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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
十章 目を瞑っていた現実

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終わりが見えない



 どれぐらいの時間が経った? 血に濡れすぎて足元が滑りそうだし、噎せ返る鉄臭さは肺の中まで染み込み、ポーションの味すら鉄っぽく感じる。


 閉じた右の鉄扇で魔物の攻撃を防ぎ、開いた左で切りつけようとしたとき、伝う血糊で手が滑り、切り返されそうになり一瞬身を硬くした。


「気を付けろ、水で小まめに手洗え」

「ごめん」


 どれだけの魔物を倒しただろうか、辺りには屍が山となり、焼け焦げた匂いや鉄の匂い、なのにまだガーディアンは現れない。


「魔物の波がそれなりに出てから、ガーディアンは来るんかな?」

「それか爆弾のある位置から動かんとか?」


 その可能性も確かにあるのか。そう信じていたかったが、そんなことはやっぱりないらしい。

 誰が爆弾設置したのかは知らないけどさ、たぶんその人、もういませんよ。と、伝えてあげたい。


「あれ、何ですか?」

「岩系? ゴーレムってとこか?」

「岩か? 金属ちゃうの?」

「のりさんと秀嗣が喜びそうやな」

「魔導具でも使うやろ?」


 そう言いながらポーションを一気に飲んで瓶は捨てた。見た感じ二mは越している巨体、見た感じからとりあえず火と風を鉄扇に同化させる。


「雑魚は置いといて」

「あれからやろな」

「次のが来るまでに終わればいいけど」

「それか応援」


 そう言って一気に走り出す。雑魚になんて構ってる余裕はないから、すり抜けてゴーレムを切りつける。


「かったい、けど火は一応効く?」

「水はあかん」

「風もそこまでなんですけど?」

「俺、土ないでー」

「わかってるー」


 体制を立て直し、もう一度走り抜け飛び上がる。土を同化させた鉄扇で、思い切り切りつけたほうも殴りつけた方も効きが悪い。


「これ、どうしましょかね? 聖魔とか」

「宏さんに謹慎言われんで」

「それは嫌やねんけどなー、こんだけ雑魚もおると鑑定もしづらいし」

「ただ胸辺りに魔力が集まってるように思わへんか?」

「土人形とかと一緒なんかな?」

「やとして、どうやって魔石を抉るかや」


 ゴーレムが太い腕を振り回し攻撃してくる。動きはそこまで早くないから避けるのは簡単だが、魔物がいるから動きずらい。ゴーレムのパンチで魔物も死んでるし。


「土魔法でドリルでも作ってみる?」

「この状態でそんな器用なこと、お前できるん?」

「さすがに完璧なんは自信ないなー」


 しかもあのゴーレム素材何よ? 弱点何よ? 世界で一番硬い鉱物とか知らないし、ダイヤぐらいだわ。


 そうこうしてたらもう一方からの魔物の波が多くなる。


「あー、四階まで来ちゃう?」

「ぽいなー、宏さん達は二匹やろ?」

「そろそろ来てほしい本音」


 それでもそんなこと簡単でないと知っている。だったら今この状態をどうにかするしかない。


「ごめん、一瞬だけ集中して鑑定する。守り頼んだ」

「うい」


 あたしの前に出る胡堂。こいつももうかなり疲れていることはわかっている。何度もあたしのフォローをしてくれてることも。だからせめてこの状況を打破する何かを知りたい。


 『ガーディアンゴーレム:部位毎に違う金属でできているため弱点は変わる。ただし聖魔属性にはどこも弱く、もしくは高熱で溶かすことは可能だが、かなりの温度が必要。非生命体で胸の魔石を取れば動きは止まる。ダンジョンを破壊しようとした者を罰するためにダンジョンが生み出したもの。』


