変わらないでほしいもの
ついそんなことを思ってれば、胡堂の冷たい言葉が聞こえてきた。
「それに、お前はあんまりギルメンと関わらんと思うしな」
「えっ? 何でよ?」
「まあ恵子さんが許すとも思いませんし」
「生産とかあるやん?」
「お前の作るもんは、さすがに見せれんわ」
それを言われれば確かにそうなんだけど、それならあれだよ。あれ。
「魔法とか戦闘とか、あるやん」
「お前の基本は鉄扇やし、魔法も感覚でほぼやってるやろ?」
「姫様のは手本には向きませんし、何よりうちの看板ですから」
「そんな看板嫌やあ、どうせならあたしも楽しくやりたいー」
空気を変えそう不満を漏らせば、二人は楽しそうに笑ってまったく取り合ってくれそうもない。もう拗ねてやろうか。
「でも不安や心配はあっても、姫様もギルドに対して否定的ではないんですね?」
「理由として納得できたし、必要性も理解できたもん。ただこれ以上の家事はできへんけど」
「ギルドハウスってやつか」
「ギルドハウス、とは?」
「物語やゲームなんかでも色々あんねんけど、ギルドハウスはチーム共同の生活空間であったり集まる場であったり、様々やね」
「ふむ、もう少し確認して案を練ったほうがいいですかね?」
「場所もそうやし、規則もそうやし、契約内容もやな」
「役割とかもいるやろ? それに神社をどうするかも」
「それに商店や学校ですか」
「ほんまに山積みやな。宏さんにも話し通すべきやない?」
「そうなんですけどねえ」
どこか困ったような何とも言えない顔の智さん。
「お兄ちゃん、どうかしたん?」
「いえ、ただ色々と案件が重なっているので、余裕は少ないかと」
その答えに少し違和感はあったけど、確かに間違いはないし忙しそうだ。そこにガーディアンの魔石問題もあるし、国の動きもまだわからない。
「そんな時にこれ考えなあかんの?」
「元々はお前が、探索者と交流とか商店とか言い出したからやろ」
「マジか、そこからか」
智さんも苦笑で頷いている。あたしとしては本当に適当に気まぐれで言っただけに近いことだ。それがこんなことになるなんて、思ってもなかった。
だったらあたしももう少し、真剣に考えるべきだろう。言っちゃったのあたしだし。
「お前はこれ以上考えるな」
「人の心を読むな」
「お前がわかりやすいねん」
「てか、言い出したんあたしなら考えるべきやろ」
「お前が考えるとどこ行くかわからんから言ってんねん」
口を尖らせ少し拗ねて見せたところで、胡堂は何も変わらない。それを見て智さんがくすくすと笑った。
「本当に仲が宜しいですね?」
「そうじゃなかったら、こんな長く付き合い続いてないで」
「そうやなあ、あたしもこいつじゃなかったら呼んでなかったし」
家族以外で最初にここを見せたのは胡堂とたっちゃんと摩耶だ。そこから健也君が増えて秀嗣さんと戸上さん、そして国の知るところになり智さんと会うことができた。
「人の縁て不思議やなあ」
「人の前に、世界のほうが不思議やけどな」
「それを言ってしまえば、星も神もですよ」
二人の言う通りで、本当に不思議なことばかりだ。そしてきっとこれからもまだ、この不思議は続いていくんだろう。その時のためにあたし達は、できる限りを考えて備えるべきなんだろう。
そのあとすぐに智さんは胡堂を連れて遅くまですいません、と部屋を出て行った。一人残された部屋でぼんやりと考えるのはさっきの話。
世界の変革はまだ終わっていない。宵闇ははっきりと言葉にしなかったけど、あの顔はそうゆうことなんだと思う。その変革は魔素の馴染みを指しているのか、それとも魔物の変化を指すのか、それとも全く違う何かなのか。
様々な方向から見ても、仲間を増やすことの利点はある。生産も探索者も。ただ欠点も多く、失敗したときの衝撃も大きそうだ。簡単に決めれることでも簡単に進めていい話ではないだろう。
「あー、久々に考えたから頭ぐるぐるする、寝よ」
あたしは立ち上がり寝室に行く。纏わりつく考えを振り払うようにベットに倒れ込み、布団にもぐった。
無駄だとわかってて宵闇はあたしをどうしたいんだろう、と浮かぶ。
誘蛾灯だと言うわりに、苦しむさまを楽しむように観察し、愛おしいと軽薄に吐く。愛玩動物にも劣る扱いな気がして、あの変態ドSかと浮かんだから、とりあえず考えるのはやめた。
もしギルドができれば、どこまで秘密を漏らすんだろう。もしギルドができれば、ここの居間はあたし達の居間ではなくなるんだろうか?
仲間が増えるはイコールで家族ではない。そこに崇拝や崇める心があれば、あたしは本当に信頼できるんだろうか?
今の仲間が奇跡のように思えて、余計に大切で無くしたくなくなる。
あの騒がしいけど、みんなで囲む食卓の時間があたしは好きだ。誰も何も気にせずにおかずを取り合ったり言い合ったり笑ったり、あの時間があるからこそあたしはあたしでいられるんだと思う。
考えないようにしているはずなのに、気が付けば考えていて、その夜はなかなか寝付くことができなかった。
「おはよ」
「おはよう、昨日は寝れなかったのか?」
「少し? 寝つきがね」
寝室を出たら秀嗣さんがいて、少し心配そうにあたしを見てきた。
「拓斗と智と話していたんだろ?」
「秀嗣さんも聞いた?」
「一応は聞いたが、俺はゲームをしないからな。ただ仲間を増やすメリットとデメリットはなんとなくだがわかった」
「どっちにしても大変やろねえ、秀嗣さんはどっち派?」
「賛成か反対かってことか?」
見上げ頷けば、秀嗣さんは少し考えこむ仕草をしたあとに慎重に口を開く。
「俺はまだ決めかねる。それこそ案が出ききっていないし、デメリットもきっと出ききっていない。何より俺は今のここの空気が好きだからな、それが変わる可能性を考えると、メリットがあっても慎重でありたい」
その言葉になんだかほっとして、自分だけではなかったんだと知って嬉しくなる。
「そんなに笑って、少し子供っぽかったか」
「ううん。あたしも同じようなこと考えてたから、あたしだけじゃなくて嬉しくて」
あたしの言葉に少し驚くが、すぐに笑う秀嗣さん。
「たぶん他も似たようなものだと思うぞ。みんなここが好きだから、拓斗も智も何かしら理由を付けてここは守ると思うぞ?」
そうなのかな、そうだと嬉しいな。この先どうなるかわからないけど、それでもこれからもまだここが変わらないなら、あたしは怖いものなんてないかもしれない。
「そうやったらいいな。ならさっさと居間に行って聞いてみようかな」
「ああ、そうすればいい」
優しく見守る様に微笑む秀嗣さんと居間に向かい、騒がしくも楽しい今日がまた始まる。




