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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
十章 目を瞑っていた現実

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キレた



 一宮の転移陣を出ると硬い顔をした高遠さんと不機嫌なお姉、それに珍しく顔を顰めたのり君がいた。


「私共の不手際で足を運んでいただくことになり、申し訳ありません」

「高遠さんが悪いわけちゃうよ」

「美沙希ちゃんは?」

「まだ見つかっておりません。転移用のタグは持ってるはずなのですが」

「取られたか、魔力を遮るなんかか」

「可能性は、本人は魔力もそうない者ですから余計に」

「まあ無理ない程度でいいで、後はこっちでやるから」

「しかし」

「家の姫様がご立腹やねん、組合は潰さんように頑張るわ」


 お兄ちゃんは高遠さんの肩を労うように叩き、行こか。と促していく。一階に出て注目を浴びるのもそろそろ慣れた。そしてあたし達は三階の応接室へと案内される。


 高遠さんがノックをし扉を開ければ、お兄ちゃんを先頭に入って行き、すぐに見えたのはソファーに座るあれは宋さん? その横には宋さんによく似た端正な顔立ちの男性、この人か。とすぐに気づいた。後ろには四人の装備をした男性が立っている。


「それで、今日のご用は何でしょうか?」

「早速ですか? 挨拶などが必要でしょう?」

「こちらの予定も考えずに、押し付けるようにやってくる方に礼儀など不要でしょ」


 お兄ちゃんが皮肉に言うが、相手はそれを気にした様子もなく足を組み、どこか偉そうなイメージしか持てない。いけ好かない。


「ならば早速ですが、そちらの姫巫女を頂きたい」


 その言葉の瞬間みんなから威圧と魔力が洩れ出る。それでも男は顔色を変えない。


「なに、ずっとと言うわけではないです。私の子供を産んでもらえば返しますよ」

「ふざけんな、何様や」

「優秀な遺伝子を残す、ただそれだけです」


 お姉の睨みも気にも止めない、この人のこの余裕はなんだ。


「顔を隠していると言うことは、期待できないと言うことでしょうし、そこはまあ諦めても、姫巫女の血はぜひとも一族に入れたい物です」


 みんなから発せられてる魔力と威圧、横に座っている宋さんはすでに顔が青から白に変えて意識があるのかも怪しい。

 宋俊煕(ソンジェンシー)さんか、レベルも23と高くはあるけど、それだけにしてはこの余裕はやっぱりおかしい。


「組合関係の未成年の一人が、行方が分かっていません。それに貴方は関係してますか?」


 威圧をすることも魔力を溢れさすことも今までせずに、ただ静かに座っていたあたしが口をきいたことに、男は少し驚いた顔をしてにこやかになる。


「声は可愛らしいですね、体外受精も考えていたんですが」

「貴方は関係あるのですか?」


 遮る様にもう一度聞く。あたしにとっと何より大事な問題だ。


「なぜ私どもを疑うかわかりませんね」

「組合の周辺に軍がいると聞いていますが?」

「さあ? 私の知るところではありません」


 ダウト。


「そうだ、外でも見れば気分も変わるかもしれませんよ?」


 応接室の窓を差して、男が愉快そうに言うから何かあるんだろう。あたしは立ち上がり窓辺に行き外を見る。


 組合の壁の周囲には確かに装備している者たちがいるが、あれが軍なのかどうかまではあたしにわかるわけもない。ばらばらの装備に見えるから、探索者を集めたんだろうか。


「貴方は国に言われ来たのですか? それとも個人として?」

「それこそ貴女には関係のない話だ」


 確かにな、と思いながら窓の外を見続ける。周囲の武装集団を見せたかったわけじゃないだろう。他に何がと気配を探りながら見れば、ある一点であたしの目が見開いた。


