結果の見えていた戦い
「ほな行こか」
お兄ちゃんの言葉でみんなが立ち上がる。お兄ちゃんとお姉を先頭に、智さんとのり君が続きあたし。そして後ろに胡堂と秀嗣さんが並ぶ。
神社を抜け組合スペースとの扉前に来ると、その扉は勝手にゆっくりと開いて行く。
「皆様、すでにご案内しております」
そこには頭を下げた高遠さんの姿。お兄ちゃんが微笑みを見せると高遠さんが動きだす。それに続いていけば一つの扉の前でたち立ち止まり、お兄ちゃんが頷くのを見てからノックをし扉を開ける。
「姫巫女様方、御到着しました」
入り口で横にずれ頭を下げる高遠さんに、あたしは小さくお礼を言ってお兄ちゃん達に続く。中は応接室のようにゆったりとした三人掛けのソファーと一人掛けが四つ。
一人掛けには総理とこの間の聖女、それと知らない女性と男性が座り、その後ろに各二人、立っているのは警護のためかそれとも見定めか。
あたしはお兄ちゃんに促され、ソファーの真ん中へ。左右にお兄ちゃんとお姉が座り残りは後ろに着くようだ。
緊張感漂う部屋の中、お兄ちゃんは微笑みを崩すことなくお姉は少し威圧的に向かいの相手を見ている。あたしは微笑んだまま、ただそれを眺めているだけ。
最初に口を開いたのはお兄ちゃんだった。
「それで、本日は我々に何の御用でしょうか?」
「ま、まず最初に先日の非礼をお詫びしたく」
「いりませんし認める気もありません。神職とは言え我々は一民間人です。そして国民として善意で協力してきたつもりです。それに向かってあの所業とは」
「あ、あれは国ではなく、先走った者が勝手に」
「そんな理由をあの神が許すと? 姫巫女様を定めた神が」
ああ、嫌だな、嫌な空気があの男から流れていて、感情が黒く染まりそうになる。笑わなければと思うのに、顔が歪みそうになる。そうやって思考に飲まれそうになっていたら、小さく肩を押されハッとなる。胡堂だろうか? 秀嗣さんか?
「いや、しかしあれは我が国だけではなく」
「わかってますよ、その全てを我々も受け入れる気はないと言ってるんです」
「お話の途中いいですか?」
そう言って手を上げたのはもう一人の聖女様だ。
「言葉におかしいところあったらすいません、まだ不慣れなもので」
「十分やと思いますよ、それで?」
「我が国の聖女としてやってまいりました、宋蘭明と言います。この国に聞いていた方々とは違うように思い、少し聞かせて頂きたいのです」
その言葉に総理の顔は驚き、他二人は静観かな。そして黒髪の色白美人さんはお兄ちゃんに微笑みながら口を開く。
「私は母国で、この国に神の力を占領し、自分たちだけが安全圏にいる神職がいると聞いていました」
「占領って言い方は間違いないかもしれませんね、神に愛された姫巫女様がおりますから。ただ我々は誰も望んでいない、渡せるものなら渡したいぐらいです」
「ならばその力を我が国に」
頬を染め嬉しそうに色っぽいその目をお兄ちゃん向ける宋さん、それでこの狸がどうなるとも思えないけど。
「譲渡できるもんでもないんです。全ては神が決めたこと。我々に決定権はない。そして皆さん勘違いされてますけど」
お兄ちゃんはそこで言葉を一度切り、お兄ちゃんだけでなくお姉やみんなからも魔力の乗った威圧が出る。
「神が俺らを利用することを良しとしないことも、俺らに敵意向けられたことも、俺は忘れてないんですわ」
一段と上がるお兄ちゃんの威圧に、さすがに耐えれない人が出ると、あたしは横に座るお兄ちゃんの膝に手を置いた。
ハッとしてあたしを一度見るお兄ちゃん。あたしは小さく微笑んで、あれがどれだけお兄ちゃんを傷つけたのか垣間見れた気がした。
お兄ちゃんは小さく息を吐き、また強い目で前を見る。
「はっきり言います。この国や各自の母国で何言われてるのかは知りませんけど、俺らは早い段階でこの国に説明をし、なんなら神と会う算段までつけました。そして登録タグの製造など国に協力してきた気です。それをあんな風に返され赦せるわけないじゃないですか、それはどんな説明を聞いていようが他国も同様です。俺らは元々ただの民間人です。これ以上強制される気はない」
威圧に押され、どこか顔色が悪いのにそれでも食らいついてきたのはスティールさんだ。
「それでも神職としての気持ちは、人を助けると言う気持ちはないのですか? 我々は同じ神職でしょう?」
「組合とは協力してますよ。それにこの間も言いましたが、ほんまに同じやと思っとんですか? 俺らと、貴方達が」
お兄ちゃんの冷たい目に押され言葉が出ない様子のスティールさんと宋さん。
「神からどんな説明受けてるんですか? とんだ雑な説明のようですね。ほんま神にクレーム入れたいくらいですよ、それにこの国にも」
お兄ちゃんのわざとらしい溜息が静かな部屋に響く。すでに三人はほぼ戦意は喪失してるだろう。特に総理の顔色をなんと表現すればいいのか。
その中でただ一人、戦意喪失を見せかけ、面白そうに見ている人がいる。
「神は一人ではない、そう我が国に説明されていないんですか? そして神の格と神職の格が違うと、なぜ妹が姫巫女様なんて名乗れるのか、考えないんですか」
「ち、違うわ、神は平等で」
「では、どうすればそのお力を我々にも」
女性はすごいな。そう思いながなお兄ちゃんに念話を送れば、少し嫌そうな顔をして否定してくるが、あたしだって耐えれないことはある。
「スティール様、宋様、突然失礼します。神は平等ではなく神は気まぐれな者。欲しいからと与えられるものでも手に入れられるものでもない。神の目に留まる方法も知りません。そしてあたしは、あたしの仲間を傷つけようとしたものを許す気はありません」
冷たい目で、強い言葉で言えば、無意識だったが真言に近いことになってしまったんだろう。二人が軽い恐慌状態になってしまった。
それでも黙るんならいいよ。
残りはあと一人、あたしは目線を動かし見る。




