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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
十一章 時に人は諦めも大事

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始まりは緩やかに



  なかなか前途多難な幕開けだなと、メンバー達の様子を見ながら、予定通りと言えば予定通りだ。


「なら、悪いんやけど端から各自、自己紹介だけ頼むわ。すぐ覚えろとは言わんけど、これから寮生活もあるからな」


 そう言われ、お兄ちゃんに最初に指名されたのは幸康さんだった。


「裏方の料理人させてもらいます、真辺幸康(まなべゆきやす)と言います。元は三宮でしたが、今は一宮で探索者してました。よろしくお願いします」


 はっきりとした声で挨拶し頭を下げる幸康さん。真辺って苗字、初めて知ったよ。


「裏方で管理をさせて頂きます、井藤皐月です。元は東北に居ましたが、縁合ってこちらの一宮でお世話になっておりました。皆様とは顔を合わせる機会が多いかと思いますが、お願い致します」

「娘の井藤美沙希です。準ギルド員として雑用などさせて頂きます、よろしくお願いします」

「井藤真翔です。姉と共に準ギルド員になります。よろしくお願いします」


 凛としたイメージが変わらない皐月さんは顔色もよく、本当に元気になったようだ。残っていた黒い靄も今は消え、どこか溌溂(はつらつ)とした美しさがある。


 美沙希ちゃんも皐月さんに似て、笑顔でしっかりとした挨拶だ。真翔君は少し緊張していて、本人には言わないけど可愛いなと思ってしまった。


「と、時東梓です、準ギルド員として雑用などやらせてもらいます。よろしくお願いします」


 あの時よりも、しっかりと表情が出るようになった様子の梓ちゃん。元々大人しいタイプなのか、少しおどおどとしたところはあるが、その目はやる気が満ちている。


 そして次の人に移り、あたしの目は注目してしまった。


「生産職やらしてもらいます、紫藤凱斗(しどうかいと)申します。元は九州支部二宮で探索者兼生産をやらしてもらってました」


 すらっとした姿で、きっと身長もあるんだろう。少し長めの黒髪に切れ長の目。特に変わったことはないのに、なぜかあたしの目を離さない。そのとき一瞬目が合った気がして、少しドキッとした。


 そのまま残りの生産職自己紹介に入り、男性陣の中に女性が一人いることを知った。特に気になることもなく、そのまま探索者に移っていく。


「安藤希美です、ここ一宮で探索者をやらせてもらってます。まだ歴も浅くレベルも低いですが、足を引っ張らないように精一杯やるつもりです」

「清水洋子です、安藤さんと組んで一宮でやらせてもらってました。同じく足を引っ張らないように精一杯やらせてもらいますので、よろしくお願いします」


 あの時には考えられなかったくらい、二人の目は強い意思を持ち、未来を見ようとしている目だ。これから先、彼女たちがどんな未来を選ぶかわからないけど、このギルドで力を付けることは間違っていないだろう。


 そして次は見たことあるあの三人娘か。


「北海道支部四宮で、三人で組んで探索者をしてました、栄口沙織(えぐちさおり)です。皆さんに学ばせて頂くため死ぬ気で食らいつくつもりです」

「共に探索者をしていました安本美咲(やすもとみさき)です。同じく死ぬ気で食らいつき、学ばせて頂くつもりです。よろしくお願いします」

「共に探索者をしていました、井川真理子(いかわまりこ)です。皆さんに学ばせて頂き、死ぬ覚悟で今まで以上にできることを増やしたいです、よろしくお願いします」


 すっかり雰囲気も目も変わった三人。死ぬ覚悟とか死ぬ気ってのはどうかと思うけど、やる気は満ち溢れているようだ。安藤さん達とも上手くやってくれたらいいが、今の彼女たちなら大丈夫だろう。


 そして最後に男性探索者に移る。レベルがまだ低い人から高い人まで、幅もあり性格もなかなか幅がありそうだ。

 二十代から三十代までいて、寮内の監視も厳しくするべきだろうか?



 ぼんやりと数人の自己紹介を聞き流し、いくつかの興味や少し嫌な視線を流す。お兄ちゃん的には叩きのめして使いものにする気なんだろうな。


加宮基樹(かみやもとき)、東北支部で探索者をしている。組合が世界トップの探索者がここだと言うから来た」


 それは肯定や尊敬ではなく、挑発的な目と言葉。そんなもので反応する人はいないんだよね。あのお姉ですら鼻白んだように、興味がないとココアを飲んでいる。


 誰も相手にしてないと気づくと、その目が馬鹿にしたようにあたしに向いた。後ろの二人の空気が変わるのを小さな声で止めておく。


 まだその時ではない、まだ紹介が終わってないんだから。


「四国支部から来た内多道泰(うちだみちやす)、強い人が集まるって聞いたからきた」


 若いな、きっと二十代だろう。ぶっきらぼうと言うか、野心的な目とどこか周りを見下したような態度。お兄ちゃんはどっちを選ぶんだろうか。


「村田信也、横の康太と武雄と組んで戦ってた」

「村田康太です、よろしくお願いします」

「石川武雄、死ぬ気でとは言えないけど、生き抜きたいからここに居ます」


 顔隠しのヴェールの下で、気付かれないように小さく笑ってしまった。何が面白いって、これが挑発でも威嚇でもなんでもなくて、三人とも本気なんだもん。


 無駄な力も入らずに緊張の欠片もない二人と、緊張はしているけど、それはただの性格だとわかる弟の康太さん。この三人はこれからどうなるのか楽しみだ。


「とりあえずこれで自己紹介終わりか、ならこの後やねんけど」

「ギルマス、そっちの自己紹介は?」

「あぁ?」


 不躾に声を出したのは内多君だ。お兄ちゃんはどこの強面さんだと思うような凄みの利いた声で睨みつける。


「硬い関係も面倒やけど、節度は持てよ。若いからってなんでも許されると思うな」


 威圧は飛ばしていないのに、顔を青くする内多君。言葉が何も出ないようで可哀想になる。するとまた加宮さんが手を上げた。

 説明の時もこの人だったなとぼんやりと思う。

 お兄ちゃんの頷きを見てから発言する辺り、大人ではあると思うんだ。


「俺もそっち側の自己紹介がないと思うんだけど」

「必要なんか? 知ってるんやろ?」

「ギルマスとサブマスの名前は聞いたけど、あとはだいたいとあだ名しか知らねえ」


 そう言われてしまえばそれもそうか。ギルドの形態をとるなら必要な事かとお兄ちゃんも思ったらしく、まず智さんに振る。


「石田智です、ギルマスの補佐的なことを良くしてますね」

「浜本恵子」

「浜本紀佳です、恵子の旦那です」


 微笑んだままの智さんと面倒そうに言うお姉、それに補足をいれるのり君。そしてお兄ちゃんがあたしの後ろに先に視線を送る。


「加賀美秀嗣だ」

「胡堂拓斗」


 それだけか、と突っ込みたくなったが、今のあたしはマスコットだから大人しくはしておきますよ。そして全員の視線があたしに向く。


「飯田絵里子です」

「自己紹介時に、顔を隠すっていいの?」

「さあ、兄に聞いて下さい」


 加宮さんか内多君に言われると思ってたからね、反射的に微笑んでそう返せば、一瞬気圧されたようになる加宮さん。しかしそれで止まりはしないだろう。そんな天狗なら、さっきのお兄ちゃんで縮こまってしまったはずだ。



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