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ただただただ。 ~変わらないもの~  作者: けー
二章 戻っても日常には帰れない

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実感するのは

 


 姉が泣き止んで喋れるようになるまで少し時間がかかったが、なんとか居間に移動し、お茶もいれて落ち着くことになった。

 三人の顔はなんとも言えない状態で、姉にいたってはさっきまでの大泣きとうって変わり、今は確実に怒ってる。


「さあ説明して、今すぐ説明して。どこ行ってたの、何してたの」

「わかったから、説明するから」


 どうどうと諫めながら三人を見る。見るからに怒っていることがわかるのは実姉の浜本恵子(はまもとけいこ)、それを抑えるのを諦めた義兄の浜本紀佳(はまもとのりよし)と難しい顔してる実兄の飯田宏邦(いいだひろくに)。三者三様でどうしたものか。


 急に説明したところで信じてもらえないだろうし、なんて言っていいのかまだ整理はついていない。

 どうしようかと考えていたら、お兄ちゃんが口を開いた。


「で、なにがあった?」

「なにが、と申されましても」

「説明できんことか」

「説明できなくはないんですが、なんと言葉にするべきか悩むと申しますか」


 お兄ちゃんの普段より強い口調に目がさ迷う。まだあたし自身整理はついていない。急に管理者だ魔物だなんて誰が信じると言うんだろうか?


 あー、なんであたしがこんな目に合ってるんだろう。心配かけたのもわかってるけど、こっちだって命張って頑張った。少しぐらい休ませてもらいた。


 あ、そうだ。と思いついたのか開き直ったのか、あたしは三人に靴を持ってくるように言う。


「とりあえず説明するから、靴を持って三人ともお母さんの部屋に集合ね」


 はぁ? と言ったのは誰だったか。あたしはそれ以上何も言わず、後ろから待てだの説明しろだのの言葉を聞き流した。

 仕方ないといった感じで三人が自分の靴を持って母の部屋、あたしがいる押し入れの前にやってきた。


「あたしだって色々整理がついてません、ですので見てもらったほうが早いと思います」


 そう言うが早いか、あたしは押し入れの観音扉に手をかけて開いていく。中はただの押し入れじゃなく土でできた洞窟だ。

 あたしはみんなの驚く声をまた流し、靴を履いて中に進む。後ろを振り返れば、ちゃんとみんな体勢辛そうについてきてる。


 魔晶石の間は階段を下りればすぐで、驚きで口を開けてそこを見回す三人。あたしはそれを横目に魔晶石に手を置いた。



 ポイント    730425


 ・名前:飯田絵里子 種族:人間 

 ・レベル:10    年齢:34歳

 ・職業:巫女    副職:――― 


 特殊スキル

 ・神眼      ・神託      



 加護

 ・主神の加護 ・主神の寵愛



 ポイントがすごいことなってる。職業も巫女になってるし副職ってなんだろ? スキル欄も増えて神眼って、すごい名前のがついてるよ。

 できれば加護は無視したいけど、そうゆうわけにもいかないよね。一先ずスキルと加護を確認した。


 『特殊スキル:神に認められ与えられしもの』『神眼:鑑定系の最上位、使いこなせると言葉の嘘や人の感情なども見破れる』『神託:神と言葉を交わすことができる』『加護:神から与えられる物、自力取得不可』


 とりあえず突っ込むべきは、管理者から主神になってることだろう。あと加護はまだいいとして、寵愛ってなんだ、寵愛。

 他にも色々あるけど誰に言えばいいのかわからない。


 そんなことを思ってると魔晶石が淡く光り、頭の中でピローンと軽い電子音が鳴る。それを疑問に思う間もなく画面には『メールが届きました』の文字。あたしはそれを押してメールを開く。



 『さっきぶりだね、元気にしてる?

 色々ステータスに変化が起こっているけど驚いたかい? 名前のところを押すと自分の詳細なんかもわかるから、確認してみるといいよ。あと俺たちのことは君たちの世界でわかりやすいように神としといた。そのほうが君も説明しやすいし箔が付くだろ? まだ正式オープン前だから、仕様が変わることもあるかもしれないけど色々試してみてね。      絵里子を想う神より』



 うっぜー、あの変態チャラ男め!


