嫌になる
一宮に着けばすでに何かが違っていた。一目でわかるのは敷地内に止められた、こんなところに不似合いな高級そうな黒い車が三台。
「あれかなあ?」
「あれやろなあ」
「あれだろうな」
誰ともいわずどこか疲れた声なのは、長旅のせいじゃないだろう。お兄ちゃん達の車に続き、秀嗣さんも車を停める。
『俺ら行ってくるけど、一応装備はつけといて。なんかあったらすぐ動けるようにだけしといてくれ』
そう言いながらお兄ちゃん達は車を降りて、組合に向かう姿が見えた。
「なら先にお前が着替えろ」
胡堂がそう言って運転席との間にカーテンを引く。あたしは手早く着替え、自分のポーチと薬類の入ったリュックを持ってカーテンを開ける。
「交代。ついでにポーチの中身も補充しとくから、二人共貸して」
常に多めに個人ポーチに入れてるから、胡堂はよく補充を忘れてる。レベルが上げれば傷を受ける回数も減り、使うことも減るから余計に確認を怠りやすい。
「しっかし、ほんまになんなんやろ? 国関係かな?」
「たぶんそうじゃないか? 話し合いの要請はあったしな」
「それな。すっかり俺も忘れてたけど。最後に秀嗣がどうぞ」
そんな会話をしながらでも三十分、四十分と経って行けばさすがに心配になってくる。
「これどうするべき? 行くべき?」
「しかし宏からも智からも何もないからな」
「それでも少し遅いやろ?」
『絵里ちゃん、今、大丈夫?』
『のり君て珍しいな、どうしたん?』
『お義兄さんら気になって、絵里ちゃんの勘どないな感じかなと』
『面倒な予感はしても、そこまで切迫したものないからこっちも判断に困ってる』
『恵子も結構焦れてるんよね』
『よく持たしてる思うよ、お疲れ。一回念話してみよか、聞く状態でおって』
あたしはそのままお兄ちゃんと智さんに繋ぐ。
『時間かかってるけど大丈夫?』
『物理的には問題はないねんけどな』
『勘違いされた、なかなか濃いキャラがおりまして』
『女王以上のキャラですか、それは大変そうな。で、あたしらはまだ待機?』
『このままやったら埒あかんしな、装備は全員してんねんな?』
『言われた通り一応してるで』
『なら念のため運転組は車のエンジン掛けて、出発できるようにしといて。恵子と秀嗣は車から降りて待機』
車内で三人で顔を見合わせてみるけど、誰も意味が分からない。
「とりあえず、車はいつでも出せるようにしとったらいいんやんな?」
「俺は出てればいいのか?」
「そう言ってたね、お姉も出てきたわ」
後部座先の窓から、車を降り背伸びするお姉の姿が見えた。のり君は運転席だもんな。
「よくわからんけど、お姉が暴れたら止めるん頑張って」
「俺にできると思えないんだが?」
「宏さんが頑張るやろ? のりさん運転てわかってるし」
少し不安そうに車を降りていく秀嗣さん。それを見送ったあと組合の入り口方向を見てしまう。
「何やと思う?」
「さあ? けど宏さんのあの感じ、いい話ではないやろうな」
胡堂もあたしと同じように組合の方向を見ている。すると何か騒めいているように人の注目がそこに向き始めるのがわかった。
「来たっぽいな」
「あれは? どちらの方?」
智さんを連れてお兄ちゃんが組合から苛立った雰囲気で出てくると、それを追うようにすらっとした金髪美女も出てきた。その後ろには何人かのスーツの男性、これは女性の護衛の人だろうか?
女性はお兄ちゃんに何か言うように大きく口を開けて喋ってるが、車内からでは何を言ってるかまでわからない。
「遠目でわかり辛いけど、あれ指輪ちゃう?」
「てことは巫女さんなん?」
「どう見ても巫女じゃなくて聖女やろ?」
「ああ、確かにそうなるんか」
そんな会話をしながら眺めていたら、車に向かって足を進めるお兄ちゃんと智さんの前を塞ぐようにスーツの男たちが動き始めた。それをじっと見ていれば、男たちが二人を囲み姿が見えなくなればあたしの魔力が暴れそうになる。
「落ち着け、二人やったら大丈夫や」
前の座席から後部座席に身を乗り出し、あたしの腕を引っ張り視線を無理矢理変えさせる胡堂。
「で、でも」
「お前は自分の身内信じれんのか? それに、ほら」
そうまた窓の外に視線を誘われ向ければ、周囲に威圧しながら歩くお姉と秀嗣さんの姿が見えた。
「宏さん、これを見越して二人出してたんやろ?」
確かにあの人が何も考えていないわけなかった。ほっとしてどこか力が抜けてしまった。
それでもあの女性は誰なんだろ。指輪を持っていると言うことは神職なんだけど、この位置からではちゃんと見えない。
あの女性が指示し、男性達に二人を囲ませたようにはっきりと見えた。あの女性はなんだか面倒そうな予感がして、あたしは深く見なければと鑑定をする。
アリシア・スティール、二十八歳か。良かった英語表記じゃなかったと、そこに安心して他も確認する。レベルは5でテストダンジョン以降戦ってないのか? 属性もないし、あたしからだと職業は巫女と見える。
お姉と秀嗣さん、それにお兄ちゃんも智さんも威圧しているのか、どこか顔色の悪い男性達とスティールさん。最後にお兄ちゃんが一言二言言って、また車に向かって歩き出した。
もう誰も追い掛けようとはしない。秀嗣さんだけがこっちの車に乗り込み、三人は向こうに乗るとすぐに車は動き始めた。胡堂もわかっていたように車は動かし始める。
「あの人なんやったん?」
「絵里子が気にするものでもない」
「でも神職なんやろ? あれ、また関わってくんで」
あたしの言葉に秀嗣さんがあたしに顔を向け、胡堂までミラー越しに見てくる。
「あの人、面倒そうやもん」
ただそれだけ言って外を見る。一応鑑定したものは紙に書き起こしたが、帰って見せたほうがいいだろう。
それでもこれでやっと家に帰れると思ったのに、まだ仕事は残っていたらしい。




