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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
十章 目を瞑っていた現実

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どこまでも軽い人たち



 昨日の段階で隊員さんに依頼は完了した、と報告と確認は終わっている。

 朝になってテントも片付けて、後は出発を待つだけだ。


 あたしは念のためとすでに車内に押し込まれ、お姉があの女性三人と話しているところを眺めている。


 あの三人は結局隊に任せることになった。ただ本人たちが望むとおりにできるのであれば、組合を通じて関西に送ってあげれればと話はしているらしい。


 美沙希ちゃんも皐月さんもいるし、もし関西に来れたらまた会う機会もあるだろう。


 そうぼんやりと見ていたら、宿営地に入ってくる何台もの車が見えた。お兄ちゃんと智さんが悪い顔をしてるのが見えて、すぐに胡堂が運転席に入って来た。


「秀嗣さんは?」

「一応の護衛役、隊に顔が利く部分もあるしな」

「お兄ちゃんらも乗ったら出発やんな?」

「そっから夜までは車で走って、その先は監視しだいか」

「ストーカー、マジ勘弁」

「どうもできんねんから諦めたらいいのにな」


 胡堂の言葉に同意しかなくて、あたしもつい苦笑いしていれば、車に向かう三人の姿が見えた。


「出発っぽいな」


 そう言って胡堂がエンジンを掛ければ、秀嗣さんが車に乗り込んできた。


「どないー?」

「やっぱり俺ら用だな、馬鹿なことを」

「せっかく間引きも綺麗にしたのに」

「あれだけやったら暫くは大丈夫ちゃう?」

「その間に実働できる部隊がダンジョンに入ればいいがな」

「ほんまそれやわ」


 お兄ちゃん達の車に続き、胡堂が車を走らせる。離れて行く宿営地を見ながら、ここからどうなるだろうと後ろを気にしてしまう。


「気にしても無駄や、すぐに動くかもわからんし」

「そうやけどさ」

「問題はどこで陣を使うかだろうな」

「お兄ちゃん、どうする気なんやろ?」

「闇夜に紛れてってやつちゃう?」

「それかその辺の人気のない建物か」


 車がマジックバックに入ることは今回のことで完璧にばれているし、そう考えたら陣さえばれなかったらいいのか。


「けどあたしもレベル50なりたかったなー」

「なに恵子さんみたいなこと言ってんねん」

「だってさあ、さすがにどのダンジョンでも奥に掘り下げな上がらんやろ」

「まあそうだろうな、その前にまた料理なんかもあるんじゃないのか」

「そうやった、二週間ぐらいは身動きできんやろなー」


 徐々には掘り下げられ始めているダンジョン。それでもあたし達以外で五階のボスを倒せている人たちはいるんだろうか?


 宵闇たちが星を変化させ、魔素を産み出せるようにした。逆に言えば宵闇たちがしたことはそれだけだ。ダンジョンを作ったわけでも、ボスを設定したのも、宵闇たちではなくこの星がしたこと。


 ただその結果を宵闇たちは見て、楽しんでいるだけな気がする。


 星は人をどうしたいのだろう。他の生き物も魔物に殺されてしまうこともあるだろう。そしてまだダンジョンからは魔物が出て、人の住める場所じゃなくなってしまうところは増えてるんだと思う。


