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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
十章 目を瞑っていた現実

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優しい仲間



 お兄ちゃん達は思ったより遅くなるからと、先にご飯を食べとけと言われ、あたし達はいくつか二人分を多めに避けて、食事となった。


 胡堂が普段通りに今日の魔物や素材のことを、智さんがそれに乗り魔導具の話しを、のり君と秀嗣さんが武器の話しをしているけど、今日のあたしの箸の進みは遅い。食欲が上手くわかない。


 絶望に満ちた目、全てを拒絶するような態度、諦め何も見ない目。


「ご馳走様、ちょっと疲れてるみたいやから早めに休むわ」

「もうちょっと食べないか?」

「せめてこれだけでもどうですか?」


 みんなが言ってくれるけど、本当にこれ以上は入りそうにない。なんとか笑顔で答えようとする。


「それなりに食べたよ。たださすがにちょっと堪えただけやから、休めば平気」


 そう言ってあたしは足早にテントを出て車に入る。カーテンを閉め切ってしまえば完全個室。そこに寝る気もないのに転がって、浮かぶそれらを振り払おうとする。


 これ以上何もできないことはわかっている。たぶんこんな世界だ、他にもいろんな傷を持つ人はいるだろう。だったら考えるべきではない。それぐらいはわかっているのについ頭を巡る。

 そのとき車の外に気配がして、あたしは体を起こし扉を開けた。


「智が、これやったら飲めるでしょ、って」

「ホットチョコレート、しかもマシュマロ入り。あとでちゃんとお礼言わな」

「そんなもんより、無理に笑うお前が見たくないってよ」


 気づかないわけないか、でもまだどんな顔すればいいのかわからない。


「別に考えるなとは誰も言わん、同性として考えてしまうやろう。やからって飲まれるな」

「わかってる」

「わかってない。酷い言い方やけどな、世界がこうなる前からああゆう被害者はおる。たまたま目の前にせんかっただけや」


 一瞬驚くが、確かに言われてしまえばそうだ、その通りだ。それでも目の前にするかしないかは全然違う。


「極論なんも暴論なんも知ってる。実際に探索者で強くなって横暴な奴も増えてきてる。それでもな俺らんとこの一宮は高遠さんの頑張りと女帝のおかげで女性にも優しいし、二宮なんか住民の見回りや声掛けでめっちゃ平和」


 胡堂の言葉に笑えばいいのか喜べばいいのかわからない。


「人ってそんなもんや、世界が変わろうと人がすぐ変わるわけちゃう。ただ元々弱いから粋がる奴や自棄になる奴は増える。それでも強く生きようとしている人もおる。それは傷を受けても変わらんのちゃうか?」


 いつものように、なんでもないと軽い口調で胡堂は言うから、余計に確かにと納得してしまう。


 世界は変わったが、人の本質なんてそう変わらない。それはいろんなとこで見てきたじゃないか。自棄になってもまた立ち上がる人もいれば、燻ってしまう人もいる。悲しみを背負って笑う人もいれば、諦めない人もいる。


「そうやね、その通りやね」

「人のこと考えてて、ミスしたら宏さんに怒られるぞ」

「それマジ勘弁や」

「わかってるなら切り替えろ、自分の大事なもん見つめとけ」


 胡堂はそれだけ言うとお休み、と行ってしまった。手の中のカップが温かく、それを見つめてしまう。


 あたしは元々守りたくて力を付け続けた。世界のすべての人がそれをできるかは知らないけど、暴論でいいならこんな世界だ、必要なことだ。それは二宮で教えてもらった。


 守りたいから自衛のためにも、そう言ってあそこではそれこそ老若男女構わずに、動けるならダンジョンに入っている。支え合い補い合い、パーティーという形でダンジョンに入り、地上ではご近所同士や会などで支え合っている。


 何が正解かわからない世界で、善も悪もきっと歪んでしまった。最後に大切になるのは人の心なんだろう。そう思えば宵闇の好きそうな皮肉の利いたシナリオに思えて一瞬顔が歪む。