 後ろに立つ秀嗣さんと胡堂も、あたしの視線の先に気付いただろう。



 ああ、もう知らない、いったい何がしたいんだ。



 ぶわりと魔力が感情に呼応するように渦巻く。お兄ちゃん達はさっきまであれでも押さえてたんだよ、だからお前は平気な顔ができたんだろ。


「あたしはあたしが守りたい者しか守りません。姫巫女ではなく、一人の人としてこれからも家族といることを選び続けます。そのあたしの生活に邪魔をすると言うのであれば」


 もう言葉はいらない、ただ男を見て微笑めばいい。そして呼ぶだけだ。


 手を合わせ、魔力を込めて息を吹き込み窓の外へ放す。白い虎と美しい緋色の鳥。


「美沙希ちゃんを助けて、連れてきて」


 空をかけていく二頭の獣、そしてあたしはもう一匹を作り出す。美しき青い龍。


「組合周辺の邪魔の物、どけてしまって」


 あたしに一度顔を摺り寄せ、龍は流れるように飛んでいく。その姿を見送りあたしはソファーに戻る。


「申し出はお断りします。武力で来るなら武力で、敵意には敵意を。妹さんから聞いてないんですか?」


 愚かだなと口端だけ上げて笑う。だって本当に愚かだから。わざわざ虎の尻尾を踏みに来ただけだ。


「自分が特別だとお思いですか? 自分ならばあたしを御せるとお思いですか? 愚かですね。あたしの前にはこんなにも守る者がいるのに。それを倒すことができないからと、わざわざ逆鱗に触れるとは」


 くすくすと笑いが零れる。愚かを通り越せば喜劇だな。


「宋俊煕さん、あなたの一族には何があっても協力はしません。それは知識も物資も武力も。私が貴方に与えるものは何一つありません」


 ただその姿を見つめまっすぐに言えば、それだけで身動き一つできない様子の宋さん達。


「じゃあ、帰ろっか」


 気楽に言ってあたしは部屋を出る。みんながそれを追い掛けてきた。


「あ、高遠さんまたなんかあったらすぐ言って下さいね」

「ひ、姫様?」

「もう守ることで我慢したらあかんってわかったから、神秘もなんの役にも立たへん」


 白虎と朱雀が仕事終わったようだ。そのまま朱雀には青龍に回ってもらおう。


「たぶんもう美沙希ちゃんも戻って来るよ」


 そう言いながら階段を下りていく。丁度、白虎が美沙希ちゃんを背中に乗せてやってきた。擦り寄る白虎を撫ぜて、その背から美沙希ちゃんを下ろしてあげる。


「ごめんな、あたしのせいで怖い思いさせて」

「違います、危険性は聞いていましたし、自衛を怠ったあたしのせいです」


 頭を撫ぜてごめんな、としか言えないあたし。


「姫様は悪くないです、これからも姫様のままでしたいようにいてください」


 捕まっていたと言うのにその目には怯えがなく、まっすぐにあたしを見てくるからあたしの方が戸惑った。


「ありがとうな」


 そう言うことしかできない。そのまっすぐな瞳は、なぜか今は辛いから。


 擦り寄る白虎を組合の周辺に送り込み、あたしは口を開く。


「組合周辺の掃除、時間かからんと思うから。じゃあ、あたしは帰るな」


 もう何かを聞くのも何かを言うのも嫌だった。だから何か言われる前に階段を下り、転移陣にさっさと行く。

 胡堂と秀嗣さんだけがその後ろをついてきた。


 神社に帰ってもあたしは無言で、そのまま部屋に帰り装備を解く。

 ひどく体が重い、それは体調だけのせいじゃないだろう。


 母体ってなんだよ。姫巫女の血ってなんだ? これからあんな輩は増えてくるんだろうか? 考えたこともなかったことだ。そう言えば求婚でもなかったな、もっと最低、最悪だったけど。


 タイミングいいのか悪いのか、疼くお腹に嫌気がさす。どこまでもついて回る姫巫女に、女である自分に、それを実感させる疼くお腹に、ただただ苛立ちと嫌気が増して、あたしは三日間寝室に籠城した。



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