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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
十一章 時に人は諦めも大事

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建築



 次の日からお兄ちゃんは、本格的にギルド発足に向けて動き出したらしい。

 そして居間に置かれた大量の紙の束。違うな、山がある。その横でそれを一枚一枚見ながら、顔を向けることなくお兄ちゃんがあたしに言う。


「先、あの図案で神社作っといて」

「そんなコーヒー淹れてのノリで言うこと?」

「コーヒーもいる」

「いや、魔石を勝手に使っていいの?」


 その言葉でお兄ちゃんがあ。と気づいた顔をした。あたしは考えがまとまる時間のために、コーヒーを淹れてお兄ちゃんに渡す。


「あー、どんぐらい要りそうや?」

「あれなら強度や色々と考えて、たぶん二個もあれば?」

「ギルドハウスの図案、見たか?」

「軽くしか見てない。ただ地下に倉庫と鍛冶施設や生産系いれるんやろ?」

「ああ、生産好きはずっとやりたいもんやからな」


 生産廃人の台詞だからこそ、実感が籠ってるわ。


 昨日の夜に智さんから、ギルドハウスの図案は一応見せてもらった。この通りにできるかどうかの確認だ。


 地下一階、地上三階建ての大きな建物で、入り口は広く取り、地下はさっきも言ったように倉庫や生産系が廊下を挟み纏められる。

 それと逆側に簡単な広場を二つ作り訓練室になり、強度を上げて魔法にも耐えれるようにする。


 一階はほぼギルドメンバー用だ。できれば大きなキッチンとそれに繋げるように大きな食堂兼広間で、ここで全体会議などがあれば使うらしい。他にも来局用の応接用なども一階に作る。


 二階はいくつかの部屋に分け、パーティーの為の部屋に使いたいらしい。他にも一応の武器庫用の倉庫、それに一部は仕切りのない空間で、ソファーやテーブルも置いて交流しやすい空間を作る。


 二階から三階上がる階段は両端の二箇所に作り、左右で空間を分けるらしい。片方はギルドメンバーも使える資料室で、もう片方は一軍と言われる人たちと、あたし達だけしか上がれない場所。ギルドマスター室とサブマスター室、そしてあたし達のパーティールームと応接室。


