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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
十章 目を瞑っていた現実

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売られた喧嘩



 体調もめっきりよくなり、久々に体を動かそうと胡堂と秀嗣さんと訪れた一宮。地下から一階に上がれば、朝だと言うのに忙しなく職員さんが走り回っている。


「なんかおかしくない?」

「出てくるとき、宏さん普通やったで?」

「ただ職員の顔色も悪いぞ」


 いつもは落ち着いた雰囲気の一宮、それがこんなに慌てた空気なのは珍しい。あたしはカウンターに向かい声を掛ける。


「お疲れ様です、何かありました?」

「ひ、姫様! い、いえ何もありませんよ」


 微笑もうとして微笑み切れてない、隠そうとしても大きすぎて隠せないのか? あたしはカウンターから離れてお兄ちゃんに念話する。


 『一宮の様子がおかしい、高遠さんに探り入れて』

 『あ? なんも報告来てないぞ?』

 『あたしらに隠そうとしてるみたい』


「ちょっとこのまま様子見よっか」

「別にいいが」

「宏さんには?」

「高遠さんに探りいれてって連絡した」


 そこから十分もしないうちに、お兄ちゃんがみんなを連れて装備もつけて上がってきた。


「統括長室行くぞ」


 どこか怒っているような硬いお兄ちゃんの声。これは何かあったと言っているようなものだ。


 勝手知ったるとさっさと上がって、お兄ちゃんはノックもせずに扉を開けた。さすがにいいのかと思わなくもないが、お兄ちゃんの今の空気には言いにくい。


「ひ、宏邦様、それに皆様も」

「高遠さん、俺らに内緒は酷いんちゃう?」

「いえ、そんなつもりは」

「俺らの仲やん? 組合とはずぶずぶやん?」


 高遠さんの顔色が悪いから、どうやってもお兄ちゃんが悪人にしか見えない。あたしは置いといてソファーに座り、成り行きを見守る。


「九州本支部、襲撃されたんやって?」

「はっ? マジで?」

「マジや、狙いは登録機や魔導具、それに俺らの情報?」


 驚きで上げた声にお兄ちゃんが答え、すぐまた高遠さんに向く。どこか硬い顔の高遠さん。


「人が少なくなり警備交代の明朝を狙われたようです、今は数名と連絡を取りつつ確認中です」

「組合になんかあったら言って、言うてたやん」

「しかしこれは組合の問題、神職の方にこれ以上」

「国が出張ってきてんやろ? やったら組合はどこと繋がっとんか見せとかな」


 全てばれていることを悟ったんだろう、高遠さんは諦めた顔をした。きっとあたし達を守るために言おうとしなかったんだ。伝えようとしなかったんだ。

その心が嬉しかった。


「あたしは守りたい者しか守らないと明言しました、そして組合はあたしが守りたいものです」

「ほら、家の姫さんもそう言ってる。敵意には敵意を、武力には武力を、俺らはやりたいことするってもう宣言してんねん」

「しかし相手は魔物ではないのですよ、相手は」

「〝人〟やろ? わかってるわそんなん」


 どこか鼻で笑うような小馬鹿にしたお兄ちゃんの態度、なのにその目はあたしに向く。


「今回の表向きの主導者は宋一族や、現地で指揮取ってるんは宋俊煕と見て間違いないやろ」

「それはあたしに売られた喧嘩ってこと?」

「あほか〝俺ら〟に売られた喧嘩じゃ。お前言ったな、お前の前には守る者がおるって、今度は止めれると思うなよ」


 わかってはいても唇を噛んでしまう。それを認めていいのか迷うあたしがいる。


「組合は俺と智、それに拓斗が動いて高遠さん達と作って来たもんじゃ、それをやられて黙っとけ言うんか?」

「そうですね、軌道にも乗って上手く行ってましたのに。それでもまだ組合も探索者も足りてない状態で頑張っているときですし」

「九州はダンジョンの数も多くて大変なはずやのに、邪魔するとかあり得へんな」


 三人の目が怖い、マジだ。


 それでもつい俯き躊躇うのは、怯えたいくつもの目が浮かぶから。震えて声も出せず、ただ恐怖を映した目が。


「何度も言わすな。世界は変わった常識も変わった、正義も善も悪も。化物上等、いっそ誰も喧嘩売る気にもならん程度に暴れるだけじゃ」

「姫様がそんなに気にするなら、四肢を切り取ったあとにポーション飲ませて命だけは助けたほうがいいですかね」

「十分、マジで俺でも怖いんやけど」

「それ、生活がもうできんよね?」

「命あるだけマシでしょ? 姫様のものに手を出した、それだけで十分ですよ」


 微笑みの死神の後ろに、黒い空気が見える気がする。智さんてこんな人でしたっけ? 四肢ってそんな簡単に失っていい物でしたっけ?