 それでもあたしは何も変わらない。守りたいものを守り、日常を求め続けるだけ。もう誰が欠けてもあたしの日常はやってこない。


 胡堂に言われた通りに、あたしの大事なものはまだ手の中にある。



 ホットチョコレートのおかげか、気づかないうちに強張っていた体も解けていく。


 心配されてるなと思うのと、支えられてるなと思う。あたしにはこうして仲間がいるから、こんな世界でもこうして笑えているんだろう。

 それは力じゃなく、姫巫女だからでもなく、家族と呼べる仲間がいるから。


 少し温まった体と心、今のうちに寝てしまおうと布団に潜り込み目を瞑る。それでも闇の奥で、あの目が浮かび、一瞬体が硬くなる。それを忘れるように布団を掻き抱いて、あたしは丸まる様に眠る。





「――――――――!!」


 がばりと勢いよく体を起こし、はぁはぁと荒い息で体が揺れる。じっとりとした汗を乱暴に袖で拭い、どくどくと音を立てる心臓を押さえつける。


 何の夢なのか覚えてはいないくせに、ただ纏わりつく恐怖。考えるよりも、ただ震える体を押さえつけることしかできない。


 少し落ち着き水でも飲もうとドアを開ければ、秀嗣さんがいた。


「あれ? 寝てなかったん?」

「少し目が覚めただけだ、絵里子こそどうした?」

「あたしもちょっと目が覚めて、水でもと思ってん」


 そう言いながら置いてある小さな冷蔵庫を開け水を取り出す。秀嗣さんがあたしを見ているのがわかる。


「あの三人が、気になるか?」

「気にならんわけないやん。けど胡堂にも注意されたし、自分でもこれ以上どうしょうもないことはわかってるから」


 せめて苦笑になることは許してほしい。理解はちゃんとしているから、それでも割り切れていない自分がいることを隠すことはできない。


「お兄ちゃんとお姉、なんか言ってた?」

「詳しいことは聞いていない、ただ隊としてもどうするか悩んでいるらしい」

「なんで? どっか避難所とか送るんちゃうの?」

「そうなんだが、近隣の避難所はいつ潰れるかわからないし、彼女たちの状態が状態だからな、できれば医療施設があるところがいいが」

「この近辺では厳しいかもね」

「それに連れて行くにもここは男だけだからな、女性隊員を待って連れて行くのかどうするか」


 確かに問題が山積みだな。転移陣ってという手もないわけではないが、お兄ちゃんはそれをしようとは思わないだろう。できればここであれを知られたくないと思っているはずだから。


「どちらにしても暫く、彼女たちもここで足止めだ」

「隊員さん達も大変そうやもんね」


 徐々に前線を下げながら、それでもここで抑え込みをしているのはすごいと思う。ただそれだけでは足りないのも本当だ。できるだけ早くダンジョンに入れる状態にして、間引きをしなければ意味はないだろう。


「明日からも間引き頑張って、せめてダンジョンまでの道ぐらいは作りたいね」

「そうだな、それができれば少しは状況も変わるだろう」

「そしたら組合も関東支部作れるかもしらんし」

「組合も今は北海道の件を受けて、ダンジョンの洗い出しに忙しそうだがな」

「あー、人がおっても魔物を倒さな意味ないしね」

「その辺りの周知を今、頑張っているそうだがな」


 仕事の早い高遠さんだ。


「そろそろ寝ないと明日もきつそうだぞ」

「あーほんまやね、寝床もどるわ。秀嗣さんは?」

「俺ももう一度寝る、おやすみ」

「おやすみなさい」


 水のペットボトルを持ったまま車に戻るが、まだ横になる気がしない。時間を確認しても寝るべきだとわかっているに、目が冴えてしまっている。


 これからどんどん奥へ進むことになる。そうなれば生きている人を見つけることはなくなるだろう。今回のような形と、どっちのほうがいいのかと並べて考えている自分に気付いて、嫌気がさした。


「寝よ」


 わざと声に出し布団に潜り込む。冷えた気がする体を抱きしめるようにして、眠れないとわかって目を瞑った。



正月関係のない話しでしたが投稿までのタイムラグがこうさせます。

今年の年末年始の休みは長い人も短い人もいるようですが、明日から仕事始めの人も多いはず、明日からまた頑張りましょう。


面白いと思って頂ければブクマ&下にあります☆評価をどうかお願いします、作者が喜びます。

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