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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
十三章 いつも唐突で突然

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それは唐突で突然に

 


 『全員、速やかに武装後、境内に集合』


 寝ていたところを突然の念話で起こされる。それでもその内容から、何かがあったことは明白だと急いでベットを抜け出し、装備に着替えポーチの中身を確認する。


 どこか嫌な予感がして、マジックバックのリュックを三つ掴み、そのまま走って倉庫へ。そのままポーションや医薬品を急いで入れていく。


「絵里子、何している?」

「行くぞ」

「もう行ける」


 慌てて倉庫から出て境内に行けば、身内ではあたし達が最後だったようだ。

 他にも何人かのメンバーとお兄ちゃんの姿、お兄ちゃんの顔は恐ろしいものになっている。


「遅いやないか」

「これ必要かと思って、ポーションや薬品と医療品関係を詰めたの」


 三つのリュックを持ち上げれば、その口許をにやりとさせるお兄ちゃん。それはよくやったと言うことだろう。その間にもギルドメンバーが次々に出てくる。


「時間ないからここで締め切りや。今さっき一宮で氾濫が起こったと知らせがあった。俺らはこれから討伐に向かう。今回はフォローもないガチや、行きたくない奴は辞退でいい。死ぬかもしれん、それでもいいってやつはついて来い」

「お兄、先に行っていい?」

「のり君と恵子で先駆けで地上やっとけ。夜中やから人少ないと思うが、気を付けろ。絵里子はわかってんな」

「あいあいさー」

「拓斗と秀嗣も頼むな」


 その言葉を合図にお姉とのり君が先に転移陣に乗り、その後を三人で追う。もうお姉たちの姿はなく、迎えてくれたのは智さんだ。


「なんで氾濫なんて?」

「わかりません、有力なのは火薬だと思われます」

「あれだけ人も入ってたしなあ」

「他に理由が浮かばないな」

「姫様には負担を掛けますが」

「やるべきことはわかってる。これ、薬とか入れてきてるから」


 そう言ってリュックを智さんに渡し、あたし達は一階に上がり組合を出る。


「思った以上にもう出てるな」

「まあ一応は、お仕事せなな」


 そんな二人の言葉を聞きながら、あたし達はダンジョンに足を向ける。そしてあたしは大きく息を吸い込み声を上げる。


「レベル5以下はすぐに組合に避難を。10までは、できれば地上で無理のない範囲で魔物の掃討を。10以上はできれば一階で、魔物の掃討をお願いします。動けるものは動けない者を助けて下さい。一人でも多くの命が助かる様に、お願いします」


 すでに魔物は組合まで来ている。かなり危険な状態だ。その中で少しでも助かって欲しくて、もう一度声を上げる。


「動けるものは動けない者を、一人でも多く助かる様に、一人でも多く、お願いします」

「やり過ぎや、魔力を乗せすぎや」

「ごめん」

「しかし数が多いな」

「俺が大技撃つから走り抜けよか。後方も来たみたいやし」


 そう言って胡堂は綺麗な水龍を作り出し、滑らせるように魔物を押し流していく。そして出来上がった道をあたし達は駆けながら、近寄って来た魔物を端から倒していく。


「白ちゃんとすーちゃん出す」

「ガーディアンあんねんで」

「マナポで粘る」


 胡堂も秀嗣さんも認めたくないんだろうが、あたしの本心に気付いているんだろう。あたし達の後ろをお兄ちゃんと智さん、それにギルドメンバーがついて来ていることは気配でわかっている。