「部位毎に種類の違う金属で弱点不明、しいて言えば聖魔属性が弱点。それか高熱で溶かせば足止めできんじゃね? やって」

「役立たへん鑑定」

「あたしもびっくりやわ」


 胡堂に意識の向いているゴーレムを横から回り込み、後ろで飛び上がりその頭を切りつける。さっきまでと違いすっぱりと切れましたよ。


「聖魔で行くしかなくない? 次、来る前に」

「マナポは?」

「さっき飲んだ」

「なら俺が魔法で足止めすっから」

「ういうい、その後、胸を狙いますー」


 胡堂が集中しながら駆け抜けていく。あたしもゴーレムを惑わすように走り切りつけ注意を引き、タイミングを見て後ろに飛び退けば、灼熱の炎がゴーレムの足元を覆い、藻掻くようにその体を蠢かす。


 かなりの魔力を込めた炎はどれだけの温度だったのか、何匹もの魔物を巻き込んだのに、燃えた炎が消えれば足元が溶けて形が変わってしまったゴーレムだけしか残っていない。


 そのゴーレムも歩き出そうとしてバランスを崩し、大きな音を立てて後ろに倒れ込んだ。あたしはその瞬間に走り、閉じた鉄扇に聖魔を同化させ胸を突き刺した。その瞬間に藻掻き起き上がろうとしていた動きが止まった。


 終わった、と一息なんてつく暇もなくまだまだやってくる魔物たち。それを何とか切りつけ倒しながらも息は上がる。

 あとどれぐらいで次のガーディアンは来るだろうか? それまでできる限りここの魔物を倒さなければ。



 さすがにあたしも胡堂も色々やばい。魔力もそうだが正直体力が先に持たない。あとポーションどんだけあったっけ? そう思いながらも鉄扇を振るい、魔物が先に進まないようにすることだけをただ考える。


 さすがにいつもの軽口もお互いなくなり、ただ目の前の魔物だけを倒して行く。ポーションなんかもそろそろなくなりそうだし、終わりのないこの状況にただ無心で体を動かす。


「待たせた! 大丈夫か?」

「のり君と秀嗣、前に出て。絵里子と拓斗は下がって回復せい」

「やっときたー」

「さすがにやばかった」


 お姉が飛び出してあたしの周りの魔物を一掃してくれる。胡堂の周りはのり君が、そして秀嗣さんが前で魔物の気を引いてくれる。


「三階ガーディアン倒した、次は四階やと思う」

「この数、二人でよおやったな」

「上にも出てると思ったから」


 お兄ちゃんが結界石を発動させ、あたし達の周りを結界で覆う。しばらく休めと言うことだろう。あたしは正直何よりも体力がやばい。それでもそんなこと言ってる余裕がないこともわかっている。


「お兄ちゃんらも大変やったやろ、ポーション飲んだら出れるで」

「下からの魔物を抑えとってくれたから、俺らまだ楽できてるし、一階は探索者も頑張ったからな。やばくなったら言うからしばらく休憩しとけ」


 そう言うとすぐに戦闘に移るお兄ちゃん。みんなの動きを見ながらどこか申し訳ない気持ちになってくるのに、体は正直で力がもう上手く入らない。


「ちょっともたれて目瞑っとけ、それだけでも回復違うはずや」


 そう言って自分の肩にもたれさす胡堂。胡堂だって疲れているはずなのに。


「俺とお前じゃ元の体力が違うわ。俺も確かに疲れたけど、お前は聖魔も使って余計やろ」

「けど、みんな動いてるのに」

「必要なったら呼ばれるわ」


 それもそうかと思いながら五人を見ていれば、確かにそこまで疲れを感じさせない動きでまだ大丈夫そうだ。そして出てきたのは。


「ミノやん!」

「なんでお兄、嬉しそうやねん」

「素材良し、肉良しのミノやからな」

「弱点わかってるし、さっさと狩ってまうぞー」


 明るい元気なお兄ちゃんの声に、緊迫の空気はどこ行った? と聞きたくなるのに、あたしは知らず胡堂の肩を借り寝てしまっていた。



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