理解する者としない者
どれだけレベルを上げようと死ぬときは死ぬし、負けるときは負ける。だからこそ自力を上げて、せめて隙をつくぐらいの能力と冷静さ、それにメンタルが必要なんだ。
「結構ダンジョン以外でも場数踏んできて思うんは、やっぱ最後は自力やねん。わかりやすく言うと、レベル5の人が二人おったとするやん。片方は運動してこんかったとしよう、もう片方は武術してきた人、どっちが勝つ?」
「そりゃ武術してた人でしょ?」
「正解。じゃあ武術してた人はレベル5、運動してない人はレベル8、どっち?」
「3も差があれば、してないほうが勝つんじゃないですか?」
「俺はレベル5でも、武術してる方が勝つと思ってる」
あたしもお兄ちゃんに同意見だ。人を相手にしたことあるからこそ、それも訓練を積んだ人を相手にしたことがあるからこそ、余計にそう思う。
「力の使い方知ってる奴と知らん奴とじゃ、全然違う。逆にレベルに頼ってると、負けそうなったときに崩れて使いもんにならんくなる。力に溺れて、それが通用せんとわかるとガキみたいになる奴が多い」
力に溺れる、まさにその通りだ。それになんの意味があるんだろう。その力をどう使うかが大切で、力を振り回すだけでは、ただの虐めっ子と変わりない。
「レベルはただの目安って、そう言うこと? 精神的な力や判断能力も力ってことだよね?」
「せめて挙手ぐらいしてほしいが、そう言うこっちゃ。レベル頼りの力に溺れた奴は、やばい時には仲間も見捨てて逃げる可能性もあるからな、そんな奴はギルドにいらんねん」
信也さんの静かな声にお兄ちゃんは頷いて、みんなを見る。
「魔法の大技にしてもそうやな、それがあったら大丈夫なんて思う奴に教える気はないし、見栄張りたい奴に使えるとも思ってない。俺らのギルドは現状お試しや、それでも有事の際には依頼が来るやろう。そうなったら最前線に立つんは俺らでも、その後ろは探索者達や。その意味を理解できん奴は正直いらん」
「抜けたいと思う方は明日までに、サブマスにでも言って下さい、我々は引き留めはしません」
智さんの静かな声は広間に良く通り、何人かは考える顔をしていた。
「他になんかあるか? ないなら今日は解散するけど」
お兄ちゃんのその言葉に上がる手はなく、今日は解散と言うことになった。あたしはお兄ちゃんの所に言って袖を引く。
「あんな、幸康さんに料理用の魔法を教えていい?」
「あ? あー、ミンチなんかか?」
「うん、できれば冷まし方とかも。風と水やろ? 野営でも便利やんな」
「本人、火が欲しかったらしいで」
「料理で火属性も悪くはないけど、色々考えたら風と水がいいんやけどなあ」
「まあ幸康やったらいいか、そん変わり誰かと一緒に行けよ」
「ハウス内やったら大丈夫ちゃう?」
「一応や」
お兄ちゃんはそう言うと行ってしまった。あたしは待っていてくれた二人に振り向く。
「話通しに行くんやろ?」
「幸康ならキッチンの方に行ったぞ」
「ありがとう」
たぶん明日の仕込みなんかをしに行ったんだろう。本当に大変だろうな、とあたしは二人と共にキッチンに行き、声を掛ける。
「ゆっきやすさーん」
「どうしましたか?」
「お兄ちゃんに許可貰ってるし、ちょっと時短料理のコツを教えようかと思って」
不思議そうに首を捻る幸康さん。あたしはキッチンに入っていいかを聞き、胡堂と秀嗣さんには前で待っててもらう。誰も近づかないように。
「この人数って、仕込みも大変やろ? だからちょっとした時短テク」
「機材とかってことですか?」
「んー、そのお肉、今からミンチにすんの?」
「はい、肉の量を増やすためにも、肉団子のスープにしようかと」
お肉の塊とミンチにする機械が出ていたから丁度いいと、あたしは一つのお鍋を借りることにする。
「おお、ガラス蓋やしわかりやすいわ。ならちょっと見ててな」
お肉の塊を何個か入れ蓋をする。蓋を押さえるように手を添えて、いつもよりゆっくりと中でミンチを作っていく。
「見える? これは風魔法」
「こ、これが魔法ですか!?」