「さすがに四肢全部は言いすぎやけど、まあできるだけ命は奪う気はない。けどそれぐらい逆に見せつけて、恐怖を刻み付けるぐらいはやったらな」

「アジア圏以外の諸国にも、いい宣伝になりますしね」

「姫様パーティーに触るべからず、逆鱗に触れればどうなるかわからへんって」


 お兄ちゃんと智さんと胡堂が笑う、そこにお姉のつまらなそうな声が響いた。


「どうでもいいけど、どうすんの?」

「お前は興味なさげやけど、九州を上手く乗っ取られたら、絵里子の誘拐計画が出てきてもおかしくないからな」


 一瞬でお姉から魔力が洩れた。何この人、可能性だけで煽ってんの?


「じゃあ家の戦闘狂もやる気になったし、戦争の準備しよか。高遠さん、九州支部一宮の見取り図と情報頂戴」


 動き出したみんなに、もう止めようもないと諦めるしかない。みんながそう簡単に負けるとも傷を負うとも思っていない。そして覚悟がないとも最初っから思ってもない。


 それでもつい溜息を吐き、頭を切り替えて口を開く。


「お兄ちゃん、あたし食事取りに戻ったほうがいい?」

「あーそんな時間かける気はないけど一応多めに、職員も腹減ってるかもやし、あとポーションとか在庫もって来といて」

「なら武器も出すか? 売るようだったが職員が使えば自衛が強くなるだろ」

「そうやな、あの在庫出しちゃおうか」


 戦争という割にはどこか長閑かな会話が続き、高遠さんは呆気に取られている。


 あたし達の誰も気負うこともなくもう自然だ。こうなればあたしも腹を括った。お兄ちゃん達が言うように、手を出したことを後悔させるだけだ。


 秀嗣さんと胡堂を連れて地下に戻り神社に戻る。


「九州の転移陣どうなってんやろ? 陣がばれてるんかな?」

「どうなんだろうな、ただ使うには本人のタグと許可証のタグがいるんだろ?」

「支部長捕まってたらやばいかなぁ、たぶん大丈夫やと思うけど」

「支部長さん女性やったっけ?」

「確か女傑って宏さんが言ってたはず」

「余計にわからんくなるわ」


 そう会話しながらも倉庫から次々にマジックバックに入れていく。どんな状態かはわからないから、ポーション類も薬類も、それに包帯や消毒液なんかも入れておく。その後は台所へ行って冷蔵庫から食材や作り置きの総菜。


「炊き出し用に大きな鍋とかコンロ、持って行ったほうがいいかな?」

「あー、地下に籠城してる可能性を考えると必要かもな」

「それならいくつか簡易ベットも持ってこか、怪我人どうかもわからんし」

「基本はここの一宮と作り同じやっけ? 売店の棟で立て籠もりできてたらいいけどな」

「陣もそうやし、必要なもんも救護室も一応あるからな」


 転移陣を設置している地下には、どの棟からも行けるようにはなっている。元々シェルターにと考えられていたからだ。

 ただ一番近いのは売店の棟になっている。有事の際は他からの道を塞げる作りにはなっているらしいが、あたしには詳しく知らない。


「こんな物か?」

「思いつく物は入れたはずやけど?」

「今度また二宮に言って、野菜を買いに行こうかな」

「そろそろ足りないのか?」

「結構食べてるし、それに炊き出し可能性考えたら?」

「そこはまた考えればいいやろ、今は先に九州や」


 確かにそうだと暢気すぎる考えを改めなきゃ、と気合を入れ、三人で神社に向かいそのまますぐに一宮に行く。



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