階までは覚悟かな?
「ポーション飲んだか?」
「あ、そうやね」
返り血を防具の袖で拭い、ポーションを飲んで少しでも体力を回復させておく。そうしないとこの戦いがいつまで続くかわからないからだ。
胡堂はほんとによく気付くよ。
「この流れ、逆らって次に行くぞ」
お兄ちゃんの言葉であたしは駆ける。それに胡堂と秀嗣さんもやってきて道を作っていく。
「絵里子は体力気をつけろよ」
「さっきポーション飲んだ」
「恵子は魔力な」
「のりにも言われた」
「家の男共、有能過ぎて有難いわ」
「なら私も、有能なところを見せなくちゃいけませんね。皆さん避けてくださいね」
その瞬間に後ろから、凄い勢いで怖いものが迫る気配がした。あたしはそれを高く後ろに飛ぶことで、とかやり過ごすと、それは魔物に横一線に当たり、そのまま進み何列かを上下に真っ二つに切っていく。
「智さん、今のって」
「はい、鎌の刃みたいなものですね」
「死神どころじゃないな」
「あれどうやってるんやろー、あたしも飛ばせるかなあ?」
「お前、氾濫のたびに何か試してない?」
「そうでもないよ、四神は特訓の時やし」
でもそうか、同化を魔法として放出する感じ? 鉄扇の先に同化を集めて、矢を放つ感覚で鉄扇を仰げばいいのか? それに気付けば、とりあえずやってみるのがあたしだ。
「さすが姫様、よくわかりましたね」
「秀嗣さんのも、似たような原理やんな?」
「たぶんそうだと思いますよ。私は拓斗の戦い方を見て思いつきましたから」
「ああ、確かに」
でもこれは便利かもしれない。魔力量によって大きさや強度は変わるし、それに魔力だから、ある程度は動かすこともできそうだ。
「連発するならマナポ飲め」
「まだ大丈夫やもん、これそんな魔力使わんから」
鉄扇に魔力をたんまり入れていることもあって、そう自分の魔力を使うことがない。それでも多少考えないと、この先がまだ見えてないんだから。
まだ二階にも辿りつけていない。次々にやってくる魔物を倒しては、少しずつしか進めないことに苛立ちそうだ。
「絵里子、わんこに二階までの道を作らせることできるか?」
「できるけど一階どうするん?」
「ギルメンもおるし探索者もおる、もう組合支援も来てるはずや」
「わかった、くーちゃん」
それだけで頭の方向を変え、動き出す黒い大きな狼。立派で頭もよくて、大変いい感じの出来だ。
そして強くてあたしの願いを叶えるため、魔物の群れに臆することなく突っ込んで行く。魔法なんですけどね。
それでも十分に道としては使えそうだし、少し楽に進めそうだ。横からやってくる魔物を屠りながら、あたしたちは何とか階段までは到達した。
「必要な奴は順にポーション類飲め、終わったら突っ込む。階段も魔物に占領されてるから、休憩なんてあると思うな」
あたしはいつものように二本を順に一気に煽り、お兄ちゃんの号令を待つ。
「何階くらいならわんこ行けそうや?」
「この感じやったら三階まで持つかやね? 魔力足したらもうちょい行けるかも」
「わんこ消えることでお前にデメリットは?」
「悲しいだけ」
「うっし、わんこ先頭で行けるとこまで行こか。階段は一気に駆け下りるぞ」
階段での戦闘はあまりやりたくない。狭いこともあるし、それこそ次々きて間に合わないこともあるし、動きにくい。それを考えたらくーちゃんにお願いするのが確かに早い。
「ごめんやけど、お願いね」
首元を一撫ぜして、少しだけ魔力を足しておく。少しでも強化されるように。そしてあたしの願いを聞いて、その狼は走り出す。
誰よりも早く階段を駆け下り、魔物を次々と蹴散らし屠りながら、また駆け下りる。
たまあに、なんで各話タイトルつけようと思ってしまったんだろうと、本気で思います。
番号にしとけばよかったよ、毎回そこで時間を取られる。