「うん、その機械を使うより、慣れればかなり早くミンチになります。あと野菜のみじん切りも」
「あれって、中で風を起こしてるってことですよね?」
「風と言うより、小さなかまいたち的な?」
「姫様、料理で魔法使うんですか?」
「さっきも言ったけど時短テク、やないとあたしの時間なんてないもん」
納得顔の幸康さんは、自分もやってみたいと言い、鍋を取り出してきた。
「イメージが大事、目に頼るんじゃなくてイメージ」
「鍋の中だけってことですよね」
「うん、幸康さん魔力の流れ中々綺麗やし、できると思うよ」
そう言うと集中を深くする幸康さん。いい感じに動き出しているから、これは習得は早そうだ。
「ストップ、一回止めて」
すぐに結果は現れ、あたしよりは荒いが見事にミンチになり始めた。
「おお、できた、できましたよ!」
「うん、いい感じやと思う。後は回数を重ねて感覚を掴めば、粗挽きから細かいのまでできるはず」
「いいこと教えて頂きました、有難う御座います」
「ううん、この人数やと大変やろ? 訓練もしてるみたいやし」
「それでも、俺が望んだことですから」
いい笑顔で、逆にあたしの方が嬉しくなる。こんな幸康さんだからこそ、お兄ちゃんも許してくれたんだろう。
「あと水もイメージ次第。そこからはさすがに試行錯誤で頑張って」
「十分教えて頂きました、本当に有難う御座います」
しっかりと頭を下げる幸康さんに気にせんで、と声を掛け、あたしはキッチンを出る。胡堂と秀嗣さん、それにあれは信也さんと石川さん?
「どうしたん?」
「ああ、武器の話をな」
「姫様、真辺に何か教えてたの?」
「料理のことやで?」
嘘でもないし間違ってもない。けどきっと幸康さんなら、今日の話をしっかりと受け止めて、あたしが教えたことを考えてくれるだろう。
「初めましてでいいのかな? 姫さん」
「ちゃんと、こうして話すの初めてですよね」
「うん、俺は石川武雄」
「飯田絵里子です、そう言えば武器が刀でしたっけ?」
「ダンジョンで拾ったね。できればもう少しいいのが欲しいんだけど」
「いいのとは、どうゆうことだ?」
「俺には少し軽く感じるんだよね」
「ああ、確かに重さは大事だからなあ」
「秀嗣のは結構大振りだよね? 重くはないの?」
「俺には丁度いいぐらいだな」
刀同士で気が合うようだ。しばらくはこのまま刀談義が始まりそうだ。
「そうだ、姫様に言われた通り生産系の本読んでみたけど、確かに面白いね。拓斗が今日やってたのって、あれ魔力水を直に出したってこと?」
「やっぱ気づいたかー、こいつは気づくと思ったわ」
「あとは温めと撹拌? 器用なことするよね」
「俺なんて、まだまだやけどなー」
そう言いながら胡堂があたしを見てくる。あたしは他の人が作った魔力水を動かして、同じことができるようになっているから。
器用と魔力操作の高さだと思いますよ、あと先入観はないほうがやれる幅は広がります。
「姫様って、規格外?」
「柔軟性が高いと言って」
二人がくすくす笑うから、拗ねたくなる。そのとき近づく気配に、胡堂の意識が向いた。
「あの胡堂さん、ちょっといいでしょうか?」
「なに?」
「できれば場所を移して」
「内容わからなどうも答えれん、言えんのやったら諦めて」
「しかし生産でない方もいますし」
「ギルメンで何を気にするん?」
どこか冷たい胡堂の言葉、それでも宮本さんは引き下がることもなく食らいつく。
「先ほどの薬学について、詳しく知りたいのですが?」
「自分馬鹿なん? 聞いてた? まずやることあるし、説明しても意味わからんやろ?」
馬鹿って言ったよ。かなり苛々してきているな。
「そ、そんなこと、理屈さえ説明頂いて、解説して頂ければ」
「宏さんの話も無駄やな。秀嗣、悪いけど先に戻るわ」
「いや、俺ももう戻る」
「なら帰ろか、んじゃあな」
「ん、姫様もまたね」
「姫さん、今度は喋ろうね」
どこか軽い信也さんと石川さん二人に手を振り、あたしは胡堂に促されるように三階に向かう。その背中に嫌な視線が突き刺さるのを感じながら。