 三階に応接室いるんだろうかとすごく思うけど、一応と言われたらあたしには何も返す言葉はありませんよ。


「ギルド寮はとりあえず、箱だけでいいんやろ?」

「おう、まだどんだけ取るかも、ギルド続けるかもわからんからな」

「んで、魔石どうする?」

「あー、わんこと巨人にするかなー? それで行けるか?」

「十分。てかその言い方やめん? 特にわんこ」


 立ち上がったお兄ちゃんは細工場に入ると、魔石を持ってすぐに戻ってきた。一緒に作業していたはずの胡堂まで。


「拡張するんやろ?」

「魔石次第」

「おし、御簾行くぞー」

「あれ? お兄ちゃんも行くん?」

「さすがに興味あるからな、図案は?」


 紙を持ち上げお兄ちゃんに見せる。それを見るとさっさと行ってしまうお兄ちゃん。


「みんなは裏におるんやんな?」

「おー、生産頑張ってるわ」


 それを聞いて大きな魔石を二つ受け取り、御簾を上げ中に入る。座った瞬間に一瞬だけ動きを止めてしまうが、気にしたら負けだろう。


「どうかしたか?」

「なんもない、始めるで」


 あたしは魔石に魔力を込める。徐々に輝き光る魔石は虹色になり、美しい玉となる。それをゆっくりと魔晶石に押し付ければ、溶け込むように消え魔晶石が輝いた。


「じゃあ改装やね」


 図案を見て、この本殿と拝殿を繋いで作り、境内の空間を先に作る。その後は図案にあるギルドハウスを作り、中を決めていく。家具に関しては後でもいいだろう。


 逆にはとりあえずの寮用の建物を作り、こちらも三階建てにしておく。どうせ中の部屋は広さは後で変えることができるんだし。不思議空間の有難さだね。


 そして拝殿から参道のような道を作り、その先に大きな門を建てる。そして最後にその奥に大きな空間を作り、今日のところはこんなものか。


 ふう、と一息ついて顔を上げれば、どこか呆気に取られた二人の顔。そんな気はしていたけど少し切ない気がしてしまう。


「一応できたで、確認に行く?」

「あ、ああ、行こか」


 お兄ちゃんがそう言って、我に返ったようになんとか言葉を出す。異質なことは仕方ないとわかっている。この力を使いこなすことでみんなを守れることも。

 だからきっと、こうした多少のことで戸惑ってはいけないんだろう。


 『ほらやっぱり、絵里子は力を選んだ』


 御簾に座った時に聞こえてきて宵闇の言葉だ。間違っていないけど、間違っている。

 あたしが選んだのは家族と、そして家族と笑ってられる日常だ。



「ほら、お前も行くんやろ? 早く出てこい」

「置いてかんといてよ、頑張ったんあたしやし」


 先に行ってしまいそうなお兄ちゃんに言いながら、御簾を出てあたし達は神社の扉を開ける。


「おお、これはまた不思議空間」


 目の前には緩やかなアーチを描く美しい橋、その周りは設定してないのに緑が見える。

 そのまま橋を渡れば、中央で御簾裏と同じようなレリーフの扉、念のため胡堂が触れれば普通に開くことが確認できた。


 そのまま拝殿に行けば、周囲を縁側というのか木の廊下がぐるりと繋がり、橋からも真っすぐに拝殿に下りれるようになっていた。


「基本は廊下かいね?」

「そのほうがいいんちゃう?」

「不思議空間で寒くないのが有難いことで」

「装備もあんまり気温を感じんしな」


 じゃなきゃあたし、あんな装備でダンジョンなんか行けないよ。二の腕も太ももも出てるんだから。



 今日は確認で誰もいないからと、そのまま拝殿の中を突っ切って境内に下りる。ぐるり周囲を見渡せば思った以上に広い気がした。


「ええ感じやん、広さもあるし厳かな感じやし」

「一応は図面通りにしたはずやで?」

「この灯篭とかは?」

「あたしは考えてないから、オプションちゃう?」


 その答えに笑いだす胡堂。拝殿も思っていた物より装飾があり、本殿ほどではないが美しい仕上がり。華美になりすぎず厳かで威厳ある雰囲気に少し驚いた。


「これやったら境内と拝殿は特に手を入れる必要ないな。左右の空間もあるし」

「そうですね、陣はどうします? ちっさい建物を建てるか、地面に直書きか」

「下が砂利やから小さいの建てた方がいいか? 建てよう思ったら建てれるか?」

「まだそれぐらいなら大丈夫やで?」

「何やったら壁とか要りませんし、板張りの屋根付きでいいちゃいます?」

「それいいな、どうせギルメンしか使わへんし」


 話合いながらも足を進め、ギルドハウスまでやってきた。こちらも思っていたより大きく感じ、立派なものだ。


「家具は置いてないで、あとで好きに置いたほうがいいやろ?」

「十分や、それやったら俺でもできるしな」

「お兄ちゃん、ポイント足る?」

「そこは恵子が頑張ってる」


 勝手に奪う気満々な兄ですね、さすが長男ですね。そんなことを考えていたら二人はさっさと中に入ってしまう。


 入り口の扉は建物の真ん中に両開きであり、靴のまま上がるから靴箱などはないが、代わりに大盾や武器なんかを置いとけるような場所は作ってある。


「入り口奥は事務的な窓口カウンターと事務方用の部屋、それに二階に続く階段、右手側には大広間と大きなキッチンを繋げてる。左手は廊下挟んで中規模と小規模で会議室や応接室として使えるようになってる」

「地下は?」

「気になるなら見てくれば? 一階の左右に下り階段あるで?」

「気になるけど後回しやな、先に二階と三階行こか」


 お兄ちゃんの言葉で階段を上り二階へ。まず目につくのは仕切りのない大きな広い空間、窓も大きく取り開放感がある。


「いい感じの談話室やな」

「もう少し小さいのが左右の端にもある」


 二階は基本、各パーティーが使えるようにいくつかの部屋とそれと倉庫、そして仕切りのない談話室になっている。


 談話室にも今は家具もなくがらんとして、各部屋もそのパーティーが家具などを置けるように中は空っぽだ。もしギルド立ち上げを辞めたら、ここをどうするつもりなんだろう?


 二階は少し見るだけで、そのまま三階に上がって行く。階段の前にはレリーフの扉がつけられ、進む者は限定されているほうだ。


「言われた通りに、まず三部屋は中の扉で繋がってる。一番奥を広くして。廊下を挟んで応接室に使えそうな感じと用途不明の少し広い部屋と小さい部屋。廊下の奥にはレリーフの扉で資料室側に行けるようになってるはず」


 図面がわかりやすかったからそう悩むこともなく、そのまま作れた感じだ。特に間違ってはいないはずだけど、お兄ちゃんの評価が気になってしまう。


「かなりいい感じや、これで家具を置いたらまた雰囲気変わるやろうし。中の改装はできるんか?」

「その場合は境内に誰もおらんかったらできる」

「改装する場所に人おったらあかんのと一緒か」

「うん、今回は場に施設作ったわけじゃなくて、一から建てたから境内って認識になる」

「寮もか?」

「寮は不思議なもんで、賃貸施設応用やから寮内に人おらんかったら部屋数増やすんはできるし、広さも改装するとこだけおらんかったらできる」

「その差なんやねん?」

「あたしに聞かれても」


 半分はあたしの感覚的イメージのせいだろう。寮は賃貸施設のイメージが強すぎた。逆にギルドハウスは中も外も初めての感覚で、地下の居間とも違うから、どうしても境内と別物と切り離せなかったんだろう。

 言えば文句を言われそうだから言わないけど。


「まあいいわ、建物はこれで大丈夫そうやし、居間に戻ろか」

「ならこれで、あたしの仕事は暫く終わり?」

「宏さん、俺こいつにやらしてみたいことあるんやけど?」

「ん? なんや?」


 いい笑顔の胡堂の言葉は、基本的にいい予感がしない。これは友達としての感想でしかないとわかっているけど、そう間違ってはないだろう。


 こそこそとお兄ちゃんに何か言う胡堂。お兄ちゃんの顔にも面白そうだと書いてるよ。


「ええやん、やってみよか」

「何させる気よ?」

「先入観ないほうがいいって、まあさっさと居間行こうや」


 そう言ってさっさと歩き出す二人。楽しそうに喋ってるが、その後ろのあたしは何をさせられるのか不安しかないよ。



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