牛でいいのか?
三人で頷き合い、魔物を倒しながら広場へ入る。中に入って何よりも目に付いたのは、三メートルはあろうかと思う巨体。
大きな角を頭の左右につけ、その剛腕には大きな斧、顔は牛その物なのに二足歩行で立っている。
「絵里子二倍ぐらいか?」
「あたしで計算すんのおかしくない?」
「あれは牛か?」
「ミノタウロスってやつか? 食えるんかな?」
「倒したら鑑定しよか」
そう言いながらあたしは魔力を巡らせ、土を纏う火の龍を作り出し、周囲の魔物に向かわせる。胡堂も走り魔物を倒していくが、ミノタウロスの注意がこっちに向くことがない。
「なんで? こんな暴れてるのに?」
「あいつ、何を見てるんや?」
ただ一点を見て、攻撃を繰り出しているミノタウロス。あたしは気になってミノタウロスに向かって魔物を倒しながら進んで行く。
「あれは俺のはずだろ?」
「気になることがあんねん」
そう言いながら次々と屍を積み上げ、その巨体に近づけば。
「結界を割ろうとしてる!?」
「な、どうゆうことだ?」
「雑魚を早急に終わらせる。秀嗣さんごめんやねんけど」
「任せろ。気を引けるようにするから、ちゃんとマナポーション飲めよ」
そう言って走り出した秀嗣さん。理由はわからないがあれは危険だ。
「胡堂、もう一回やる!」
声を上げそう言って、あたしは今度は風を纏う水の龍を作り出し暴れさせる。ミノタウロスも人も壁際にいるからできることだ。
そして二匹の龍から逃れた魔物を鉄扇を使い倒していく。その間も後ろの秀嗣さんが気になるのは本当だ。魔物が減ればガキンッと何かを叩く音が時折、聞こえてくるようになってきた。
「雑魚はこんなもんでいいやろ、でかぶつ行くぞ」
胡堂の言葉で振り向けば、何とか結界石とミノタウロスの間に体を入れ、その大きな斧を受け止める秀嗣さんの姿。
刀全体に土魔法を同化させているから、かなりミノタウロスの力は強いんだろう。
あたしはそれを見て走り出す。高く飛び上がりミノタウロスの首元を狙い鉄扇で切りつける。
「かったー、なにこれ!?」
「お前の武器であかんとか?」
次いで胡堂も高く飛び、角の根元を狙う。
切り落とすことはできないが、小さく傷がいった。そこで初めてミノタウロスが視線を結界石から胡堂に向けた。
「角が弱点ですか?」
「らしいですね」
「斧は俺が引き受ける」
あたしと胡堂が左右に走り、同時に飛ぶ。試しに水からですかね。
「水、効くぽいよー」
「火はあかんわ」
なら次はと。
「土駄目ー」
そう言った瞬間にカランと思ってた以上に軽い音がして、胡堂が片方の角を切り落とした。ミノタウロスが体を大きく揺らし、叫ぶように鳴き声を上げる。
「風、超有効」
それがわかればもうこっちの物だ。もう敵意は結界石からあたし達に向いている。三人とも武器に風を同化させ動き出す。
ミノタウロスの攻撃を邪魔するように胡堂が動き、その陰から秀嗣さんが飛び上がり大きく切りつける。
二人が退いた瞬間にあたしは二つの鉄扇でお腹を切りつけるように、かまいたちを作りだし暴れさせる。
胡堂が腕を切り落とし、秀嗣さんが足を切りつけ膝をつかせた。そしてあたしが高く飛び上がり、その首を跳ね上げる。
飛び散る血飛沫が雨のようだ。
疲れた、さすがに疲れた。今、何時? わからないけど疲れた。
「ポーションとマナポ、ほれ」
「今飲んだら血の味がしそうで嫌や」
「タオルあるぞ、戻りも考えてれば飲んでおかないと」
確かにそうだ、これが終わりじゃなかった。それに逃げてないんだよね。
あたしは秀嗣さんにタオルを借り顔を拭いて、胡堂からポーション二本貰って飲む。そしてその目を向け足を進める。
「大丈夫?」
