重大発表ではない
自分の部屋のベットの上、寝たのに全く寝た気がしないのは夜中に起きたせいなのか、それともあの話のせいなのか。
それでも言わないわけにはいかないよなと、気怠く感じる体を動かして目覚めのために顔を洗った。
「おはよ」
「おはよー、絵里子にしては遅いやん」
「おはようございます、疲れが出てるならゆっくり休んでくださいよ」
口々に朝の挨拶をし気遣ってくれるみんな。こうして揃っているし全員に言ったほうが早いかと、あたしはその輪の中に入る。
「重大なお話があります、各自いるなら飲み物とおやつでも支度して下さい」
「なんやその、重大っぽくない言い方」
「姫様はココアでいいですか? 朝食より軽めの摘まめる物のほうがいいですかね」
「あたしもココアほしいー」
「俺も手伝うわ、他はコーヒーでいい?」
「のりさんお願いー」
変わらない空気と変わらない暖かさ。でもきっとこれから言うことは、ここを凍り付かせてしまう。それとも意外に笑い飛ばすのか?
わからないからと判断を委ねるあたしは卑怯者だ。責任を押し付けてるような気がして、また躊躇う自分が出てきそうになる。
「お前が何言うか知らんけど、俺ら信じてるから言うんやろ」
「人に頼ることは間違ってないぞ」
胡堂と秀嗣さんに声を掛けられ、知らず下がっていた顔を上げる。二人が笑って、他のみんなもあたしを見て笑ってくれているから、あたしは覚悟を決める。
「じゃあ重大発表っての聞こか」
「話な。昨日の夜、宵闇が来てん」
言った瞬間にみんなが顔つきを変える。
「まあ落ち着け。話しただけやし、たぶん念話で誰か呼ぶのも無駄っぽかったから。ほんまに昨日は普通に話しただけ」
目つきをきつくするお兄ちゃんに、聞き洩らさないように真剣な顔の智さん、促されあたしは口を開く。
「世界の変革はまだ終わってないことはわかったけど、どう変わるかまではわからんかった。それと」
一瞬言い淀み躊躇うのは、その事の大きさと予想もできないほどの規模の大きさのせいだろうか。
「それとなんや、そっちが本題やろ」
「ガーディアンの魔石、あれ調べられてないやろ?」
「あん? まだ時間がないだけや、こっから」
「あれは特殊やねんて、星の力が強い結晶。あれをあたしが使えばダンジョンを、ここみたいな場を作ることができるって」
みんなの表情が止まった。誰も声を上げれない、だからあたしが言葉を繋ぐ。
「宵闇のみたいには無理でも、疑似魔晶石として魔物が入らん空間が作れる。そしてその場に入れるものはあたしが選べるらしい」
「ま、待て、ダンジョンてどうゆうことや?」
「ここもダンジョンの一部やねんて、ただ魔物が出んようにしてるだけで、元々テストダンジョンの一部。言ってしまえば魔晶石はダンジョンコアとか核みたいなもんらしい」
難しい顔をして考え込んでいるお兄ちゃんに、智さんも珍しく眉が寄っている。胡堂も秀嗣さんものり君まで歪む表情を止めれていない。
これを聞いた時、最初に思ったのは本気であたしに星を統べさせたいのかと思った。ただそれはすぐに違うと考え直した。
宵闇がそんなことを考えるわけがない。宵闇のやることや言うことに意味を見つけるほうが難しい。ただ自分が楽しいか楽しくないか、それだけでしかない。
「範囲や規模はガーディアンの格とあたしの姫巫女の力次第やって、ただ最近は押さえてるからどうかなって笑ってた」
「他には?」
「あたしが気づかな、誘蛾灯は強くなるだけやって」
「姫巫女の力については?」
「特になんも言ってなかった」
姫巫女とは何なんだろう。宵闇は寵愛の意味を考えろと言いたいんだろうか? ただの観察物と思っているけど違うのか? 言葉通りに考えるなら、神に愛された存在。ただそれだけだ。それに意味なんてあるのか?