 何が正式オープンだ。世界はアミューズメントパークじゃない。魔物はキャラクターとかそんな可愛いものじゃないだろ。


「どないした?」


 苛立ちが顔に出ていたようで、三人に見つめられていた。少し恥ずかしさを覚えながらも、声をかけてきた兄に魔晶石の画面を指さして聞く。


「ここに画面が見える?」

「画面? そんなんどこにもない、ところでここってなんやねん?」


 答えながら首を傾げ、この部屋を不思議がるお兄ちゃん。お姉とのり君に聞いても見えていないようだ。


「じゃあ説明するからお兄ちゃん、この紅い玉に手を置いて」


 一番近くにいたお兄ちゃんを指名して腕を引っ張るが、は? と驚いた顔をして、いやいやと首を振る。


「大丈夫、痛くも痒くもないから、すぐに済むから」

「なんやねん、先に説明せえ」

「言葉だけやったら難しいから言ってんの、全員やってもらうから大丈夫」


 往生際悪く抵抗するお兄ちゃんと、あたしの言葉でえ? と顔を驚かすのり君、そんな中で姉が勢いよく手を上げた。


「じゃあ、あたしがする」


 いいけど横でのり君すごい顔してるよ? そう思う間もなくお姉は魔晶石まで近づくと、ここに手を置けばいいのか聞いてくる。

 あたしがそれに頷けば簡単に魔晶石に触れた。あたしの時と違って、淡い光を一瞬放ち魔晶石は沈黙、それと同時にお姉は驚いた顔で画面を見ている。




 ポイント   0


 ・名前:浜本恵子    種族:人間 

 ・レベル:―――    年齢:38歳

 ・職業:―――

 管理



 あれ? あたしにも画面見えてない?

 お姉がすごい、だとか、今ってこんなことできるの、だとか、意味わかんないこと色々言ってるのを無視して、あたしは画面を凝視する。


 画面自体はあたしの最初のと同じようだが、一番最後に『管理』の文字。あたしはそこに触れて確認していく。


 あ、これやばい機能だ。


 ポイントをあたしから管理対象に移したり、逆にポイントをあたしが貰うこともできる。他にも職業選択をあたしができちゃったりするみたいですよ。

 なんですかこの機能、正直いらないんですけど。


「お姉はさっき見えへんかったんよね?」

「絵里子が言ったとき? うん、見えへんかったよ」

「じゃあ今は?」


 お姉に手を下ろしてもらいあたしが魔晶石に触れる。浮かび上がるあたしのステータス。お姉は首を傾げて見えないと言った。


 あの管理者もとい、神はあたしに魔晶石を授けたと言った。そのせいか? あたしは他も確認するためお姉にもう一度画面を出してもらい、ポイントから購入画面に変えてもらう。

 そこは変わりなく思えたのは最初だけで、『施設』だけが消えていた。


「もういいやろ、そろそろ説明せえ」


 痺れを切らしたお兄ちゃんが腕を組んで、こっちを怖い顔で見てくる。あたしはもうちょっと確認したかったが、仕方ないと三人に向き直った。


「さっきお姉があの玉に触ったけど、二人は画面が見えなかったんよね?」

「なんもなかったで」

「あったよ、名前とか載ってる画面が」


 お兄ちゃんの言葉にお姉が言い返す。


「ほんまは見てもらってからのほうが早いんやけど」


 あたしはそんな前置きで話し始めた。ダンジョンに閉じ込められたこと。元管理者の神に出会ったこと。そこで聞かされた、変化している星と魔物が現れること。そして巫女に選ばれ、あたしがこの場の管理ができること。


 話していくうちに居間でお茶飲みながら話せばよかった、と思ってしまった。あ、ポイントで出せるか。



 理解できていないのか、信じきれない顔の三人を促して立ち上がると、あたしは自分の個室に向かい三人を招いた。

 お湯を沸かしながらダンジョン攻略中には使わなかったコーヒーや足らないカップを買い足し、三人の前に並べてく。


「おまえ、どっからこれ出した? てか、この部屋なんやねん」

「やからあの魔晶石からポイントで買ってん、この部屋も、テーブルもなんもかんも。信じられんでもこれが現実やねん」


 理解不能だとお兄ちゃんは頭を抱え、のり君は驚きから一言も喋らない。どうしたもんかな、とあたしが考えてるとお姉がまた笑顔で手を上げた。


「じゃあ、あたしもこれから魔物倒す」

「そのほうがいいけどグロいときあるよ」


 元々お姉は空手をやったり強くなることが好きだった。どちらかと言えば脳筋と言われる部類。ただしホラーとグロ耐性はほぼないと言っていいだろう。


「魔物が本当に出てきたらそんなこと言ってられへんけど、要は生き物を殺すってことやからね。血も見るし自分が怪我することもあるよ」

「でも絵里子もしたんやろ?」

「あたしは、あたしは仕方なくやるしかなかった。閉じ込められて、どうやったら帰れるかもわからんかったし…」


 言いながらも自然と顔が下を向く。仕方なかったとは言え、生き物を殺し血に塗れた。自分のエゴでポイントのため、帰る道のため進んだ。


 顔が下を向いていくのと同時に気持ちが重くなっていく。と、急にお姉が抱きしめてきた。


「頑張ったな。絵里子が頑張って戻ってきてくれたんやから、お姉ちゃんはそれだけで嬉しい。やから次その魔物が出てきたらお姉ちゃんが絵里子のこと守るから」


 いいこいいこ、と頭を撫ぜられるのなんていつぶりだろうか。優しい声と温もりに、目の前が歪み涙が零れた。


 大人になればこんな風に温もりに包まれて泣くことなんてそんなにないだろう。きっと心配をかけていたことがわかるから、言うつもりなんてなかったはずなのに。


 なのにあたしは安心して、漸く帰ってきたと、怖かったと、泣きながら伝えていた。



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