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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
二章 戻っても日常には帰れない

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要検証

 


 やっと涙も止まったが、どこか気恥ずかしくて鼻をぐすぐす言わせながら部屋の隅にあるポーチを取りに行った。

 そこからポーション(微)を取り出して飲めば、腫れていたであろう目の違和感も、泣きすぎた脱力感もすっかり消え失せた。


「おま、今のなに?」


 そんなあたしを見ていたお兄ちゃんが声をかけてくる。


「ポーション(微)、ダンジョンで手に入れた。一本じゃ小さい傷や少しの疲れとれるくらいやけど使えんねん」


 (微)ってなんやねんと騒ぐお兄ちゃんを無視して、あたしは冷めたコーヒーを飲み干して一息ついた。


「んで、まあいいわ。話しを戻すんやけど、ほんまなんやな?」

「うん、だいたいやけど三か月後には出てくるって。やけどここは一応安全やから」

「安全やって言っても、俺らだけじゃしゃあないやろ?」


 そこなんだよね。お兄ちゃんの言ってることはあたしも考えたこと。だからと言ってこんな話し誰も簡単には信じない。


 警察? 自衛隊? それこそ国? 電話かけたところで取り合ってくれるのか? またあたしの人権はどうなるのか?

 それを思えば不安しかない。


「しゃあない、とりあえずあの魔晶石か? あれに触って色々検証してみるか」


 お兄ちゃんは紙取ってくる、と言い立ち上がると部屋を出て行った。あたしはそれを唖然と見送るのに、お姉は能天気に色々聞いてくる。


 あたしに何ができるのだとか、神ってどんな人だとか、魔物って何が出るのか。あたしにもわかんないことまで聞かれて、面倒なので適当に流しておいた。


 しばらくして部屋のチャイムが鳴り、インターホンのカメラ越しにお兄ちゃんはやるぞ。と一言言うとすぐに姿を消した。慌てて扉を開けついて行く。


 すでに魔晶石の前にいたお兄ちゃん。まず俺からのほうがいいか、と紙に自分の名前を書くと、さっきと違ってあっさりと魔晶石に手を置いた。お姉のときのように一瞬淡く光すぐに収まる。


「何するん?」

「聞いた感じ簡単なステータスなんやろ? 一先ずそれの確認とこの魔晶石で何ができるんか確認。命掛かってんやから調べられるとこ調べとかな」


 そう言いながら紙に画面の内容を書き写していくお兄ちゃん。


「これ恵子とのり君には見えてんの?」

「見えへん」

「見えてないですね」

「絵里子は?」

「見えてる、たぶんお兄ちゃんが見えてるのに『管理』ってのが増えてる」

「んじゃお前目線のも書け」


 一枚の紙とペンを渡されて書いていく。お兄ちゃんのと比べるとやっぱり『管理』が増えただけだ。

 あたしがそれを見比べてる間も、お兄ちゃんは自分の画面を色々触っては書き写す。


「なあ、ポイントとレベルは魔物倒さな出えへんの?」

「たぶんそうやと思う」


 一通り触り終わったのか、今度はお姉に魔晶石の前を譲りあれを触れだこれを触れだ色々言っては書いていき、最後にのり君にも同じようにやらせてた。


「最後はお前や」


 そう言われても違うのはポイントとレベル、あとは職業くらいで変わり映えしない。そこでようやく神のメールを思い出した。


 試しに自分の名前を押してみる。そこにはどこかのゲームのように体力と魔力、力、耐久、俊敏、器用、知識、運、魔力操作の文字、それを見ながら顔が苦々しくなる。とりあえずダントツで運が高いのは元からか神のせいか。