「核の作り方は?」
「あたしが触れたら自動的にわかるやろうって、それこそ力を押さえず自然と任せろって」
「マニュアルとか書いとってくれたらいいのに」
「宏と恵子さんでは無理と言うことですかね?」
「格の違いってやつちゃうかな?」
「さすが腐っても主神ってやつですか」
頭脳組が考え始めるが、ここで考えてもわかることなんてないだろう。
「一回、触れてみようと思うねんけど」
なんでもないことのようにあたしは口にする。みんなの顔が一斉にこっちを向き、そのことに驚いてしまう。
「そんな驚かんでも。触れてすぐ作れるわけじゃなくてわかるだけやろ? みんなが姫巫女の力、危険視してることはわかってるけど、確認は必要やろ?」
「なかったこと、聞かんかったことにすることもできる」
「けど、すぐ捨てきれんからお兄ちゃんも考えてたんやん」
苦虫を噛むような顔になるお兄ちゃん。もしこれができればまた世界は大きく変わる。安全圏ができることになる。
「お前、意味わかってるか」
「姫巫女ってなんやろな、前はよく考えてた」
お兄ちゃんの睨むような厳しい目、それをわかっててあたしは視線を上に向けた。
「この世界に唯一無二の存在やのに、人と違うのは目の金環と神眼とかそんなもん。戦う力や魔法に関しては自力で上げたと思えてたし、属性に聖魔が両方付くぐらいやん? あとはレベルが上がりやすいって言ってたっけ。けどそれはお兄ちゃん達もやし」
宵闇はあたしも死ぬときは死ぬと言った。死は平等だとはっきりと言った。
「ただ観察をしときたいからこの場を与えられただけ、そう思ってたしまだそう思ってる。でも世界が変わっていく中で、どんどんわからんくなってきた。力の使いかたもわかってないことだらけで、自分で何ができるかもわからんで、ただ力が怖くなってた」
今でも本当は怖い。今でもこんなもの投げ捨てたくなる。けど、これがあるからこうしてみんなで笑ってられる。
「向き合うべきかなって、みんながあたしをあたしと認め続けてくれるなら、もうそれでいいかなって」
他人に何を言われようと、あたしの大事なものがこの手の中に有る限り、あたしはあたしで居続けることができる。
もし失えば、それこそこの力を持って、あたしは悪鬼か修羅か、それとも悪魔にでもなってしまうだろう。
外でどれだけ姫巫女と呼ばれようと、外でどれだけ異質な畏怖の目で見られようと、ここにいるみんながあたしを引き留めてくれるなら。
「腹括る、言うんか?」
「あー、諦めた。が正解とちゃう?」
「お前はもうちょい抗うとかないんか」
「考えるのも面倒なった」
気の抜けたような大きな溜息をお兄ちゃんが吐くから、あたしは苦笑して、だって仕方ないと笑う。
「美味しい所取りで、あと捨てんのは無責任やろ?」
「その分、苦労も背負ってたやろ」
「みんながほぼ持ってくれてたわ、これからも持ってくれるんやろ?」
笑って言えばお兄ちゃんは一瞬目を開き、その後頭を大きく掻くと脱力し机に突っ伏した。
「とりあえず確認だけな、そんあとどーするかはまた考える」
「そうですね、そのほうがよさそうですね」
「絵里子に姫巫女の力使わす気?」
「こいつが望むならしゃあないやん」
「あたしは反対や、お兄はそれでいいん?」
「やったらお前も、こいつが力に飲まれんでいい方法考えろ。こいつが無茶するんはどんなときか考えろ。お前は自分で防衛大臣や言うたんやろ」
お兄ちゃんの強い言葉にお姉が怯む。だからあたしはお姉の裾を引きこっちを向かせた。
「お姉にとってあたしがこれ以上変な力使ったらあたしやない? あたしはあたしから変わるつもりはないねんけど」
「違う、絵里子は絵里子や。お姉ちゃんにとって何も変わらん。ただ絵里子が傷ついたり狙われるのは嫌や」
「それもう遅いやろ? 姫巫女の時点で」
「確かにそうやなあ、やから絵里ちゃんは力の制御したいん?」
「それも有る。この力のせいで迷惑被ってんのに無駄にしてるとか、なんか腹立つやん?」
あたしの答えにあたしらしいとのり君は笑うが、お姉はまだ納得がいってないようだ。
「すでに狙われまくってるし、あたしのせいで美沙希ちゃん巻き込んだりもしたし、制御できてなそれこそこれからもっと危険なるやん? あたし暴発してみんな巻き込むとか嫌や」
「なら、お姉ちゃんはもっと強くならんとあかんねんな」
他を巻き込んだことや、みんなが危険になったときを思い出して声が暗くなれば、予想もつかなかったお姉の言葉。普段通りと言えば普段通りなんですけど。
「確かに絵里子だけ守っても絵里子は傷つくもんな、絵里子の周りも込みで絵里子やもんな」
哲学ですか? 間違ってはないんだけど。
「そう考えると守備の魔法も習得したいな。拓斗は玄武できないのか?」
「あれ基本が土じゃなかったっけ? でもイメージって考えたら別に拘らんでもいいんか」
「対人用の遠距離や一部、結界的な魔法はできるなら増やしたいですね」
「アクセサリーで作れないんですかね? スイッチ式で結界が展開とか」
「のりさんナイス、それならそれに魔力込めとけば本人なくてもいける?」
「ただ継続時間が問題になりますね」
結構大事な話とあたしの覚悟の話をしていたのに、いつの間に戦闘訓練の話しになってる? いや生産か?
「のりって、盾は作らんの?」
「あー、防具系は作ったことないな、本に載ってたけど」
「属性魔石使ってミニ盾で、自分が言ってたことできんの?」
「そうか、腰に下げれるぐらいにしとけば」
「痴漢防止にも役立ちそうやな」
すっかり生産の話だ。みんな本気で考え始めていて、あたしだけが取り残されてる。
「えっとー、で、あたしは確認してきていいんですかね?」
「あ? ちょっと待て、どうせ細工場行くから、話纏めてからや」
その話って生産の話であって、ガーディアンの魔石でも宵闇でも姫巫女でもないよね? あたしはあとどれぐらいこうしていればいいんだろうかと、ココアを啜った。
珍しく長いなと思いました。
変わらないって幸せですよね。