「どうかしたのか? 難しい顔をして」

「ううん、なんでもない」

「何でもないって感じやないぞ」

「ただ、ダンジョンて何なんやろなって、魔物も」

「考えてもしゃあないことやろ?」

「そうやねんけどな」


 そう言いながら窓の外を見る。人気のない周囲を探れば魔物の気配がちらほらと感じる。


「人を、試したいん?」

「なんか言ったか?」

「何でもない」


 ぽつり洩れ出た言葉は、静かな重りのようにあたしの中に落ちていくようだ。




 その後も暫く走り続け、途中で昼休憩と車を停めてみんなで集まった。


「たぶんついてきてるよな」

「そうだと思いますよ」

「どっちにしろ警戒は大事でしょ」

「この辺りはほぼ人がいないと聞いてますから」

「距離を考えてもこの辺りでよさげな建物でも借りよか」


 頭脳組がおにぎり食べながら地図を囲んで話合いをして、秀嗣さんとのり君は警戒しながらお昼を食べてる。

 あたしはと言えば、うざいお姉を放置でおにぎりを頬張るけど、どこか胸の奥がもやもやとする。


「絵里子、聞いてる?」

「聞いてない」

「構ってよー、こっちの車乗ろうよー」

「しんどいから嫌や」

「夜までやしいいやんー」


 お姉に揺らされながら周囲の気配を探れば、確かに人もいることはわかる。監視するようにこっちを気にしていることも。


「のり君、お姉の相手したって」

「この時間ぐらい休ませて」

「旦那が何を言う」


 運転もあるし大変なのはわかるけど諦めて頂きたい。構うの秀嗣さんでもいいんだよ。


「恵子は暇なんやろ? こっから一、二時間行った先で運動しよか。やからちょっと大人しくしとけ」

「お兄ちゃんいいの?」

「ご当地魔物の確認や」


 そんなコンプリートゲームじゃないんだから、と思うけど、車内で座りっぱなしよりかは有難い。


「レベ50超えた奴は警戒のみな」

「宏さんマジで?」

「お義兄さん、俺二人に1足りんのですけど」

「目標は50やってんから十分やろ、魔物の量と強さわからんから人気のない辺りでやるからなー」


 一番喜んだのはお姉だろう。のり君もこれでお姉が大人しくなるならと、どこか胸を撫でおろしてるしよかった。


「俺と秀嗣が暇やん」

「車でも見とく?」

「マジックバックに入れれば警戒はいらないだろう?」

「あ、そっか」


 項垂れる胡堂に苦笑の秀嗣さん。二人とレベルが2も離されているあたしとしてはいい話ではあるが、二人からしたら体を動かしたいんだろう。


「まあしょうがないし、解体でもしとく?」

「運転終わりで、なんでそんなことせなあかんねん」


 くすくすと胡堂を笑いながら、気がつけば胸のもやもやは忘れてしまっていた。



 そのあと何度か車を停め、間引きを繰り返しながら移動した。組合もない、人も少ない地域と言うこともあって、無事あたしは50になった。あとお兄ちゃんと智さんも。お姉だけが49と車内では今頃かなり拗ねてるだろう。


「向こう大変やろな」

「帰ってからはのり君が大変やと思うで?」

「ダンジョンに連れて行かれるからか?」

「そうなるやろな、でも確かボスで止まってなかったか?」

「こうなるとお兄ちゃんの言うこと聞くと思えへん」


 あたしの言葉に二人が笑い納得する。


「宏から連絡だ、次に止めたら帰るらしい」

「もういい時間やもんね、二人共、運転お疲れ様」

「長かったわりに、問題も少なくていい旅やったんちゃう?」

「旅と言うより、本当に仕事だけどな」

「暫くはのんびりかなー?」

「お前も恵子さんみたいにすぐ暇なるやろ」

「そう言えば資料室に行けへんのやった」


 思い出したら少し悲しくなる。あの小説まだ読み切っていなかったのに。


「なんだったら一緒に行くか? 誰かいれば宏も許すだろう?」

「いいよ、しばらくみんな新しい素材と遊ぶやろうし」

「遊ぶ言うな。世界の未来のためや」

「生産廃人は気の向くまま、趣味に走ってるだけやろ」


 今回の旅では語ることは多くはないのに、また新しい世界の一面を知った気がする。善も悪も今の世界で誰が裁けるんだろうか? あの男たちがどうなっているのか、あたしに教えてくれる人は誰もいない。


 ただ願うのは、あの女性三人がこれからの世界で、少しでも多くの幸せを見つけてくれればと思うだけ。



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