「あいつらはこれ用やで」

「わかってる、それでも地上にこれは多すぎるのもほんまやろ?」


 胡堂は諦めたように溜息を吐き、秀嗣さんは苦笑する。その姿にごめんと有難うを言って、あたしはマナポを一気に煽ると、美しい白い虎を作り出し、次に緋色の鳥を作り出す。


「お願いね」


 それだけ言ってあたしはまた走り出す。二人はそれに合わせ動いてくれる。


「お前、あほやろ?」

「これだけ地上おったら、やばいのもほんまやろ?」


 後ろからやって来たお兄ちゃんが怒るけど、それでもあたしの言い分も、まあ違ってないはずだ。


「メンバー全員が来たん?」

「いや、一人おらん」

「一人?」


 お兄ちゃんのどこか嫌そうな言い方に、あたしの胸に不安が募る。この氾濫に関係していると言うことだろうか。


「宮本がおらん」


 何かがあたしの中で繋がってしまい、でもそれを信じたくなくて、あたしは目の前の魔物を乱暴に切りつけた。


 そう長い距離じゃなかったはずなのに、ダンジョンが遠く感じる。周辺には組合近くで寝泊まりしていた探索者なんかも出てきていて、それこそ戦場のようだ。


「レベル5以下はすぐに組合に避難を、10まではできれば地上で無理のない範囲で魔物の掃討を、10以上はできれば一階で魔物の掃討をお願いします。動けるものは動けない者を助けて下さい。一人でも多くの命が助かる様に、お願いします」


 魔力を乗せ声を張り上げる。それだけで変わる何かがあるのなら、あたしは声が枯れ、血が流れるまで声を上げるべきだ。


「動けるものは動けない者を、一人でも多く助かる様に、一人でも多くお願いします。我々がダンジョンに入り氾濫を押さえます。それまでどうか、どうか命を大切にしてください」


 つい声を張ることに意識が向き、横からやって来たオークが斧を振り落そうとする。

 でもそれを許す、あたしの守り手たちではない。間に秀嗣さんがすぐ体を入れ刀で斧を受け止め、胡堂が刃を飛ばし首を跳ね飛ばす。


「やり過ぎや」

「まだいける」

「駄目だ、どこまで行くかわからないんだぞ」


 確かにその通りなんだけど、組合の近くには避難してきた人なんかもいて、逃げ惑う戦えない子供なんかもいるんだ、だから。


「あかん、あれで十分や。これ以上は変な信者が増えるだけやで」


 胡堂の言葉に頭だけが一瞬止まり、秀嗣さんとお兄ちゃん、それに智さんが笑った。


「確かにそうだな」

「信者欲しいならいいと思うで、好きにせい」

「ちょ、お前、酷くないですか? こんなにあたし頑張ってんのに」

「俺らも頑張ってるし」


 胡堂の言葉で、どこか焦っていた気持ちが消えた。そしてあたしに余裕が生まれる。


「うん、ごめん、ありがとう。こっからはいつも通りいけいける」

「なら俺らは少し上げよか」

「そうだな。宏、俺達は先に行くぞ」

「ダンジョン前の敷地内、減らせるだけ減らしといて。組合の救助スペース用に」

「胡堂が火龍を作ればいいんちゃう?」

「その前に恵子さん行ったから、残ってんの?」


 そんないつもと変わらない会話をしながら走り、魔物を倒していくあたし達を、後ろのメンバーたちは驚き、そして意味がわからないと言う顔で見てくる。


 自分でも慣れって怖いね、と思うけど、けどやっぱりこうして戦えているのは、仲間のおかげだと思う。


「なら、お姉に負けんように行きましょうかね」

「あいよ」

「ああ」


 そしてあたしはスピードを上げて走り出す。すぐ後ろの左右に二人がいてくれるから、あたしは安心して、ただ前だけを見て走ることができる。



 ここからは暫くあたしは魔力は温存だ。駆けながらも回る様に魔物を躱し、鉄扇で切りつけ逆手で攻撃を受け止める。その隙に秀嗣さんが止めを刺し、胡堂が道を開く。


 そしてその開いてくれた道を、あたしは顔隠しの飾りをしゃらんと鳴らし進んで行く。

 すっかりと息の合ったあたし達に、この程度の魔物の群れは相手ではないんだ。



突然ですが明日から投稿を11時と19時にします。

時間変更になりますのでお気を付け下さい。

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