皹の入った結界、ミノタウロスの力は相当だったんだろう。また要改良だな、と思いながら、がたがたと震えているあの絡んできていた女の子三人に声を掛ける。
「何があったかわかる?」
見た感じ大きな傷もないし大丈夫だろう。それにあのミノに間近で何度も斧を振り下ろされたんだ、そりゃあ怖いよね。
「とりあえず魔物の氾濫止まったし出てこいや。そんで、お前ら何やったん?」
さっきまでミノを嬉しそうにリュックに入れていた胡堂が、あたしの横に来て苛立ったように言う。その姿がわからず首を傾げてしまう。
「ミノを倒したら魔物が散り散りになり、追加もこないだろ? そしてミノが狙っていたのはこの三人だ」
「あー、だからこの子らがなんかしたと」
「とりあえずこの三人、組合に突き出して、そっからは組合判断やな」
納得ができたと頷いてれば、一番気の強そうな子が叫ぶように声を上げる。
「あ、あたし達何もしてない、知らない!」
「だったらそれそのまま組合に言えや、俺ら関係ないし」
「ひ、姫様パーティーは人を救うため、ヒッ」
左右の二人から漏れ出た威圧。子供に何やってるんですか、と腕を引くと納めてくれた。
「あんだけ文句言っといて、助けてもらったら当たり前やと?」
「ふざけるのも大概にしたほうがいい」
「子供やねん、許したり」
「二十歳を越えて、子供もくそもあるか」
「絵里子が一番怒るべきだぞ」
そう今度は矛先がこっちに向いて、困ってしまうが別に今更怒るようなことでもない。これで胡堂や秀嗣さんが大怪我してたら別だけど。
あたしは三人に近寄りしゃがむと目を合わせた。そんな身を引いて怯えないでい頂きたいが、血塗れだししょうがないか、と優しく見えるように微笑を作る。
「とりあえずそっから出て地上行こか。シャワー浴びたいやろうし、警護あたしらするから安全やで? ほら、出ておいで」
一番年下の十九歳が、溜まらずに涙を浮かべ泣き始めた。それにつられるようもう一人も。なんとか耐えているのは気の強そうな二十二歳だ。
「ほ、本当に連れてってくれるの?」
「おいて行ったりもせんよ、大丈夫やから」
その言葉を聞き三人は震える体で立ち上がる。これは時間がかかりそうだけど仕方ないか。
「先頭あたし行こか。三人を真ん中で、後ろを二人にお願いできる?」
「お前あほなん?」
「絵里子はいつから戦闘狂に?」
「戦闘狂言うな。三人の目線に入るのに、そんな苛々してるの見せるの悪いやろ?」
あたしの言葉に二人が理解不能だという顔をする。
「確かに少し調子乗ってしまってたけど、歳も若いししゃあないやん。それに女の子でこんな頑張ってたんはほんまやねんで? 怖い目あって、これからどうするかやろ?」
「さすがに優しすぎないか?」
「冷たいこと言うけど、死傷者出てると思うで」
胡堂の言葉に胸が痛くなる。そうなんだ。わかっている。だからこそ。
「あたしらがこの子ら裁けるわけじゃない。それは組合の仕事で、あたしらが決めることじゃない」
こんな世界だから、だからこの子たちは身を守るために力を求め溺れた。そう感じてしまえばあたしに何が言えるだろうか。
大きな溜息が二つ、自分でも甘いことはわかっているから、視線が下がり俯いてしまう。なのに大きな暖かい手があたしの頭を撫ぜた。
「仕方ない、俺は後ろを見るから拓斗は前を頼めるか?」
「そうやな、絵里子は真ん中で三人とおれ」
「で、でもあたしが言い出したし」
「魔力も体力もやばいやろ?」
「体力なら俺達のほうがあるんだ、無理せず仲間に任せることも大事だろ」
二人がしょうがないって笑うから、あたしは力の抜けたようなへにゃりとした笑みを見せてしまう。
「ありがとう」
「ああ、なら行こうか」
「さっさと終わらして明日は休みや」




