予定調和と言えば
あたしの言葉に苦笑いをするお兄ちゃん。それでもわかっていたことなんでしょ、とあたしは微笑むだけだ。
「別にこれからギルド活動していく中で、こいつの顔見る可能性もあるやろ、それこそどうでもいいことやろ?」
「ギルマスはギルドは仲間ってさっき言ってたよな、だったら顔は見せるべきだろ」
「確かに言った。その前に俺らパーティーとギルド員は違うってことも言ったよな?」
緩やかな威圧めいた空気がいくつか流れ始めている。とりあえずお姉はのり君に任せて、あたしは後ろの二人を注意して、ちらりとお兄ちゃんを見て確認してから口を開く。
「探索者として、ギルド員として、タグで本人確認できるのに、顔の確認は必要ですか?」
「そ、そりゃ正規の強さがあるなら別だろうが、姫さんは別だろ?」
「別、ですか? それはどういう意味でしょう?」
「たまたま強い身内がいたから、姫として守られてるだけなんだろ? だったらマスコットの顔ぐらい拝まして」
膨れ上がる威圧的な重圧。関係ない人まで顔を青くしてしまってるじゃないか。
さすがに少し危険だと、あたしは失神者が出る前に予定を変更して声を上げる。
「やめえ、このままやったら他も巻き込んでまうな。お兄ちゃん」
「おー、どこでや」
「だるいから外」
面倒になったお兄ちゃんが丸投げしてくるのを感じながら、お兄ちゃんが大仲さんに説明する前に智さんは動き始めてる。さすがだね。
「この中で、あたしの強さに疑問を持っている方、他にもいらっしゃいますか?」
男性探索者と生産者からも数人上がった。ただあたしの興味を引いた四人と女性陣やあたしと関わった人たちから上がることはない。
「まあこの中で一番年下ですし、体格的にも小さいですし、あたしの強さがわかれば、他のみんなの強さもわかるでしょ。どなたでもいいですよ、何人でも試したい方は表に出てください」
あたしはそう言って立ち上がれば、お姉がやってくる。
「絵里子がやらんでも、お姉ちゃんが」
「お姉が強いのはわかってるから、意味ないやん」
「わざわざ絵里子が出ることはないだろう」
「俺らがやるより、手加減できるって理由やろ?」
さすがと言うか、胡堂はよくわかってらっしゃるが、その顔は納得してないのがわかる。そして秀嗣さんもだ。
あたしはそれを置いてさっさと部屋を出ようとする前に、振り向いて口を開く。
「探索者だろうが生産者だろうがそれ以外だろうが、何人でも誰でも、あたしを試したいというならどうぞ。見学者も好きにしてください」
そのまま表に出ようとしたら、智さんがやってきた。
「表を選んだ理由は、見学者なども見せるためですか?」
「どうせ全員が来るやろ? お兄ちゃんらも。それ考えたら表のほうがいいやろ?」
「怪我することはないと思いますが、お気を付け下さい」
「逆に怪我させへんように気を付けな」
「ポーション(微)ならありますから、そこはお気になさらずに」
黒い微笑みで最後に言うから、智さんも意外に怒っていることにそこで気づいた。家の人間は気が短すぎないか?
表に出て暫くすれば、予想通り全員が出てきてる。デモンストレーションとしてはいい物になるだろう。
「あ、胡堂か秀嗣さんこれ持っといて」
そう言って腰から鉄扇を抜き放り投げる。あたしとの繋がりが深くなった二人ならば持つことができるからだ。そしてあたしのその行動に訝しむギルドメンバー達。
「あたしは武器無し魔法無し、魔力は何も使わずにやりますから、皆さんは全部ありでお願いしますね? それで何人がやりますか?」
「ガキを虐める趣味、俺にはないんだけど」
「あ、三十越えてるんで気にしないでください。それに馬鹿じゃないんですか? この中でただ守られるだけでいれるとか、本気で思ってるならギルド抜けたほうがいいですよ」
表に出といて、今更やめるなんて言わせるわけない。逆にここであたしがしとかないと、たぶん後のほうが大変なことになるし、きっちり片は付けとかないと駄目なんですよ。
しかし、あんな安い挑発に乗ってくれるか心配だったが、効果は十分あったようだ。逆に良く探索者できたな、と少し思ってしまう。
加宮さんと内多君、それに他にも三人か。もうちょいいてほしかったんだけどな、と思いながら周りを見ていれば、紫藤さんがお兄ちゃんに止めるよう進言しているのが見え、村田さん達三人は面白そうに見ているようだ。
他にも少し心配そうに見ている井藤親子や梓ちゃん達に手を振って、あたしはもう一度声を上げる。
「一度に終わらせたいんで全員でどうぞ。武器と魔法はそっちはありで、あとで準備不足だとか舐めてただとか、探索者らしくないこと言わないでください」
魔物相手に準備不足とか舐めてたなんて言い訳通用しないんだ、だから本気で来てほしい。
「こいつの言う通り、五人全員で一気にやれ。本気でや。ギルマス命令と思え。物怖じするような奴はうちにいらん、結果次第では考える」
お兄ちゃんの煽りにやる気になったのか、覚悟が決まったのか、五人の顔つきが変わった。それなりにやってきたプライドがあるからこそ、それだけの事を言ったんだろうけど、井の中の蛙は大海を知るべきだ。
北海道組の三人が、真剣にあたしの動きを見逃さないように見ようとしていることに少し嬉しくなる。ここはちょっといいとこ見せますか。
「では、姫様は武器と魔力系統一切なしで、五人は武器有りの魔力系統有りで」
「一応、大丈夫やと思うけど、魔法が飛んだら相殺したってな」
「わかりました、それでは宜しいですね、始め」
智さんの言葉で、先制攻撃を狙ってまず内多君が動き出した。彼の武器は普通の剣ですか、とそれを見ながらあたしはくるりと躱し、後ろで様子見をしていた男に近づき、少し飛び上がるとそのまま頭を蹴り倒す。はい一人目。
そのまま横に居た男が急いで魔法を練るが、拙すぎるし遅すぎる。失敗して暴発しちゃうと、急いで足払いをかけ膝をつかせ、そのまま顔に膝蹴りをいれて二人目。
そのまま振り向いて、大剣を持つ手を腕で止める。
「あっぶないなー、仲間まで切りつける気なん?」
そう言って加宮さんの横腹を蹴り姿勢を崩させ、その背中を強めに蹴りつけた。おかげでハウスの壁に突っ込みかけたが、智さんがその腕を掴んで止めてくれた。
「ごめんー、有難う」
いえいえ、と微笑む智さんを見ながら、後ろに肘を入れ振り返り、そのまま高く蹴り上げる。これで四人か、と最後の内多君に目をやれば、すでに戦意喪失で戦えなさそうだ。
あたしはゆっくりと歩き、目の前で口を開く。
「降参する?」
少し震えながら頷く内多君に、さすがにどうしてだと不思議になる。
武器も魔法も使ってないし、かなり手加減もした。威圧もしてないのに。それでもこれで一応はみんな、怪我無く終わってよかったかな。