 本当は嫌だけど、お兄ちゃんに急かされながらそれらを書き写していく。


「お前、魔力や器用さも高めやけど、あほみたいに運、高くないか?」

「知らん、小説の定石では加護のせいやろ? 運で言うなら元々お姉のほうが当たりはよかったし」


 あたしの言葉にこちらを向くお姉。動物的本能が強いのか、この人引きがいいんだよね。欲しいと思った懸賞は八割方で当てるし、くじも当たる確率は高い。それでいて学業もできたからある意味チート臭いのに、不器用で言葉が壊滅的に下手糞なのが価値を下げてる。


 学業の頭が良いと、賢いってことが違うと言うことを、身を持って教えてくれたのはこの人だったな。


「んで、絵里子のポイントを俺らに分けることできるんやろ? 色々買いたいしポイントくれ。あとできれば買える施設買ってしまおか」


 紙を見ながら一人で頷いていたお兄ちゃんが、突然なぜか妹にたかり始めた。あたしの不満げな顔がわかったんだろう、お兄ちゃんは続けて言う。


「俺らが魔物倒しに行くにも無手や防具無しは怖いやろ? それに施設もちゃんと確認しとかな今後何があるかわからんし、使えるもんあったらもったいないやん」

「確かにそうやけど、レベル1で買える装備なんてしょぼいのばっかやで?」

「多いから書かんかったけど、武器とか色々あったで? 一番安いので300ポイントやろ?」

「は? 250やろ? しかも棒とか小さいナイフとか」


 ここからあたしとお兄ちゃんは、長い書きだし作業が始まるのだった。


 全てを書き終わり、お兄ちゃんが紙を見ながら言ってくる。


「俺らにも絵里子に出てるものは出てるし買えるけど、代わりにポイントは二割増し。で、その増えた分は絵里子に還元されるってことか」


 結局お兄ちゃんはお姉とのり君にも同じことを書かせ、その後検証まできっちりと済ませた。そのときに三人の防具は買っておいた。武器は一悶着あり保留になったけど。


 なんであの人、元気なんだろ? 途中であたしは部屋からお茶を運び、魔晶石から地面に敷くためのラグとテーブルを買って魔晶石の間に置いた。


「もう今日はその辺でよくない? あたしさすがに疲れたからゆっくりしたい。お兄ちゃん達も明日仕事ちゃうの?」

「俺はお前の件があったから暫く仕事抑えとる、フリーな自営業やからな。パソコンあれば仕事できるし」

「俺も絵里ちゃんおらんくなって一ヶ月やし、土日挟んで有給取ってる」

「あたし仕事辞めたから大丈夫」


 その言葉であたしはお姉を見た。何言ってんだこの人? なのにお姉はどこ吹く風でにこにこしてる。


「あたしのせい?」

「違う、お姉ちゃんが辞めたいと思ったから辞めた」


 お姉の顔を見ればこれ以上何かを言ったところで無駄だ。のり君、苦笑でいいんですか? あたしは溜息を一つ吐いて諦めた。


 無機質な一角に不似合いなテーブルの上、疲れから脱力して突っ伏して、このなんとも言えない感情を整理したい。


「まあでも、確かにお前も帰ってきたとこやもんな。疲れたやろうし今日はこの辺にしとこか」


 何年ぶりだろう、お兄ちゃんに頭をわしわしと撫ぜられ、恥ずかしくて顔が上げられない。小さな声で心配かけてごめん。と言うと、ん。とだけ返ってきた。


「そうや、ここ大浴場あるんやろ? 俺らも使えんの?」

「知らん、そこの扉やから行ってくれば」

「じゃあ着替え取ってきて行ってみるか。のり君どうする?」

「ご一緒させてもらいます」

「よし、絵里子はお姉ちゃんと入ろう」

「嫌やわ、一人でのんびり入る」

「えー、いいやん、帰ってきてお姉ちゃん嬉しいねんもん」


 確かにいつもよりテンションが高めなお姉。たぶんすごい心配をかけていたんだろうな。それがわかったから仕方ない。すでに魔晶石の間を出ようとしていた二人を追い掛けるように、あたしとお姉も地上に戻った。



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