色々と面倒な匂いが
「ならここは、転移陣作ってすぐに移動?」
「微妙やねんな。こっから十分ぐらいのとこと、逆方向に十五分ぐらいのとこにダンジョンあって、それなりに地上に魔物おるねんと。探索者は多いけど、基本ダンジョン行くやつばっかやし、それも近いほうに人が集中してんねん」
「何かいい物が出るのか?」
「まだ数は少ないけど武器と採取は鉱物系が多いらしい。宝石や金なんかも出て、いい値段で取引されてるみたい」
宝石も金も魔道具で使う素材ではある。まだまだ足りないもの。それを考えたら確かに上層階で出るなら美味しいんだろう。
「近いダンジョンは四階まで、遠いほうで二階まで一応探索済み」
「ボスもまだですか」
「レベルを知らないが、あの感じじゃ舐めて行って死ぬだけな気がするぞ」
「ボスの適正レベルわからんから何とも言えんけど、13と12と14」
二人の顔も微妙になる。
「組合的にはできれば遠いダンジョン?」
「らしい。ただ姫様に無理のない範囲でやって、あの子らおるのもわかってるから」
「時間ずらせばなんとかなるやろ?」
「けど絵里子の予感があっただろ?」
「そうやけど、それで間引きせん理由にはならんやん?」
ついでとは言え、元々仕事として来ているのも本当だ。それを考えたらやるべきことをやるだけだろう。
「子供の言葉を聞いて腹立ててもしょうがないし、最悪威圧で黙らせて、ダンジョン行くしかないやろうねえ」
実際にこんな世界になって頑張っているのはすごいと思う。だからってそれを鼻に掛けるのは違う。若いからこそ気も大きくなるんだろうけど、このままじゃいつか痛い目見るだけだ。
「絵里子は優しいな」
「ちゃう、女、子供に甘すぎるだけやで」
少し考えていたことが顔に出ていたのか、二人に言われ、甘いつもりはないけどなあ、と思った。
夜中のうちに二人はさっさと転移陣を設置し、最悪いつでも移動はできる状態になった。
そして翌日、確かに少し気は重いがフル装備の顔隠し付きで、あたしの準備は整った。組合は神職パーティーが間引きに来たことを言っているようで、外からはそれなりの人の気配がしている。
「いや、別に言わんでいいやん」
「遠いほうが進んでないためって理由付けと、ただたんに浜西さんが感激してるって理由やな」
「最後のほんまいらんやん! 秀嗣さんまで笑うし」
「気にしても仕方ないだろ」
本人じゃないから言えるんですよ。特に今は三人の中で確かに一番レベル低いし。
「今日は様子見で遠いほう行って、大丈夫そうなら地上の間引きに切り替えよか」
「そうだな、なら三階を目指したほうがいいのか?」
「そうやね、地図作らずに絵里子の勘頼りに行こか」
頭を抱えているうちに二人の中で話は決まったようだ。
「なら姫様、参りましょうか?」
にやりと笑う胡堂の背中を殴り、あたしは溜息を吐く。
「わかりました、参りましょう」
先にテントを出て、両側で布を持ち上げる二人。あたしはそれを確認してから外に出る。
ざわつく周囲と突き刺さる視線。そんなもの最初からわかっている。予想していなかったのは。
「ひ、ひめみ、姫様、またお会いできて感激です。北海道支部を思いご支援いただきますこと、大変感謝いたします」
涙を流し感激に震える浜西さんだ。高遠さんと被るなこの人。
「いえ、こちらこそ組合支部長として、いつも大変だと伺っております。これからも探索者や地域の人のため、頑張って下さい」
見えないだろうが微笑んで、これは本心だから言えた。そんなあたしに突き刺さる嫌な視線が三つ。
「支部長さん、そいつらに贔屓とかしないでくださいよ」
「どうせ姫パーティーで守られてるだけなんだろうし」
「何、顔隠してんの? めちゃくちゃぶさいくとか?」
その声を聞いた瞬間、振り返り怒鳴りそうな浜西さんの肩に手を当て止める。子供に何言っても無駄だし。
「気にしないでください。私たちは私たちのするべきことをするだけです。元々、特別な扱いなどいりませんので、これ以上の感謝や言葉は結構ですよ」
横に控える二人を見て、あたしはそれでは、と歩き出す。俯かないように、人の視線に負けないように、背筋を伸ばし前を向く。
お兄ちゃんにこの装備の時はお前が看板だと、絶対に俯くなと言われていることを思い出しながら。
ダンジョンに向かい歩いていれば、そこかしらで強くはないが魔物の気配。
「この辺りって人が住んでるんじゃなかった?」
「組合ができたことで住人は増えてるらしいが」
「それにしては多いな、地上も考えたほうがいいか」
魔物の気配はあっても戦っている気配はない。奥まったところや木々の多いところはどうなってるか少し心配になる。
「とりあえず今日はダンジョンやろ? それ次第で長くなるかもなあ」
ダンジョンに到着してからも人の気配はまばらで、少しこれは危ないかもしれないと思ってしまう。
石造りの入り口を下り、通路は真っすぐなレンガ調。探索自体はしやすそうだ。
「とりあえず俺が先頭で、階段まで走ろうか」
一階の地図は貰ってきていた胡堂が言う。あたし達は頷くと一気に駆け抜け二階に下りる。
「二階も地図あるんだろ?」
「けど魔物の気配多そうな気がするで」
秀嗣さんの眉が歪み集中しているようだ。
「確かにな、どうする?」
「あたしとしては二階も間引き兼ねて戦闘。その後に三階やけど、結構危ない気がする」
「わかった、早いほうがいいみたいやな。奥に行って、しゃあないから香水を使おか」
行動を決めてさっさと奥へ進む。奥に行けば行くだけ気配は濃くなり、これは近いうちに溢れる可能性が高そうだ。
大きな広場で一度、魔物集めの香水を一吹き使い間引きをする。倒せなくはないが一吹きのわりに数が多い。
「これ、やばくない?」
「確かに一吹きにしてはやばいな」
「移動してあと数回やるか?」
「とりあえず珍しそうな魔物と、こっち特有の色の魔物はリュック入れるで」
「せやな、できれば三階の様子も見に行きたいし早くしよか」
「今回は採取と宝箱の確認は後回しだな」
三人とも溜息が漏れそうだ。それでも誰かがしないと魔物が溢れてしまって、組合の意味もなくなる。これは組合にも報告で、数日はここで間引きを続けるしかなさそうだ。
あと二回ほど同じ間引きをして、三階に下りてみることにした。下りた先にはすぐに魔物がいた。
「なあ、溢れるときは階段も安全地帯にならんのかな?」
「たぶんそうちゃう? 階に魔物が増えすぎたら上に移動するんやろ」
「ボス部屋はどうなるんだろうな」
強くはないから戦闘をしながらそんな会話をしてしまう。そうでもしなきゃ、やってられないぐらいの数がもう集まっている。魔物集めも使ってないのに。
これ全国のダンジョン本当に危なそうだな、今は溢れてなくても溢れる可能性がどこでもある。
「お兄ちゃんにも報告やんね」
「高遠にもしてるほうがいいだろう」
「転移陣も早めに設置やな」
「やること山積みやなあ」
今日は何時に終われるだろうか、解体も多いだろうし嫌になりそうだ。




